智の館2
政体 第12章


司馬徽
上の好むものは下も従う


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

魏徴
太宗の兄に仕えて太宗暗殺を計画し積極的にこれを勧めた。しかし、これに失敗。逆に太宗に捕らえられた。
その見識の高さと剛直さを太宗に認められ大臣に抜擢された。その後も太宗を恐れることはなく諌言を繰り返し、太宗の治世を支え続けた。
魏徴が亡くなった時、太宗は「自らの過ちを正す貴重な鏡を失った」と嘆いた。




司馬徽
貞観八年。太宗は群臣たちに語った。

太宗
政治を行う要点はその根本になるところを完全にすることだ。もし、中国が乱れていたら遠い異民族が服従してきたところで何の益もない。
中国が安らかに治まり四方の国境が静かに平穏になさしめたのは全てそなた達が忠誠を尽くし多くの功績を挙げたからだ。
私は本当に喜んでいる。しかし、安らかな時に危ういこ事を忘れずに恐れて用心しなければならないぞ。
御意。
大臣

太宗
隋の煬帝が帝位を継いだ時、天下は極めて隆盛であった。ところが、徳を捨ててむやみに武力を用いて国家の転覆を招いた。
突厥の頡利可汗も最近まで強大であった。しかし、慢心を起こして得意になり兵乱が起こってその地位を失い、今は私の臣下になっている。
私は尭舜禹湯のような聖天子の徳を受け継ぐことはできないが、これらの者が滅亡する有様を私自身の目で見てきたのだ。どうして恐れ慎まないで居られようか。
そなたたちは私をよく補佐をしてくれ、建国の功績をたててくれた。これからはその身を慎んでその地位を守り長生きすべきである。そして、皆が努力しなければならない。
もし、政治上でよくないことがあった時は明言すべきである。君主と臣下が心を同じくしたならばどうして治まらないことがあるだろうか。
陛下は良い政治を広めて天下を安らかにしました。しかしながら、たぐいまれなるめでたい世を見ながら、いよいよ危険を恐れる心をひたすら持っておられます。古来から非常なる慎みはこれ以上のものがございません。
孟子に『上の好むところは、下の者は必ずこれに従う』とあります。
陛下の立派な発言によって臣下たちを激励なされたことは、意気地のない男を節義に奮い立たせるものがございます。

魏徴




司馬徽
太宗は過去の失敗例を教訓にして平和な世が実現しても用心したのじゃ。
魏徴の言葉に出てくる孟子の言葉もよく引用されるのう。臣下の出来不出来は君主の出来不出来でもあるわけじゃ。
うむ。
わかったぞ。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ
わしが斬首を好むのもまずいかも知れぬ・・・・。臣下がみな斬首斬首と騒ぐような世の中はよくないからのう・・・・。
飛覇帥

鏡秋雪
もう手遅れでザンシュ(斬首)・・・。
なんじゃと、貴様。
飛覇帥

鏡秋雪
もう、みんな、斬首に慣れているザンシュ(斬首)。
斬首、斬首言うな!
飛覇帥

鏡秋雪
そう、ザンシュ(斬首)か?
えーい。貴様など斬首っ!
飛覇帥

鏡秋雪
へへーん。
所詮は蛮族ですなあ
むむむ。
飛覇帥






原文
第十二章
貞観八年、太宗、群臣に謂ひて曰く、理を為すの要は、努めて其の本を全うす。若し中国静かならざれば、遠夷至ると雖も、亦何の益あらん。朕、公等と共に天下を理め、中夏をして乂安に四方をして静粛ならしめしは、竝びに公等咸忠誠を尽くし、共に庶績を康んずるの致す所に由るのみ。朕、実に之を喜ぶ。然れども安くして危きを忘れず、亦兼ねて以て懼る。
朕、隋の煬帝の纂業の初を見るに、天下隆盛なり。徳を棄て兵を窮め、以て顛覆を取る。頡利近ごろ強大と為すに足る。志意既に盈ち、禍乱斯に及び、其の大業を喪ひ、朕に臣と為る。葉護可汗も亦太だ強盛なり。自ら富実を恃み、使を通じて婚を求め、道を失ひ過を怙み、以て破滅を致す。其の子既に立つや、便ち猜忌を肆にし、衆叛き親離れ、基を覆し嗣を絶つ。
朕、遠く尭舜禹湯の徳を纂ぐ能はざるも、此の輩を目賭すれば、何ぞ誡懼せざるを得んや。公等、朕を輔けて、功績已に成れり。唯だ当に慎んで以て之を守り、自ら長世を獲べし。竝びに宜しく勉力すべし。不是の事有らば、則ち須らく明言すべし。君臣心を同うせば、何ぞ理らざるを得んや、と。
侍中魏徴対へて曰く、陛下、至理を弘め、以て天下を安んじ、功已に成れり。然れども常に非常の慶を覩、弥々危きを慮るの心を切にす。古より至慎以て此に加ふる無し。臣聞く、上の好む所、下必ず之に従ふ、と。明詔の奨励、懦夫をして節を立たしむるに足る、と。