1歳6ヶ月検診

 私が言うのもナンだが、はーちゃんは割と運動神経は良さそうだ。
近所の公園に連れて行っても、お兄ちゃんや、お姉ちゃんの後を追いかけ
滑り台に登ったり、シーソーに乗ろうとしたりと、なかなか活発だ。
しかし、
ちょっと言葉が足らないような気がしていた。
 史上最強の友、さんちゃんの娘、明日香ちゃんは、随分前から歌を歌っていた。
はーちゃんはそれを聞いて、踊っている。役割分担がはっきりしていると言えばそうなのだが

そんな事も言っていられない。

 一応、ある学習教材を毎月取っているのだが、一緒に見て考えたりといったような事は一切せず
教材の中のビデオが
忙しい時の子守り代わり状態なので、決してよい使い方はしていない。
英語の教室にも通っているのだが、お歌の振りだけはしっかりマスターしたのだが、一言も
言葉を発する事は無い。
う〜ん…これは、非常〜にマズイ状態ではないのか…?
気になりだした頃、家庭用幼児教育教材の訪問販売のおばちゃん(失礼!)がやってきた。
その、おばちゃんが言うには

はーちゃん、このままでは可哀想!! 
脳の発達をパパとママが邪魔している!!
この調子だと1歳6ヶ月検診に引っかかることは間違いないですよ。
どうするつもりですか?!

と、来たのだ。
そんな事を言われると焦る反面、
「なに〜ぃ?間違いないだぁ〜?」と、熱い闘志がふつふつと
沸き上がってきてしまう。
 
気になりながらも、はーちゃんは生後1歳6ヶ月を迎えた。
ある日の事である。
いつも、車の中では童謡を聞いているのだが、大抵チャイルドシートでお座りしながら
踊っているのだが、その日は違っていたのだ。な、なんと、
CDに合わせて歌っていたのだ。 
語尾だけであったが、ちゃんと歌っていた。

♪ 
ぞ〜ぞ ぞ〜ぞ ♪(←ぞうさんの歌)
♪ 
どぉ〜ん どぉ〜ん♪(←太鼓の歌)

おぉっ!! すごいぞ!はーちゃん!!と、運転しながら大興奮してしまった。
その辺りから、急激に言葉数が増えてきたため、私は安心していた。
本当は、少し憂鬱だった1歳6ヶ月検診もどっからでも繋ってきなさ〜い!!の心境だった。

そして、2月22日。
地区の保健所へ、さんちゃん親子と共に出掛けた。
私たちは、保健所での検診や予防接種の時は、受付時間の1時間半前には到着している。
気合の入れ方が違うのだ〜(謎)
保健所の側のおにぎり屋さんで、おにぎりとお茶を買いそこで子供と共に食べて時間まで待つというパターンだ。
受付を済まし、問診を受けるコーナーへ呼ばれた。
狛犬がビックリしたような顔の保健婦さんに、赤い小さな積み木を5個渡され
「さあ、積めるかな〜?」と聞かれた。3つまでは上手に積めたのだが4個目で崩れてしまい
はーちゃんの評価は 積み木3個だった。
次は、6個の絵が書いてあるシートを見せられ
「わんわんどれかな〜?」と、狛犬が言っている。
はーちゃんは、先程の赤い積み木がどうしても気になっているようで、それを触わっていた。
するとその狛犬が、はーちゃんの手から積み木を取り上げ、シートを目の前に突きつけ

「犬はどれ? 車はどれ? 電車は?!」

と、明らかにムッとした口調で、1歳6ヶ月の子供に言っている。
はーちゃんは、積み木を取り上げられた事で機嫌を悪くしたのか、何を言われても無視している。
「わからない? じゃあ、これは何? 靴はどれか判る?!」と、狛犬は強い口調で言っている。
普段は、
穏やかで、心やさしく、ちょっと内気な私だが、可愛い我が子は何も悪い事をしていないのに
そんな言い方をされて黙っている私ではない。

「あら〜、はーちゃん こんな変な絵では判らないよね〜
家は、そんな訳の判らない変な絵は見せていません。
いつも、写真の図鑑を見せているので
こんなのでは、判らないと思いますけど」


びっくり顔の狛犬の顔は、更にびっくりしたような顔で私を見た。
問診表を見ながら、生まれた時の事や、最近の様子などを簡単に聞かれている間に
はーちゃんは、赤い積み木を5個積み上げ、機嫌も直ったようで、絵を見ながら
「わんわぁ〜(犬の事) くっくぅ〜(靴)」と、指差しをはじめた。
その中に、電車の絵があったのだが、はーちゃんは電車を見た事がないはずなのだが
「電車はどれ?」と聞かれると、「これぇ〜」と指を差した。
おぉ!すごいじゃん!! と、思いながらも何故、電車を知っているのかが不思議だった。
1歳6ヶ月検診は、歯科検診がある。
はーちゃんは、歯磨きが大好きで、朝起きてからと、毎食後と寝る前は歯ブラシをしている。
善い習慣なのだが、その都度私は歌を歌わなければいけない。
N●K教育の夕方の番組で、子供が歯磨きをするコーナーがあるのだが、その歌だ。
 は・み・が・き じょ〜ずかな?♪と、1日に何度も歌うのだ。
これで、虫歯があったら私は辛いぞ…と、思いながら挑んだ。
ちょっと可哀想だが、押さえつけて口の中をチェックした。
「はい、いいですね」の、OKを頂いた。
内診を終え、最後の栄養指導で終わりのはずだが、私たち母子は別室へ呼ばれた。
さんちゃん母子はさっさと終わってしまい、明日香ちゃんは退屈であっちこっち探検し始めている。
別室に呼ばれるのは、積み木が積めなかった子や指差しが出来なかった子が呼ばれると聞いていた。
はーちゃんの積み木の評価は5個になっていたし、指差しもあんな変な絵なのにちゃんと出来た。
なのに、何故だ?

理由は… 
断乳が出来ていなかったから。

愛情が足りないから、いつまでも乳離れできないだとか、自立していない
だとか、いろいろ言ってきた。
私は、愕然とした。確かに私はあまり手をかけて育ててはいないが、目は充分にかけているつもりだ。
愛情も充分に注いできた。それなのに、今日始めて会った他人に、こんな事を言われたのだ。
ショックを受けながらも、一通りを終えて帰宅した。
家へ帰ると、はーちゃんは私の前にちょこんと座り、手を前に出して
「ちょうだい」の格好をして
「ちっち、ちっち」(乳、乳)と言っている。私は迷った。おっぱいを与えない事が愛情なのかなぁ…
「おっぱい、ナイナイだよ」と、言ったのだが「んもぉ〜ママったらぁ〜」と言っているような顔で
にっこり笑って
「ちょうだい」をしている。困った私は、嘘泣きをしてみた。顔を手で覆い、
大きな声で泣き声を出してみた。
すると、
「まま… まま、まま、ままぁ〜」と、心配そうな声で私に声を掛けてくる。
そして、私の頭を撫でるのだ。
ああ、ちゃんとやさしい子に育ってくれているなと、成長を感じたのと共に嬉しかった。
この子は、ちゃんといい子に育ってくれているし、
私流の育児に大きな間違いは無かったと確信した。
しかし、あのビックリ顔の狛犬は何を根拠にそんな事を言ったのかは、未だに謎である。