マッターホルンヘルンリ稜登頂記

他の登山記録
メンヒ南東稜

赤色ルートがヘルンリ稜
 
三輪 前橋が登ったルート
 いわゆる一般的なルート

 

白色ルートが北壁
 宮下・松葉・三浦が登ったルート

 

4478m

ツェルマットの街を通り抜けてヴィスプ川の右岸にシュバルツゼーへ行くテレキャビンの駅がある。途中フーリでロープウェイに乗り換え10分程でシュバルツゼー(2583m)に着いた。 ここには小さな湖があり、湖畔には小さな礼拝堂があってなかなか雰囲気の良いところで、ハイキングで来れば湖の周りを散歩でもするのだが、マッターホルンはますます高く大きくそびえ立ち、1つでも片付けないとどうにも落ち着かない二人に、強烈な印象を与えた。
 シュバルツゼーから頂上まで1900m近い高度差があり、ヘルンリ小屋まで高度差700メートルの快適なマッターホルンから延びた尾根を行くハイキングコース、ヘルンリ小屋からは高度差1200mの今回アタックするヘルンリ稜となっている。

 マッターホルンは4つの岩稜と4つの岩壁から成っている四角錐のきれいな山である。シュバルツゼーからは、そのうち東壁、ヘルンリ稜、北壁と望め、圧倒的な高さで追ってきている。
 シュバルツゼーから2時間程でヘルンリ小屋に到着する。2つの急坂を越え、最後の飽きるはどのジグザグをこなすと、白十字が旗めくへルソリ小屋に着いた。



一般ルートのヘルンリ稜を登った三輪(右)・前橋(上)パーティ。

同じ日、同じ時間に登り始めた。マッターホルン北壁隊の宮下・松葉・三浦(左から)パーティ
夜中の2時にヘルンリ小屋を出る。ヘルンリ小屋から数分歩いた雪渓で登はん用具を付ける。マリアの像が埋め込まれている右側からやさしい壁に取り付くと20メートル位のワイヤーロープが張られている。
10メートル直上し東壁側へ回り込むと岩屑の中に付けられた道にでる。第一のクーロワールを横切り第2のクーロワールに出てここを少し登り、左側の傾斜のきついチムニー状の岩場を登っていく。やがてルートを右側にかえヘルンリ稜に出てくる。
階段状の快適な稜線を15分ほど登り、再び東壁側へ少し回り込み難しいチムニー状の岩に取り付くが、すぐに上部がハングしている。上部に残置シュリンゲがあるがもう少し簡単なルートがあるはず、と思い20メートルほど降りてみる。やはり左へ大きくトラバースしているルートが見つかった。30程のロスタイムだった。マッターホルンではこういったロスタイムが命取りになる。

マッターホルンは時間が勝負の山、どこからでも登っていけるとはいえ、最短の最も易しいルートを取らなければビバークになってしまう。ヨーロッパの一般ルートでは、それは許されない。

 

5時30分頃マッターホルンの頂上が朝日を受けて黄金色に光りはじめ、朝日を背に受け光り輝く中、リズムも出てきて調子いい。こんな調子で登ったら9時頃には頂上かと思うほどである。でも、ソルベイ小屋はまだ見えてこない。いつの間にか私達より左側の東壁側のルートをガイドを伴なった数パーティが登っている。少なくともソルベイ小屋まではぶっちぎりだと思っていたのに。いくら早朝にヘルンリ小屋を出ても、いつかはがイドに追いつかれ離されることは分かっていたから次の作戦はルートを間違えないように知り尽くしているプロガイドの行くポイントを確認する事だった。目で追いながら岩陵を片付け、ルートに戻り追いかける。 

 

この辺りから高度障害が出始めたのか、動きも鈍くなり次々とガイドパーティに抜かされるようになる。

やがて、少し緑がかったモズレイスラブの横に小きくソルベイ小屋が見えてくる。

ソルベイ小屋(4003m)に着くと7時40分になっている。ここまで5時間以上かかったことになるが、コースタイム通り3時間で登るには相当な体力と正確なルートファンティングが要求される。標高も4000メートルを越し二人とも頭がガンガンし、息たえだえ、喉もカラカラ、痛くて声も出ない。食欲もないが水と、大切に持ってきたバナナを1本づつ食べた。
8時にソルベイ小屋を出る。前橋先生がトップで小屋裏のスラブを越える。ここから先のルートは、はほ稜線沿いなので間違えることはない。
1時間ほど登ると肩から降りてきているヘルソリ小屋からも良く見えた肩の雪田となる。ここでアイゼンを付け、一気に肩まで登る。肩はナイフリッチになっており左は東壁、右は寒々とした北壁が一気に1000メートル切れ落ちている。雪と岩のナイフリッヂをコンテで素早く越える。ここでルートは北壁側に出る。

頂上直下の岩場に11時に取り付いた。

マッターホルンホルンの象徴ともいうべき東壁の切り立った部分である。ここから頂上雪田までは、フィックスザイルが張られていて強引につかんで登っていく。「初登者の気持ちになって」なんて思い出来るだけ頼らずに登っていくが、なかなか難しく最後の壁の所は腕力だけで登った。腕の筋力は相当消耗した。

 

 最後の壁を越えると太いとピンがあり、頂上まで広がる雪田に出る。ピンにビレイを取り装備を整え、再びスタカットで頂上を目指すが、数センチの雪の下は硬い氷でピッケルのシャフトを突き刺してビレイする事は出来ず、かろうじてピックの部分を刺して気休め程度に確保しているだけである。

 

うっすらと氷が着いた急な斜面に太いクレモナロープが張られている。左が9.5mmのザイル、残置のクレモナロープをあまり頼らずにスタカットで3ピッチ登ると15メートルほどの垂直の壁が出てくる。
 次第に傾斜が緩くなり、青い空も広くなって、いよいよ頂上が近くなっていることを感じるが、まだまだ斜面が続いている。三輪が先になってコンテで黙々と進む。もうすぐ頂上だと思うと、急に涙が出そうになってきてルートが霞んで見えず前橋にトップを代わってもらった。前橋が先にでて頂上へと登っていく。傾斜は一層緩やかになり、雪の量も増えてきた。やせ尾根状になった一番高いところが標高4478メートルの頂上である。ついに憧れのマッターホルンの頂上に二人で立つことができた。
12時10分スイス側頂上に到着。もう僕らの上には空しかなかった。頂上には誰もいない、お互い健闘を賛えて手を握り合う。どうしようもなく、涙が出てとまらなかった。空の青さと果てしない高さが印象的な孤高の空間だった。どの他の山の頂よりも神秘的な特別な感じがした。

ツェルマットの街がヴァイスホルン(4505m)とドーム(4545m)に挟まれた果てしない底に見える。あの街からとてつもなく大きく見えたマッターホルンの頂上にいることが実感として感じられる。イタリア側の頂上は、時間と気力がないので諦め、すぐに下山にかかる。

 

マッターホルンの事故は、ほとんどが下山のときに起きている。特に最初の北壁の下降はスタカットやアップザイレンで慎重に降りる。まだ、登ってくるパーティもいて混雑し、以外と時間がかかる。ソルベイ小屋に着くと4時を過ぎていたが、夕方は夜の9時まで明るいことが分かっているので、そんなにあせることはなかった。それよりも、「ここで事故を起こしたら何にもならない」という気持ちのはうが強く、最後まで、スタカット、アップザイレン、コンテニアスを繰り返し下降する。

 

 

谷底にはツェルマットの町


マッターホルンの影
 ヘルンリ小屋は遙かに遠く、数え切れない程懸垂下降をしても着かず二人とも無口になり、感動なんてどっかへ消えてしまって、ただ靴を脱ぎたい、ビールを飲みたい、ただそれだけで降りていった。下降はルートは間違えなかったが時間がかかってしまい、ヘルンリ小屋に着くと夜の9時になっていた。小屋を出てから1リットルの水と1本のバナナ、2個の乾燥イチジクで19時間近い行動は、体力にさほど自信のない二人にはさすがにこたえた。頂上にうっすらと雲がかかったマッターホルンを見ながら、ヘルンリ小屋のテラスでカンパイしたビールの味が忘わらわない。


 

 

 

 

翌朝、遅く起き出し登頂の葉書を書く

 疲れていたのか熟睡できず、明け方目が醒めた。ヘルンリ小屋はガスにつつまれ頂上の様子は分からない。小屋のテラスには、みぞれ雪が少し積もっていた。頂上付近が雪である事は間違いなく北壁隊の安否が心配されたが無線機もなく、どの程度かも確認しようもなかった。再びベットにもぐり込み、泊り客が誰もいなくなった頃起きた。霧は晴れてはいたが北壁には白く雪が付いていた。
ツェルマットの町へ
定宿のホテルバンホフには登頂記念の日章旗が掲げられていた。当然それは僕たちのでなく、過酷な登頂に成功した北壁パーティのものであった。でも僕らは、彼らと同じ日に同じ山に登ったことを誇りにしている。
 日章旗に特別な感情はないが、このときばかりは、何だかこみ上げるものがあった。
僕らが下山した夕方彼らは無事に下山した。これで彼らはジョラス北壁に続きヨーロッパ3大北壁の2つを制覇し、翌々年のアイガー北壁登頂に続く。 『どんな高い理想をもち、どんな大きな期待を抱いて登ったとしても、マッターホルンには決して失望することはないだろう。』というウィンパーの言葉通りの素晴らしい山だった。マッターホルンの頂上は、全く不思議な空間だった。人里は遥か谷底で人の気配は感じられず、弧峰のため稜線が続く高い峰はない。足元は360度すっぱりと1000m以上切れ落ちていて、まる自分が空中にいる様な、他の山では感しられない一種異様な空間だった。

(コースタイム) ヘルンリ小屋2:20〜ソルベイ小屋7:40〜頂上12:10〜 ソルベイ小屋16:00〜ヘルンリ小屋21:00

 

 

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最終更新日: 2001/08/25