6. ツアーの功罪

 219日(月)

私達が選んだツアーは基本的にフリーなのだが、この日の午前だけは団体ツアーが義務付けられていた。「一度行ったことがあるんですが」と嘘をついて全日程フリーにしたかったのだが、「違約金が派生します」と言われ断念した。

8時半の出発に備え、7時半頃バイキングの朝食を食べに行く。これはホテルに泊まる人々共通のものだから、なかなか立派である。コンチネンタル風の朝食に加えて、粥やスープなどの中華風の朝食もある。万由子のためにオレンジジュース、バナナ、粥などを頂く。

万由子がいるため、従業員を始めとして他の客もどんどん声をかけてくれる。こんなことは、これまでの旅ではなかった。こういうところではどうしても、仲間内だけで完結してしまうものだ。でも今の私達は、万由子のおかげで、最初から暖かく迎えられている。

8:30、迎えに来たバスに乗り込む。このバスの中でも授乳。

まずは龍山寺という、日本の浅草寺に相当するような庶民の寺に行く。安産祈願と出産後のお礼参りを受ける神が祭られているという。私はまゆこと一緒に、その神に深深と頭を下げた。その殊勝さに、ある同じツアーの客は、私を台湾人だと思ったそうだ。

続いて蒋介石記念公園を訪れる。すごーく巨大で、圧倒される。

蒋介石か・・難しいところだ。第2次世界大戦後に台湾にやってきた漢民族にとっては英雄なのかな。でもそれ以前から台湾に住む本省人は、本当のところ蒋介石に対してどう思っているんだろう。この街の真中に鎮座する巨大な建物をどう思っているんだろう。

建物は立派だが、何となく空空しい感じがしてしまう。

 

さて、今日の昼食は火鍋料理。これも台湾の名物の一つである。

キムチ鍋にキムチが入っていないような鍋で、そう聞くとまずそうだが、だしが濃厚で結構おいしい。鍋といえばやはりビールだろう。ビール飲みたいー!

私達と共にテーブルを囲んだ同じツアーの男性はみな、ビールを大瓶で頼んだ。彼らはまだ打ち解けていないので、ビールをみんなでシェアするのではなく、それぞれが一本ずつ頼んだ。私ものど元まで「ビール頂戴」と出かかったが、一本頼む度胸はなかった。

多分、彼らのうち一人くらいはビールを残すだろう。それをもらおうと、なんとも図々しく考えていたのである。

だが、見渡すと彼らは大瓶サイズのビールを一人残らず一滴残さず飲み干してしまっているではないか!やはり鍋の熱さと濃厚な味付けに、ビールが思いっきり進んだのだろう。これにはかなり失望させられた。

まゆこには、持ってきた瓶詰めの離乳食と、バナナを砕いて食べさせた。

実は、鍋料理がまゆこにかかったりしないか気がかりだった。私がビールを頼まなかった理由も、そこで気が大きくなって警戒が緩んでしまわないためでもあった。その甲斐あって、私達もまゆこもおいしい昼食を楽しむことができた。

 

食べ終わった頃、ガイドがやってきて、「下でお茶を飲ませるから降りてきてください」と言う。はあ〜、またである。実はすでに強引に土産屋や漢方薬の店に入らされ、時間を無駄にしたばかりである。今度はお茶を飲ませたあと、売り込みにかかるに違いない。

こういうのを100%否定してしまうわけには行かない。こうして店からマージンをもらわなければ、安いツアー料金ではペイできない事情はよく分かる。

でも・・・。すでに時計は14時を刻む。私はこの後故宮博物館に行きたいのである。

故宮は16時半までなのだ。もう一刻の猶予もないのだ。

本当はこの後免税店に行き、そこで解散するのが正式なスケジュールだった。だが、午前中だけという約束なのに、こんなに時間をオーバーしている旅行社側の罪もあるだろう。

私はもう十分付き合った。ここらで行かせてもらいます。

「すみません、子供の調子が悪いみたいなんです。先にホテルに戻っていいですか?」

「え、大丈夫ですか?それなら私がタクシーを捕まえましょう」「いいですよ、自分で出来ますから」「いいえ、そういうわけには行きません」とやり取りがあり、われら3人とガイドは外に出た。タクシーを止め、ガイドが台湾語で「ヒルトンホテルだ」と運転手に伝える。私達は手を振ってガイドと別れた。「ありがとうー」とか言いながら。

彼が見えなくなるやいなや、私は急いで紙とペンを取り、「故宮」と書いた紙を運転手に手渡した。運転手はにやりと笑う。「クークン」と故宮を読み、全てを解したようにハンドルを大きく切った。このタクシーの中でも授乳した。

 

目次に戻る