バイオテクノロジー政策の現状と今後の課題について
2000年12月
1.我が国の現状
- ITと並ぶ成長産業と考えられるバイオ産業分野は、重点的な政策の発動を前提に、2010年における市場規模が現状の約1兆円強から25兆円に拡大することが見込まれている。
- 1999年1月、科学技術庁、文部省、厚生省、農林水産省、通商産業省の5閣僚申合せにより、「バイオテクノロジー産業の創出に向けた基本方針」、7月に同「基本戦略」が策定され、バイオテクノロジーの産業化を目指して、各分野の研究及び事業化を整合的に進めていく方向が打ち出された。
- これを受け、今年度からスタートしたミレニアムプロジェクトの高齢化分野の中において、バイオテクノロジー振興に対してプロジェクト全体の2分の1強(640億円)の予算配分がなされた。
- こうした結果、全体として欧米、特に米国にかなり水を空けられていた研究開発も、我が国独自の技術(ヒトの遺伝子部分だけを端から端まで完全な形で取り出して解析するという完全長cDNA技術、穀物の代表的品種であるイネのゲノム解析)等の活用によって、現在急速に欧米を追い上げているところである。こうした努力により、1997年時に60社程度であった我が国バイオベンチャー企業数が、現在(2000年秋)、140社程度にまで拡大している。(なお、米国には約1300社、欧州には約700社のバイオベンチャー企業が存在する。)
- バイオテクノロジーについては、国際競争に打ち勝って国際的な競争優位を確保するために、ここ3〜4年が死活的に重要な時期であることから、我が国の強みを活かした先端的な課題に対して、政府が一体となって取り組み、思い切った政策の発動が不可欠である。
2.今後の主要な政策課題
- IT技術を活用したタンパク質解析の推進
- 遺伝子配列(遺伝子を構成する4種の塩基(A,T,G,C)の配列)は、ここ数年でほぼ全体が明らかとなる見込みであることから、遺伝子機能を担うタンパク質の構造・機能解析が国際的な開発競争の焦点になっている。
- これを受けて、我が国の研究開発の重点を、遺伝子配列の解析から、遺伝子機能の解析(タンパク質構造・機能の解析)(注)へと移していくことが必要となっている。また、この機能解析を超効率的に推進するためには、IT技術の活用(バイオインフォマティクス)が不可欠である。
- (注)遺伝子機能の解析とは
- 4種の塩基配列で表現される遺伝子は、体内で生体機能を担っているタンパク質を生成するための設計図である。
- ある遺伝子がいかなるタンパク質を生みだし、そのタンパク質がいかなる機能及び構造を有するかを解析することで、ある特定の遺伝子が、がん、糖尿病等の疾患や薬剤応答性等においていかなる働きをするかを解明できる。
- これによって、遺伝子情報に基づく創薬や個体差に応じたオーダーメイド医療の可能性が開けてくる。こうした可能性につながる遺伝子機能の解明が行われて初めて、特許取得の適格性を認めようというのが日米欧特許機関の共通認識である。
- 遺伝子の配列及び機能に関するデータが日々蓄積されているところ、この膨大なデータを整理・蓄積し、いかに活用するかが今後の開発競争の分け目となる。このため、バイオインフォマティクスとよばれる、情報処理技術を活用して効率よく遺伝子の機能の解析を行うべく、データベースの整備、解析手法やソフトの開発が行われつつある。近時、我が国でも日立、富士通、NEC等の情報系企業が本格参入している。
- バイオテクノロジーの産業化の推進
- バイオテクノロジーの産業化の対象分野としては、医療・創薬、食品、化学・環境、各種検査・解析等が有望視されており、これを実現化するために、実用化技術の開発、産学連携の強化、バイオ・ベンチャービジネスの創出といった産業化の推進が必要である。
- (注)バイオ関連研究開発プロジェクトの多くは、大学の教授陣の指導の下で民間企業の結合体に委託する形で実施されている。その研究の成果で特許を取得する権利を受託者たる民間企業等に帰属させたり(産業活力再生法)、国立大学教授がベンチャー等私企業の役員を兼職することを許容(産業技術強化法)したりすることにより、研究成果の速やかな産業化を志向している。
- 特にバイオの産業化分野の一つとして、微生物の遺伝子機能を活用して新しい化学物質を生産し、或いは、既存の生産プロセスを省エネ型・低環境負荷型のものに返還するといった生産方法は、環境問題の解決策として有望(グリーン・バイオ・イノベーション(注))である。
- (注)アメリカは、今年の予算教書でかかるグリーン・バイオ分野に対して、2.9億ドルの予算投入を発表するなど、バイオテクノロジーの今後の発展領域として注力している。
- 産業化のための環境整備
- バイオテクノロジーの研究開発の成果を円滑に産業化に繋げるためには、@特許制度・運用の国際的調和などの事業環境の整備とともに、社会的、文化的側面を踏まえ、A倫理面的課題に対応するためのルール作りやBプライバシー保護のための制度整備、C安全性に関する情報の蓄積と国民への提供など、国民意識に的確に応える環境整備が必要である。
- 「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が平成12年12月6日に公布
- 「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」について、科学技術会議生命倫理委員会ヒト胚研究小委員会において検討中。
- 「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を文部省、厚生省、通産省及び科学技術庁が共同して策定作業を進行中。
- 個人遺伝情報が係わる産業活動において留意すべき事項について、通商産業省化学品審議会個人情報保護部会において、平成12年12月4日、中間報告を取りまとめた。
- 国家戦略の確立と着実な実行
- 我が国の資源を有効に活用して、国際競争力の確保を図るためには、産学官の英知を結集し、中長期的な視野に立った国家戦略を策定し、政府が一体となって着実に実施していくことが必要である。
- 同時に、実施状況について、政策レベル、事業レベル、個々の研究課題など、各段階の評価を厳格に行い、その結果を実行計画にフィードバックすることが必要である。
