智の館2
納諌 第6章


司馬徽
粋な恩賞


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

李大亮
涼州の都督。文武の才能があり、清廉潔白。
武勲を立て後に右衛大将軍となった。
死に際に遼東への戦役をやめるように太宗を諌めた。




司馬徽
李大亮が涼州の都督に就任した。その後、朝廷からの使者が涼州を訪れた。
使者は李大亮の見事な鷹に目を奪われた。
ほほう。これは見事な鷹ですな。
使者
ピイィィィ

李大亮
恐れ入ります。
この鷹を陛下がご覧になれば、さぞかしお喜びになられるであろうな。
使者

李大亮
は?
この鷹を陛下に献上しろと仰るのですか?
そうは言っておらぬ。
しかし、あなたも都督の地位で満足されているわけではないでしょう。
私の言っている意味、お解かりですな?

使者

李大亮
むむむ。
李大亮はこの出来事を内密に上表した。

李大亮
陛下は長らく狩猟を取りやめておられるのに、使者が鷹を要求しました。
もし、これが陛下のご意思であるならば贅沢を改めるという陛下の思いはなくなってしまったのですか?
もし、これが使者の独断であるなら使者としてふさわしくないと思います。
太宗はそれに対して勅書を下された。
そなたは文武の才を兼ね備え、正しく堅固な志を持っているから藩鎮の長である都督の職をゆだね、この重い任務を担当させたのである。
このごろそなたの都督としての働きは遠く都にまで聞こえている。私はそなたの忠勤を思い寝ても覚めてもそなたの事を忘れたことはない。
朝廷からの使者が鷹を要求したとき、そなたは自分を曲げずに従うことをしなかった。そして、はるか遠くから直言を献じ、真心を打ち上げることが非常に誠意にあふれるものだった。
そなたの上表を読み、褒め称える気持ちを押さえる事ができなかった。そなたのような信頼できる立派な臣下があれば私は何も心配することはない。
そなたはこれからもこの誠意を持ち続け変わらないようにして欲しい。
古人は『一言の価値の重いことは、千金と同じである』と言っている。そなたの言葉は非常に尊重する価値がある。そこで、そなたに壷瓶と金の椀を一つずつ下賜する。これは千鎰の重さはないけれども自分が使っている品物である。
そなたは志が正しく節義を尽くし守ることは公平であり、いかなる官職にいても常にその任務をよくやり遂げている。それゆえ、将来おおいに任用し重い任務を与えようと思う。ついては公務の余暇に書籍を読んで学問するがよい。そこで、そなたに荀悦の漢紀一部を下賜する。この書はその叙述が簡にして要を得ており、論議が深く広く、政治のやり方の本質をよく極め、君臣の義について充分に尽くしている。よく読んで研究するとよいだろう。

太宗




司馬徽
太宗は都督の意見にも耳を傾けただけでなく、将来重用したいと励ました上で歴史書を与えて勉学してさらに向上させようとした。
見事な指導者と言えるのう。
うむ。
太宗の人材育成は見事じゃのう。わしもかくありたいものじゃ。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
飛覇帥さん。私にも何か本を下賜してくださいよ。
うぬ。
では、この本を授けよう。

飛覇帥

鏡秋雪
なんですか。この本。ひらがなばかりじゃないですか。
貴様は失礼な奴じゃから、わしが小学生の頃に使っていた道徳の教科書を授ける。
よく学べよ。

飛覇帥

鏡秋雪
ぐはっ。






原文
第六章
李大亮、貞観中、涼州都督と為る。嘗て臺使有り、州境に至る。名鷹有るを見、大亮に諷して之を献ぜしむ。大亮密に表して曰く、陛下久しく畋猟を絶つ。而るに使者、鷹を求む。若し是れ陛下の意ならば、深く昔旨に乖かん。如し其れ自ら擅にせば、便ち是れ使、其の人に非ざらん、と。
太宗、其れに書を下して曰く、卿が文武を兼ね資し、志、貞確を懐くを以て、故に藩牧を委ね、茲の重寄に当つ。比、州鎮に在りて、声績遠く彰る。此の忠勤を念ひ、寤寐に忘るること無し。使、鷹を献ぜしむるに、遂に曲順せず。今を論じ古を引き、遠く直言を献じ、腹心を披露し、非常に懇至なり。覧を用つて嘉歎し、已む能はざるのみ。臣有ること此の若し、朕復た何ぞ憂へん。宜しく此の誠を守り、終始、一の如くすべし。詩に曰く、爾の位を靖恭し、是の正直を好む。神之れ之を聴き、爾の景福を介にせん、と。古人称す、一言の重き、千金にヒトし、と。卿の此の言、深く貴ぶに足る。今、卿に金壷瓶・金椀各々一枚を賜ふ。千溢の重き無しと雖も、是れ朕が自用の物なり。
卿、志を立つること方直、節を竭くすこと至公、職に処り官に当り、毎に委ぬる所に副ふ。方に大いに任使し、以て重寄を申ねんとす。公事の間、宜しく典籍を観るべし。兼ねて卿に荀悦の漢紀一部を賜ふ。此の書、叙致簡要、論議深博、政を為すの体を極め、君臣の義を尽くす。宜しく尋閲を加ふべし、と。