真説 世界の童話
「シンデレラ」
       

2000.7.16


 むかぁしむかしのことでした。
 とある国に、シンデレラという、それはそれは美しい男の子がおりました。
 シンデレラは、お父様と二人で幸せに暮らしておりましたが、そこは世の常人の常。お父様は男やもめに飽きがきて、新しいお母様を迎えることになったのでした。

「可愛い可愛いシンデレラや。いいかい、よくお聞き。今度、新しいお母様や二人のお兄様達ができて、おまえもうれしいだろう?
 ワシだって、とてもうれしたのしい毎日だ。だがしかし、家族が増えたおかげで家計は火の車になってしまった。だから、お父様はこれから出稼ぎに行って来るからね。
 お前ももう16歳だ。お母様達の言うことをよく聞いて、いい子で待っているんだよ」

 そうして、お父様は出かけてしまいました。
 残されたシンデレラは、天使のように綺麗な顔をした少年でした。
 目の上に落ちかかる金色の巻き毛に地中海の色をした瞳、ばら色で艶やかな唇と、すらりと伸びた肢体が美味しそうなシンデレラは、悲しそうな顔でしばらく戸口に立っていましたが、お父様の姿が見えなくなると、涙を拭いてお母様やお兄様達を振り向きました。


「さあて。うるさいジジイもいなくなったことだし、掃除でもすっか」

 シンデレラは、父子家庭が長かったせいで掃除洗濯はおろか、料理裁縫が趣味というすばらしい男の子に育っていたのでした。
 しかしそんなシンデレラにも、ちょっとした欠点がありました。


 さっそく頭にタオルを巻きつつ、父の後妻を振り返り、
「ちょっとアンタ。そこでボケっとしてないで洗濯でもしたらどうなんだよ? お綺麗な顔でジジイたらし込んだのはあっぱれだけどな。洗濯一つ出来ねーんじゃ、オトコ妾の名が泣くぜ」
 言いながらじろじろ見るものですから、継母はびくりとすくみあがり、おどおどした態度でシンデレラを見返します。
「ご、ごめんなさい……これでもいいお母さんになろうと私……」
「ごたくはいいからほらホウキ。ちゃっちゃとする! ……なんだよ! 四角い部屋を丸く掃いてどうすんだっ!」
「す、すいません。私、不器用で……」
「どうせ場末のゲイバーで色目使ってた類じゃねーのか?」
「そ、そんな……ひどい…」

 このように、シンデレラは見た目に似合わずものすごく口汚かったのです。

「か……母さんをいじめるなっ!」
 そこへ飛び出してきたのが継母の連れ子です。
 シンデレラよりも年上のはずですが、彼はヒヨヒヨとかよわそうな身体の美少年でした。
「ああ? なーんだ。兄その1かよ。おまえちょっと部屋汚ねーんじゃねーのか? ほれ、ダスキン貸してやるからきっちり掃除しろ。よくあんな部屋で生きてられんなぁ。そのうちチ○コにカビ生えてくんぞ」
「カ……カビ……って……ひどい……」
 年上だろうが美少年だろうが、シンデレラには関係ありません。
 ばっさり切って捨てるのです。

「に、兄さんをいじめるなぁっ!」
 するとそこへもう一人の連れ子が兄をかばうように腕を広げて立ちはだかりました。
「お。兄その2だな。またカーワイイ顔しちゃって。俺がお前を楽しく掃除してやろうか? ん? ウリウリウリっ!」
 小さなお尻に手を回し、そこをむぎゅうっと握ります。
「いやぁぁぁっ! 触んないでぇぇぇっ!」
「弟に何するんだ!」
「知りたいなら教えてやるよ。掃除の極意だ。ほ〜ら、身体で学べよ、兄その1」
「あっ……どこ触るんだよ……やめろ……って……あああん」
「子供達をからかうのはやめて下さい。や、やるなら私をやりなさい……っ」
「そう? んじゃ、遠慮なく」
「きゃ───っ! お母様っ!」

 シンデレラは、家事ばかりかいやがらせにも並々ならぬ才能があったのでした。


 そんなある日のことです。
 シンデレラのもとに魔法使いが現われたのです。
 どこからともなく現われた魔法使いは、黒いマントに身を包み、長い黒髪を後ろに垂らしてとんがった帽子をかぶっていました。
 そして闇夜のように黒い瞳をじっとシンデレラに注ぐと、薄くて形の良い唇を微笑ませ、おごそかに告げたのでした。

「私は大天使ラファエル様より遣わされた魔法使いです。あなたの望みをかなえてあげましょう。さあ、遠慮せず望みを言いなさい」
「金」
 シンデレラはコンマ2秒で即答しました。
「な、なんですって?」
 魔法使いはめんくらって聞き返します。
「なんだよ。望みを言えっつったから言っただけだろう。なにがラファエルだよ、全身真っ黒で。うっさんくせー」
「黒は今週のラッキーカラーだってヤジオくんとウマコちゃんの星占いで言ってたのです……じゃなくて、私が何のために来たのかわからないんですか」
「あのね、俺は今忙しいんだよ、あんたこそ見てわかんないわけ?」
「あ、あああ……ん。そこ……いいぃ……っ!」
 シンデレラの腰は、バックから兄その1の腰に打ち付けられておりました。
「イイか? イイだろう? んっ……中まできっちり掃除してやんぜ」
「や……あん……シンデレラったら綺麗好きなんだからぁ……ああ、も、奥まで来てるのぉ〜!」
 魔法使いは目のやり場に困って顔をそむけながらも、気を取り直して口を開きました。
「見……見てわかるから言っているのです。いつまでもそんなことをしていてはあなたのためにも兄上達のためにもならないと、全ての者の病の守護者ラファエル様がお考えになってですね……」
「ヤマイ? 俺のどこが病気なんだよ。失礼だな初対面なのに」
「あなたの場合、極端に外見と内面とがミスマッチなのですよ。それも病気の一種ですから早いうちに治して差し上げようとラファエル様が……」
「なんだ、よく見りゃミステリアスないい男じゃん、魔法使い。見るばっかじゃ楽しくないでしょ。3Pといく?」
「3P……それはなかなか楽しそ……いや、ゴホン。私はそんなことをしに来たわけではありません」
「あっそう、ふ〜ん。……ほら兄1、もっと腰振って……ここんとこギュッとして欲しいんだろ?」
「いや……っ、そこだめぇ……出ちゃう……ん」
「これ……シンデレラよ」
「ああっ、んな締め付けんなって…………あ、言っとくけどこぼすなよ。後の掃除が大変だからな」
「シンデレラ……」
「あっ……だめ……も、い、イっちゃうぅ……ん」
「イっていいぜ……俺も……もうすぐ……」
「シンデレラってば…………ふう……聞こえないようですね。それでは仕方ない」

 魔法使いはシンデレラの襟首ひっ捕まえて、ぐいっと後ろへ引き倒したのです。

すっぽん。

 空気銃みたいな音を立てて、アレがソコから飛び出てきました。
「ああああああっ! なにすんだっ!」
「あっ…………ふぅ…………んん、気持ちよかったぁ……」

 気持ちよく達した兄その1を文字通り尻目に、ぬらぬらと濡れ光る一物を誇示しつつ、シンデレラは凶悪な顔で魔法使いを振り向いたのです。
「てめえっ!! これからっつー時に抜きやがって! どーしてくれるんだこれを!!」
 ガミガミと魔法使いに食ってかかりました。
「願いを叶えてやろうと言っているのに、どうにもわからない人ですね」
 ふう、と肩をすくめて魔法使いは首を振りました。
「そんなら目先の願いを邪魔すんなよっ! どうすんだコレっ!」
「そんな凶暴なものは早くしまいなさい。そしてこれを見るのです」
 魔法使いが取り出したのは、一通の招待状でした。

「しまえったって……お前……無茶言うよなあ……痛てて……で? なにを見ろって?……ん? ふむふむ……へええ……さっぱりわかんねーぞ」
「あああ、丸めて捨てちゃいけません! 何するんですかほんとにもう!」
「だって俺、字読めないもんね。ごみは分別して捨てねーと」
「……あなたがそんなだからラファエル様が不憫に思われて、まっとうな人生を歩めるようにとチャンスをお与えくださったのですよ」
「ううう……痒い……」
「は? かゆい?」
「う〜ん、やっぱ左手で出来んのは自家発電だけだな。コレはだめだコレは」
 言いながら、羽毛についた耳垢をふっと吹き飛ばしました。
 シンデレラはお説教の間もせっせと耳掃除にいそしんでいたのです。


「ちょっと。聞いているのですか? シンデレラ」
「だから。ここに何書いてあんだかさっさと説明しなよ」
 シンデレラはちょっと気が短いのでした。
「あなたときたらまったく……いいですか。ちゃんと聞いてくださいよ。これはお城の舞踏会の招待状です」
「ほお」
「これがあればお城へ行って王子様にお目通りがかないます」
「へえ」
「そこで気に入られれば、お城へご奉公することも不可能ではないのですよ」
「はあ」
「そうすればお父様も出稼ぎに行かないで済むし、あなただってさっきお金が欲しいと言ったでしょう?」
「ほへ〜」
「ほんとに聞いてるんですか?」
「ふむ〜」
「なまむぎなまごめなまたまご……」
「なるほど〜」
「やっぱり聞いてないじゃないですかっ!!!」
 魔法使いの額には、くっきりとタコマークが浮かび上がりました。


「うるっせーなー。なんだよ、俺の望みは掃除とえっち。それだけなの。多くは望まないわけ。わかったらさっさと消えて。それとも俺と今ここで……一本いっとく?」
「いっときませんっ! ええい面倒です。もう魔法かけちゃいますから、さっさと舞踏会へ行きなさいっ!」
 魔法使いが杖を一振りすると、シンデレラの服がビリビリと裂けて玉のようなお肌があらわになりました。
 ほどよく陽に焼けた素肌は、お掃除によって綺麗に筋肉が付き、のびやかな肢体が魔法使いのよだれを誘いましたが、あやうく使命を思い出してふみとどまりました。

「うひゃあ! 服が……俺の服が……っ! 下北のダイエーで見つけたニッキューのナイキがぁぁ!」
 そんなことも知らずに、シンデレラは醜い叫びを上げております。
「やかましいです。そんなのはバッタもんに決まってます。綺麗なドレス着せてあげますからおとなしくしなさい」
「いやだやめろナイキでいいんだぁぁぁ!」
 シンデレラの身体にはどこからか美しいドレスがまといつき、キラキラした光の中から、かぼちゃの馬車と白い馬が現われました。




「ちっ……なんだよ、これはよ。腹はきついわ頭は重いわ……つま先痛いわ……馬車だってさ。かぼちゃだってさ。リムジンとかないわけ? だっせーの」
 赤いビロードで内張りされた馬車の柔らかな座席で、シンデレラは腕組みをしてふんぞりかえっておりました。
「贅沢を言ってはいけません。馬子にも衣装といいますが、なかなか似合ってますよ。あなたもその口の悪さがなければ、かなりの美人で通るのに。やっぱりご奉公したほうがあなたの将来にプラスになりますね」
「息がつまるぜ」
 そういいながらも、まだ16歳の細身の骨格にはドレスもきれいに着こなせますから、魔法使いの評価もあながち、いや全然的外れではありませんでした。

「可哀相なお兄さん達をいじめてないで、少しは自分の将来を考えるべきでしょう」
「いじめてほしそうにしてんだもんよ。言わば慈善事業ってとこ?」
 口の端を吊り上げて、にやりと笑うあたりに性格の悪さが染み出していなければ、絶世の美少年で通るシンデレラでした。
「バカおっしゃい。諸悪の根源はあなたでしょう」
「けっ……そーかよ。結局俺が悪者かよ。いーよ、いーよ。俺の伝記作家には可哀相なシンデレラは毎日毎日いじめられてましたって書かせるからいーよ」
「伝記作家に賄賂ばらまくほど稼ぎたかったら、私の言う通りにしなさい」
「なんだ。俺、身売りすんのか? お前やり手ババアだったのか?」
「失敬な。どうせ言うならババアじゃなくてジジイ……いえ、なんだかもうあなたに親切にしてあげるのもどうかと思うようになってきましたね」
 魔法使いは、疲れたように溜息をつきました。

「願いを叶えるっつったりやめるっつったり、はっきりしねー奴だな」
「あー可愛くない……てんっで可愛くないっ……」
 いくら使命といえどこんなのは割に合わないと、魔法使いは眉間にシワを寄せました。
「なにぶつくさ言ってんだ。だいたいいつまでコレに乗ってりゃいいの。暇ならちょっと俺とナニしない?」
 暇をもてあましてずいっと身を乗り出し、魔法使いの腿あたりに手をやるシンデレラは、やっぱり気が短いのでした。
「こ……こら、どこに手を入れるんです、やめなさい」
「これでもけっこうテクあるんだってば。この青い目が素敵っていう男も多いしねっ」
 口も達者なら手も達者なシンデレラです。
「ちょ……っ! 変なとこ触るんじゃありません! 止めなさいっ! やめないと……」
「やめないと? やめないとなに? なんかすんの?」
 ニコニコしながら、手は不埒な動きをやめません。

「ひっ……握るんじゃないっ! こらっ! し、仕方ないですね……っ!」
 魔法使いは乱れた服を片手でおさえつつ、ぶつぶつと口の中で呪文をとなえました。
「なにが仕方な……あっ! 痛ぇ! イタタタタタ! やめ……っ止めろわかったわかったからっ! 苦しいっ! コルセットが締まるぅぅぅ!」
 締めつけるコルセットをかきむしりながら、シンデレラはギブギブとロープに手をかけました。
「秘技、『孫悟空』」
 魔法使いは、余裕の微笑でシンデレラを痛めつける術を解きました。
「三蔵法師かおめーは! 締めていいのはアソコだけだっつーの。……ふう。窒息死するとこだった……」

「少しは懲りましたか?」
「ちょっとしたお茶目じゃんかよ」
 ふてくされて窓の外を見るシンデレラでした。
「あなたのお茶目はどぎついのです」
 それを聞くと、くるりと振り向いたシンデレラは不服そうに魔法使いに顔を寄せました。
「だってさあ。この美貌を男タラすのに使わないで何に使うっての。まあいいよ。ちょっと聞くけど、なんで男の俺がドレスなわけ? しかもパステルカラーの水色だ。胸は開いてるわ袖ふくらんでるわ……」
「そういうしきたりです」
「はあ?」
「ディズニーの絵本の挿絵がそうなってるんですっ」
 魔法使いが、心なしか赤らんだ顔で答えると、シンデレラはうさんくさそうな視線を向けました。
「ふうん……あんたキティちゃんととミッキーマウスとどっち好き?」
 急にふられた質問に、つい気を抜いた魔法使いは、
「え? そりゃあミッキーですよ。あの大きな耳がすごく可愛……ハッ!」
 気づいた時にはすでに遅く、にまぁ〜っと笑ったシンデレラの顔が目の前にありました。
「やだなぁ。 魔法使いなんつってただのネズミマニアじゃん……『ファンタジア』の見すぎだぜ」
 からかわれて真っ赤になった魔法使いは、憤慨してシンデレラのヒザをピシリと打ちました。
「スカートまくりあげて足組むのやめなさいっ! 腕も組まないのっ! あっ、どっから煙草なんか……っ! やめなさいっ未成年っ! ふぅ……ラファエル様……この仕事……割増料金いただきますよ……」
 まだ200歳にもならないというのに綺麗な顔が苦労でシワシワになりそうな気がして、魔法使いは帰ったら真っ先にシワとりパックをしようと心に決めたのでした。


 おりしも時は春。
 馬車は一路お城へと向かって、ガラガラと道を進んでゆきます。
 一番星が東の空へ昇ろうとする、かぐわしい宵のことでありました。






 お城では今まさに、きらびやかな舞踏会が始まろうとしていました。
 庭園には噴水が七色の水飛沫をあげ、吊り下げられたランタンの下で楽隊が楽しげな曲を奏でております。
 テラスからは広間の明かりがもれて、色とりどりのドレスを着たお姫様たちがそぞろ歩いておりました。

「エドワード王子。各国のお姫様達がお待ちですよ。今夜という今夜は出席していただきますからね」
 ぎょろ目が妙な迫力をかもし出すじいやが、逃がしませんよと睨みつける視線の先に、
「じいや。僕は結婚なんかしたくないんだっていつも言ってるだろう」
 物憂げにタイをもてあそびつつ、長い足をゆったりと組んでゴブラン織りの肘掛け椅子に腰掛ける王子様の姿がありました。

 ダークブラウンの髪にはゆるいウエーブがかかり、同じ色の瞳は退屈に半分閉じられて、形のいい唇から小さい溜息をもらしています。
「したくなくても、しなければ後継ぎが出来ませんでしょう。何がなんでも今夜の舞踏会には出席して、どちらかのお姫様とご婚約を」
 ずいっと身を乗り出したじいやの姿を、ついと目をそむけることで視界から閉め出して、王子様はめんどくさそうに呟きました。
「やめてくれないか。僕はゲイだってなんべん言ったら……じい。顔を近づけなくてもいいから。お前の顔は怖いんだから」
「わたくしの顔などどうでもかまわんです。ぜがひでもご出席していただきますっ」
「こ、こら何をする……引きずるな……じい!」
 どうやらじいやが実力行使に出たようです。
「わたくしの目の黒いうちはなんとしてでも……っ!」
「馬鹿を言うな。じいの目は茶色じゃないか。こら、手が痛い!」

 じいやに引きずられて、王子様はいやいやながら舞踏会にお出ましになりました。
 そうして、お姫さまとダンスを踊られたのです。

「あー、やだやだ。何が楽しくて女なんかと……」
 うっとりとしたお姫さまの視線をあからさまに避けながら、汚いものにでも触るように指先だけで手をとって、なるべく身体を離すようにダンスをする様子は、まさに涙を誘う光景ではありましたが、
「王子。スマイルですぞ、スマイル」
 じいやが傍につきっきりで目を離しませんから、逃げようにも逃げられません。
「ああ、僕のスマイルを受けるに値する王子はどこにいるのだ……」
 遠く成層圏のかなたまでみはるかす視線でふっと微笑すると、「すごくイヤそうな憂い顔も素敵っ!」と、お姫さまたちはますますうっとりするのでした。

 その時、すらりと背の高い、美しいお姫さまが現われました。

「じいや……あの方はどちらの姫君か」
 踊っていたお姫さまをぽいっと投げ捨てると、王子様はじいやに聞きました。
「はあ……お見かけしませんが……お調べしましょうか?」
 王子様の目は、もうお姫さまに釘付けになっていました。
「いや、いい……じい。僕はがぜんやる気が出てきたぞ」
「なんと! 王子、あの姫君をお見染めに?」
 じいやが驚いて見上げると、王子様の目にはキラキラと星が輝き、ターゲットに照準をロックした戦闘機のごとく、人ごみをかき分けてまっすぐお姫さまの方に向かってゆくところです。
「そうだ。あの方こそ僕の姫だ。あの方なしには僕の幸福な人生はあり得ない」



 王子様の視線の先には、ぶつくさと魔法使いに文句をたれている最中のシンデレラがおりました。
「魔法使いさんよ。この靴すげー痛いんだけどさ、ナイキのスニーカー出してくんない?」
「しかめ面するんじゃありません。にっこり笑っていなさい。靴ぐらいなんですか」
「なんかもう、1歩1歩痛いんだよ、俺はシンデレラであって人魚姫じゃねーだろ? なんとかしてくれよ。このままじゃ外反母趾になりそーだ……」
「コネが出来たら下駄でも草履でも履かせてあげます。もちろんナイキのね」
「ああっ! スソ踏んだっ! き──っ!」
「しぃっ! ほら、王子様がこちらへ……」
「ああ、腹は苦しいわ足は痛いわ……俺ってホント不幸だよな。伝記作家買収したら、シンデレラはものすごく不幸でしたっつって書かせよう……」

「憂い顔のあなた。どうしたんですか?」
 王子様が登場しますと、あたりには花が舞い散り、霧のような銀色の点描が広がって、パイプオルガンの音色がどこからともなく聞こえてまいりました。
「あ? べつになんでもねーよ」
 やんごとない光景をちらりと見やっただけで、それににべもなく答えて、シンデレラは痛いかかとをさすっています。
「僕はエドワード。あなたのお名前は?」
 にっこり笑った王子様は、シンデレラの態度などものともしません。
「シンデレラ」
 うるさいなーもう、という含みで答えると、
「可愛い名前ですね。あなたにぴったりだ。シンディとお呼びしてもかまいませんか?」
 きらりと白い歯を輝かせて王子様が答えます。
「かまわねーけどその後ろにローパーってつけるのはやめてくれよ」
「ローパー? さあ、なんのことかな?」
「ああ、気にすんな……で? なんか用?」
「Shall we dance?」
「ちっ……横文字だよ……イヤミな奴」
「何をぶつくさ言っているんだい? 可愛い人……」
 王子様はにっこりと微笑みました。
「さ、僕とダンスを……運命の人」
「運命……なんだそりゃ……おい! ちょっと! なにしてんだよ!」
「しているのではなく、これからするんです。僕とあなたで永遠のダンスを」
「はぁ? 何言ってんのこの人。おい、魔法使い! この馬鹿なんとかしろよ!」
 すると魔法使いはめっそうもないと首を振り、反対にシンデレラの背中を押すのでした。
「馬鹿だなんて! シンデレラ、この方が王子様ですよ。もっと愛想をふりまいてっ!」
「やだよ、愛想より洗剤振りまいて床掃除したくなってきたよ、俺」

 しかし王子様はこれまで拒否されたことがありませんから、なんでも思うとおりにしなければ気が済みません。
「お手をどうぞ、シンディ」
「お手? 俺は犬じゃねー……うわ!」
 王子様はシンデレラの細腰を抱えてくるくると流れるようにホールの真中まで来ると、目を回すシンデレラをひしと抱き、甘い口付けを落としたのでした。
 その途端、リンゴーンと天上の鐘の音が鳴り響き、夜空にはオーロラが輝き、風はあまやかなバラの香りを運んできたのです。






「ざけんなっ! なんで俺が抱かれなきゃなんないんだっ! 冗談じゃないぞっ! こんな服着てるからって俺は"受け"じゃねえっ!」
「あ……あんっ……そんなに強く突かないでぇ……っ」
「あのヤロウ。すかしやがって馬鹿じゃねーの。なにがシンディだ」
「あっ……あっ……あんっ……いいっ……」
 シンデレラは中庭の噴水の影で、ボーイの服を着た少年を押し倒しておりました。
「くそっ、じゃまだなこのスカート」
 長いドレスのすそをまくりあげてせっせといたしておりましたが、布が邪魔して少年の可愛いお尻も見えません。
「脱いだら着るもんねーし……破くか」
 ビリビリと腿のあたりでスソを引きちぎって腰まわりが軽くなり、これで心おきなく突っ込めると少年の腰を抱え直したところで、
「シンディ! どこへ行ったんだ? マイ・ハニー!」
 シンデレラを呼ぶ王子様の声がすぐ近くで聞こえてきました。
「げっ! もう来やがった! せっかくまいたと思ったのに!」
 ちっと舌打ちをして、シンデレラは少年を噴水へと放り投げました。


ばっしゃ──────ん!


 高い水飛沫が上がった隙に、脱兎のごとく逃げ出したシンデレラです。
「ああっ、冷たい……なんて冷たいんだ……でもシンディ、水などで僕のハートが冷えるとでも思っているのかい? 南極の氷全部をもってしても僕のハートは君に熱帯夜」
 ずぶぬれになった王子様はめげずにシンデレラの後を追いかけます。
「しつこいっ! なんだあいつはっ!」
 慣れないハイヒールに何度もつまづきながら、シンデレラは後ろを振り返りつつ走りました。
「シンディ……なんてすばらしい足だ。まるでカモシカのようだよ。そんなに露出して、もしかして僕を挑発しているんだね?」
 細腰を隠すのがやっとのドレスをひらめかせてンデレラが走る後姿をうっとりと見やって、王子様は股間を熱くするのでした。

「ほうら、つかまえたっ!」
 東屋の手前で、シンデレラは王子様に追いつかれてしまいました。
「げっ! 足の速い奴!」
「残念ながら僕は、陸上でインハイ出場経験があるからね」
「なに言ってる……こら顔を近づけんじゃねぇっ!」
「僕をこんなにじらすなんて、あなたは罪な人だシンディ……」
「じらしたんじゃ……ねえっ……」
 んぐぐぐぐっ……と王子様の顔を手で押し返しながら、シンデレラは抵抗しました。
「ではなぜドレスをこんなに短く? すべすべの腿をこんなに剥き出しにして」
「これはっ! 長いと腰に絡まって突っ込みにくいから……」
 あわてて言い訳しても、プラス思考の王子に通用するはずがありません。
「ああ、僕は感動に震えてしまうよ。あなたはもうそこまで考えていたんだね」
「なっ……なにが……っ?!」
 イヤな予感に聞き返すと、
「僕とこうなることを、そんなにも望んでいたなんて……」
「こうなるって何っっっ?!」
 ますますイヤな予感に粟立つ首筋に、王子様は優しいキスを落とします。
「ああ、何も知らないふりをして……僕を興奮させるのが上手い人だ……」
 ぞわりとくる感覚にぎゅっと目をつぶって、シンデレラは真実を叫ぶのでした。
「誰が何も知らないんだっ! 俺は乗る方が……ヤる方が好きなんだって!」
 すると王子様はにっこり笑って言いました。
「おや、気が合うな。僕もだよ」
「そ……それじゃダメじゃんっ! どっちも"攻め"じゃ成立しないじゃんっ! よく考えてみろよっ! なっ、なっ?」
 聞かされた言葉に一筋の救いを見て、シンデレラは王子をかき口説きましたが、
「考えるまでもなくあなたは僕の好みなんだ。いい感じに征服欲をくすぐってくれる」
 やっぱり馬の耳に念仏でした。

 そうしているうちにも王子の不埒な手は、シンデレラの両足を広げにかかります。
「こら! 馬鹿! 足を広げるんじゃねぇっ!」
「おや、下着を着けていなかったのか。あの無粋なズロースなどというものは、やはり汚らわしい女子どもの着用するものだな、男子たるもの股間は涼しくなければ」
 王子様はしげしげとシンデレラの股間を鑑賞しています。
「み、見るなってば! パンツはくとドレスにラインが出るからっつって魔法使いが……くそうっ! 魔法使いめ! 一生恨んでやるからなぁぁぁっ!」
「そんなに全身で抵抗などして……ふふ。ますますそそられる」
 王子様はすでに目の色が違っておりました。
「お……お前、変態かっ!」
 気持ち悪さについグーで殴りつけると、王子様は嬉しそうに微笑んで、ビリビリとドレスの胸元を破いてしまいました。
「そういうのが好きとはますます気が合うな。僕もパワープレイは大好きなんだ」
 押し倒したシンデレラの上に馬乗りになって、にっこりと見下ろしました。
「ああっ! やめろぉぉぉぉ!」
 王子様はシンデレラの胸に顔を埋めて、普段は誰も触れることのないその乳首に、濡れた舌を押し付けたのです。
「あっ……てめ……なに……す……」
「押し倒すばかりじゃ、ここは開発されてないんだろう? ほらもう勃ってきた」
 シンデレラの両手を押さえつけ、つんととがった乳首に軽く歯を立てました。
「あ……っ!」
「忘れられなくしてあげるよ……」
「ふ……ふざけん……なっ……」
「そんな赤い顔で何を言っても無駄だね。あなたはもう僕のものだ」
「ば……っ」
「綺麗だ……シンディ……僕の后になってくれないか……いや返事はいらない。僕はもう決めたからね。君こそが王妃だ。僕のことはエディと呼んでくれたまえ」
「んなこと言いながらバックに指入れるの止めろぉっ!……痛いじゃねーかっ」
「初めてなんだね……ふふ」
「楽しそうに動かすなっ!」
「しごく楽しいからね。抵抗するあなたを押さえつけてココをこう……」
「あ……ああっ……ソコはっ……」
「知ってるだろう? ココをこうされると腰が抜けてしまうんだよ」
「ん……ちくしょ……」
 悔し涙をこぼすシンデレラにキスをして、王子様は征服者の笑みをこぼしました。
「イヤだイヤだと言っても、ここは正直だな……ん? 自分でも気がついてるだろう?」
 勃ち上がったシンデレラのソレを、つんとつついて、王子様はにやりと笑いました。
「くっ……お、オニッ!」
「誉めてくれるのかい? 嬉しいな」
 シンデレラが何を言っても、王子様にはかえるのツラにしょんべんなのでした。
「ああ、初めてなのに、後ろの刺激だけでココがこんなに濡れて……」
 じらすように指を蠢かしつつ、そんな言葉でシンデレラを泣かせるのでした。
「も……やめ……」
 ヤられるのはいやだったはずなのに、シンデレラのソコはもうビンビンに立ち上がっています。恥ずかしさに顔をそむけて、シンデレラは涙をこぼしました。
「入れるよ……ほらあなたの露でもうここがぬるぬるだ……」
「あああっ……止めろっ……痛いっ……痛いって!」
 王子様が武器を抜いて構えると、シンデレラが悲鳴を上げました。
「力を抜いてくれないと奥まで入らないよ。まだ先っぽのところが半分しか……」
「お……奥まで入れたくないんだっ! さっさと出てけ馬鹿野郎っ!」
「素敵だ……あなたが后になったら夫婦喧嘩のたびにそうやって怒鳴られるんだね。楽しみだなあ」
「人に突っ込んどいて空想するなっ! い、痛い……っ! なんとかしろよっ!」
 涙ながらに訴えても、王子様は余裕で笑うばかりでした。
「だから力を抜いてって言ってるじゃないか。このままじゃ楽しめないだろう?」
「くそ……俺が……俺がもうちょっと育って力がついたら……お前を押し倒して突っ込んでやるからなぁっ!」
 悔し紛れに叫んだシンデレラに、
「これは嬉しいことを言ってくれる。僕は正真正銘のゲイだからね。ほんと言うと、どっちもイケルくちなんだよ」
 しれっと王子様が言ってくれます。
「なっ……なんだよっ! そんじゃ俺が上だって良かったんじゃ……っ?」
 そして、びっくりして目を丸くするシンデレラに、とびきりの笑顔を向けたのでした。
「そうなんだけど。それじゃつまんないだろ? ちょっとぐらい抵抗がなきゃ」
「…………ウソだろ…………」
 がっくりと力の抜けた隙に、王子様は満足そうに深々とナニを突きたてたのでした。





 夜も更けて、王子様はハッと気がつきました。
 見慣れた天井の彫刻が、ここが王子様の寝室だということを教えてくれました。
「なんだ? 僕はどうしたんだ?……い痛っ……」
 ベッドの上に起き上がると、側頭部に鋭い痛みがありました。
「お気が付かれましたか。王子は東屋であられもない姿……コホン、倒れておられたのを庭師が発見したのですよ」
 じいやが気遣わしげに覗き込むのを、ふいと目をそらして王子様は頭を押さえました。
「東屋に……?」
 記憶を探ると、次第に出来事が思い出されてきます。
「そうだ……僕はシンディと愛の交換を……シンディ! シンディはどこにいる?」
 王子様はあわててベッドから飛び起きました。

 シンデレラとエッチした王子様は最後の最後で、逆襲を試みたシンデレラのハイヒールに頭を直撃され、気を失ったのでした。
 そのまま局部丸出しで伸びていたところを、下僕に発見されてお城へと運び込まれたのでしたが、風呂では召使に身体を洗わせて平気なやんごとなき身分のこと。何を見られても"ヘ"でもありません。
「それでシンディは……マイ・スィートはどこへ行ったんだ?!」
「王子、そう慌てるものではありません」
 ずいと身を乗り出したじいやの顔を片手でどけて、
「じい。お前はアップにならなくていいから……しかしこれが慌てずにいられるか! シンディは僕の大事な花嫁だ。うるわしき花なんだ。空に羽ばたく鳥だ、輝く太陽だ……えーと……」
「海。を使用されていません」
「そうだ海だ。鏡のように澄んだ青い海が君なら僕は白い帆を張る船……それから……」
 他の描写を考えて顎に手をやる王子様の前に、じいやがまた身をのりだしました。
「もうそのくらいで結構です」
「だからお前の顔はアップに耐えないんだってば。びっくりするじゃないかまったく……。少し向こうを向いててくれないか」
「この老人になんと冷たいお言葉……それではコレはいらないと、そうおっしゃるのですね?」
「……なんだ?」
 振り向いて見たじいやの手には、うつくしいガラスのハイヒールが乗っていました。






「25.5……大体こんなにサイズの大きな足のお姫さまがいるもんでしょうか」
 供の者に持たせたクッションの上には、シンデレラの残していったガラスの靴がひとつだけ、乗っていました。
「いるのだ」
 王子様は真剣です。
「何かの間違いじゃないんですかぁ?」
 持ち主探しに飽きてきた供の者は、いいかげん帰りたくなっています。
「いるったらいるのだ」
 腕組みをして難しい顔をする王子様の頭の中は、シンデレラのことでいっぱいです。
「どこの姫です? そうとうごついですよね、こんな足じゃ」
「失礼なことを言うな。誰よりも美しい姫なのだ」
「なんか私でも入りそうだな……よっこらせ……っと。あれ、入った。ちょうどいいですよ?」

スパ──────ン!

 お供の後頭部に、すかさず王子様の平手打ちが炸裂しました。
「い、痛い……」
「いくらちょうど良くてもお前じゃないっ! う・つ・く・し・い姫だと聞かなかったかっ?! この耳はお飾りかっ? お飾りなら切り取っても支障はないなっ?!」
 片手でお供の耳をつかみ、もう一方の手ですらりと腰の剣を抜き放った王子様は、もうけっこうキているのでした。
「ひぃぃぃぃ───っ! ごめんなさいぃぃぃっ!」
「さっさと靴を脱げこのタコがっ!」

 町また町をこうして姫探しにまわって、かれこれ一ヶ月。
 あのシンデレラにはまだ会えません。
 寝ても覚めても、シンデレラの顔とか足とか乳首とかピーとかが、王子様の脳裏をぐるぐるしているのです。

「もう一度……せめてもう一度逢いたい……マイ・ダーリン」
 ガラスの靴を胸に抱きしめて、王子様は睫毛を伏せるのでした。






「ちょっと! 継母っ!ほうきは畳の目に沿ってって何度言ったらわかるんだよ。アッタマ悪いんじゃねーの?」
「す、すみません……いたらなくて……」
「けっ! 謝って済みゃあ警察はいらねーって格言しらねーのか。こら兄1! 汚れた窓は先に濡らした新聞紙で拭くんだよ。そんな知恵もねーのかよ、いっつもち〇こ濡らしてるくせによっ!」
「うんっ、新聞紙……新聞紙ねっ」
「それから兄2っ! 雑巾は固く絞んなきゃ床がびちゃびちゃになんだろう! びちゃびちゃになっていいのはエッチする時だけっ! わかったねっ?」
「わ、わかった。固くね。固く……」
「そうそう。固くてふっといアレみたくすんだよ。ほら手が止まってるっ!」
 ピシリとハタキで兄2の手を打ち、鼻息も荒く掃除を監督しているのは、かのシンデレラでした。
 王子様に貞操を奪われてこのかた、イライラして掃除もまともに手につきません。
 可哀想に継母以下お兄様達は、おかげで散々な目にあっているのでした。




 あの夜。
 シンデレラの中でイく寸前の王子様を、ハイヒールのかかとでぶちのめし、痛いお尻をかばいながら仁王立ちしたシンデレラは、ニヤァと凶悪な笑みを浮かべたのでした。
「よくも……よくも俺をヤってくれたなぁおい……」
 目の下には、腿までズボンを下ろした王子様が倒れています。
「俺よりガタイのでかいのをヤるのは初めてだけどな……お前だけには容赦しないから覚悟しろよぉっ!」
 恨みのこもった目で王子様のお尻に手をかけたまでは良かったのですが、ちょうどその時、12時の鐘が鳴りはじめたのです。


リィ───ンゴォォ─────ン……


「へへーんだ。なんにも塗らないで入れてやるー。切れようが破れようが知ったことかっ!」
 今まさにソコにナニを当てがって、いざ挿入というときになって、シンデレラの身体はふわりと浮き上がりました。
「なっ……なんだよ……」
 何時の間にか、ドレスは元のバッタもんのナイキのTシャツに変わり、シンデレラはよれよれのジャージで宙に浮いています。
「残念ですが、魔法の切れる時間です」
 どこからか、魔法使いの声が聞こえてきました。
「ちょっと……まだ入れてねーよ! 待ってくれ! 俺はこいつに突っ込んでやるんだーー!」
 抗議も空しく、シンデレラは一瞬のうちに元のあばら家へ引き戻されていたのでした。


「はぁぁぁ……」
 シンデレラの溜息で、狭い家はあふれ返りそうでした。
「シンデレラはいったい何を悩んでるんだろうね?」
「魔法使いにお城へ連れて行かれてから、変なんだよ……」
「……さわらぬ神にたたりなしだよ……お前達、よけいなこと言ったらだめだよ」
「うん、母さん……」
 可哀想な継母たちは、シンデレラの様子をうかがいながら、掃除に励むのでした。


────トントン。


 そのとき、ドアにノックの音がしました。
「はーい。どなた?」
「お城から参りました。ここを開けてください」
 とうとう、王子様の使いがやってきたのです。
「何でしょう……?」
「この靴を履いていただきたい」
「これを……ですか?」
「さよう」

 シンデレラは奥の部屋でふてくされていましたから、王子達一行が来た事には気づいていません。
「はけましたけど」
 最初にそれをはいたのは、継母でした。驚いたことに、ガラスのくつは継母の足にぴったりだったのです。
「これがどうしたのですか?」
「おお! 王子! もしやこの方なのでは?」
「……ふん。ちょっとこっちへ来い」
 王子様は継母の顔を見るなり、アゴをしゃくりました。
「え? なんですか……あっ! なにをなされますっ!」
 継母はやすやすと王子に腰を抱かれました。
「ああ、違う違うっ! この感触ではないっ」
 王子様はぽいと継母を投げ捨てました。

「え? 僕? ……え……と。はけました。ちょっとゆるいけど」
 兄1はビクビクしながら王子様を見上げました。
「ではこっちへ来たまえ」
 王子は不機嫌な様子で兄1を抱き寄せ、いきなりキスをしました。
「あふ……ん」
「ああっ! これも違うっ!」
 そしてまたぽいっと兄1をうっちゃり、兄2を睨みつけました。

「あの……僕も……はくんですよね……? あ、はけます……はい」
「はけたんなら、早く尻を貸したまえ」
「し……尻っ……?」
 王子の様子に恐れをなして、兄2はわけもわからず後ろを見せました。

パシン!

 その白い尻をいまいましそうに平手で叩き、
「これも違うぞ! ぜんぜん違うじゃないかっ! マイ・スィート・ハニー・ダーリンはどこなんだっ?」
 ガオーと吠えたところへ、隣の部屋のドアが開きました。
「うるせーな! 何やって……ああっ!」
 シンデレラは一行を見やると、大声を出しました。
「シ……シンディ!」
 王子様はひと目見るなり、シンデレラを見分けたのです。
「ああああああっ! てめーっっ!」
 シンデレラは驚愕のあまり声も出せません。
「てめぇらっ! 人がせっかくピッカピカに磨いた床に土足でずかずか上がりやがって、どーしてくれるんだこの床をっ! 土ついちまったじゃねーか! こら兄1! モップ持ってこいモップ!」
「シンディ……! おおマイ・ダーリン」
 王子様はシンデレラに手を差し伸べました。
「継母っ! ぼけっと突っ立ってねーでこいつら追い出せ!」
 シンデレラはどうしたことか、王子様に目もくれません。
「ハニー、僕だよ。エディ王子だ……」
「兄2っ! 窓開けろっ! 狭い家にこんだけ人入れちゃ、空気が汚れるだろっ!」
「マイ・プリティ……僕を忘れてしまったのかい……?」
「ああもう、足跡だらけだっ! ちょっとそこのあんた、敷居踏んでるって! 行儀悪いな、いい大人が!」
「シンディ……」
「その前にホウキだろう。埃っぽいんだからよ」
 シンデレラは、いつにも増してテキパキとお掃除指南をしています。

「シン……」
「モップはきちっと絞れよ、きちっとな」
 プツッとどこかで音がして、王子様は供の者を振り返りました。
「……あの者の足に靴をはかせよ」
「は? よろしいのですか」
「かまわん。嫌がったら押さえつけてでもはかせるんだ。いいな」
「御意」


「あっ! 何すんだてめぇっ!」
「王子様のご希望ですから、おとなしくして下さい」
「あ? 誰のなんだって?」
 暴れるシンデレラを押さえつけて、供の者が靴をはかせたのですが。
「痛いっ! やめろ! 痛いじゃねーか!」
 靴はあまりにきゅうくつで、無理にはかせるのはかわいそうなぐらいでした。
「王子。この方ではないようです。ちょっと靴が小さいんじゃないでしょうか」
「かまわん。無理にでもはかせろ。なんならかかとを切り落としてでもな」
「はあ……」
 お供の者は真っ青になって、小さな靴をぐいぐいとシンデレラの足にはかせました。
「やめろっ! 痛いんだってば! こないだできたマメがまだ水ぶくれになってん……ああっ! マメがつぶれたぁっ! テメェひとが大人しくしてりゃいいかげんに……」
 キレたシンデレラは、無茶苦茶に足を蹴りだしました。
「ぐはぁっ!!」
 その足が、お供の顔面をクリティカルヒットしたその時。

「見つけたよマイ・ディア・スィート・ハート・ダァ───リン!」
 王子様がひしとシンデレラを抱きしめました。
「な……っ」
 固まるシンデレラをむぎゅうっと抱きしめて、王子様は顔中にキスの雨を降らせました。
「その悪口雑言、その脚力。やっぱり僕のシンディだ……逢いたかったよハニー」
「な、な、なっ……てめーはあん時の……っ!」
「僕はさっきからずっといるのにハニーは気がついてなかったのかい? わざとらしくてとっても素敵だっ」
「目が避けてたんだっ! テメ……あんときはよくも……」
「そう。あの時君にナニを挿入してヒィヒィ言わせたエディだよ」
「誰がヒィヒィ言ったんだ誰がっ!」
「ハニーじゃないか。もう忘れたのかい?」
 王子様はことさらにっこりと、シンデレラに笑いかけました。
「俺はなぁっ! あ、あんたのその、世界は自分ひとりのためにあるんだっつー態度が大っキライなんだよっ!」
 ふるふると震える指を王子様の鼻先に突きつけて、シンデレラはわめきました。
「結構だ。キライならあとはどんどん好きになるだけだからね」
「なんでそうプラス思考なんだよあんたはっ!」
「だって僕は王子様だからね」
「理由になるかっ!」
「なるさ。王子様はお姫さまと末永く幸せに暮らすんだから」
 そう言って、極上の微笑みを向けたのでした。
 さしものシンデレラも、がっくりと肩を落としたのは言うまでもありません。






「シンデレラ……幸せにねっ」

 さて今日はシンデレラの輿入れの日です。
 継母達はにこにこしながらシンデレラを見送っています。
「お前ら……なんか嬉しそうだな、おい」
 見事な四頭立ての馬車の上からじっとりと恨みがましい目を向けるのは、純白の花嫁衣装を着たシンデレラでした。
 その横には王子様が、がっしりとシンデレラの腕を取って、すわっておりました。
「う、ううん。そんなことないよ。シンデレラがいなくなって僕達とっても悲しいの」
 そういうわりには晴れやかな顔で、兄1が手を振りました。
「そうだよ。シンデレラが幸せになってくれたら私達も幸せなんだから」
 継母が今までになくほっとしたような、にこやかな顔を向けました。
「だからもう戻ってこなくていいからね……」
「あ、バカっ……!」
 口を滑らせた兄2をふたりがかりで押さえつけたのですが、それはしっかりとシンデレラの耳に入っていました。
「なんだとコラぁ! テメもう俺にいじめられないと思って図に乗りやがって、またバックから突っ込んでヨガらせてやろうかオラァ!」
 馬車の上ですっくと立ち上がったシンデレラは、聞くに堪えない台詞で脅します。
「ご、ごめんなさ〜い」
 それももう最後かと思うと、なにがなしホロリとする兄達でした。


「素敵だ。口汚くてとっても新鮮だよマイ・スィート」
 立ち上がって拳を振り上げるシンデレラを軽々と引き戻し、王子様はその頬にキスをするのでした。
「てめっ! 軽々しく俺に触るなっつってんだろっ! てめーのヨメになるったって夜は俺が上になるんだからなっ! わかってんのかコラ!」
「わかってるさ。ハニーのしたいようにしていいんだよ。……早く馬車を出してくれたまえ。ハニーは早く僕とエッチしたいそうだ」
「誰がだっ! 俺が上なら結婚してやるって条件なんだからなっ! いいか、絶対に俺が入れるんだぞっ!」
「はいはい。可愛いダーリン。愛してるよ」
「ほんとかっ?! ほんとに俺が入れるんだからなっ?」
「マイ・ディア。入れるのも入れられるのも、慣れてしまえば同じ快感だよ」
「やっぱりわかってねーじゃねーか! てめー、隙あらば俺に突っ込もうとしてるだろー?」
「そんなことないよ。僕は上でも下でもかまわない。いっしょにくんずほぐれつしようねハニー」
「なぁにがくんずほぐ……ん……んんっ……!」
 王子様は、シンデレラを抱き寄せて、深く深く口づけたのです。
「ん……ふぅ……テメ……断りもなく俺にキスなんか……んん……っ」
「いちいち断ってたら来世までシンディにキスできないじゃないか。そんなのはいやだね。僕は今、君にキスしたいんだ……」
「あ……っ……どこ触る……馬車の……上だ……ぞっ!」
「いいじゃないか、この揺れがなんとも不自由でイイだろう。ほら、ハニーのイイところに触れそうで触れないこの感じ……」
「へん……変態っ……あああ……」
 なしくずしの予感に震えるシンデレラでした。

 そうして、シンデレラの思惑にもかかわらず、王子様は末永く幸せに暮らしたのでした。
 シンデレラが幸せになったかどうか知りたいって?
 それは後世の伝記作家にお聞きください。



 おしまい。