新刊紹介
梅原猛・森村誠一・松本健一・立松和平・稲葉真弓・笠原伸夫他著『西川徹郎全句集』刊行記念論叢 『星月の惨劇ー西川徹郎の世界』
橋本 直
本書は、平成十二年七月(普及版は翌年七月)に刊行された『西川徹郎全句集』(沖積社)について、実作者、評論家、哲学者等々各界五十四名の執筆者の論じた文章と、西川自身の書き下ろし評論一編と論文「反俳句の視座ー実存俳句を書く」(初出『國文学 解釈と教材の研究』二〇〇一年七月号)、自選句五百及び年譜からなる大著である。 「実存俳句」を標榜するこの作家は今年五十五歳、一般論として俳人としては若い。本書と双胴体となる『西川徹郎全句集』は、その意味で「全」といっても半生の集大成というところであろう。それでも、五千三百三十八句という一冊の句集としては膨大な量を収め、哲学者梅原猛氏をもってして「その句はほとんどすべて甚だ難解」といわしめる内容である。その為か、本書に収められた諸家の論も難解なものが多く見られる。 第T章で俳人を中心とする十七名計二百二十頁、第U章で作家、学者を中心とする九名計五十頁、第V章で歌人、詩人を中心とする十名計五十五頁、第W章で再び俳人を中心とする十六名計百二十五頁の文章が載っている。文に長短があるが、それぞれの立場で『西川徹郎全句集』及び、俳人西川徹郎を論じている。第X章では本書の編集人であり、西川夫人でもある斎藤冬美氏が一七五頁を西川俳句論に費やし、第Y章で西川自身の評論に十六頁、資料編として西川自選の五百句に二十五頁、論文に十頁、年譜に十六頁を費やしている。 西川も含め五十四名の執筆者の論の内容を紹介することは、本書の内容からも許された紙数からいっても不可能である。前述のように、例えば「身体暗くてさしずめあなたは朝顔辞典」「不眠症に落葉が魚になっている」のような難解な俳句を論ずる必要からか難解な言述が並び、それは特にT章に顕著である。曰く「この句集は人間の記憶の中に無意識に眠る「無限樹海」への入り口なのだ。」稲葉真弓氏、「生命をかけての俳句のアポリアへの挑戦」高橋比呂子氏等々。そして、M・フーコー、J・ラカン、フロイト、ベルクソン、バシュラール、ウィトゲンシュタイン等々と、俳句の論叢とは思えないほど思想家の名前がならぶ。一方で、比される対象は例えば、「『神曲』に比すべき大業」伊東聖子氏などとあり、先の梅原氏も「私はその俳句もさることながら、むしろ俳句の説明のために書かれた随筆により美しい詩を感じた(中略)ボードレールの散文詩を思わせるほどであった。」と締めくくっている。 読者にとって平易ではない西川の句業には、それを解読する書も併せ持つ必要があるということであろうか。
(平成十四年九月二十五日A5版730頁 定価七、三〇〇円+税 茜屋書店) 〔はしもと・すなお 海城学園講師〕