国際タッグでイトウを救え!

極東の絶滅危惧種をどう守るのか

平田 剛士(2007-05-03 05:00)

 日本最大のサケ科魚類、イトウ。めったに釣れないことから「幻の魚」とも呼ばれるが、その希少性は国際的といっていい。北海道、ロシアのサハリン島と沿海地方、それに南クリル(南千島)というごく限られた分布エリアのいずれの生息河川でも、程度の差こそあれ、彼らを絶滅の網の中に追い込むような危険が増しているからだ。例えば河川改修(北海道)や、天然ガス・油田開発にともなう環境破壊(サハリン)、混獲や密漁の横行(沿海地方)……。

 国境を越えて分布する絶滅危惧種を効果的に保全するには、国際協力が欠かせない。日本とロシア、さらにカナダとアメリカのイトウ研究者たちが4月29日、北海道北部の猿払村(さるふつむら)に集まって開いたシンポジウムは、その胎動と言えるものだった。

 主催したのは、地元の「猿払イトウの会」(小山内浩一会長)と、アメリカの自然保護団体「ワイルド・サーモン・センター」(WSC、本部・オレゴン州ポートランド)。いずれもNGOである。

 イトウ釣りが盛んな猿払村で、いつまでも釣りを楽しめるようにと村人たちが結成した同会は、生態学者たちの協力を得ながら、生息環境の保護や修復の活動を続けている。いっぽうのWSCは、イトウを含む環太平洋域のサケ科魚類の保全を目指して、生息地の国々で地元住民や研究者たちに働きかけ、精力的に国際ネットワークを結んできた。

 シンポジウムではまず、独立行政法人国立環境研究所(つくば市)の福島路生主任研究員が、調査データを元に猿払川の現状を紹介。「農地開発などによって道内のほかの地域ではイトウ生息地が急速に失われてしまったが、例外的に猿払では現在も安定的に自然繁殖が続いている」と話し、猿払村でのイトウ保護活動の重要性を強調した。

 またロシア太平洋漁業研究センターのセルゲイ・ゾルトゥキン博士は、「極東はロシア人が住み始めてまだ120年ほどしか経っておらず、非常にたくさん魚が捕れる川も残っている。しかしカラフトマス漁の網に混獲されるなどしたせいで、1950年代に比べれば、イトウは10分の1に減ってしまった」と報告。

 イトウ保護連絡協議会(北海道)の事務局を務める江戸謙顕博士は、遺伝子解析によって生息河川ごとにイトウ集団に固有性が見つかったとして、「この固有性を無視して、人工増殖と移植放流に頼るような安易なやり方では、この魚を守ることはできない」と述べた。

 WSCのピート・ランド博士は「まず各国で優先的に守るべき生息河川を選び出し、地元同士で連携しながら、保全活動に長期的に取り組める体制を作りたい」と提案。これまでの調査に基づいて、イトウが比較的健全な状態で生息している川として猿払川、コッピ川(沿海地方)、ラングリ川(サハリン島)などを挙げ、こうした生息地をイトウ保護のために死守すべき「ストロングホールド」(とりで)とすべきだ、と語った。

 専門家たちが最新の研究成果を持ち寄った発表会とあって、門外漢にはいささかマニアックとも映るシンポジウムだったが、会場には、釣り愛好者や環境保全グループ、森和正・猿払村長をはじめとする自治体関係者ら約50人が集まって熱心に耳を傾けた。シンポジウム後も意見交換は深夜まで続き、この「幻の魚」に対する地元の人々の関心の高さ、愛情の深さが、村外者にもヒシヒシと伝わった。

 かたや日本政府は、この魚をレッドリスト(環境省)に載せてはいるものの、現在のところ保護管理のために何の具体策も取っていない。NGOや研究者、それに生息地の地元自治体が連携しながらそれぞれ役割を果たそうと動き始めている今、適切なサポート役としての具体的な行動が、政府にも求められている。

(「オーマイニュース」サイト閉鎖にともない2009年4月10日にウェブサイトに掲載しました)

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