新しい生活   

はーちゃんが生まれ、育ったこの家から移る事が決まった。

以前から、金利が安いうちに住宅購入を話し合っていたのだが
突然、良い物件が見つかり購入が決まった。
中古ではあるが閑静な住宅街の真ん中で、環境は大変良い所である。
今まで住んでいたこの街も文教地区で、駅も近く大変便利な場所であった。
しかし、夜中になると爆音を響かせて走る少年少女のご一行様が
夜な夜な走り回る大通りに面していた為、暮らし始めた当初ストレスで
私のこめかみ辺りには、かなりの白髪が出て不眠と偏頭痛、胃痛に悩まされていた。
が、今度引っ越す所はそういった方々がお通りになる事は無い所だ。

今まで住んでいたこの場所はその当時、旦那は仕事が忙しく新居を探す時間が無かった為、
はーちゃんママの母と、はーちゃんママになるずっと前の私が二人で探した
思い出もある。
この場所から我がファミリーの歴史が始まった。
呑気な彼と、短気な私が「なんちゃって夫婦」になり、母が倒れ心身ともに
大変な時期を過ごし、新しい命が芽生えた。
これまた大変な時期を過ごし、はーちゃんが生まれ、こうして元気に新しい歴史を
作っている。
新しい場所で、新しい「はーちゃんファミリーの歴史」を作る為に引越しをするのだ。
引越し当日、次々に片づけられて行く荷物を不思議そうに見つめていたはーちゃん。
途中、託児所に預けてしまったので、何が何だか判らない内に
新しい家に連れてこられた。
この新居は、中古物件だった為に舅があちこち手を加えてくれた。
途中の工事の様子を知っているはーちゃんは、ここは「じいじのお家」と思い込んでいる。
いつ行っても、じいじとばばが居るのだから、はーちゃんがそう思うのも無理はない。
車から降ろすと門の前にあるインターホンを押し
「じーじー きたよー」と、声をかけていた。
何とも複雑だった。玄関を開けると、ダンボールだらけの部屋。
「じ〜じ〜」と叫ぶがいつもの様に返事はない。
見慣れない室内、違う匂いに戸惑いを隠せないはーちゃんは、ウロウロと落ち着かない。
寝室へ行くが、いつもあるベッドが何故ここにあるのかが理解できないはーちゃんは
その日から数日間、寝付きの悪い子になってしまった。


引越しの荷物が一段落片付き、見慣れた家具やオモチャを見て少し落ち着いたようだが
今までのお家を最後にお掃除に行った時、何も無い部屋を見て驚いていた。
一個所ずつ、見慣れた物を探すように1階にあるお手洗い、押し入れ、台所
いつも過ごした部屋をゆっくりと見ていた。
それは、2歳のはーちゃんの脳みそが何かを感じて
色々な事を思い起こしているかのようにも見えた。

いつものおふろのお友達もすっかり無くなっているお風呂場を指差し
「まま、ちゃっぷちゃっぷ おふろ・・・」と
私に話し掛けてくるはーちゃんを見た時
何とも言い表せない気持ちになってしまった私。
そして突然、何かを思い付いたように
「まま、にかい〜 ぷっちぷっち(子どもチャレンジの付録のビデオ)みおうよ」
(訳:ママ、2階でぷちのビデオ見ようよ)
と、二階を指差し上がって行くはーちゃん。
勿論、2階には何一つ残っていない。
ガランとした部屋を見て、慌てて隣の寝室だった部屋の襖を開けた。
「まま・・・ねんね ないね・・・」(ママ ねんねの場所 無いね)
この言葉に私は不覚にも泣いてしまった。
見た事、思った事をストレートに私に伝えたのかもしれない。
でも、きっとはーちゃんもこの部屋を見て淋しかったのだろう。
あの時の声と表情は、忘れられない。

この子の記憶の中には、この家で過ごした時期の事は何一つ残らないと思う。
きっと残っていない。
でも、私はここで過ごした3年間の事は忘れないでいようと思っている。
そして、新しい場所での新しい生活に、多いに期待している。