・近代季語についての報告(一)冬季編 橋本 直
・はじめに
本稿は近代における新季語の初出を調査する試みのはじめである。季語は時代の変化によって新たに出現したり、消滅していくものもある。季語は俳句において非常に重要視されていながら、やまとうたなどから続く本意をもち今に続く一部の語をのぞけば、その時代の人々に通じて季節感がもてるということが存在の根拠であり、時代の需要によって生産・消費され、賞味期限が終わればやがて消えていく運命といってもいい。筆者は、俳句における歳時記と季語のもつ動的な機能に焦点を当ててゆく意図を持つが本レポートは、その手始めとして近代以後に出版された歳時記に初出の季語を調査したものである。紙面の都合上、冬の部のみを載せている。
・凡例
一、 明治初年以来から平成に至る迄に出版された主要な歳時記をできうる限り調査し、季節ごとに五十音順で配した。なお、これについては、以下の資料によった。
・国立国会図書館『国立国会図書館蔵書目録』
・越後敬子氏「明治俳書出版年表」(一)〜(三)((一)実践女子大学文学部紀要第四十一集別冊(二)(三)国文学研究資料館文献資料部『調査研究報告』第十八・十九号) ・筑紫磐井氏「俳句歳時記総論−歳時記の宇宙」(『歳時記の宇宙』シリーズ俳句世界4 雄山閣出版)
一、なるべく初版をあたったが、上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(大3、俳書堂)については、初版がみつからず、やむなく増訂版(昭9)に頼った。ただし、角川書店『図説大歳時記』(昭40、角川書店)解説に指摘のあるものがかなりあり、これらは解説文中は大歳時記に従って一応初版の扱いにしている。
一、何年か後に増補改訂をしているものは、できる限りその違いも見たが、歳時記によっては、どちらかしか残ってないか、増補改訂の有無も不明であるので、その点の調査は不充分なものにならざるをえなかった。
一、なお、以下のものは、近世以来の季題とあいまいな点があり、できる限り調査したが不明瞭な点が残った。
・玉蜀黍(秋) とうきびとも呼ばれており、歳時記においても同名の「蜀黍」との 区別が不明瞭
・大根(冬) 近世以来の季語「大根引」の省略との区別が不明瞭
・日向ぼこ(冬)「日向ぼこり」は近世の俳諧書に解説がある
・凧(新年) 江戸期の歳時記にも立項があるが季節が不明瞭。
一、季語/季題の呼称はなるべく引用した歳時記にあわせた。それ以外は季語を用いた。
一、旧仮名の振り仮名は『俳諧歳時記』(昭8 改造社)中谷無涯『新修歳時記』(東京俳 書堂、明42)を中心に確認した。
調査歳時記一覧(初版出版年代順)
B 藍亭藍 『俳諧歳時記栞草』(明25、積善館)〈初出、嘉永四年〉
A 能勢香夢 『俳諧貝合』(明7、酒井文栄堂)
A 文豊斎蓼左 『俳諧三千題早引略解』(明4、須原屋茂兵衛等)
A 横山利平 『新編俳諧題鑑』(明9、三森幹雄・伊藤有終)
A 萩原乙彦 『新題季寄俳諧手洋灯』(明治13)
A 浜真砂 『明治増題俳諧新部類』(明13、藤森平五郎)
A 山内梅敬 『明治新撰俳諧季寄鑑』(明13、京都文開堂)
A 山口素揚 『古今新撰式部類大全』(明治15)
A 花月園為麟 『新選俳諧明治歳時記講義』乾・坤(明25)
A 高浜虚子 『袖珍俳句季寄せ』(明36、俳書堂)
A 寒川鼠骨 『歳時記例句選』(明36、内外出版協会)
A 大江濤畝 『新歳時記』(明36、寶文館)
A 寒川鼠骨 『俳句新歳事記』(明37、大学館)
b 今井柏浦 『俳諧例句新撰歳時記』(明41、博文館)
A 中谷無涯 『新修歳時記』(明42、東京俳書堂)
A 阪元雷鳥ほか『新式解説俳句大辞典』(明44、博文館)
C 今井柏浦 『新校俳諧歳事記』(大14、修省堂)
a 木蒼梧 『大正新修歳事記』(大14、資文堂)
C 今井柏浦 『詳解例句纂修歳事記』(大15、修省堂)
C 小泉迂外 『最新俳句歳事記』(昭5、平凡社)
a 宮田戊子 『昭和大成新修歳時記』(昭7、東京引文社)
C 水原秋桜子 『現代俳句季語解』(昭7、交蘭社)
E 大谷句佛 他 『俳諧歳時記・新年』(昭8、改造社)
E 松瀬青々他 『俳諧歳時記秋』(昭8、改造社)
E 高浜虚子他 『俳諧歳時記冬』(昭8 改造社)
C,D上川井梨葉 『新撰袖珍俳句季寄せ』増訂版(昭9、俳書堂)(初版大3は未見)
C 高浜虚子 『新歳時記』改訂版(昭15、三省堂)(初版昭9)
a 宮田戊子 『歳時記例句集』(昭19、みたみ出版)
C 水原秋桜子 『新編歳時記』(昭26、大泉書店)/b,D(同改訂版、昭32)
b 新潮社 『俳諧歳時記』(新潮社、冬・新年昭25・秋昭26)
b 山本健吉 『新俳句歳時記』(昭31、光文社)
E 富安風生 『俳句歳時記』(昭34、平凡社)
b 石田波郷 『現代俳句歳時記』(昭38)
b’ 角川書店 『 図説大歳時記』(昭40、角川書店)
b 角川書店 『合本俳句歳時記新版』(昭49、角川書店)
E 大野林火 『ハンディ版入門歳事記』(昭59、角川書店)
E 平井照敏 『新歳時記』(平成1年、河出文庫
E 金子兜太 『現代俳句歳時記』(平1、チクマ秀版社)
E 現代俳句協会 『現代俳句歳時記』(平11、現代俳句協会)
(A 国立国会図書館所蔵(マイクロ)、a 国立国会図書館所蔵(実物)、B 中央大 学図書館蔵(マイクロ)、b 中央大学図書館(実物)、b’ 中央大学国文学研究室、 C 俳句文学館蔵、D 早稲田大学中央図書館蔵、E 橋本個人所蔵)
近代新出季語(冬季)
一茶忌(いっさき)
今井柏浦『俳諧例句新撰歳事記』(博文館、明41)に立項、例句(一茶忌や各々方 のしたり顔 珀雲)がある。
凍滝(いてだき)(いてたき) (類題・傍題 冬滝 滝凍る)
虚子他『俳諧歳時記』(改造社 昭8)の「凍る」の項に例句二句(一筋の瀧凍り居 り奥の院 英女)(冱瀧のちろろくと落ちにけり 嘉香jがあるのが歳時記での初出か。立項は、富安風生『俳句歳時記』(昭34、平凡社)が最初であろう。例句に(凍滝のきけば相つぐこだまかな 蛇笏)(凍滝のうす緑なる襞の数 年尾)の二句。
凍蝶(いてちょう) 蝶凍つる (類題・傍題 冬の蝶 冬蝶)
今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)が「冬の蝶」として立項し、例句 に(いて蝶や佛のみ手にかくる糸 々)がある。題としての「凍蝶」は木蒼梧『大 正新修歳事記』(資文堂、大14)に「冬の蝶」の類題として初出。
凍鶴(いてづる)
今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に「凍鶴(えてつる)」で立項されたのが歳時記としての初出。例句に(凍鶴や花紅ゐの室の外 松濱)がある。宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)には、例句三句(凍鶴や花紅ゐの室の外 松濱)(凍鶴や主の經を聴いてゐる 々)(凍鶴のやをら片足下しけり 素十)がある。
外套(がいとう) オーバー オーバーコート (類題・傍題 吾妻(東)コート、二重廻し、インバネス、冬服、マント、トンビ、被風)
従来歳時記では「コート」は和服の女性が着るものとして別に立項されているが、近 年では区別せず総じて「コート」と呼ばれる場合が多い。歳時記での立項は、高浜虚子 『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)が初出。また、例句の初出は、今井柏浦『俳諧例 句新撰歳時記』(博文館、明41)で、(擔につるす外套古し柳原 愚哉)(振返る二重廻 しや人違い 子規)の二句。
火事(かじ)
寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)で、例句(鍋焼や火事塲に遠き坂 の上 子規)があげられている。
悴(かじか)む (類題・傍題 こごゆ 手足凍ゆる かぢける)
大正末期までは近世以来の「悴(かじ)ける」で、「悴む(かじかむ)」の初出は今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)に「悴ける」の傍題に「かじかむ」。小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)は例句(かじかむや颪に暮るヽ畑道 池音)を所収。
風邪(かぜ) (類題・傍題 感冒 流感 流行風邪 ふうじや 風邪気 風邪声 鼻風邪 インフルエンザ)
寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)に「風邪(かぜひき)」として立項されているのが歳時記での初出か。例句は(埋火やうちこぼしたる風邪薬 白雄)。「風邪(かぜ)」の例句初出は中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)の(臥しなれぬ風邪にかごとや大男 鳴雪)。
狩(かり) (類題・傍題 猟)
もともと歳時記においての「狩」とは鷹狩のことであり、能勢香夢『俳諧貝合』(酒 井文栄堂、明7)に「狩」で立項があるが、「鷹狩」のことであろう。この区別の明瞭なものは高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)で、「狩」と「鷹狩」を分けて季題としている。同様の例句の初出は今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)で、(雪を血に染めて悲しき猟場かな 里秋)がある。
枯木(かれき) 裸木(類題・傍題 冬木、寒木、枯木立、冬木立、寒林、枯枝) 高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)「冬木」に傍題として立項。また、寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)では「冬木立」の傍題として立項し(鳥 の巣のあらはに掛かる枯木かな 寒樓)の例句がある。
枯葉(かれは) (類題・傍題 落葉)
小泉迂外『最新俳句歳事記』(昭5、平凡社)に立項。「木の葉の梢に枯れ残ってゐるをいふ」と解説があり、現代の歳時記とやや意味が異なる。例句は(瀧口にぬれて色あ る枯葉かな 紫紅)(白妙の雪の上舞ふ枯葉かな 色葉)の二句。
寒(かん) (類題・傍題 寒の内 寒中 寒四郎 寒九)
『明治新撰俳諧季寄鑑』(明13)、『新式解説俳句大辞典』(明44)に「寒」で立項があるが「さむさ」のこと。いわゆる「寒」(かん)(寒の入り(一月五日頃)より節分(二月三日ごろ)までの約三十日間。最も寒気の厳しい時期)としての初出は木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)で、解説と(酒氷る余りを酌んで寒九かな 山梔子)他六句の例句がある。
寒卵(かんたまご)
今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)。例句に(苞にする十の命や寒卵 太祇)がある。次に、小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)に(寒玉子一々に 日を記しけり 蕉雨樓)がある。
寒雷(かんらい) (類題・傍題 冬の雷 鰤起し 雪起し)
木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)に冬の雷で立項し傍題に寒雷。例句に (寒雷や虚無学の講座鼠出づ 晩霞)がある。水原秋桜子『新編歳時記』(大泉書店、 昭26)には立項がなく、改訂版(昭32)は寒雷で立項し例句がある。新潮社『俳諧歳 時記』(新潮文庫、昭26)は冬の雷で立項し傍題に寒雷。例句はすべて冬の雷で(冬の 雷家の暗きに鳴り籠る 山口誓子)ほか二句。
狐火(きつねび) (類題・傍題 王子の狐火 鬼火 狐の提灯)
近世までは「王子の狐日」。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)に「「王子の狐 火」を冬の季としたことから単に狐火といふのも冬の季とするやうになつたものと思は れる。」と解説。横山利平『新編俳諧題鑑』(三森幹雄、伊藤有終、明9)冬に「狐火」で立項。中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に例句(狐火や髑髏に雨のたまる夜に 蕪村)がある。
着ぶくれ (類題・傍題 重ね着 厚着)
虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)の立項が歳時記初出か。解説と(著ぶくれ て舵をあづかる女房かな 方舟)他三句の例句がある。
クリスマス(基督降誕祭(クリスマス)) (類題・傍題 降誕祭、聖誕祭、聖夜(クリスマス・イブ)、聖樹(クリスマス・ツリー)、聖果(クリスマス・ケーキ)、サンタクロース) 高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)に立項が初出か。寒川鼠骨『歳時記例 句選』(内外出版協会、明36)には解説なく例句のみ(物くれる阿蘭陀人やクリスマス 虚子)(法王の服かくやくとクリスマス 獅子)掲出。大江濤畝『新歳時記』(寶文館、 明36)は季題のみ掲出。
毛皮(けがわ) (類題・傍題 裘(かわごろも)(毛衣(けごろも)) 皮ジャンパー)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、大3)。で、「毛皮張る」「毛皮賣」とともに立項。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)には、解説と例句(毛皮?の毛皮を頬被 草舵)他五句がある。
木の葉髪(このはがみ)
中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)で、解説と例句(初夜申す心や木葉髪や霜 沾徳)がある。
サッカー (類題 蹴球(しゅうきゅう) フットボール)
上川井梨葉『増訂版新撰袖珍俳句季寄せ』(昭9、俳書堂)で、「フツトボール、蹴球、ア式蹴球」で立項がある。例句の初出は、角川書店『季寄せ』(角川書店、昭51)(サッカーの声援の辺に冷えゐたり 八木林之助)。現代俳句協会『現代俳句歳時記』(現代俳句協会、平11)は通年で立項している。
三寒四温(さんかんしおん) (類題・傍題 三寒 四温 四温日和)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(大3、俳書堂)に立項され、解説がある。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社 昭8)、高浜虚子『新歳時記』(昭15、三省堂)に同じ例句(軒しづく頻りに落つる四温かな 白樹)がある。
七五三(しちごさん) (類題・傍題 七五三(しちごさん)の祝(いわい) 千歳飴(ちとせあめ) 髪置(がみおき) 袴着(はかまぎ) 帯解)(おびとき)
中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に七五三の祝(シチゴサンノイハヒ)で立項。例句は髪置、袴着、帯解の句で、七五三はない。高浜虚子『新歳時記』(三省堂、昭9)の(七五三妻も大人となりにけり 景山筍吉)が例句の初出か。
障子(しょうじ) (類題・傍題 明かり障子(あかりしょうじ) 衝立障子(ついたてしょうじ) 襖障子(ふすましょうじ) 冬障子(ふゆしょうじ) さうじ)
今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に立項し、解説と例句(手習の墨のはねたる障子かな 靄人)がある。
除夜の鐘(じょやのかね) (類題 百八の鐘)
除夜は古くからの季語であるが、「除夜の鐘」の立項は、今井柏浦『新校俳諧歳事記』(修省堂、大14)に除夜の傍題としてあるのが初出か。例句の初出は、同じく今井柏浦による『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)で(除夜の鐘京の寺々つきあへる 野風呂)。
白息(しらいき) (類題・傍題 息白し(いきしろし))
長谷川零餘子『袖珍俳句歳事記』(春水社、大8)に「息白し」。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)に解説と例句(白き息はきつヽこちら振返る 草田男)がある。同時期の、宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)や水原秋桜子『現代俳句季語解』(交蘭社、昭7)には立項されていない。
隙間風(すきまかぜ)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、大3)に季題のみ掲出。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)に解説と例句二句(退屈をして隙間風ありにけり みづほ)(隙間風寝るほかはなき夫婦かな 泥中)がある。
セーター (類題・傍題 冬シャツ カーディガン)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、大3)の冬洋袗(ふゆシャツ)の項に初出。小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)も冬シャツの類題でスヱーターとあり、例句(冬シャツの手首机に汚れけり 叱風)がある。虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8 改造社)も冬シャツの項に例句(代り著て一つスエタや老夫婦 芝)があり、これがセーターの例句の初出か。
咳(せき) (類題 しはぶき すわぶき 咳(せ)く)
虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8 改造社)で、解説と例句(もの問へば咳入る僧や納經所 了悟)。・・・註 上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』増訂版(昭9、俳書堂)に立項があるが、初版(大、3)は未詳。
千両(せんりょう)(仙寥) (類題・傍題 草珊瑚 万両(まんりょう))
従来は秋の立項。冬季としての立項は、宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)が初出で、解説と例句(仙寥や獵師わけ入る山の口 麥雨)(千兩に一むら雨や深山寺 々)がある。
漱石忌(そうせきき)
今井柏浦『新校俳諧歳事記』(修省堂、大14)に立項したのが初出(例句なし)。柏浦『詳解例句纂修歳事記』(修省堂、大15)に例句(俳人は子規系のみぞ漱石忌 波石)。小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)に(全集を持たねば淋し漱石忌 玉蹊子)がある。
大根(だいこん) (類題・傍題 おほね だいこ 大根引 土大根 野大根 活大根) 古来「大根引」が季語とされ「大根」は通年で雑の扱い(『滑稽雑談』)や「大根引」の省略(『貞亭式』)であった。冬季「大根」の立項は『俳諧貝合』(明7)にあるが、「大根引」の省略か。虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)に区別の明らかな立項がある。例句は、木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)(大根もて來しが看經拜み去る 句佛)が初出か。
スキー (類題・傍題 雪滑り ゲレンデ シュプール シャンツェ スキー列車 スケート 氷滑り アイスホッケー)
中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)は、「コホリスベリ」で立項がある。長谷川零餘子『袖珍俳句歳事記』春水社、大8)は「氷滑(スケーチング)」の例句に(雪国の第二師団のスキーかな 兎子)。スキーの立項は今井柏浦『新校俳諧歳事記』(大、14修省堂)が初出か。例句一。
暖房(だんぼう) (類題・傍題 ストーブ 炬燵 スチーム ヒーター 暖炉 オンドル ペチカ)
虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)に暖爐の傍題で「ストーブ」。鼠骨『歳時記例句選』(明36)は囲炉裏の傍題で「暖炉、ストーブ」。例句に(退出を更に暖爐に語るかな 悟空)。「スチーム」の立項は、迂外『最新俳句歳事記』(昭5)(スチームや膝觸れ合ふてクッションに 紅灯子)や、虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8)は例句(暖房や葭の衝立扉を隠す 誓子)など三句がある。
手袋(てぶくろ) (類題・傍題 手套(しゅとう・てとう) 手覆(ておほひ))
寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)は襟巻の項に類題として手套を立項。例句に(手袋の指出るまでに成りにけり 稲)がある。大江濤畝『新歳時記』(寶文館、明36)も手套で立項。今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)には「手袋」で立項があり、例句に(手袋の指出るまでになりにけり 稻)。
冬耕(とうこう) (類題・傍題 土曳(つちひき) 客土(きゃくど) 冬打(ふゆうち) 冬(ふゆ)うない) 戊子『昭和大成新修歳時記』(昭7)や虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8)には立項がない。新潮社『俳諧歳時記』(新潮文庫、昭26)に立項。例句に(冬耕の一人となりて金色に 西東三鬼)他二句。水原秋桜子『新編歳時記改訂版』(大泉書店、昭32)に立項があり、例句(冬耕の婦がくづほれて抱く兒かな 蛇笏)他四句がある。
日記買う (類題・傍題 新日記)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(大3、俳書堂)に立項。例句の初出は、高浜虚子『新歳時記』(昭9、三省堂)(實朝の歌ちらと見ゆ日記買ふ 邨)ほか二句か。宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(昭7、東京引文社)、虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8 改造社)ともに立項はあるが例句はない。
白菜(はくさい) (類題・傍題 冬菜 漬菜)
今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)冬菜の傍題に白菜。虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8、改造社)には冬菜の傍題に白菜があり、例句(白菜の山にさしある庖刀かな 眼子)(白菜の山東戎克來はじめぬ 双松)他一句がある。上川井梨葉『増訂版新撰袖珍俳句季寄せ』(昭9、俳書堂)に立項があるが、初版は未詳。
日脚伸ぶ(ひあしのぶ) (類題・傍題 日脚伸びる)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(大3、俳書堂)、虚子他『俳諧歳時記冬』(昭8、改造社)に立項があるが例句はない。例句の初出は高浜虚子『新歳時記』(昭9、三省堂)(選集にかヽりし沙汰や日脚のぶ 虚子)。
日向(ひなた)ぼこ (類題・傍題 日向ぼこり 日向ぼつこ 日向ぼつこう)
俳諧作法書の『世話焼草(せわやきぐさ)』(『世話尽』とも、明暦二)や『をだまき綱目』(元禄十)に所収。近代の歳時記における立項は中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)で、日向誇(ひなたぼこり)とある。例句の初出は小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)で、日向ぼつこで立項し(身じろがね日向ぼつこの盲かな しづを)一句。
蕪村忌(ぶそんき) (類題・傍題 春星忌)
寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)に解説と例句(風呂吹や蕪村百十八回忌 子規)(蕪村忌や雪に會する五六人 茶村)がある。
冬支度(ふゆじたく)(冬仕度)
上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、大3)に初の立項。今井柏浦『増補版俳諧例句新撰歳時記』(博文館、大5)に例句の初出(そこばくの質受けもして冬支度 蛇錫)がある。宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)にも解説と同じ例句(そこばくの質受もして冬支度 蛇錫)がある。
冬薔薇(ふゆそうび)(ふゆばら) (類題・傍題 寒薔薇(かんそうび)(かんばら))
高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)に季題のみで立項。今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に例句(破垣に冬の薔薇咲き鷦鷯 桂堂)がある。見出しに「ふゆばら」と訓みをあてたのは山本健吉『新俳句歳時記』(光文社、昭31)が初である。
碧梧桐忌(へきごとうき) (類題・傍題 寒明忌(かんあけき))
富安風生『俳句歳時記』(平凡社、昭34)に解説と例句(二月先づ碧梧桐忌や畑平ら 泉天郎)がある。また、角川書店『図説大歳時記冬』(角川書店、昭40)に先の例句と(今昔をけふも読み居り寒明忌 瀧井孝作)の二句がある。
ポインセチア (類題・傍題 猩猩木(しょうじょうぼく))
山本健吉『新俳句歳時記』(光文社、昭31)に解説と例句(宴果てぬ猩猩木(ポインセチア)の緋に疲れ 文挟夫佐恵)がある。また、富安風生『俳句歳時記』(昭34、平凡社)には立項があるが例句はない。角川書店『図説大歳時記冬』(昭40、角川書店)には、例句(小書?もポインセチアを得て聖夜 風生〈愛日抄〉)がある。
マスク
今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)に立項。例句(マスクかけて火鉢の灰を篩ひけり 桃丘子)がある。上川井梨葉『増訂版新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、昭9)に立項。初出(大3)は未詳。
マフラー (類題・傍題 襟巻 首巻 ネッカチーフ ショール)
襟巻は近世から見られるが、マフラーの初出は、虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)で、「襟巻」の傍題に「マツフラー」とある。例句の初出は富安風生『俳句歳時記』(平凡社、昭34)の(基地に近き女は派手にマフラ巻く 小西翠雨〈夏草〉)(マフラーに隠す五十の喉仏 水芭蕉〈鶴〉)か。
豆撒き(まめまき) (類題・傍題 豆打ち 追儺(ついな) なやらい 鬼やらい 柊さす 福は内 鬼は外 年の豆)
追儺と豆撒きは由来が異なる。虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)は節分の傍題に「撒豆」。鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)も節分の項に撒豆(まめまき)があり、解説と例句(追はれてや脇に外る鬼の面 荷兮)他五句の例句。中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)は節分の項に例句(豆をうつ聲のうちなる笑かな 其角)がある。
雪吊(ゆきつり)
中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に立項があるが、例句はない。例句の初出は、今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(修省堂、大15)で(雪吊や一枝はねし塀の外 紅水)。虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)には立項はあるが例句はない。
湯(ゆ)ざめ
虚子他『俳諧歳時記冬』(改造社、昭8)に立項があるが解説のみ。高浜虚子『新歳時記』(三省堂、昭9)には解説と例句(眉畫くや湯ざめごヽちのほのかにも 枴童)がある。
柚子湯(ゆずゆ) (類題 冬至風呂(とうじぶろ) 冬至湯(とうじゆ) 柚風呂)(ゆぶろ)
『俳諧発句当時流行季寄新題集』(嘉永元)は十月に「柚風呂」。中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に立項があるが例句はない。木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)に例句(柚子湯や日がさしこんでだぶりく 鬼城)(手拭に香のうつりたる柚子湯かな 乾山)(柚子風呂や蜜柑の皮もまじり居る 繁枝)がある。
ラグビー (類題・傍題 ラガー)
『図説大歳時記冬』(昭40)に、昭和八年に山口誓子が季題としたとあるが、すでに小泉迂外『最新俳句歳事記』(昭5、平凡社)に立項されており、例句(ラグビーの颯爽として飛躍かな 西邨)がある。水原秋桜子『新編歳時記』(大泉書店、昭26)の例句に(ラグビーの饐ゑしジャケツを着つゝ訓れ 誓子)(ラグビーの多勢遅れて馳けり來る 同)他四句がある。
Copyright - S.Hashimoto