3.いざ台湾へ
2月18日(日)
福岡空港は便利な国際空港だ。実家から空港まで10分くらいという信じられないアクセスの良さ。それも手伝ってか、両親は義父の定年退職後、年に2、3回と海外旅行を重ね、今ではすっかり旅なれている。
朝8時に集合する。今回の旅は極力フリーで行くつもりであった。格安航空券とホテルだけを決めて行こうかとも思ったが、福岡の旅行会社が企画したフリープランの方が割安感があり、そちらに決めた。ツアーは8万4千円。安くないのはヒルトンホテルを選んだからである。台北ヒルトンは駅のまん前にある。そのアクセスの良さと、高級ホテルの持つサービスの良さや医師の待機、いざとなれば日本語が通じるという点に惹かれて選んだ。
格安航空券は5万5千円で手に入ることがインターネットなどで分かっていた。残り約3万円でヒルトンに3泊することはできないと踏んだ。ヒルトンはガイドブックやインターネットによれば、一泊2万円強するはずだった。だからツアーがお得であると結論付けた。だがこれは後に失敗だったことが判明する・・・。
10:00。私は万由子にだけ旅行傷害保険を賭け、出国した。キャセイパシフィック航空で台北に向かう。我々の席はエコノミー右側の最前列。バシネットを設置できる場所だ。旅行会社を通じてリクエストしておいた通りである。オムツとベビーフードももらう。これもリクエストしておいた。
万由子は離陸は苦にならないようだ。実に愛想よくアテンダントに可愛がられる。彼女達は通るたびに、いくつなの?何ていう名前なの?と声をかけてきた。また万由子があらぬ方向を見て笑っている場合、万由子の視線を辿っていくと、満面の笑みを浮かべて手を振っているおじさんやおばさん、おにいさんなどと目が合う。私はそのあまりの笑顔に驚きながらも、失礼のないよう同じ程度に相好をくずして会釈する。今のところ万由子がいることによって、エコノミー前方の席周辺はほんわかとした和やかなムードが漂っている。
さて、そろそろ授乳の時間だ。
私は義母との旅にいくつかの不安を持っていたが、その一つが授乳についてだった。
旅を効率よくアクティブにこなすためには、授乳場所を選ばない無節操さが必要なのだ。
いちいち授乳室を探したり、ホテルに戻ったりしていてはいられない。飛行機の中など、とっくに経験済み。覗きこもうという悪意がない限り、別に見えたりしないんである。
だが、慎ましく貞淑な九州の女、義母はどう言うだろうか―。
「さてと、そろそろおっぱいかな〜」と独り言をつぶやきながら、ちらりと義母の様子を伺う。義母は「うんうん」とうなずいている。「お母さん、私はここでやってしまいますからね〜」と一気に言ってみる。すると義母は「そうよ、ここしかないやない」と言ってくれた。助かったー!「なんばいうね、正恵さん。こげなところで授乳なんてしたらいかん」と言われたら、私はきっと「そうですよね〜やっぱ」と口裏を合わせてしまっただろう。
授乳問題クリアだ。
授乳後、万由子はくたっと寝た。機内は飲み物を配り始めた。機内食が近い。
私はここでバシネットの設置をお願いする。すでに万由子の笑顔によって、十分コミュニケーションが取れているアテンダントが、笑顔で設置してくれる。おかげで余裕の機内食。
食べ終わった頃、万由子が目を覚まし、経験したことのない状況に驚いたのか、泣き声をあげた。バシネットに乗ったまま上体を起こし、私と義母に向き合う方向に向けてやる。
すると万由子は私達よりも高い位置で、二人をまん中から見下ろす形になった。
万由子はこの位置関係がいたく気に入ったようだ。恐らく自分がこの旅行のリーダーだ、とでも思っているのだろう。いや、事実、そうだと思うよ。