智の館2
求諌 第6章


司馬徽
保身に走らないように願う


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

魏徴
太宗の兄に仕えて太宗暗殺を計画し積極的にこれを勧めた。しかし、これに失敗。逆に太宗に捕らえられた。
その見識の高さと剛直さを太宗に認められ大臣に抜擢された。その後も太宗を恐れることはなく諌言を繰り返し、太宗の治世を支え続けた。
魏徴が亡くなった時、太宗は「自らの過ちを正す貴重な鏡を失った」と嘆いた。




司馬徽
貞観十五年。太宗は魏徴に問うた。

太宗
最近、臣下たちが誰も意見を言わなくなってしまったのは何故であろうか?
陛下は公平無私なお心で臣下の意見を聞き入れてくださっていらっしゃるのですから意見を申し上げる者があってしかるべきであります。
しかし、古人はこう言っております。『未だ充分に信用されないのに諌めれば、聞くほうに自分の悪口を言っているのだと言われます。また、信用されているのに諌めないのは禄盗人と言われます』と。

魏徴

太宗
ふむ。
ただ、人の才能というのは人それぞれであります。
意気地のない人は忠直の心を持っていても言うことが出来ません。親密でない人は信用されないことを心配して言うことが出来ません。地位を大事に思っている人は地位を失うことを恐れて言うことが出来ません。
どれもこれもみな、口を閉じて黙っていて上司や多数の人たち逆らわずに同調してその日その日を過ごしている理由であります。

魏徴

太宗
まさに、そなたの言うとおりだ。私はいつもこう考えている。臣下が君主を諌めようとすれば、君主の怒りに触れて殺される危険を恐れるものである。それは罪人が釜茹での刑に赴く時や、敵の大軍の中に一人で突入するのと、違いがあるだろうかと。
だから、進んで誠意を尽くす者はそれこそ非常に得がたいのである。昔の禹王が道理にかなった正しい意見を受けたときには敬意を表して拝したという理由はこういうことではないだろうか。
太宗は臣下たちに向かって言った。

太宗
私は今、胸の中を大きく開いて臣下の遠慮ない諌めを受け入れている。そなたたちは怖気づいていらぬ心を使い、思ったままを言わないということがないようにしてくれ。




司馬徽
太宗は意見に耳を傾ける名君であった。しかし、そうであっても、部下たちがしだいに保身に走って何も言わなくなってしまったのじゃな。
君主として、意見を言ってこない時が続くようなら太宗のように意見を言うことを求めることも重要じゃな。
確かにその通りじゃ。
魏徴が言った説明は人間なら誰しも当てはまることじゃ。部下たちの勇気を奮い立たせるためにも諌言を求めていることを部下たちに伝えなければならんな。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ
それにしても、もう少し、自重して欲しい人物が・・・・
飛覇帥

鏡秋雪
はあ?私ですか?
そうじゃ。貴様はずけずけと言いすぎじゃ。
飛覇帥

鏡秋雪
待って下さい。私がずけずけと言うって事は飛覇帥さんは意見が言いやすい名君ってことじゃないですか。
いやー飛覇帥さんは名君だなあ。
本気ではなかろう。その言葉・・・・。
飛覇帥

鏡秋雪
本気ですよぉ。この目を見てください!
どれどれ。
う・・・・動けなくなったぞ。どういうことだ!

飛覇帥

鏡秋雪
くっくっく。決まった
二階堂平法『心の一方』

(出典:るろうに剣心の2巻)
おのれ、またしても妖しげな技を・・・・
飛覇帥






原文
第六章
貞観十五年、太宗、魏徴に問ひて曰く、比来、朝臣、都て事を論ぜざるは、何ぞや、と。徴対へて曰く、陛下、心を虚しくして採納す。誠に宜しく言者有るべし。然れども古人云ふ、未だ信ぜられずして諌むれば、則ち謂ひて己を謗ると為す。信ぜられて諌めざれば、則ち謂ひて之を尸禄と為す、と。但だ人の才器は各々同じからざる有り。懦弱の人は、忠直を懐けども言ふこと能はず。疎遠の人は、信ぜられざらんことを恐れて言ふことを得ず。禄を懐ふ人は、身に便ならざらんことを慮りて敢て言はず。相与に緘黙し、俛仰して日を過す所以なり、と。
太宗曰く、誠に卿の言の如し。朕、毎に之を思ふ。人臣、諌めんと欲すれば、輒ち死亡の禍を懼る。夫の鼎カクに赴き、白刃を冒すと、亦何ぞ異ならんや。故に忠貞の臣は、誠を竭さんと欲せざる者には非ず。敢て誠を竭す者は、乃ち是れ極めて難し。禹が昌言を拝せし所以は、豈に此が為ならずや。朕、今、懐抱を開いて、諌諍を納る。卿等、怖懼を労して、遂に極言せざること無かれ、と。