斉藤英雄著 『山頭火・虚子・文人俳句』  

 本書は三部構成からなり、各部三本の俳句に関する論考をおさめる。いずれも、平成以降に発表されたものである。標題の通り、第一部で種田山頭火、第二部で高浜虚子、第三部では眉村卓、藤沢周平、結城昌治ら小説家の俳句をとりあげている。

 第一部のT・Uでは、山頭火とその師である荻原井泉水らがともに阿蘇近辺を周遊した日付に関する既存の年譜の記述の食い違いについて、地元の資料を洗い直すなどしてその誤りを正し、さらにその同行者や句会の内容を詳細に調べ、山頭火にとってのその体験の意味について論じている。Vでは山頭火の代表句の一つである「まつたく雲がない笠をぬぎ」がどこで詠まれたのかについて、従来分かれていた説を資料から整理して宮崎に確定し、それに伴い阿蘇で詠まれたという説に基づくいくつかの解釈や鑑賞をしりぞけている。

 第二部では、虚子の阿蘇の句で当地の民具「芋水車」を詠んだ二句について、歳時記の解説などでは不十分であった点を現地取材により補い、より詳しい解釈をしたTをはじめ、U・Vにおいても、同様に「大観峰」「龍」の句の成立過程を丹念に調査したうえで解釈をしている。

 このように第一部と第二部は共に阿蘇にまつわる俳人の行動をつまびらかにし、その時詠まれた俳句の成立過程を、事実を丹念に追い実証的に考察している。名の知れた俳人が地方を訪れるとき、歓待する地元の俳人に、当地の景物などを詠んで挨拶句とすることは普通に行われることだが、活字になったときに何の詞書もなければ、他人には何の事やらわからない場合も少なくない。そのような俳句の解釈を、実証的に積み重ねていく作業も俳句の研究者には必要な仕事であろう。  第三部は他とまったく異なり、作家のなかでも俳人であることをあまり知られていない人々をとりあげ、その句歴や作品を紹介する内容となっている。

 T「俳句とSF」U「俳句と時代小説」V「俳句と推理小説」と題されてはいるが、論の題と内容はあまり連関があるとは言えず、それぞれ違うジャンルの小説家を一名ずつ、俳句に関する伝記的事実をとりあげたものである。また、なぜこの三人かという必然性はないようで、著者は漱石が小説と俳句両方つくっていたことから同様の作家に興味が広がったと巻末で述べている。とはいえ、各作家に直接のつながりはないが、文中にある投句先や師事した人がいずれも水原秋桜子・石田波郷の系列に繋がる俳歴の作家ということは読み進めていくうちにわかる。  各論を総括して言えることは、俳人個々、作品個々に対する素朴な疑問に対する答えを求める真摯な姿勢ということになろうか。             (一九九九年九月二〇日 菊六判二五五頁  定価二六二五円 おうふう)                                       [はしもと・すなお 中央大学大学院生・俳人]                                

 

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