ワルラス安定とマーシャル安定
ワルラス的調整課程
市場が不均衡な状態にある場合に、需要量と供給量は価格の変化に対して速やかに反応する。この種の価格調整を中心とした市場の需給調整のプロセスは、先駆者のレオン・ワルラスの名をとりワルラス的調整課程と呼ばれる。

上図の場合で考えてみよう。価格がP0の水準にあるとき、abだけの超過供給が生じているために均衡点eに向かって価格は下落します。
一方、価格がP1のときにはcdだけ超過需要の存在のために価格はeに向かって上昇します。
このように価格の変動を通して、需給が均衡することをワルラス安定といいいます。均衡への収束が生じないケースはこれに反してワルラス不安定と呼ばれます。
マーシャル的調整課程
市場が不均衡な状態にある場合に、アルフレッド・マーシャルは需要の価格に対する反応速度は大きいが、生産の調整には時間を要するので、供給の反応速度は小さいと考えた。
供給量が一定の場合、需要量をこれに等しくするように価格が即座に調整される。次に、供給が価格の変化に対して調整される。
ここで、需要価格と供給価格の差を超過需要価格と名付けると、それが正の場合に供給量は増え、負の場合に減るという数量調整を中心とした調整課程をマーシャル的調整課程と呼びます。

上図で取引量がQ0の水準にあるときには需要価格PDが供給価格PSをabだけ上回っているために超過需要価格が生じていることから、取引量は均衡eの方向に移動して需給均衡が成立します。
一方、取引量がQ1の水準にあるときにはcdだけ超過需要価格が発生していることから、取引量はeに向かって減少し需給均衡が成立します。
このように、取引量(数量)の調整によって、市場均衡が成立することをマーシャル安定といい、数量調整が需給を均衡させる方向に作用しない場合にはマーシャル不安定と呼びます。
ワルラス安定条件
次に、少し特殊な事例を考えてみることにする。下記の図のように需要曲線は従来通りで、供給曲線が右下がりになるという場合を想定する。
ここで注目しなければならないのは、需要曲線と供給曲線の勾配(傾き)がどのようになっているのかである。
需要曲線が所与の曲線として、供給曲線の勾配が大きいか、小さいかで2つの場合を考察する必要がある。
(1)需要曲線Dの勾配 > 供給曲線Sの勾配の場合
(2)需要曲線Dの勾配 < 供給曲線Sの勾配の場合
一般的には、ワルラス的調整課程は価格調整であり、(1)の場合には、超過需要(excess demand)が生じているので、価格を上昇させると、超過需要量が減少して、均衡eに向かって収束するので、ワルラス安定的になり、(2)の場合には、超過需要が生じているときに、価格を上昇させると、ますます超過需要量EDが大きくなるので、ワルラス不安定的になってしまう。
このことから、市場均衡が安定的であるためには、価格の上昇(下落)につれ超過需要が減少(増加)することが必要とされる。この要件をワルラス安定条件と呼ぶのである。


いま、市場価格をp、需要量をQD、供給量をQSで示せば、需要関数ならびに供給関数は簡潔に、QD=f(p)、QS=g(p)のように表現できる。
超過需要はED=QD−QSと定義できる。
そのためワルラス安定条件は以下のようになる。
ΔED/Δp=ΔQD/Δp−ΔQS/Δp < 0
マーシャル安定条件
ここでも、下記の図のように需要曲線は従来通りで、供給曲線が右下がりになるという場合を想定する。
ワルラス安定条件と同じように需要曲線が所与の曲線として、供給曲線の勾配が大きいか、小さいかで2つの場合を考察する。
(1)需要曲線Dの勾配 > 供給曲線Sの勾配の場合
(2)需要曲線Dの勾配 < 供給曲線Sの勾配の場合
一般的には、マーシャル的調整課程は数量調整であり、(1)の場合には、超過需要価格が均衡量Qeよりも左では負であり、供給量は減少する。あるいは均衡量よりも右では超過需要価格が正なので、売り手が供給量を増加させ、市場の売買量は均衡から乖離していくのでマーシャル不安定になる。(2)の場合には、超過需要価格が正なので、売り手が供給量を増加させると均衡点に近づいていくので、マーシャル安定的となる。


このことから、市場均衡が安定的であるためには、供給量の増加(減少)につれ超過需要価格が小さく(大きく)なることが必要とされる。この要件をマーシャル安定条件と呼ぶのである。
ここで、需要価格をPD、供給価格をPSとすれば、超過需要価格EDpは以下のように定義できる。EDp=PD−PS
したがって、マーシャル安定条件は以下のようになる。
ΔEDp/ΔQS=ΔPD/ΔQS − ΔPS/ΔQS <0
ワルラス的調整とマーシャル的調整の相違
両者の相違点は、供給の反応速度をどうみるかにある。供給が短期間で調整される市場にはワルラス的調整が妥当し、供給量の増減に長期間を要する場合は、マーシャル的調整で考えるのが妥当である。
(2003.12.26)