北海道に移入されたサケ科魚類の現状と将来

 2004年3月6日、北海道大学総合博物館で開かれた外来種問題をテーマにしたミニシンポジウムが開かれ、鷹見達也さんが講演しました。ダイジェストでお伝えします。

(図版提供/鷹見達也氏、リポート/平田剛士)

たかみたつや
 増毛町在住。北海道立水産孵化場増毛支場研究職員。『漁業生物図鑑 新 北のさかなたち』(2003年、北海道新聞社刊)編集委員。北海道淡水魚保護ネットワーク運営委員


 北海道でみられる淡水性の外来魚のうち、きょうはサケ科魚類についてお話ししたいと思います。

 たとえばカワマスは現在、道東の西別川と、富良野市周辺の空知川(石狩川水系)にみられますが、空知川では在来のアメマスとの交雑が確認されています。


アメマス(上)とニジマス(鷹見達也氏提供)

 またブラウントラウトは、1978年に新冠ダムに初めて放流されましたが、2002年までに道内の40水系で確認されるようになりました。

 分布が拡大している原因を考えてみると、やっぱり釣り人による放流が大きいと言わざるを得ません。釣り人がなぜ放流するのかと言えば、そうしないと、川に釣れる魚がいないからです。まず河川の環境悪化で在来種が減ってしまった。サケ科の在来種で大型になるサクラマスやサケは禁漁ですし、たとえばアメマスの種苗は養殖されていませんが、ニジマスなんかは盛んに養殖されていて、お金さえ出せば誰でも買って放流できます。

 ニジマスは産卵期が春で、卵や稚魚の時期に増水期を迎えるので、北海道での繁殖力は比較的弱いと考えられます。では、ほかのサケ科外来魚はどうでしょうか。

在来種との「置換」の原因は?


ブラウントラウト(鷹見達也氏提供)

 ブラウントラウトとアメマスの関係を、千歳川水系の紋別川で調査したところ、ここではブラウントラウトの移入15年目で、在来のアメマスとの「置換」が起きていたことが明らかになりました。それまでサケ科魚類はアメマスしかいない環境だったのに、いまではブラウントラウトのほうが多数を占める状態になったのです。

 原因はなんでしょう? 餌・生息場所・産卵場所をめぐる争い、直接的な捕食関係など、いろいろ考えられます(下のイラスト)。どれが主要因だろうかと、調べてみることにしました


イラストレーション 鷹見達也氏

 まず、魚たちの胃の中を見て何を食べているか調べました。紋別川には堰堤に挟まれてブラウントラウトがほとんど侵入できていない区間があり、外来魚のいる場合といない場合の違いを比較するのに好都合でした。

 ところが、両方を比べても、食べている内容(落下昆虫・水生生物・底生生物の割合)も、胃の充満度も、違いはありません。つまり、ここではアメマスとブラウントラウトとの間で、餌をめぐる競争は認められませんでした。

 

今度はウロコを調べました。拡大投影して年輪を数えると年齢が分かります。体のサイズとつき合わせて、成長具合を見たのですが、アメマスとブラウントラウトとの間で違いはありませんでした。

 結局、紋別川で何が置換の主要因だったのかは不明なのです。

サクラマスが「置換」を防止?

 そこでいったん紋別川から離れて、条件の違うほかの川を調べてみることにしました。同じ千歳川水系でもっと下流の長都川とママチ川、道南の尻別川水系の昆布川です。最初の紋別川は、すぐ下流に大きなダムがあって、下流からの魚は遡上してこられませんが、長都川・ママチ川・昆布川は海から魚がさかのぼってくることが出来ます。それが大きな違いです。


サクラマス(鷹見達也氏提供)

 調べてみると、これらの川ではほかのサケ科魚類が多く見られました。とくに在来のサクラマスです。サクラマスは多くが降海し、繁殖のためにまた川を上ってくる、という生活史を持っています。ダムがないか、あっても魚道が機能しているこれらの川では、サクラマスがじょうずに繁殖できているわけです。

 こうした河川では、ブラウントラウトは皆無ではないものの、在来種との間で顕著な置換は起きていませんでした。つまり、置換が起きるポイントはサクラマスの存在にあるのではないか、という仮説が立ちます。

 ただ昆布川では一カ所、ブラウントラウトの幼魚・若魚たちが集中している場所を発見しました。ほかにサクラマスもいましたが、ブラウントラウトより多くはありません。それは、いわゆる「多自然型工法」という、10年くらい前に流行した方法で護岸された場所でした。ただ、この調査は夏でしたが、3〜4歳以上の大型のブラウントラウトはあまり見当たりません。

 ところで、ブラウントラウトの生活史はアメマスと似ています。川で生まれた後、降海して、また川に戻って、というふうに海と川とを何度も行き来しながら成長していくのです。

 とすると、ダムに魚道のある昆布川で、夏に大型のブラウントラウトがいないのは、もしかするとみんな降海してしまっているせいじゃないか、と考えられます。当たりでした。秋から冬にかけて昆布川で調査を続けると、さきほどの「多自然型工法」のあたりで、下流から上ってきた大型のブラウントラ
ウトが見つかったのです。

海からの「侵略」を防げ


イラストレーション 鷹見達也氏

 このように、現段階ではあくまで状況証拠に過ぎませんが、こんな「置換」のシナリオを描けると思います。

 まず、「多自然型」でも何でも、工事が行なわれて一時的に環境が破壊されて、在来魚が減少します。そこへ外来魚のブラウントラウトが侵入する。さらに、その下流部にダムなどがあって海との行き来が出来ない場合、回遊型在来魚(サクラマスなど)はもう戻ってきません。いっぽう、ブラウントラウトは仮に海との行き来ができなくても、陸封型として繁殖できる柔軟性を持っています(アメマスも同様)。そして、アメマスだけが相手なら、原因は未解明ですが、ブラウントラウトはやがて「置換」を起こす、というわけです。

 降海型のブラウントラウトは、保護水面の厚田川(2000年)や信砂川(2003年)でも捕獲され、放流河川からほかの河川へ、海を介して分布を拡大すると考えられます。ほかの在来種への影響は不明ですが、コントロールは必要でしょう。

 全道の全ての川での駆除が現実的ではないとすると、合意形成を図りながら、まず国立公園や保護水面などから排除する、などと優先順位を決めて取り組むのがよいと思います。

 捕獲技術の開発も必要でしょう。同じ秋に同じ環境で産卵期を迎える魚でも、たとえば昆布川の場合、サクラマスが9月、アメマスが10月、ブラウントラウトが11月、というふうに時間差があるので、ブラウントラウトの遡上時期に合わせて産卵場の下流にトラップを設けて選択的に捕獲するなど、工夫の余地はあると思います。


 北海道大学総合博物館第9回企画展示 関連ミニシンポジウム「生物多様性と外来生物――気づかないうちに変貌している身の回りの自然――第2回」(2004年3月6日、同博物館内「知の交流コーナー」で開催)での講演内容をまとめました。

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