- 1票の価値についての憲法14条に関する判決はこれまで多数出されているが、その基本的判断は、一つの選挙区における人口総数÷議員数(=A)が他の選挙区におけるAの2倍を上回ることは望ましくないという点にある。一方の住民の2人分を合わせても他方の1人分にも満たないということは不適当である。これまでの最高裁判決は、実態が3倍にまで拡大していることを踏まえて、3倍を越えれば明らかに違憲といえるとしているが、本来2倍未満であるべきことは明言されており、現行法にも「選挙区間の人口格差が2倍以上とならないようにすることを基本とする」と明言されている(衆議院議員選挙区画定審議会設置法3条1項)(学説 芦部信喜「憲法」岩波117頁ほか)。
- したがって、すべての関係者(立法府、行政府、審議会、司法)は2倍未満達成を最大の目標にすべきことは論を待たない。
- 他方、法令上の規定として、各都道府県に1議席を割りふってから人口比で残議席を全都道府県に割りふる規定も設けられている(同上法3条2項)。この趣旨は、我が国の地方行政の単位が47都道府県に分割されており、人口的ばらつきも大きいことから定められており、本来、東京都が29又は30人、鳥取県1人、島根・高知・徳島・佐賀・福井・山梨の6県が2人になるべきところを東京都25人、鳥取・島根県を2人、他の5県を3人とすることにしている(答申ベース)。
- 法改正前は511議席中、鳥取4人、島根5人、徳島5人、高知5人、佐賀5人、福井4人、山梨5人であったことも考慮した規定であると思われるが、都道府県別にみて、できる限り国政に民意が反映できるよう配慮するという国会の意思の表われであるといえよう(比例も合計して東京都は25+17人=42人の代表を選出しており、単純人口割で計算すれば45〜46人(480×人口比9.50%=45.6人)であるところを3〜4人地方に譲る結果になっている)。
- このほかに、地方の住民からは、有権者数(地方ほど高齢化している)、投票率(地方ほど関心が高い)、面積などを加味せよという声も大きい。これらを加味して数値化することは困難であるので、1議席配分が行われているとも考えられる。
- しかし、1議席の配分の結果、格差が2倍を超えることを直ちに容認するものではなく、立法府及び行政府がこれを越えないよう最大限努力すべきことは論を待たない。したがって、1議席配分の結果、2倍を超える選挙区が出やすい状況があるからといって、これを削減する努力を怠る理由にはならないのである。
- 今回、答申案においてこれまで2倍を超える選挙区が95を数えたことの主因であった島根県を1減の2議席とし、これに次ぐ高知・徳島・佐賀3県の選挙区の最小人口を270,743人にしたことにより、全国の格差2倍区をゼロにすることがはじめて容易になったことは極めて妥当な答申である。
- この点の配慮をしたからには、最小人口選挙区を基準として、他のすべてに優先して300選挙区の人口を541,486人未満にすべきことは、法律の趣旨からみて我々が努力すべき最優先の課題である。
- 審議会(というよりは事務局の総務省)は、従来総人口を300で除し、その3分の2倍を最小区人口、3分の4倍を最大区人口として、原則2倍(4/3÷2/3=2)とする計算式を採用してきた。
- この算式は作業の目安としては興味深い考え方であるが、実は何ら論理的妥当性は存在しない。なぜ3分の2なのか、なぜ3分の4なのかを考えてみれば明白である。こうすれば2倍になるという観念的算式であり、現に3分の2の28万人を下回る27万人が最小選挙区人口である以上、最小選挙区27万人×2の54万人を最大選挙区とする方が憲法理論上も妥当であることは明らかである。
- 「3分の2、3分の4議論」は、2倍を超える選挙区が残存してしまうことへの免罪符として使われてきたのであって、実際に2倍を切ることができる点まで審議会の意見が到達している以上、すべてのいきがかりを捨てて全選挙区2倍未満を今回実現することが妥当である。
- 今回2倍未満を達成しておけば、来たるべき5年後、10年後の議論のときに、積極的な議論が展開できるのである。次回において2倍超の選挙区が出現することは許されないという環境をつくるためにも、今回の好機を逃してはならないのである。
- 最大選挙区の郡市区町村を分割するべきでないとの議論は、すでに多数の例外によって破られている。東京特別区や県庁所在地、川崎、北九州、浜松、四日市、堺、松戸、今回あらたに分割される相模原市などである。
- 今回、分割を回避したために2倍超となった地区においても、市・区を一部分割すれば2倍未満に収まることから、今回の相模原市と同様に分割すべきである。3分の4基準の56万人以下であるとか、市を分割すべきでないとかなどとこだわる必要はない。
- 今回の答申のもう一つの大きな問題点は5増5減の結果、北海道新6区、静岡県新5区、6区において2倍を越えることとなった点にある。
- 北海道については人口568万人で13人、千葉県が593万人で12、兵庫県が555万人で12人、福岡県502万人で11人の大きな県の間のバランス上、千葉県と逆転が生じるので是正が必要である。他方、今回の区割案では新12区が稚内から知床半島までの600kmを越す選挙区となり、宗谷・留萌・上川の密接した地区を新6、10、12区に3分割するなど無理な分割をした上で2倍超の人口の新6区をつくることとなっている。
- したがって、今回は千葉県の定数+1によって逆転を解消し、北海道については1減を行わず、5区の2倍超のみを解消することが適当であると判断したものである。法に基づく機械的計算により5増5減とはなるが、これを微調整して2倍超選挙区をゼロとすることの方が前述1〜7の趣旨に沿うこととなる。
- 静岡県については人口377万人で現在定数が9であり、類似人口県はなく、1つ上が福岡県502万人が11、1つ下が茨城県299万人 7人、広島県288万人 7人となっており、9人であることで逆転現象等は発生していない。他方、1減によって人口が相対的に少ない東部4地区を3地区にすることを余儀なくされた。その結果、伊豆半島、沼津市にかけての新6区、富士、御殿場、三島市にかけての新5区の2つが2倍を超えるに至った。このことは、北海道におけると同様適切とはいい難く、定数をあえて減少させなくともよいとの結論に達した。
- 神奈川県については全国で人口1人当たり最大県であり、また、横浜・川崎市の都市集中で前回両市をまたがる第8区を設置した経緯もあり、1増により調整し、また60.6万人の人口である相模原市を分割することは極めて適当な内容となっている。
- 千葉県については、北海道について述べたとおり逆転の解消、神奈川県に次ぐ2倍の最大人口(人口1人当たり)、旧4区、5区、9区が最大であること等から1増が適当である。しかしながら、船橋市の4区が55万人を超えているので、隣接区に一部移すことが妥当である。
- 島根県は全国最小県(1人当たり)であり、減員はやむをえない。
- 大分県(122万人 定数4)、山形県(124万人 定数4)については滋賀県(134万人 定数3)、沖縄県(132万人 定数3)と定数が逆転しており、是正が必要である。対応策として大分、山形を各1人減少すれば足りるのであって、わざわざ微差の滋賀、沖縄を4人に増加させるなどの必要性は感じられない(その上は、岩手142万人−4人、奈良144万人−4人、青森148万人−4人、愛媛149万人−4人で8万人の段差がある)。したがって、北海道、静岡の2人に対応して滋賀、沖縄の2人増を見合わせて、次ぎの人口動態を見守ってよいとの結論に達した(今後の人口によっては静岡、北海道、奈良、滋賀などは大都市を抱えているので、再調整の事態もありうる)。
- 滋賀県については、現行区割りでは2区547千人、1区365千人、3区430千人と不均衡かつ2倍超区があるので、2区の3〜4万人を1区又は3区に委譲する必要がある。
- 秋田県は28万人基準を下回るという理由で2倍問題と無関係に再分割を行っている。秋田2区280千人は最小の高知1区270千人をはじめ、同2区・3区、徳島1区・3区、長崎3区、福井1・2・3区の9区を上回っているので、、あえて今回再分割をする必要はないと考える。
- 埼玉県については、神奈川県及び千葉県に次いで1人当たり人口が大きい県であるが、人口逆転現象はない(694万人−14人)。愛知県が704万人で15人であるから、今のうちに増加しておく方がよいとの考えもありえよう。その場合は、3増3減となり300人の定数は維持される。他方、埼玉県の1増の内容を見ると、さいたま市の分割と岩槻市の委譲、旧4区から戸田市の委譲等、かなり無理のある区割りを行っている。
- より単純に、現1区と現13区の一部を分割すれば、当面2倍超の問題は克服できる。
- したがって、小選挙区の総定数を1減の299としようとすれば、2増3減で埼玉県を微調整、300とする場合は現行案のとおりでよい。
- 以上述べた観点に立って別紙の案を作成したものであり、1月23日の自由民主党選挙制度調査会において了承されている。格差2倍の解消を今回実現しておかなければ、次回にはさらに困難となり百年河清を待つようなことになることが懸念される。
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