智の館2
政体 第13章


司馬徽
他人を笑い、己の過ちを知る


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

魏徴
太宗の兄に仕えて太宗暗殺を計画し積極的にこれを勧めた。しかし、これに失敗。逆に太宗に捕らえられた。
その見識の高さと剛直さを太宗に認められ大臣に抜擢された。その後も太宗を恐れることはなく諌言を繰り返し、太宗の治世を支え続けた。
魏徴が亡くなった時、太宗は「自らの過ちを正す貴重な鏡を失った」と嘆いた。




司馬徽
太宗は拓跋の使者に尋ねた。

太宗
拓跋の兵力はどれくらいあるのじゃ?
現在は四千人ですが、以前は四万人おりました。
使者
太宗は左右の侍臣たちに言った。

太宗
私が聞いたところによると、西域の異民族は珠玉を愛し、美しい宝石を手に入れると自分の身を裂いて隠すそうだ。
財をむさぼって自らを害するとは、誠に笑うべき行動ですな。
侍臣

太宗
ただ、胡人を笑ってばかりはいられないぞ。今、官吏たちが財貨をむさぼって生命の危険に心を配らず、その身の死後に子孫が処罰されている。これは宝石を愛して自分の身を裂いてしまった西域の胡人と違いがないではないか。
なるほど。
侍臣

太宗
帝王とて同じことだな。心のままわがままに振る舞い、快楽を好んで際限がなく、多くの政務をめちゃくちゃにし、夜通しの楽しみにふけって立ち返ることを忘れている。
帝王の行為がこのようなものであれば、どうして滅亡しないことがあるだろうか。
隋の煬帝は贅沢の限りを尽くし、自分を賢者だと思って他人の意見を聞かず、その身はつまらぬ男に殺された。誠に笑うべきである。
私はこういう話を聞いたことがあります。
昔、魯の哀公が孔子に語りました。『世間には物忘れのひどい人もいるもので、引っ越しをした時、こともあろうに自分の妻を置き忘れてしまった者がいる』と。それに対して孔子は『物忘れということでしたら、もっとひどい者がおります。昔の桀紂の行いは自分の妻どころか己自身を忘れてしまったのですから』と。

魏徴

太宗
うむ。
私はそなたたちと人の行いを笑うことを知った。
今からはお互いに正し、助け合って、人から笑われないようにしたいものだ。




司馬徽
太宗は西域の胡人を引き合いに出して自分たちも快楽や財貨に目がくらんで自身を傷つけている事を示したのじゃ。そして、そんなことがないようにお互いに正し、助け合おうと呼びかけているのじゃ。
ちなみに拓跋とは鮮卑族の一部族じゃ。
うむ。
わしも他人に笑われぬように快楽や財貨に目がくらんで己を忘れないようにしなければならないな。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
飛覇帥さん。そこに100円落ちてますよ。
はっ!
この城に落ちていたということはわしのものじゃ!誰にもあげないぞ!

飛覇帥

鏡秋雪
くっくっく。
財貨どころか、たった100円で己を失っちゃいましたねえ。
うぐ・・・。
飛覇帥






原文
第十三章
太宗、拓跋の使人に問ひて曰く、拓跋の兵馬、今、幾許有りや、と。対へて曰く、見に四千余人有り。旧は四万余人有り、と。太宗、侍臣に謂ひて曰く、朕聞く、西胡、珠を愛し、若し好珠を得れば、身を劈きて之を蔵す、と。侍臣咸曰く、財を貪り己を害し、実に笑ふ可しと為す、と。
太宗曰く、唯だ胡を笑ふ勿れ。今、官人、財を貪りて性命を顧みず。身死するの後、子孫辱めを被れるは、何ぞ西胡の珠を愛するに異ならんや。帝王も亦然り。情を恣にして放逸、楽を好むこと度無く、庶政を荒廃し、長夜返るを忘る。行う所此くの如くなれば、豈に滅亡せざらんや。隋の煬帝は奢侈自ら賢とし、身、匹夫に死す。笑ふ可しと為すに足る、と。
魏徴対へて曰く、臣聞く、魯の哀公、孔子に謂ひて曰く、人好く忘るる者有り、宅を移して乃ち其の妻を忘る、と。孔子曰く、又、好く忘るること此れよりも甚だしき者有り。丘、桀紂の君を見るに、乃ち其の身を忘れたり、と。太宗曰く、朕、公等と既に人を笑ふことを知る。今、共に、相匡輔し、庶くは人の笑ひを免れん、と。