智の館2
納諌 第10章


司馬徽
朱に交われば赤くなる


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

長孫無忌
太宗の長孫皇后の兄。当初から太宗に従い、各地を転戦した。
高宗の時代になると政治の中枢に座ったが、則天武后が高宗の皇后に立てようとする動きに反対したため、讒言に遭い謀殺された。

高宗
唐の3代目皇帝。李治。
太宗の長男(承乾)が奇行により皇太子を廃されると、仁孝な性格を認められ次男の泰を押さえて皇太子となった。
晩年は頭痛に苦しみ、則天武后の専横を許してしまった。




司馬徽
太宗はある時、家臣に対して非常に怒り、朝廷に命じて斬罪にさせた。高宗はあわてて太宗を諌めた。
父上!
今回の斬罪について、お話があります。

高宗
太宗はあからさまに嫌な顔をした。

太宗
なんじゃ。
あのようなことでお怒りになられるとは、父上らしくありません。
高宗
高宗は太宗が嫌な顔をしてもかまわずに諌め続けた。
その諌めの言葉を聞いて、太宗は怒りの心を解いた。
それを見ていた長孫無忌は太宗に言った。
古来から太子がお諌めするのは、陛下が暇な時をうかがい、ゆったりと落ち着いて申し上げるのが常であります。
ところが今、陛下は天子の御威光をもってお怒りを発せられ、太子は陛下のご機嫌をかまわずに諌言を申し上げました。これは古今に例がないことであります。

長孫無忌

太宗
人は長い間、一緒にいれば習い染まるものだ。
私は皇帝として天下を治め、私心を持たず正直を旨としてきた。そこに魏徴がいて朝に夕に私を諌めた。
魏徴が死んでからは劉キ・岑文本・馬周・チョ遂良たちが後を継いで諌めてくれた。
皇太子は幼い時から私の膝の前に居て、私が諌める者を喜ぶのを見ていたから、染まってそういう性格になったのだろう。
それゆえ、今日の諌めがあったのだ。




司馬徽
人間は周りにいる人物によって磨かれる。太宗の日頃の態度が高宗の諌めを生んだのじゃ。
確かに、魏徴や諌臣たちの言葉を喜んで聞いた太宗ならではのエピソードじゃな。日頃、周りにいる人物を選ばねばならぬのう。
飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
でも、長〜ぁく一緒にいても、駄目な人間がいますね。
まったくじゃな。誰とは言わぬが・・・。
飛覇帥

司馬徽
朱に交われば赤くなる。
二人とも一緒じゃ。
よいぞ、よいぞ。

鏡秋雪
ぐはっ。
飛覇帥






原文
第十章
太宗、嘗て苑西面監穆裕を怒り、朝堂に命じて之を斬らしむ。時に太帝、皇太子たり。遽に顔を犯して進諌す。太宗、意乃ち解く。司徒長孫無忌曰く、古より太子の諌むる、或は閑に乗じて従容として言ふ。今、陛下、天威の怒を発し、太子、顔を犯すの諌を申ぶ。斯れ古今未だ有らず、と。
太宗曰く、夫れ人久しく相与に処れば、自然に染習す。朕が天下を御めしより、虚心正直なり。即ち魏徴有りて、朝夕進諌す。徴云に亡せしより、劉キ・岑文本・馬周・チョ遂良等、之に継ぐ。皇太子幼にして朕の膝前に有り、毎に朕が心に諌者を悦ぶを見、因りて染まりて以て性を成す。故に今日の諌有り、と。