智の館2
政体 第5章


司馬徽
ひとりでは限界がある


登場人物紹介

太宗
唐の2代目皇帝。
2代目といってもぼんぼんではない。父の代わりとして中国各地を転戦し唐の中国統一の最大の功労者。
兄と弟が自分を殺害しようとしていたことを知ると先手を打ってこれを討ち、父親を幽閉して皇帝の座につく。
長い中国の歴史の中でも屈指の名君として必ずその名は挙げられ、その治世は『貞観の治』と呼ばれ後世の手本とされた。

南朝梁の昭明太子蕭統の曾孫、明帝の子。
唐の高祖に仕え、太宗の時代も朝政に参画した。
議論明晰であるが、他人の短所を容赦しなかったといわれている。




司馬徽
貞観四年。太宗は会議の席で蕭ウに尋ねた。

太宗
隋の文帝とはどのような君主であろうか?
私欲に打ち勝ち、礼に従い、よく勤労して政治を思い、ひとたび政務をはじめると日が傾くまで政治に打ち込みました。
また、五品以上の臣を座席近くに招いて事を論じました。
その性質は仁慈賢明ではございませんが、政務に勤め励んだ君主でございます。


太宗
ふむ。そなたは、その一を知って、二を知らぬのう。
むむ。
それはどういうことでしょうか?


太宗
隋の文帝は細かいことまでよく調べるけれどもその心は明るくない。心が暗ければ相手の心を照らし通じることができない。また、孤児と寡婦を欺いて天下を得たので群臣が心の中では服従していないのではないかと疑っていたために仕事を任せることをせずにすべて自分で決断したのだ。
だから、心を疲れさせ肉体を苦しめて努力しても、全てが道理に合うことができなかったのだ。
臣下たちもそんな文帝の心のうちを知っていたからあえて直言しようとせずに、ただ、文帝の命令に従順だったのだ。
なるほど。

太宗
私の考えは文帝とは違う。
広い天下のことであるから種々様々な事件に応じて変化して適応すべきだ。だから、多くの役人に任せて協議させ、宰相に対策を立てさせるべきである。
どうして、一日に万もある重要な政務をただ一人の考えで裁決することができるだろうか。さらに、一日に十の案件を裁決すればそのうち半分は理にかなわないものだろう。月日を重ね幾年にもなるとこの食い違い、誤りが多くなってしまうだろう。
これでは国が滅亡して当たり前だ。
だから、政務は広く賢良に任せて、私は賢良たちの働きを見守るほうが間違いが少ない。法令が厳粛ならば誰が非を唱えるだろうか。
なるほど。ご賢察恐れ入りました。
太宗は全員を見渡して言った。

太宗
みなの者、聞いて欲しい。
もし、私の命令でおかしな点があれば道理を守って意見を言って欲しい。
私の考えだからといって、そのまま命令を施行するようなことだけはしないで欲しいのだ。




司馬徽
隋の文帝は科挙制度などの優れた制度を採用した隋の初代の皇帝じゃ。
太宗は優れた人物であったが、自分一人でできる限界も分かっていたのじゃ。だから、優れた部下たちに仕事を任せて自分はそれを監督するようにしたのじゃ。
そして、勅命であっても理にかなわないものは直言するように求めている。なかなかできることではないのう。
うむ。なるほど。
確かにその通りじゃ。
そのためには仕事を任せられる部下を見出したり、育てなければならんな。それも重要な君主の仕事じゃな。

飛覇帥

司馬徽
よいぞ、よいぞ

鏡秋雪
では、もう一度、失語症になっちゃいましょう。そうすれば、天下泰平間違いなしです。
なぜじゃ!
飛覇帥

鏡秋雪
だって、蛮族なんですもの。
ば・ん・ぞ・く!
貴様あ!
今日という今日は許さん!
斬首っ!

飛覇帥

鏡秋雪
ぐええぇぇっ!
ぬははは!
討ち取ったリー!

飛覇帥

飛覇昌幸
父上は何をぶつぶつと一人で言っておられるのだろうか?

鏡秋雪
ふっ。決まった。
鳳凰幻魔拳!
(知ってる人いるんかいな)







原文
第五章
貞観四年、太宗、蕭ウに問ひて曰く、隋の文帝は何如なる主ぞや、と。対へて曰く、己に克ちて礼に復り、勤労して政を思ひ、一たび朝に坐する毎に、或は日の側くに至り、五品已上、坐に引きて事を論じ、宿衛の人をして、そんを伝へて食はしむるに至る。性、仁明に非ずと雖も、亦是れ励精の主なり、と。
上曰く、公は其の一を知りて、未だ其の二を知らず。此の人は性至察なれども心明かならず。夫れ心暗ければ則ち照すこと通ぜざる有り、至察なれば則ち多く物を疑ふ。又、孤兒寡婦を欺き、以て天下を得、恒に群臣の内に不服を懐かんことを恐れ、肯て百司を信任せず、事毎に皆自ら決断す。神を労し形を苦しむと雖も、未だ尽くは理に合すること能はず。朝臣其の意を知るも、亦、敢て直言せず。宰相以下、惟だ承順するのみ。
朕の意は則ち然らず。天下の広きを以てして、千端万緒、須く変通に合すべし。皆、百司に委ねて商量せしめ、宰相に籌画せしめ、事に於て穏便にして、方めて奏して行ふ可し。豈に一日万機を以て、独り一人の慮に断ずるを得んや。且つ日に十事を断ずれば、五條は中らざらん。中る者は信に善し。其れ中らざる者を如何せん。日を以て月に継ぎ、乃ち累年に至らば、乖謬既に多く、亡びずして何をか待たん。豈に広く賢良に任じ、高く居り深く視るに如かんや。法令厳粛ならば、誰か敢て非を為さん、と。因りて諸司に令し、若し詔勅頒下し、未だ穏便ならざる者有らば、必ず須く執奏すべし。旨に順ひて便即ち施行するを得ず、と。務めて臣下の意を尽くさしむ。