左利きとユニバーサルデザイン

Universal design for Left-Handers

2001.5.20 作成  2007.12.23 更新


左利き用の道具ページを作ったりしていると、よくユニバーサルデザインという考え方に遭遇します。
これは左利きに使いやすい道具を考える上で避けて通れないかも、ということで、ユニバーサルデザインについてまとめてみることにしました。



ユニバーサルデザイン(UD)とは?

簡単に言えば、「年齢や障害の有無などに関係なく、すべての人に使いやすいデザイン」です。
もちろん、左利きにとっても、です。
バリアフリーの考え方の次にくるものとして注目されています。

これは米・ノースカロライナ大学のロン・メイス氏が提唱したものです。関連サイトを挙げておきます。

・ノースカロライナ大学のユニバーサルデザインページ (英語)

ユニバーサルデザインの7原則 (清水茜さんの「バリアフリーからユニバーサルデザインへ」より)
ユニバーサル・デザインの原則 (「Educational Assistive Technologyの広場」より)
UDってなんだろう? (熊本県インパク・UDネットより)
「ユニバーサル・デザイン」について (岐阜県地域県民部のページより)

Yahoo!「ユニバーサルデザイン」カテゴリ

リンク先をひととおり読めば分かりますが、ユニバーサルデザインは特別仕様ではありません。
だから、左利き専用グッズによくあるように割高にもなりません。一部の人を救済するためのデザインではないのです。

どこかのページで、「すべての人に対応しようとすると結局どっちつかずになりはしないか」という意見を書いていたデザイナーさんがいたのですが、
「すべて」という言葉にはあまりこだわりすぎない方がいいのではないかと思います。
細かい気配りをすることによって、使う対象を少しでも広げる努力、と解釈すればいいと思います。
実際、「ここのスイッチがもう少し中央に寄っていれば左利きにも使いやすいのに」といった「ほんのもう少し」が足りない製品は、けっこうあるんです。



左利きにとっての利点は?

 一番感動的なのは、ロン・メイス氏が提唱した「ユニバーサルデザインの7原則」の中に、左利きについて明文化されていることです。
 原則2のガイドラインに書いてあるのですが、
 ユニバーサルデザインに興味を持った多くの人が読むであろう、この「7原則」に左利きの文字が入っている意義は大きいです。
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 原則2:利用における柔軟性

 幅広い人たちの好みや能力に有効であるようデザインする。
 ガイドライン:
 2a.使用する方法を選択できるよう多様性をもたせて供給する。
 2b.右利き、左利きのどちらでも利用できる。
 2c.利用者が操作した通り容易に確実な結果が得られる。
 2d.利用者のペースに応じることができる。
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今まで「人に優しい」とか「手になじむデザイン」などと言われていた道具が、左利きのことを全く考えていないということはよくありましたが、
これで少なくともユニバーサルデザインをちゃんと把握した人なら、左利きのことも格段に意識してくれることになります。
 
下は前出サイト「バリアフリーからユニバーサルデザインへ」内、ユニバーサルデザイン製品を紹介したページです。
キッチン用品:ポットとコップ
メーカーはユニバーサルデザインを謳っている商品なのですが、このサイト作者さんは、
「この製品は右利きしか使えないので左利き用も用意しておくべきだ」
と指摘しています。右利きのはずのサイト作者さんに左利きのことを考えてもらえたことに感動すると同時に、もしもこのかたと同じように、ユニバーサルデザインを学んだ人が左利きという観点で道具を見てくださるとしたら、ユニバーサルデザインの考え方が広まれば左利き環境はもっと改善されるはずだと思っています。



明文化の意義

左利きについて考えられていない道具が多いのは、左利きについて意識したことのない人が多いことが根本にあります。
それなら、普通の人が左利きを意識する機会を増やしてみたらどうだろう?と思っています。

たとえば、当サイトの左利きの有名人リストは、左利きのことなど考えたこともなかった人が、ただタレントさんの名前を検索していると偶然出てくるサイトです。
これは、「さあ左利きのサイトを探そう」と思って「左利き」の検索語でサーチするような、すでに左利きを意識している人向けのページとは別の効果があると信じています。
もちろん「なんだコレは?」で終わってしまう可能性も高いですが、ほかのページも見てくださっている人も多いようです。

そんなわけで、今まで意識したことのない人の目に触れることは重要だと思っているわけですが、先に書いた「7原則」の中の左利きについての記述も、
それと同じ意味で貴重な部分だと思っているわけです。
「幅広い人たちに有効なデザインを作りましょう」と漠然と言われて、それだけで「左利きのことも考えよう」と思ってくれる人がどれだけいるでしょうか?
ちゃんと条文に書いてあれば、その条文を読んでいくうちに、自動的に左利きのことも意識してくれるようになるわけです。

同じ意味で、左利きが右利きの人の目に触れる機会ももっと増えればいいと思っています。
左利きの俳優さんが、ドラマなどで右手を使わずに左利きのままでいてくれるときなど、とても嬉しかったりするのですが(ただ、右手を使うように言う監督もまだいるらしい)、Web上でも左利きを考える機会が少しでも増えてくれるといいなぁと思います。

左利きの中には「そっとしておいて欲しい、でも左利き環境が悪いのは許せない」という考えのかたもいるようですが、これは難しいかもしれません。テレビや雑誌に「左利き特集」などが出てくることは、今の段階では仕方のないことだと思うのです。人目に触れずに環境だけ改善してくれ、というのは虫が良すぎる感じです。けっして満足な出来ではないかもしれないマスコミの左利き特集に不満を言うだけでは解決しない気がします。マスコミの認識度は一般人の認識度の鏡だ、マスコミが分かっていなかったら一般人も分かっていない、と捉えるべきだと思います。

気がつかない人に意識してもらうには、やっぱり人目につくようにしなければ、と思うわけです。



気がつかない人たち

左利きの人からのの不満として、「どうしてこの不便さに気がついてくれないんだ」というものがあると思います。
また、「左利きは少数派の痛みが分かる」と思っている人も多いと思います。

でも、これは自分が不便だから不満を言えるだけで、必ずしも他人の不便を理解できるわけではないかも、と思い始めています。
左利きの不便さに気がつかない人が多くても当たり前だし、だからこそこちらからどんどん主張しなくては、と思うのです。

例えば、左利きの不便さについていろいろ書いているホームページを作っている人でも、思わず自分のページに

このホームページは IE5.0で動作確認しています。
ネットスケープで不具合が出るときは、IEを使ってください。

 というメッセージを書いてしまっている人もいるはずですが、これは、

この道具の使い勝手は右手でチェックしています。
左手で使いにくいときは、右手を使ってください。

こんなことを書いてある道具と同じくらい乱暴なことのはずなのに、なかなか気がつきません。
無料のネットスケープをインストールして動作確認するだけの手間も、なかなかかけようとしません。
少数派の左利きなのに、少数派のネットスケープユーザーの気持ちまでは分からないわけです。


また、障害を持った人がホームページにアクセスしやすくするための配慮がいろいろあって、
その配慮がちゃんとされているか調べることもできたりします。これに配慮できないことも多いはずです。

例えばIBMのサイトでは、視覚障害者がホームページを読めるようにするためのガイドラインを作っていて、
・画像リンクにはコメントをつけよう
・タイトル情報をつけよう
などといったことが書いてあります。
「i-Checker」では、特定のWebページがそのガイドラインに合っているかチェックすることができます。
IBM>バリアフリーの扉i-Checkerへようこそ・アクセシビリティー

また、同じIBMのHP製作ソフト「ホームページ・ビルダー」(私も使っています)にも、そのアクセシビリティーをチェックする機能がついています。
 アクセシビリティ・チェック画面

でも、ここに書いてあるガイドラインに合った、視覚障害者に優しいページを作っている左利きは、まだまだ少ないはずです。
そういう僕のサイトも、すべてのページがこのガイドラインを満たしているとは言えません。
それから、前出「i-Checker」のページでオフラインチェックに使うソフト「Personal i-Checker」は、何とネットスケープ上でしか動きません。バリアを作らないためのサイトがバリアを作ってしまっているわけです。現実は厳しい気がします。


ただ、中には「気がつく人たち」もいらっしゃるようで、
使いやすさ研究所という、身近な道具などの使い勝手などについてレポートしているサイトでは、
「左手で処理できる自動改札があってもいいと感じた」という指摘をしています。(ICカード方式の自動改札「Suica」に期待しています。おまけのページをどうぞ)
でも、こんな普段から使い勝手について考え続けている人と同じことを一般人に求めるのは、きっと無理だと思います。

やっぱり、不便な人がそれぞれ不便だと声を上げるしかないんじゃないでしょうか。「主張しないけど分かってくれ」ではきっとだめです。



ちょっとだけ心配なこと

ユニバーサルデザインの考え方はどんどん普及しているようなので、これから宣伝などにも使われる機会が増えるかもしれません。
そのときに心配なのは、最初の原則とは違うものとして普及してしまうことです。
商業イメージ、広告イメージとしての「なんちゃってエコロジー」のような、イメージ商法の一環として、何となく使われてしまって、左利きのことなど何も考えていない商品なのに「我が社はヒトに優しいユニバーサルデザインな製品を作っています」と言い出すことです。

ただ、その空洞化の歯止めになりそうなのが例の7原則に明文化された左利きの部分です。これを提示して「貴社の製品はユニバーサルじゃない」と言うことができます。
その意味でも、ちゃんと左利きを条文にしてくれたロン・メイス氏には感謝です。



嬉しかったこと&残念だったこと

・「左手でも全く問題なく使える」と言い切る、カシオ・リストカメラの技術者。 そのレポート(netBRAIN)
 カシオは左リューズのG-SHOCKやリューズレスの電波腕時計など、左利きに嬉しい製品がけっこうあります。

・左利きにとって使いにくくなってしまった、Palmの新機種。 そのレポート(zdnet)
・こちらはちゃんと左右両用になっている旧Palmの紹介。 そのレポート(MYCOM PC WEB)
 「左利きに優しい」と評判のメーカーでも足元をすくわれたりするという例。

・「このソニー製品のデザインは左利きに使いにくい」と言っているサイト。 そのページ
・別のソニー製品開発者のインタビュー。 「それでは左利きの人が困りますし」
・バイオノート(今まで本体右にジョグダイヤルがついていた)にセンタージョグの新機種(PCG-R505R)登場。ソニー・デザインに一条の光。
※後発の「バイオノートGR」(PCG-GR9/K)もセンタージョグでした。定着してくれるかもしれません。(2001.7)
   VAIOのセンタージョグ  左利き対応製品については「左利き用品(左利き用グッズ)情報リンク」もどうぞ。

「××のメーカーは左利きに対応していない」というような、メーカーをひとくくりにした言い方をすることがありますが、
実際はほとんどのメーカーで、操作性の良いデザインの製品を作るための統一されたガイドラインなど存在しないんじゃないかと思います。
たぶん各デザイナーの自覚に任されているはずで、ひとつのメーカーでも製品ごとに操作性の良し悪しがあったり、後発製品が旧製品の良さを引き継がなかったりもします。
これも「ユニバーサルデザインの7原則」のように各社で明文化された指針があれば、恒常的に優れた製品が生み出されるはずです。検討してほしいものだと思います。

富士フイルムの使い捨てカメラ「写ルンです」に、ユニバーサルデザインをうたっている製品があります。
「写ルンです エクセレント Flash27」という製品(2001.12 発表)なのですが、見たところ左手対応ではないようです。 富士フイルムの製品ニュース
ほかのユニバーサルデザイン的要素はまじめに考えられているようなので、「なんちゃってユニバーサル」というわけではないと思うのですが、ちょっと残念です。
ただ、この手の銀塩カメラで左右共用デザインにするのは難しいはずで(実現すれば実用新案くらい取れるかもしれない)、富士フイルムにはデザイン上の制約が少ないデジカメ製品で、ぜひ左右共用の真のユニバーサル製品を実現してほしいと思います。(2002.1)
左利き用デジタルカメラ

Silvi F2.8 その富士フイルムから、ボディの左右にシャッターのついたコンパクトカメラ(35mm銀塩カメラ)が発売されました。
 「シルヴィ」シリーズ、Silvi F2.8です。2002.10発表のようです。(発見が遅れました) 製品紹介ページ
 ユニバーサルデザインという売り文句は見えませんが、「右手でも左手でも使いやすい」という表記があります。
 このような製品を心待ちにしていた人もいらっしゃると思います。ツインシャッターの製品は、長くラインナップしていただきたいと思います。(2003.3)


CSP3-GR 三菱レイヨンの家庭用浄水器、ゼロニクリンスイ CSP3-GR は、給水レバーが左右について、どちらの手でも使いやすいようになっています。 製品紹介ページ
 ホームページ上の製品紹介でもユニバーサルデザインや左右どちらの手でも使えることが書いてありますが、左利き対応をアピールした新聞の全面広告も出ました。 新聞広告の画像
 ユニバーサルデザインの浄水器自体、初めてのことだそうですが、これだけ左利きが大きく扱われた広告も初めて拝見しました。快挙と言っていいと思います。(2003.4)


左利き用品情報:ユニバーサルデザイン系というページも作りました。



おまけ&質問・「人間工学はダメなのか?」

「人間工学に基づいたデザイン」を謳っている道具が左利きにとって全然使いやすくない右利き専用製品であることは多いです。
旧マイクロソフトマウスが有名ですが、最近のマウスやトラックボール、ほかの道具にもまだ多いです。

それでは、人間工学(エルゴノミクス)はダメなんでしょうか?学問として欠陥があるんでしょうか?
それとも、本来のエコロジーとはかけ離れた、広告イメージとしての「なんちゃってエコロジー」のように、道具メーカーが右手専用の妙なデザインの道具をただ「エルゴノミクスでーす」と言っているだけなんでしょうか。

Yahoo!「人間工学」カテゴリ
日本人間工学会


「人間工学に基づいた」と謳っている製品にろくなものがないという印象は、下のような製品の影響です。

PLUS製のカッターナイフです。
右手になじみ、右利きに使いやすい完全右利き用デザインです。刃を裏返しに入れることさえ許さない構造になっています。
なお、左利き用・左右共用カッターナイフについては、左利き用カッターナイフのページに紹介を書きました。設計上のアプローチが全然違うのが分かると思います。

※ただ、PLUSは左利き用のハサミを作ってくれているメーカーです。メーカーをひとくくりにして左利き対応を語れないのが分かります。

PLUS1 PLUS2 PLUS3


左利きのビル・ゲイツが会長をやっている、マイクロソフトのトラックボール(トラックボール エクスプローラ)です。
こちらも完全右利き仕様です。ゲイツは自社製品を使えるんでしょうか。
左利き対応トラックボールについては、左利き用マウス・トラックボールのページをご覧ください。

トラックボール エクスプローラ1

トラックボール エクスプローラ2



●人間工学でも左利きについて考えてくれている?

関西大学の教授が作っているサイト、人間工学の講義内容について書かれているページに、「左利きのためのデザイン」という見出しが見つかりました。
詳しい講義内容については分かりませんが、かなり興味があります。

関西大学 社会学部、産業心理学専攻、雨宮俊彦教授のカリキュラム概要を書いたページ、人間工学の講義内容の部分に書いてありました。(2002.1 確認)
これはこの大学だけの特別な内容なのでしょうか?もし「よくある講義内容」だとしたら、それが工業製品に反映されず、「人間工学はダメだ」と言われてしまうのはなぜでしょう。

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