近代季語についての報告(二)秋季・新年編   

                 文学研究科 国文学専攻

            博士後期課程

                     橋本 直

サマリー

 本報告は明治近代にはいって新しく季語として歳時記におさめられた語について調査したものであり、「冬季編」(「中央大学大学院論究」第三十三号文学研究科篇二〇〇一年三月の続編である。

 明治に入って最も初期に、太陽暦に準じ編集された歳時記である『俳諧貝合』(明治七年)をはじめ平成に入って出版された歳時記に至るまで、代表的な歳時記を中心に、できうる限り多くを調査し、明治以降に初見と思われる季語を抽出し、また併せて例句の初出と思われるものをあげている。

 

目次

一、はじめに

二、秋季編

三、新年編

四、おわりに

     一、はじめに

 本稿は近代における新季語の初出を調査する試みであり、同「冬季編」(「中央大学大学院論究」第三十三号文学研究科篇二〇〇一年三月)の続編である。筆者は、俳句において歳時記と季語のもつ機能に焦点を当ててゆく意図を持つが、本報告は、その手始めとして、近世には見られず、近代以後に出版された歳時記に初出となる季語を調査したものであり、あわせて例句の初出もとりあげている。

  〈凡例〉

一、明治初年以来から平成に至る迄に出版された主要な歳時記をできうる限り調査し、季節別に五十音順で配した。なお、これについては、以下の資料によった。

・国立国会図書館『国立国会図書館蔵書目録』

・越後敬子氏「明治俳書出版年表」(一)〜(三)((一)実践女子大学文学部紀要第四十一集別冊(二)(三)国文学研究資料館文献資料部『調査研究報告』第十八・十九号)

・筑紫磐井氏「俳句歳時記総論−歳時記の宇宙」(『歳時記の宇宙』シリーズ俳句世界4雄山閣出版)

 

一、なるべく初版をあたったが、上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(大3、俳書堂)については、初版がみつからず、やむなく増訂版(昭9)に頼った。ただし、角川書店『図説大歳時記』(昭40、角川書店)解説に指摘のあるものがあり、これらについては解説文中では大歳時記に従って一応初版の扱いにしている。

 

一、増補改訂をしているものは、できる限りその違いも見たが、歳時記によっては、どちらかしか残ってないか、増補改訂の有無も不明であるので、その点の調査は不充分なものにならざるをえなかった。 

 

一、なお、以下のものは、近世以来の季題とあいまいな点があり、できる限り調査したが不明瞭な点が残った。

・玉蜀黍(秋)とうきびとも呼ばれており、歳時記においても同名の「蜀黍」との区別が不明瞭

・凧(新年)江戸期の歳時記にも立項があるが季節が不明瞭。

 

一、季語/季題の呼称はなるべく引用した歳時記にあわせた。それ以  外は季語を用いた。

 

一、旧仮名の振り仮名は『俳諧歳時記』(昭8 改造社)中谷無涯『新  修歳時記』(東京俳書堂、明42)を中心に確認した。

 

・調査歳時記一覧(初版出版年代順) 

B  藍亭藍  『俳諧歳時記栞草』(明25、積善館)〈初出、嘉永四年〉

A  文豊斎蓼左 『俳諧三千題早引略解』(明4、須原屋茂兵衛等)

A  能勢香夢  『俳諧貝合』(明7、酒井文栄堂)

A  横山利平  『新編俳諧題鑑』(明9、三森幹雄・伊藤有終)

A  萩原乙彦  『新題季寄俳諧手洋灯』(明治13)

A  浜真砂   『明治増題俳諧新部類』(明13、藤森平五郎) 

A  山内梅敬  『明治新撰俳諧季寄鑑』(明13、京都文開堂)

A  山口素揚  『古今新撰式部類大全』(明治15)

A  花月園為麟 『新選俳諧明治歳時記講義』乾・坤(明25)

A  高浜虚子  『袖珍俳句季寄せ』(明36、俳書堂)

A  寒川鼠骨  『歳時記例句選』(明36、内外出版協会)

A  大江濤畝  『新歳時記』(明36、寶文館)

A  寒川鼠骨  『俳句新歳事記』(明37、大学館)

b  今井柏浦  『俳諧例句新撰歳時記』(明41、博文館)

A  中谷無涯  『新修歳時記』(明42、東京俳書堂)

A  阪元雷鳥ほか『新式解説俳句大辞典』(明44、博文館)

C  今井柏浦  『新校俳諧歳事記』(大14、修省堂) 

a  木蒼梧  『大正新修歳事記』(大14、資文堂)

C  今井柏浦  『詳解例句纂修歳事記』(大15、修省堂) 

C  小泉迂外  『最新俳句歳事記』(昭5、平凡社)

a  宮田戊子  『昭和大成新修歳時記』(昭7、東京引文社)

C  水原秋桜子 『現代俳句季語解』(昭7、交蘭社)

E  大谷句佛 他 『俳諧歳時記・新年』(昭8、改造社)

E  松瀬青々他 『俳諧歳時記秋』(昭8、改造社)

E  高浜虚子他 『俳諧歳時記冬』(昭8、改造社)

C,D上川井梨葉 『新撰袖珍俳句季寄せ』増訂版(昭9、俳書堂)(初版大3は未見)

C  高浜虚子  『新歳時記』改訂版(昭15、三省堂)(初版昭9)

a  宮田戊子  『歳時記例句集』(昭19、みたみ出版)

C  水原秋桜子 『新編歳時記』(昭26、大泉書店)/b,D(同改訂版、昭32)

b  新潮社   『俳諧歳時記』(新潮社、冬・新年昭25・秋昭26)

b  山本健吉  『新俳句歳時記』(昭31、光文社)

E  富安風生  『俳句歳時記』(昭34、平凡社)

b  石田波郷  『現代俳句歳時記』(昭38)

'b  角川書店  『 図説大歳時記』(昭40、角川書店)

b  角川書店  『合本俳句歳時記新版』(昭49、角川書店) 

E  大野林火  『ハンディ版入門歳事記』(昭59、角川書店)

E  平井照敏  『新歳時記』(平成1年、河出文庫

E  金子兜太  『現代俳句歳時記』(平1、チクマ秀版社)

E  現代俳句協会 『現代俳句歳時記』(平11、現代俳句協会)

(A 国立国会図書館所蔵(マイクロ)、a 国立国会図書館所蔵(実物)、B 中央大学図書館蔵(マイクロ)、b 中央大学図書館(実物)、b 中央大学国文学研究室、C 俳句文学館蔵、D 早稲田大学中央図書館蔵、E 橋本個人所蔵)

 

二、秋の部

 

秋彼岸(類題・傍題 後の彼岸)

 能勢香夢『俳諧貝合』(酒井文栄堂、明7)は「彼岸」、横山利平『新編俳諧題鑑』(三森幹雄、伊藤有終、明9)は「彼岸」として九月に立項。「秋彼岸」としての立項は木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)が初出。例句に(お萩腹秋の彼岸の暮れかかる 句佛)ほか二句がある。

 

コスモス(秋桜・大布爾斯) (類題・傍題 秋桜 大波斯菊(大布爾斯菊))

 中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)は季題のみ。阪元雷鳥ほか『新式解説俳句大辞典』(博文館、明44)は解説と(コスモスの畫室に狂ふ日影かな 痩佛)(コスモスに縁紗を垂れぬ憎きさま 浅茅)など四句の例句がある。

 

西鶴忌

 今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に解説のみで立項。中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に例句(西鶴忌色濃き花を供へけり 獄轣jがある。

 

秋刀魚(類題・傍題 さいら 初さんま)

 高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)が歳時記初出か。例句はない。また、今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)は冬季に立項。例句の初出は、柏浦『増補版俳諧例句新撰歳時記』(大5、博文館)の(秋刀魚買う一擲銭や酒価も問はず 青嵐)か。

 

子規忌(類題・傍題 糸瓜忌 獺祭忌)

 高浜虚子『袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、明36)に「糸瓜忌」で立項が歳時記初出か。例句の初出は、今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)、解説と(糸瓜忌や芒十句に日の暮るヽ 青々)(向上一路こヽに營む子規忌哉 碧童)(寫せども其像に似ず獺祭忌 泡村)の三句がある。

 

秋思(類題・傍題 傷秋 秋哀れ 秋寂し)

 宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)にはまだ立項はない。松瀬青々他『俳諧歳時記秋』(改造社、昭8)に立項されたのが初出か。解説と例句(きぬくに木艸の觸れて秋思かな 々)がある。

 

生姜(生薑・薑)(類題・傍題 薑 葉生姜 新生姜くれのはじかみ 生姜掘る) 

 江戸期以前の季語は、薑、新生姜、葉生姜。「しょうが」としての立項の初出は今井柏浦『新校俳諧歳事記』(修省堂、大14)「薑」か。また、例句の初出は、小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)の(水霜やすくもおちつヽ生姜畑 素芳)(苣の葉の落つるはじかみ引きに鳧 鐵南)か。

 

蛇笏忌(類題・傍題 山廬忌)

 没年の翌年刊行の、石田波郷『現代俳句歳時記』(番町書房、昭38)に立項があり、解説と(黄菊白菊俳諧仏となり給ふ 中川宋淵)(満山の露荘厳す蛇笏の死 石塚友二)(蛇笏忌の夜の底ひの露の群 石原八束)など五句の例句がある。

 

燈火親し(類題・傍題 燈火親しむ 燈下親し 読書の秋 夜学)

 今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(修省堂、大15)に「秋の燈」の傍題で立項し、例句に(相侍りて燈火親しむ机かな 冬草)がある。松瀬青々他『俳諧歳時記秋』(改造社、昭8)は夜学で立項し、傍題に燈火可親、例句に(艸庵に灯火親しき時となり 々)。

 

玉蜀黍(類題・傍題 唐黍 もろこし 南蛮黍 難波黍 高麗黍 高黍 黍)

 近世の歳時記には、なんばんきびとして立項。明治初期においても同様。唐黍、とう もろこしとも呼ばれ、同様に呼ばれた蜀黍(高黍)との区別は困難で、明治期には区別しない歳時記もあった。大江濤畝『新歳時記』(寶文館、明36)は玉蜀黍で立項。小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)に例句(玉蜀黍折る母に月ありにけり 梨秋)がある。

 

冬支度(冬仕度) 

 上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、大3)に初の立項。今井柏浦『増補版俳諧例句新撰歳時記』(博文館、大5)に例句の初出(そこばくの質受けもして冬支度 蛇錫)がある。宮田戊子『昭和大成新修歳時記』(東京引文社、昭7)にも解説と同じ例句(そこばくの質受もして冬支度 蛇錫)がある。 

 ・・・註「冬季編」に入れていたが、もちろん秋季の誤りであり、ここに訂正する。

 

檸檬(レモン)

 上川井梨葉『改訂版新撰袖珍俳句季寄せ』(俳書堂、昭9)に立項がある。例句の初出は角川書店『合本俳句歳時記』(角川書店、昭31)の(旅の夜を檸檬しぼるや孤りなり 星野麦丘人)。水原秋桜子『改訂版新編歳時記』(大泉書店、昭32〈初版昭26〉)は初冬で立項。(冬凪の檸檬色づくほのかなり 秋桜子)ほか二句。

 

三、新年の部

 

駅伝(類題・傍題 駅伝競走)

 現代俳句協会『現代俳句歳時記』(現代俳句協会、平11)が初出か。例句に(箱根駅伝坂白くして処女のごとし 熊谷静石)がある。

 

賀状(類題・傍題 年賀状 年賀郵便 年賀はがき 年賀電報 年始状)

 賀状での立項は今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)に「年賀」の傍題として初出。例句の初出は大谷句佛他『俳諧歳時記新年』(改造社、昭8)の(筆硯の霑ひや賀状すみて猶 右衛門)他十四句。また、「年賀状」は大江濤畝『新歳時記』(寶文館、明36)が初出か。

 

独楽(類題・傍題 叩き独楽 ぶしやう独楽 海螺独楽 唐独楽 半鐘独楽 ごんごん独楽 博多独楽 銭独楽)

 もともと「海?廻」が秋の季語で、正月の季語とされたのは虚子以来。大谷句佛 他『俳諧歳時記・新年』(改造社、昭8)には立項がない。高浜虚子『新歳時記』(三省堂、昭9)冬(一月)が初出。例句は、同改訂版(昭15)に(まはり澄む二つのこまに二少年 たか)(たとふれば独楽のはじける如くなり 虚子)の二句。

 註 上川井梨葉『新撰袖珍俳句季寄せ』増訂版(昭9、俳書堂)に立項があるが、初版は未詳。

 

凧(類題・傍題 正月の凧 凧上げ 紙鳶(いかのぼり いか はた しえん) 凧合戦 凧糸) 

 もともと三春の季語とされ、新年立項の初出は『俳諧発句当時流行季寄新題集』(嘉永元年)か。現代も春季と両方の季に立項される。今井柏浦『新校俳諧歳事記』(修省堂、大14)に「由来春季に編入しあるも、新春多く玩びて正月気分を唆るもの多きを以て新年に入る」とある。新年立項での例句は、小泉迂外『最新俳句歳事記』(平凡社、昭5)(大凧のうなりに晴るゝ山河かな 彩雲)ほか二句が初出か。      

 註 春季の由来としては『滑稽雑談』に「他季にては風に過不及あり春風に時を得たり」とある。また、長崎の凧上げが著名なためともいわれる。

 

初鏡(類題・傍題 初化粧)

 中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)に立項があり、解説と例句(梅や紅人のけはひの初鏡 鬼貫)がある。今井柏浦『増補版俳諧例句新撰歳時記』(博文館、大5)も例句は鬼貫。今井柏浦『詳解例句纂修歳事記』(大、15修省堂)に解説と例句(ねもごろにひく眉墨や初鏡 素月)(初化粧外の面は子等のさわがしく 鳴々子)がある。

 

初春(「類題・傍題 明の春 今朝の春 千代の初春) 

 文豊斎蓼左『俳諧三千題早引略解』(須原屋茂兵衛等、明4)の正月に立項があるが、旧暦によっているので、今の立春にあたろう。新年としての初出は、今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(明41、博文館)で、例句に(初春や往交ふ人の花の袖 石言)がある。

 

初詣(類題・傍題 初参 初社 初祓 初御籤)

 今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に立項があるが、例句はない(大歳時記〈角川書店〉に、例句ありとの注があるが、初版にはない)。木蒼梧『大正新修歳事記』(資文堂、大14)に(大雪に賽銭減りぬ初參 三允)等七句の例句がある。

 

春着(類題・傍題 正月小袖 春小袖 春襲 春衣装) 

 今井柏浦『俳諧例句新撰歳時記』(博文館、明41)に立項があり、例句(春服や波に千鳥の裾模様 白圭)がある。中谷無涯『新修歳時記』(東京俳書堂、明42)には解説のみの立項。同時期の、寒川鼠骨『歳時記例句選』(内外出版協会、明36)『俳句新歳事記』(大学館、明37)、阪元雷鳥ほか『新式解説俳句大辞典』(博文館、明44)には立項がない。

 

     四、おわりに

 本来、一年の自然・人事百般の記録である歳時記が、近世末期の『俳諧歳時記栞草』より俳句のための季語集としての性格を多く担って今日に至るまで、非常に多くの歳時記が出版されている。各歳時記に載っている季語の数はまちまちであり、出版社が企画した歳時記は個人のそれより大部になる傾向がある。ある言葉が季語であるのかないのか、いつの季節にはいるのかということは俳人には重要なことであるが、すべての歳時記に統一の基準があるわけではない。

 本稿は明治以降の歳時記において新出の季語に限って、いつ選ばれ、なんと詠まれたか調査したものである。しかし、そのすべてを網羅できたわけではなく、今後とも調査を続けていきたいと思っている。また、今回の調査では確認しきれなかったが、「陸軍始」「海軍始」等軍事関係の行事や植民地季語とでもいうべきものなどをはじめとして、明治以後にあらわれて昭和初期で消えていった季語も少なくない。これら多くの季語の調査分析をすることで、今後、作家中心ではない俳句の歴史を見ていくことが出来るのではないかと考えている。

 

  戻 る

 ホーム

 Copyright - S.Hashimoto