智の館2
政体 第14章


司馬徽
今の賢者を求めよ


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

魏徴
太宗の兄に仕えて太宗暗殺を計画し積極的にこれを勧めた。しかし、これに失敗。逆に太宗に捕らえられた。
その見識の高さと剛直さを太宗に認められ大臣に抜擢された。その後も太宗を恐れることはなく諌言を繰り返し、太宗の治世を支え続けた。
魏徴が亡くなった時、太宗は「自らの過ちを正す貴重な鏡を失った」と嘆いた。




司馬徽
貞観九年。太宗は左右の侍臣に語った。

太宗
帝王というものはその好むものを慎重にしなければならない。
もし、鷹や犬や名馬、あるいは音楽でも美女でも珍しい珍味や美食でも、私が望めばすぐに目の前に出てくるに違いない。しかし、これらはいつも人としての正道を破るものである。
その時の君主が邪佞の臣か忠直の臣を好むかで集まる家臣も違ってくる。
任用する家臣に賢者が得られなければどうして国家が滅亡しないで居られるだろうか。
昔の斉の威王とその家臣の逸話がございます。
魏徴
魏徴は話し始めた。

威王
わしが好むものは古代の帝王と同じであろうか?
古代の聖王が好んだものは四つございますが、王の好むのもはこのうち三つだけです。
家臣

威王
ほう。それはなんじゃ?
昔の聖王は美女を好みました。王もこれを好みます。
昔の聖王は良馬を好みました。王もこれを好みます。
昔の聖王は美味を好みました。王もこれを好みます。
ただ、一つだけ同じでないものがあります。
昔の聖王は賢者を好みました。しかし、王は賢者を好みません。

家臣

威王
そうは言うが、今の世には聖王が登用したような賢者がいないのだから仕方あるまい。
美女といえば西施、良馬といえば飛兎、珍味といえば龍の肝。これらは今の世にはとっくに無くなっております。ところが、王の後宮、馬小屋、調理場には昔の美女や良馬や珍味に匹敵するものがございます。
それなのに、今の世には昔の賢者に匹敵するものがいないとお考えになるのですか?
美女や良馬のように今の世の中から賢者を求めてこれを好むべきでございましょう。

家臣
魏徴が語り終えると太宗は深くうなずいた。

太宗
うむ。
まさにその通りじゃ。




司馬徽
よく、過去の偉人を見てこんな立派な人物は現代にはいないと嘆く人がおる。しかし、そうではないんじゃ。賢者はどの時代、どの場所にもおる。それを見出すか見出さないか。それが、君主としての器量や能力の分かれ目なのじゃ。
うむ。
わしも現在の賢人を求めよう。そのためには人物鑑定眼を磨くようにしなければならんな。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
今の賢人といったら誰ですかねえ。
この部屋の中にいる人間の中でたった一人以外は賢人といっても良いだろうな。
飛覇帥

鏡秋雪
ふふふ。そうですね。
この中で賢人でないといえば一人しかいませんね。それは・・・

鏡秋雪
お前だ!
飛覇帥

鏡秋雪
・・・・・・・・・・
飛覇帥






原文
第十四章
貞観九年、太宗、侍臣に謂ひて曰く、帝王為る者は、必ず須らく其の与する所を慎むべし。只だ鷹犬鞍馬、声色殊味の如きは、朕若し之を欲すれば、随つて須らく即ち至るべし。此れ等の事の如き、恒に人の正道を敗る。邪佞忠直、亦時君の好む所に在り。若し任ずること賢を得ざれば、何ぞ能く滅びること無からんや、と。
侍中魏徴対へて曰く、臣聞く、斉の威王、淳于コンに問ふ。寡人の好む所、古の帝王と同じきや否や、と。コン曰く、古者の聖王の好む所四有り。今、王の好む所唯だ其の三有り。古者色を好む。王も亦之を好む。古者馬を好む。王も亦之を好む。古者味を好む。王も亦之を好む。唯だ一事の同じからざる者有り。古者賢を好む。王独り好まず、と。斉王曰く、賢の好む可き無ければなり、と。コン曰く、古の美食は、西施・毛ショウ有り。奇味は即ち龍肝・豹胎。善馬は即ち飛兎・緑耳有り。此れ等は今既に之無し。王の厨膳、後宮外厩、今亦備具せり。王以て今の賢無しと為す。未だ前世の賢、王と相見るを得るや否やを知らず、と。太宗深く之を然りとす。