中谷マクロ(第4版)を読む その4
第2部 短期モデル:需要サイドを主とした分析
第2部では、需要と供給に不一致があったとしても価格が変化しない「短期」の世界を分析する。第2部で取り扱うのは、第4章から第7章で国民所得決定理論、貨幣需要と貨幣供給、IS−LM分析、国際マクロ経済学などです。
マンキューのマクロ経済学では、第3部がそれに相当し、第9章から第13章で景気変動へのイントロダクション、総需要T、総需要U、開放経済における総需要、総供給について述べられており、相互に補完し合うことができればと思っています。
第4章 所得はどのように決まるか
<財市場における調整>
短期においては、第3章のように需要と供給に不一致があったとしても価格が変化しない固定価格経済であるから、供給曲線は水平である。従って、数量調整のみが均衡への手段となります。
<ケインジアン・クロス>
ここでは、マンキューのマクロ経済学よりケインジアン・クロスを紹介します。
まず、ケインジアン・クロスを誘導するためには、現実の支出と計画支出を比較します。
現実の支出=家計支出C+投資支出I+政府支出G=GDP
計画支出=家計支出C’+投資支出I’+政府支出G’
と表すと、どうしても現実の支出と計画支出には乖離が生じます。その調整過程が下図のように行われます。

なお、ケインジアン・クロスとは、現実の支出と計画支出の交差点のことです。
詳細については、2段階に分けて見ていくことにします。
<消費関数>
順序は逆転していますが、次に計画支出の内容を詳細に見ていきましょう。家計支出は可処分所得に依存するので、消費をC、所得をY、税金をTとすると、家計の可処分所得はY−Tと表されるので、下記のような消費関数が得られます。
C=C(Y−T)
さて計画支出の決定要因を考えるに当たり、閉鎖経済を仮定すると、純輸出はゼロである。計画支出をE、消費の合計C、計画投資I、そして政府支出Gとして以下のようになります。
E=C+I+G
この方程式に対して、消費関数C=C(Y−T)を代入し、モデルを単純化するために、計画投資を外生的に固定されたI=I’として、財政政策、つまり政府支出と租税の水準が、G=G’、T=T’と固定されているとすると、以下の方程式になる。
E=C(Y−T’)+I’+G’
この方程式は、計画支出が所得Y、計画投資の水準I’、そして財政政策変数G’とT’の関数です。

<均衡経済>
ケインジアンクロスの次の部分は、経済は現実の支出と計画支出が等しいときに、経済が均衡点にあるという仮定です。GDPとしてのYは総所得に等しいのみでなく、財・サービスに対する総現実支出にも等しいので、この均衡状態を以下のように書くことができます。
現実の支出=計画支出
Y=E
下図のように、45°線はこの均衡状態を満たす点を繋いだものです。

計画支出関数を追加することで、この図はケインジアンクロスになりました。この経済の均衡点はA点である。つまりそこでは計画支出関数は45度線と交差します。
<投資関数>
総需要を構成する項目で、消費の次に大きいのが投資である。投資需要がどのように決まるのかは大変複雑で、投資関数に関する経済学的研究は膨大な量に達するので、ここでは最小限度の最も簡単な投資関数を考えることとする。
投資の限界効率:追加的な投資から見込まれる収益率のことであり、投資の限界効率は投資金額が大きくなるにしたがって低下していくと考えられる。
*投資は投資の限界効率と利子率が一致するところで決まる
*結局、経済全体の投資の限界効率表が与えられたとき、投資水準Iは利子率rの水準に よって決まるので、I=I(r)と投資関数は定義できる。
<財政政策と乗数:政府支出>
政府支出が経済に及ぼす影響を考える。政府支出は計画支出の構成要素の1つなので、政府支出が高ければ、所与の所得水準において高い計画支出になる。もし政府がΔG引き上げられたら、下図のように、そのとき計画支出の計画がΔG上方へ移動します。経済の均衡は点Aから点Bまで移動します。

このグラフは政府支出の増加がさらなる所得の増加に導くことを示している。つまり、ΔYはΔGよりも大きくなる。ΔY/ΔGの率は政府支出乗数と呼ばれます。
ケインジアンクロスの含蓄するものは、政府支出乗数が1よりも大きいということです。
なぜ財政政策は所得に対して乗数効果を持つのか?
その理由は、消費関数をC=C(Y−T)とすると、より高い所得がより高い消費を引き起こすという現象であり、政府支出の増加が所得を引き上げるとき、それはまた消費を引き上げます。それが更に所得を引き上げ、そしてそれが更に消費を引き上げる。などなど・・・。つまり、このモデルでは、政府支出の増加は所得における更なる増加を引き起こします。
乗数はどのくらい大きいのか?この質問に答えるため、所得の変化をおのおのの段階でたどります。支出がΔG増加して、その工程は始まり、同じようにΔGで所得が増加することを意味します。所得におけるこの増加は、順次、MPC×ΔGによって消費を引き上げます。(ここでのMPCは限界消費性向です。)消費におけるこの増加は支出と所得を再び引き上げます。このMPC×ΔGの第二の所得の増加は再び、消費を引き上げます。これはMPC×(MPC×ΔG)によって掛けられます。つまりそれは、再び、支出と所得を引き上げます。この消費から所得、そして消費へのフィードバックは無限に続きます。所得に対する総効果は以下のようになります。
最初の政府支出の変化 = ΔG
最初の消費の変化 = MPC × ΔG
2番目の消費の変化 = MPC2 × ΔG
3番目の消費の変化 = MPC3 × ΔG
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ΔY=(1+MPC+MPC2+MPC3+・・・)ΔG
政府支出乗数は、ΔY/ΔG=1+MPC+MPC2+MPC3+・・・です。
乗数のこの表現は無限等比級数の事例です。代数からの結果は、我々に乗数を以下のように書くことを認めます。
ΔY/ΔG=1/(1−MPC)
例えば、もし限界消費性向が0.6であるのならば、乗数は以下のとおりです。
ΔY/ΔG=1+0.6+0.62+0.63+・・・
=1/(1−0.6)
=2.5
この場合、1ドルの政府支出の増加は、2.5ドルの均衡所得を引き上げます。
<財政政策と乗数:租税>
次に、租税の変化が均衡所得に及ぼす影響を考えると、ΔTの租税における減少は、直ちに可処分所得Y−TをΔTだけ引き上げる。そして、それゆえに、MPC×ΔGで消費を増加させます。いかなる与えられた所得水準Yにおいても、計画支出が高くなり、下図が示すように、計画支出の計画はMPC×ΔTで上方へ移動します。経済の均衡はA点からB点まで移動します。
政府購入における増加が所得における乗数効果を持つように、それは租税を減少させます。以前のように、支出の最初の変化は、今MPC×ΔTであり、それは1/(1−MPC)倍されます。租税の変化の所得に対する全部効果は、以下の通りです。
ΔY/ΔT=−MPC/(1−MPC)
これは、租税乗数です。例えば、もし限界消費性向が0.6ならば、そのときの租税乗数
は以下のとおりです。ΔY/ΔT=−0.6/(1−0.6)=−1.5
この事例では、租税の1$の削減は、1.5$の均衡所得を引き上げます。

コラム
<乗数:このやっかいな代物>
現実の経済は、乗数理論で簡単に説明できるほど単純ではない。1990年代の日本経済の長い不況は、100兆円を超える公共事業や減税による景気対策が思うように効果を発揮しなかったためであり、乗数の値が思ったほど大きくなかったことが背景にあります。 例えば、景気対策のために大量の国債を発行することにより、国の借金が増加すると、国民が将来この借金を返済するために、将来増税の可能性があると予想すると、そのときに備えて、消費を抑制し、貯蓄を増加させると、限界消費性向が小さくなり、乗数の値が小さくなってしまうという皮肉な結果を招くことも考えられます。
(2001年8月3日)