反省なき枚方市民病院の体質
(さいろ社「いのちジャーナル」2000年8月号より)

勝村久司


 6月1日の朝日新聞で発覚した枚方市民病院の元院長の事件と、私たちが枚方市民病院の元副院長らに対して行ってきた裁判とを比較すると、数多くの共通点があります。
 その背景には、病院経営に絡むこの病院の体質が横たわっているのです。


枚方市議会での約束

 昭和58年の枚方市議会。ある議員が、昭和54年から57年の4年間に枚方市民病院が25億円の赤字を出していることを指摘しました。
 それに対して当時の市長と病院事務局長は、院長・副院長の更迭を決め、財政再建10カ年計画をまとめました。その内容は、患者増と、職員の人員整理と、薬価差益の増額につとめ、4年間の赤字をその後の10年間で取り戻すというものです。
 そして、その翌年から院長に就任したのが今回の事件の外科医。そして同時に副院長に就任したのが、私たちの主治医の産婦人科医でした。それ以降、枚方市民病院は、毎年2億〜5億の黒字を続けることになりました。
 その陰で、今回発覚した事件や、私たちの被害が起こったのです。もちろん発覚しているのは、氷山の一角であるはずです。

副院長の一言

 私は、この院長と副院長2人は、患者の命や健康よりも、本当にお金のことだけを考えていたのではないかと思っています。
 なぜなら、冒頭に挙げた枚方市議会の内容などがわかった経緯は、以下のやりとりがあったからです。
 私が、事故後初めて主治医である副院長と会ったとき、副院長は3言しか話しませんでした。「赤ちゃんはたぶんダメでしょう。お母さんは2〜3日が峠です。お金が300〜500万くらいかかるので用意しておいてください」
 なぜ、いきなりお金の話なのか。しかも彼が口にした金額は実際に私が支払う金額ではなく、事故のための集中治療によって病院に入ってくる金額でした。
 その後、ある市民団体の会報で、「府内の公立病院が赤字解消のために、医局に各医師の売り上げを示すグラフを書き圧力をかけている」とあるのを読みました。私はそれまで、公立病院がそんなに売り上げに必死になっているとは思っていなかったので、まさに目から鱗が落ちる思いでした。「そうか、それで不必要な陣痛促進剤を全員に投与していたんだ。陣痛促進剤を使用すれば薬価差益が入る。さらに、すべてのお産を平日の昼間に誘導することで、夜間や土日の人件費を省ける。そしてそれで事故が起これば、集中治療で更に儲かる」
 私は枚方市役所の資料閲覧室に一人で行って、枚方市の年鑑を調べました。赤字で苦しみ医師に圧力をかけている公立病院が枚方市民病院ではないかと思ったからです。ところが、枚方市民病院の会計は赤字ではありませんでした。そして、さらに昔の年度のものにさかのぼっていくと、「市議会を受けた財政再建10カ年計画が順調に……」という記述を見つけ、そこから「枚方市議会報」というものを初めて手にしたのでした。

事故を続発させる封建制

 今回の事件は、院長だった外科医が、検査結果が出る前に再三手術を始めるのを見ていた人の内部告発があってわかったものと思われますが、いけないこととわかりながら周囲が止められなかったのは、まさに医療界の封建制によるものでしょう。
 私たちの場合、事故が起こった後に妻子が長期入院し、私も病院の中で長く暮らすことになりましたが、仰々しい館内放送から始まる、まさに大名行列の「院長回診」「副院長回診」の光景は尋常ではありませんでした。
 妻によると、主治医の副院長がめちゃくちゃな診療をして妻が最も苦しんでいたときも、周囲の医療スタッフは「もう分娩室へ移したほうがよいのでは」という主旨に取れるような曖昧な発言はするものの、目の前で過強陣痛に苦しむ妊婦を助けようとはしなかったと言います。結局、主治医の「この妊婦は我
慢がたりない」との言葉を受けて、多くのスタッフが周りを囲みながらも、子どもが死に、妻が危篤になるまで放置されてしまったのです。
 私たちの事故の後、病室に来た1人の看護婦が、「お気の毒に。私ならこの病院では絶対産まない。事故が多いから」 と言いました。何と無責任な発言か、と思いましたが、裁判が始まった後に、この看護婦なら事故が多発していることを証言してくれるのではないか、と妻がこの看護婦を訪ねたことがあり
ました。しかし、その際は「そんなこと言ったかしら。私も組織の人間だから」と言って帰らされました。
 私たちが裁判をしている間にも、「勝村さんの事故の日には、もう一つお産の事故が起こっている」とか、「1ヶ月前にもお産で母親が死んだが、なぜか裁判になっていない」とか、いろいろと内部告発的な声が私たちの耳に入りましたが、連携を取れるまでのものには至りませんでした。

非科学的な医療とその隠蔽工作

 今回の事件と私たちの事件とは、他にもいくつかの共通点があります。まず、そこで行われた医療が非科学的だということです。
 今回の院長の事件は、マンモグラフィーを用いずに癌の手術をするという極めて非科学的な医療を行い、それについてに「自分の経験に基づき判断した」という言い訳をしています。私たちの事件の副院長も、陣痛促進剤を使用する時に分娩監視装置すら装着しないという非科学的な医療を行い、妻が苦しみを訴えると「これだけしゃべれるということは陣痛が微弱すぎる」と判断して陣痛促進剤を追加投与し、子どもを殺してしまいました。
 もう1つは、その非科学的な医療を隠蔽しようと工作したことです。
 今回の事件では、カルテの改竄があったことが明らかになりました。実は私たちの裁判でもカルテ改竄が明らかになり、法廷で副院長は「カルテの改竄は事務方が勝手にやった」と証言しています。
 また、私たちの裁判では、証人として出廷した医療従事者の偽証も明らかになっています。証言台に立った当時の担当助産婦は、「こんないい加減なやり方だと、これまでにもたくさん事故があったのではないか」という質問に対し、最初は「これまでは事故は起こっていない」と明言していたものの、尋問
が続くにつれて矛盾が生じ始め、最後には裁判官から「それでは、これまでにも同様の事故はあったということになりますね」と問われて「はい」と答える場面がありました。(この助産婦には、私たちは技術面・倫理面の両方の観点から助産婦をやめてほしいと思っていますが、今も枚方市民病院で働いていま
す)。
 さらに「仲間ぐるみ」の問題もあります。枚方市民病院の医師は、ほとんどが大阪府高槻市にある大阪医科大学(私立)の出身者ですが、私たちの裁判ではそこの助教授がとんでもない鑑定書を提出しました。内容は紙幅の都合で書けませんが、その鑑定書はあまりの非科学性に裁判官にも無視されたことを書き添えておきます。

枚方市民病院に改善の気配なし

 昨年の春に私たちは高裁で勝訴し、枚方市民病院は上告せず、判決は確定しました。これを受けて、私たちは「陣痛促進剤による被害を考える会」代表の出元明美さんらとともに、枚方市民病院に18項目の要望書を提出しました。
 記者会見が控えていることもあってか、市長秘書室で、現在の院長・事務局長・事務次長が来て、「要望を受けて真摯に対応したい」と回答しました。ところが、その日以降の対応は全く悪く、枚方市民病院がよくなる見込みを感じることはできません。
 子どもが死んでも、せめてそのことで病院が少しでも改善されたのなら、子どもの死はまったくの無駄ではなかったと思えるかもしれません。しかし、その後の変化を確認しようとする私たち対し、今年2月の2回目の交渉では病院側の対応は更に悪く、非常に不愉快な思いをさせられました。
 その交渉の場では、陣痛促進剤使用時の枚方市民病院マニュアルを見ました。現在この病院で用いられているものです。ところが驚いたことに、その内容は通常の診療レベルに相変わらず達していないままでした。勉強する気がないのか、そもそもその能力がないのか、どちらかでしかありません。
 私たちの裁判で偽証を繰り返し、逆に私の妻を嘘つき呼ばわりした医師が、何の謝罪もせず、今なお産婦人科医長を勤めています。この病院では、今回の事件の発覚以外にも、知られないまま多くの被害が起きていたと考えるべきだと思いますし、今後も、被害が繰り返される危険を強く感じます。


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