智の館2
論択官 第4章


司馬徽
宰相、細事にたしなまず


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

房玄齢
当初から太宗に従い、帷幄の中にあって策をめぐらし太宗をよく補佐した。秦王府十八学士の冠首とされる。唐の諸制度も杜如晦との名コンビで作り上げ、貞観の治の立役者の一人といってよい。

杜如晦
当初から太宗に従い、房玄齢から『王佐の才』があると高く評価された。
房玄齢が企画力に優れていたのに対して、杜如晦は決断力に優れ、軍事、政治に多難であった太宗の治世の初期をよく支えた。




司馬徽
貞観二年。太宗が房玄齢と杜如晦に言った。

太宗
そなたたちは僕射である。だから私の心配事を助け、耳や目を広く開いて優れた才知のある人物を捜し求めるべきである。ところが、近頃、聞くところによるとそなたたちが訴訟事件を聞き裁く事が一日に数百もあるということである。
これでは文書を読むだけで暇がないであろう。どうして私を助けて賢者を求める事が出来るだろうか。
御意。
房玄齢
御意。
杜如晦
太宗は尚書省に勅令を出して、細かい事務は左右丞に任せ、無実の罪の長引いた大きな裁判事件のうち天子に奏上するような事件だけを僕射に関与させるようにした。




司馬徽
昔から『宰相、細事にたしなまず』と言われておる。宰相には宰相として取り組むべき大きな仕事があるはずじゃ。細かい仕事に忙殺されてしまっては本末転倒というものじゃ。
うむ。
なるほど。それにしても、今の世で細事にたしなまずとか言ったら、怠け者の総理大臣とか言われそうだな。万人が納得できる仕事をしてくれれば誰も文句は言わないだろうが、難しいだろうな。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
じゃ、私も細かい雑務は部下に任せていいですか?
うむ。いいだろう。しかし、わしを部下扱いして雑務を押し付けようとするなよ。
飛覇帥

鏡秋雪
ちっ!読まれていたか。
くっくっく。
今回はわしの勝ちじゃな。

飛覇帥

鏡秋雪
むう。
まあ、仕方ないですね。とりあえず、私の肩を揉みなさい。司馬徽さん。

司馬徽
よいぞ、よいぞ。
けっこう、凝っているぞ。
お前は秋雪の部下だったのかっ!
飛覇帥






原文
第四章
貞観二年、太宗、房玄齢・杜如晦に謂ひて曰く、卿は僕射たり。当に朕の憂を助け、耳目を広開し、賢哲を求訪すべし。比聞く、卿等、詞訟を聴受すること、日に数百有りと。此れ即ち符牒を読むに暇あらず、安んぞ能く朕を助けて賢を求めんや、と。因りて尚書省に勅し、細務は皆左右丞に付し、惟だ冤滞の大事の、合に聞奏すべき者のみ、僕射に関せしむ。