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| ゆきねこ軒の イーハトーヴごちそう案内 (第4話) |
| ■ あたたかい紅茶 ■ |
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あたたかい紅茶で ほっと ひといき。いかがですか。
イーハトーヴの紅茶は 香りも味も いいですよ。 |
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| ● イーハトーヴのミルクティ ● |
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この原稿を書いているのは冬の中盤戦の頃です。さむい夜には一杯の熱い紅茶が恋しくなります。ゆきねこ軒店主が好きなのはミルクティ。それからスパイスの香りだたようチャイ。いずれもミルクは欠かせませんが、たとえば紅茶のプレーンな香りをまず楽しむためにミルクは後から入れなくちゃ、という人がいれば、ティカップに紅茶のしみをつけないためにミルクは先に入れるべき、という説を唱える人もいて、紅茶とミルクの関係は、にわとりと卵の関係に似ています。「どちらが先か?」の問題は永遠に解けそうにはありません。
要は飲む人が好きなのみかたがその人にとっての一番の飲み方。なにしろほっとひといきの時間なのですから、あまり眉間に皺を寄せたりなさらぬように。
イーハトーブの世界でミルクティといえば「茨海小学校」。 |
| そのうち校長はお茶を注いで私に出しました。見ると紅茶です。ミルクも入れてあるらしいのです。私はすっかり度肝をぬかれました。 |
この「茨海小学校」が書かれたのは大正12年頃といわれています。
日本で紅茶が伝えられたのは明治初期、実際に国内で飲まれるようになったのは明治中期以降といわれています。
賢治が作品の中で「牛乳」ではなく「ミルク」といったところがまたハイカラだと思いませんか。ミルクは東京で一般家庭に配達され始めたのが明治14年頃。岩手県盛岡市では明治18,9年頃。しかしまだまだそれは裕福な家庭でのこと。明治から大正時代にかけては乳製品の「バター」「チーズ」「ミルク」そして「紅茶」は高価な印象を受ける言葉だったはずです。
そういうわけで、子狐の仕掛けた罠にかかって倒れてしまった「私」は、狐の小学校で人間が飲んでいるのと同じ、人間世界でハイカラなのみものであるミルクティが出てきたからびっくりしているのです。 |
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| ● 一杯の熱い紅茶 ● |
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| さて、紅茶は宮澤賢治のそのほかの作品、「氷河鼠の毛皮」と「冬のスケッチ」にもでてきます。中でもおすすめしたい熱い一杯は「氷河鼠の毛皮」の紅茶です。 |
『紅茶はいかゞですか。紅茶はいかゞですか』
白服のボーイが大きな銀の盆に紅茶のコップを十ばかり載せてしづかに大股にやつて来ました。
『おい、紅茶をおくれ』イーハトヴのタイチが手をのばしました。ボーイはからだをかゞめてすばやく一つを渡し銀貨を一枚受け取りました。 |
| 前後の文章を省いたのでわかりにくいかもしれません。このおはなしの舞台は12月26日の夜8時に吹雪のイーハトーヴの駅を出発したベーリング行き急行列車の車内です。走り出した列車は、あまりの寒さのせいで車窓に湯気が凍りつき、ポケットナイフでガリガリ削らないと外の様子も見えないほど。そんな中でボーイが運んでくる紅茶は、カップに注がれるとあたりにあたたかい湯気をただよわせます。この作品が発表されたのは大正12年4月の岩手毎日新聞。紅茶はまだまだ高級なのみものだったはず。旅の途中の、それも寒いときの熱い一杯は、その高級感からよけいにおなかも気持ちもほっと豊かにさせてくれたことでしょう。 |
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| ● ヒントブックスでおなじみは、ご存じ "ケニヤティ" ● |
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ヒントブックスのホームページではケニヤティの紹介のページがあります。「もう飲んでいるぞ」という方も多いかもしれませんね。ゆきねこ軒店主もこの紅茶のファンです。渋味やくせがないのでそのままで飲んでも飲み易く、濃く出るのでミルクティに最適な一杯になります。でもケニヤティをはじめて見たとき「あれ? これって本物の紅茶??」と思いませんでしたか? いつも見慣れている紅茶は細長く、いかにも葉がまるまって縮んだ形をしています。でがらしは、たしかにちぎれた葉の形。なのに、このケニヤティは黒いつぶつぶで、出がらしもそのまま黒い粒つぶがふやかっているのですから。
紅茶といえば昔からセイロンなどインド〜スリランカがあまりに有名ですが、ケニヤでの紅茶生産は20世紀に入ってからはじまりました。そのため製法もより近代的なものが採用されたのです。それはCTC製法。これは茶葉を1〜2ミリの粒状に丸める特殊な製法で、Crush(押しつぶす)
Tear(引き裂く) Curl(丸める)ということ。この頭文字からCTC(それにしてもすさまじい意味なのだなあ)なのです。
この製法でできた紅茶は茶葉の細胞組織が破壊されているせいで抽出時間が短くてよく、ティバックなどに利用されることが多いそうです。
ケニヤティつぶつぶの謎、わかりましたか?
今度この茶葉をながめるときには「押しつぶされて、引き裂かれて、丸められたのね」と思ってくださいね!?
現代では、紅茶は身近にある飲もうと思えばいつでも手に入る日常的なものとなりました。
手っ取り早いのもいいけれど、たまには、お気に入りの茶葉をティスプーンできっちり計り、ティポットに入れ、くみたての水を沸騰させ、注いでむらして、しばらく待つ。
香りをかいで一口ふくむと、ほっと一息。この「じっくりの時間」忘れたくないですね。 |
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| 雪の岩手公園 |
| 撮影 中野由貴 |
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盛岡駅からのろのろ歩いて岩手公園へ。
雪のない季節には子供がキャッチボールをしたり走ったり、おじいさんやおばあさんがひなたぼっこしている小さなグランドがあります。今日は一面雪野原。誰もいません。
まっさらな雪の地面をさくさく、ずぼずぼとふみしめて歩きます。足の先がつめたくなってきてもコートの裾がぬれてきても平気へいき。振り返ると今まで自分が歩いた足あとが残っていました。普段、雪のない地域で暮らす者には探検家の気分です。でも雪国での生活は実際、大変だなあと思います。
凍った池のはたにはカモたちが元気にうろうろ。
橋の上で雪だるまをつくってみました。 (2001年12月撮影) |
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| イーハトーヴめぐりの本・その2 |
岩手県を訪ねて実際にイーハトーヴの旅をしてみたいなあ、賢治のふるさとってどんなところかなあ、という方に。前回に続き、賢治めぐりのためのガイドブックに、こんなのはいかがでしょう。
「賢治と岩手を歩く」 板谷英紀 1989年 岩手日報社 1165円+税
岩手での賢治の足跡をたどり、その場所での賢治のエピソードや作品を紹介しています。年表的ではなく、文のところどころには作者の想像の場面も少々含まれており、それが読みやすさにつながっています。賢治とこの本の作者が岩手歩きをガイドしてくれる一冊です。
「賢治と歩く盛岡」 盛岡観光協会 268円
盛岡の賢治にまつわる場所を写真とともに詳しく紹介しているガイドブック。巻末には賢治関連年表のほかに、盛岡の特産品・観光地などのデータも載っているのはさすが観光協会発行の本。現在(2000年4月から)市内にはどこで降りても料金100円の市内循環バスが走っていて、市内をめぐるのがずいぶん楽になりました。この本で紹介されている場所の約半分は一日でまわれますよ。
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| 宮澤賢治の作品がよみたくなったら、こんな本を |
今回紹介した作品はこちらで読めます。
よみやすさなら文庫版
ちくま文庫「宮澤賢治全集」1巻〜13巻
紅茶のでてくる「茨海小学校」は5巻、「氷河鼠の毛皮」は8巻に載っています。
本格的につきあいたいなら校本全集
「新校本 宮澤賢治全集」1巻〜16巻 筑摩書房
「茨海小学校」は9巻、「氷河鼠の毛皮」は12巻に載っています。
絵本「氷河ねずみの毛皮」
木内達朗(絵) 1993年 富山房 1311円+税
外の寒く冷たい冬の様子と、あたたかい列車の中の対比が独特の淡いタッチで描かれています。
列車のなかの緊張感、ほかほかの紅茶のゆげがゆらんとゆれる様子が伝わってきます。
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| 紅茶の本 |
ゆきねこ軒店主はお茶好きにつき、紹介したい紅茶の本はたくさん。あきれないで、どうか御贔屓に。
「紅茶の事典」 成美堂出版編集部編
1995年 成美堂出版 1260円+税
今回、ケニアテイの謎が解けたのもこの一冊のおかげでした。
紅茶の飲みかた、飲み物のレシピ、紅茶の歴史から、茶器の紹介、現在販売されている紅茶のカタログまで、写真も豊富にまとめてあります。
「紅茶の本」 堀江敏樹 1992年 南船北馬舎 1456円+税
増補改訂版
著者は大阪・堂島で「ムジカ」というティハウスを経営されている方です。そこは紅茶好きにはとても魅力的なお店なのですが、この本も著者の紅茶へのこだわりが伝わってきます。世界の紅茶産地を直接歩き、味わってきたこと、紅茶に関するあれこれを惜しみなく紹介してくれている心地良い一冊です。このほかに「紅茶で遊ぶ観る考える」「カルカッタのチャイ屋さん」(ともに南船北馬舎)も読んでいくうちに紅茶が飲みたくなってくる本です。
「中国茶読本」 島尾伸三 1996年 平凡社 1553円
紅茶というと西洋の匂いがしますが、中国茶にも紅茶はあります。実は事の起こりはアジアなのです。著者は中国をまわって様々なお茶と出会い、中国茶の知識とともにゆったりしたお茶の時間を紹介してくれています。紅茶を含めたお茶の種類も教えてくれる一冊です。
「四季の英国紅茶」中公文庫
出口保夫 2000年 中央公論新社 724円
この本のほかに、「午後は女王陛下の紅茶を」「イギリス四季暦 春夏編/秋冬編」(ともに東京書籍)も。出口雄大さんの淡いタッチのイラストとともに、イギリスの紅茶、紅茶のある生活について知ることができます。イギリスでもこの4冊に共通しているのが、お茶のあるゆったりした時間のよさ。あわただしい毎日の中にも工夫すれば、ほっとできるひとときがやってくるものです。
「紅茶の時間」 東君平 サンリオ 品切 (図書館でどうぞ)
これは詩集です。タイトルの詩とともに20編収録されています。君平さんの作品は読者にのんびりした時間を作り出す不思議な魅力を持っています。このほかにも詩集や童話集がいくつかありますが、とくにおすすめなのは昭和48年から61年まで毎日新聞の毎週土曜日朝刊に掲載されていた「おはようどうわ」(サンリオ)の童話集。全10巻ですが、くすっと笑える一編があれば、ふうむと考えさせられるものもあり、お茶の時間に読むのにいい長さです。
東君平さんがもし生きていらしたら、今年(2002年)で62歳。現在、山梨県小淵沢で奥様の英子さんが「くんぺい童話館」を運営されていて、そこでは君平さんの原画などに出会えることができます。
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それではそろそろ第4回、閉店の時間です。
おなかの調子はいかがでしょうか?
ご質問があればなんなりと、しかしお手柔らかにお願いします。
また、あなたの見つけた「おいしい本」があれば教えてください。
賢治のものに限りませんので、よろしくお願いします。
さて次回はイーハトーヴの銘酒の数々を紹介したいと思います。
どうぞお楽しみに……。
本日のご来店、誠にありがとうございました。 |
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| (文と写真) ゆきねこ軒店主・中野由貴 |
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| Copyright © 中野由貴+ヒントブックス 2002 |
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