本研究はSTRESS研究(Study of Treatments as Real Effectiveness for Stress related Syndromes )の一部として行われる。ストレス関連障害を診療している精神科・心療内科外来クリニックを対象に患者の調査を行う。さらに,医師への介入と認知行動療法パッケージの開発を行う。従来行われてきた通常の治療を新規抗うつ薬や認知行動療法に置き換えることによって,どの程度の利益が得られるかを調べることを目的とする。
対象:2006年5月〜12月の期間に研究に参加する心療内科,精神科外来クリニックを受診する外来患者。
上記の期間のうち2ヶ月間を選び,対象とする。このうち最初の1ヶ月間は,評価のみを行なう。後半の1ヶ月間は治療介入群を設ける。それぞれの群の間の1,6,12ヶ月後の治療転帰を比較する。
評価:診断名,MINIによるDSM-IV診断,ベックうつ病尺度(BDI),SF36,FQ(Fear Questionnaire),PDSS(Panic Disorder Severity Scale),HAM-A (Hamilton Anxiety Scale),面接による全般的重症度(CGI),治療に対する患者満足度評価,治療期間における受診回数,Brockington尺度
研究に協力する精神科・心療内科外来クリニック。評価やデータの解析は独立行政法人国立病院機構菊池病院にて行う。
研究の目的と概要のインフォームドコンセントを行い、同意が得られた患者を対象とする。なお,本調査は新しく割り付ける調査IDのみを用いるため,調査事務局に集約される調査票は匿名化されている。
研究などによって生じる個人への利益及び不利益ならびに危険性:
通常の治療行為の中で行われる。認知行動療法による重大な有害事象は報告されていない。調査,評価用紙の負担は一回30分程度である。調査の結果については、個人の情報が絶対に外部に漏洩したり,不適切に使用されたりしないように万全の体制を整える。
これらによって,ストレス関連障害に対する医療の質の改善と効率化が得られる。
SQIP(Stress related disorder treatment Quality Improvement Program プライマリメンタルヘルスケアにおけるストレス関連障害のケアの質の改善
研究の概要
パニック障害などのストレス関連障害は有病率が高く,“Common mental disorder”(一般によく見られる精神障害)と呼ぶことができる。一般には外来治療が可能な軽症精神障害であるが,有病率が多いこと,慢性に経過すること,身体疾患を含む他の疾患との合併が多く,合併することによって他の疾患の転帰を悪化させ,受診頻度の増加とそれに伴う医療資源の多用につながることが知られている。これらの疾患に対する効果的かつ効率的な治療法を開発し,普及させることが求められている。
この研究では,#1ストレス関連障害に関する治療実態の調査,#2 ストレス関連障害に対する効果的かつ効率的な治療法の開発,を行う。#1については,研究に参加する医療機関を対象に診療記録を調査する。#2については,ストレス関連障害についての知識と医学知識を併せ持ち,認知行動療法を行うことのできる治療者,治療指導者を育成し,プライマリケア,プライマリメンタルヘルスケアの現場に配置する。これらの疾患の患者の治療アウトカムの改善と受診頻度の減少を得ることができるかどかを検証することが,この研究の目的である。
研究の目的
パニック障害のようなストレス関連障害は有病率の高いこと,日常生活に与える影響の大きいこと,また慢性化することが多いことから,生産性に対する影響・医療費に与える影響は大きい。またパニック障害のような身体症状が前面に現れる精神疾患をもつ患者は身体疾患を心配するためにあちこちの医療機関を受診し,結果的に無駄な医療費が使われることになることが知られている(Roy-Byrne, Russo, Cowley, & Katon, 2003)。日本では国民医療費が高騰してきている(厚生労働省, 2005)。40代以下の年代層については,外来精神医療を受診する患者が増えている。過去20年間の精神および行動症の障害に関する通院医療費の増加は顕著である(伊藤弘人 2002)。
この一方でこれらの疾患に対する医療機関毎,医師毎の治療内容のばらつきは著しい。その一例にスルピリドの処方を挙げることができる。菊池病院の2003年の新患統計(大人,うつ,神経症のみ)において,使われた処方を調査した。19人の医師のうち,Sulpirideを出したのは6人であった。そのうち3人の医師は患者のうち半数に処方していた。熊本市内Aクリニックにおいてストレス関連障害と判断される外来患者に対する処方を調べた。全体の7割の処方がスリピリドの50mg程度を含んでいた。文献調査を行なっても,「私の処方 Sulpirideの不思議」(山田 2005)のようにスルピリドを速効性のある万能薬として賞賛するものがある一方,エビデンスがない,他の抗うつ薬よりも効果が落ちるとして使用を戒めるものもあった(金野 2002)。
これらのデータをまとめると,パニック障害のようなストレス関連障害をもつ多数の患者に対する安くて適切な治療が必要とされることになる。言い換えれば,これからの課題は,高度かつ高価な医療技術を開発することではなく,医療技術をどう配分し,その費用をどう負担するかを検討することである。これから必要な医療技術は治療効果が優れているだけでなく,医療費全体や社会が負担するコストを軽減することができるものである必要がある。
米国ではプライマリケアの段階で適切な行動保健サービスを専門にトレーニングをうけた心理士等が提供することによって全体にかかる医療費を削減することができることが証明されている(O'Donohue, Ferguson, & Cummings, 2002)。この現象をコストオフセットと呼び,どのような場合にこのような費用対効果の優れた医療が提供できるかについて検討が行われている。この結論は,次のようにまとめることができる。1)精神疾患は精神科専門医に,というような水平分業式の治療提供構造をとると,全体の医療費が増える。2)一部の患者が多くの医療費を使う, 3)身体疾患に精神疾患が合併すると医療費を多く使う,4)一カ所の医療機関において,医師と行動医学のトレーニングをうけた行動療法士がチームをつくって治療を行なうこと(垂直分業)によって医療費の削減と治療アウトカムの改善,患者満足度の向上,また医師の診療効率の向上をはかることができる。この最後のような垂直分業の方法を,“統合的な行動医学”(Integrated Behavioral Healthcare)と呼び,米国において実績を上げている (O’Donohue 2001)。
この研究は“統合的な行動医学”のモデルに従った治療を行なうことによって,日本においても有病率や受診率が高いストレス関連障害に対して治療アウトカムの面でもコストの面でも適切な医療を提供できるかどうかを評価することを目的とする。
方法
実際の行動医学の訓練に必要な資料の提供を受け,その一部を日本語に翻訳した。ストレス関連障害を診療している精神科・心療内科外来クリニックを対象に患者の調査を行い,さらに,医師への介入と訓練された治療者の派遣を行う。従来行われてきた通常の治療を新規抗うつ薬や認知行動療法に置き換えることによって,どの程度の利益が得られるかを調べる。評価は次の点について行われる。1)症状の改善が得られる程度,2)長期的な生活の質の改善,2)医療費全体と患者の負担,についての三項目である。
対象
2006年5月〜12月の期間に研究に参加する心療内科,精神科外来クリニックを受診する外来患者。個別の施設について,上記の期間のうち2ヶ月間を選び,対象とする。このうち最初の1ヶ月間は,評価のみを行なう。後半の1ヶ月間は治療介入群を設ける。それぞれの群の間の1,6,12ヶ月後の治療転帰を比較する。
包含基準
主訴が自覚的な不安,うつなどであり,自発的に外来に受診し,継続的な治療を求めている。
年齢が20歳以上,65歳未満である。
外来精神科クリニック受診が継続可能である。
同意説明文書を理解し,自記式質問紙への記入が可能である。
除外基準
重篤な身体疾患を合併がある。
入院治療や行動制限が必要になるような,精神や行動の障害または状態がある。
統合失調症,双極性障害I型,認知症,重篤なDSM-IVによるII軸診断(発達障害や反社会性人格障害など)の合併あるいは既往がある。
健康診断や診断書が目的であり,治療の継続を求めていない患者。
方法
評価
訓練された心理士等が研究参加施設において行う。
治療開始時
レセプト上の診断名
MINIによるDSM-IV診断
ベックうつ病尺度(BDI)
SF36
FQ(Fear Questionnaire)
PDSS(Panic Disorder Severity Scale)
HAM-A (Hamilton Anxiety Scale)
面接による全般的重症度(CGI)
治療後1,6,12ヶ月後
診断(変更がある場合)
ベックうつ病尺度
SF36
FQ(Fear Questionnaire)
PDSS(Panic Disorder Severity Scale)
HAM-A
面接による全般的重症度(CGI)
7段階評価 著明改善 中等度改善 軽度改善 不変 やや悪化 悪化 重篤に悪化
治療に対する患者満足度評価
5段階評価 治療について 大いに満足 満足 普通 不満 大いに不満
治療期間における受診回数
Brockington尺度
1 完全寛解(回復),無症状
2 寛解,わずかな症状
3 1回の再発後完全寛解
4 2回以上の再発あるも完全寛解
5 1回以上の再発があり,途中にもわずかな症状
6 原病からの不完全寛解
7 不完全寛解でさらに疾病挿話が出現
8 原病から不変
9 原病から増悪
10 不明
処方内容
介入方法
2ヶ月の期間の間に訓練された心理士等による認知行動療法を行う。評価を行なう心理士等とは別の人間が行ない,評価を行なうものは,治療内容についてブラインド状態にであるようにする。
介入は医師の指示のもとに1回1〜3時間,2〜3回を行う。
統計解析
CGIを主要エンドポイントとして,治療介入群と介入を行なわなかった群との間で比較する。疾患毎に,パニック障害はPDSS,恐怖症はFQ,全般性不安障害はHAM-A,うつ病性障害はベックうつ病尺度をもちいる。さらに,治療に対する患者満足度評価,治療期間における受診回数,処方などの医療費,Brockington尺度を副次エンドポイントとして比較する。
研究組織など
研究者
研究責任者 原井宏明(独立行政法人国立病院機構菊池病院臨床研究部長)
研究協力者
橋本加代(熊本大学医学部こころの診療部医師)
岡嶋美代(独立行政法人国立病院機構菊池病院臨床研究部 心理療法士)
尾澤敬一郎(独立行政法人国立病院機構菊池病院治験管理室 心理療法士)
研究費用
平成18年度厚生労働科学研究費補助金による“こころの健康科学 研究事業”,研究課題名(課題番号):「パニック障害の治療法の最適化と治療ガイドラインの策定 (H16−こころ−007)」(主任研究者 熊野宏昭 分担研究者 原井宏明)から研究費の一部がまかなわれる。
研究データの保存
研究者は研究の終了から5年が経過した日まで以下の記録を保存する。
1. 研究実施計画書,報告書,同意書など
2. 医療機関の長より通知された審査委員会の意見等
3. モニタリング、監査、その他研究の実施及び管理に係わる業務の記録
研究期間
2006年 5 月 〜2007年 12月
本試験を実施するにあたり遵守する法、規則及び基準
本研究は以下の法、規則及び基準等を遵守して実施する。
「ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則」「本研究実施計画書」
文献
O’Donoheu, W. T., Integrated behavioral healthcare: Positioning mental health practice with medical/surgical practice. (2001). In N. A. Cummings, W. O'Donohue, S. C. Hayes & V. Follette (Eds.) (pp. xvi, 347). San Diego, CA, US: Academic Press.
Katon, W. J., Roy-Byrne, P., Russo, J., & Cowley, D. (2002). Cost-effectiveness and cost offset of a collaborative care intervention for primary care patients with panic disorder. Arch Gen Psychiatry, 59(12), 1098-1104.
O'Donohue, W. T., Ferguson, K. E., & Cummings, N. A. (2002). Introduction: Reflections on the medical cost offset effect. In N. A. Cummings, W. T. O'Donohue & K. E. Ferguson (Eds.), The impact of medical cost offset on practice and research: Making it work for you: A report of the First Reno Conference On Medical Cost Offset. (pp. 11-25). Reno, NV, US: Context Press.
Roy-Byrne, P. P., Russo, J., Cowley, D. S., & Katon, W. J. (2003). Panic disorder in public sector primary care: clinical characteristics and illness severity compared with "mainstream" primary care panic disorder. Depress Anxiety, 17(2), 51-57.
厚生労働省. (2005). 厚生労働省病院報告平成14年版. 東京.
金野滋, 南海昌博. (2002). 日本におけるsulpiride臨床使用の実態調査. 精神科治療学. 17,7 , 905-913
植岡健一.(2006). 米国医療:3つの新潮流. 日経メディカル, 459, 51-57.
伊藤弘人. (2002). 精神科医療のストラテジー東京: 医学書院
山田和夫. (2005). 私の処方 Sulpirideの不思議, 最新精神医学 10, 1, 89-90
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別紙
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