国際ネットワーク大学コンソーシアム  平成12年11月7日(火)


第6回  知識創造企業
    
一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 野中郁次郎

 野中郁次郎先生と言えば、岐阜県との結びつきは強く、「岐阜県の国際ネットワーク大学の生みの親」と呼んでも良いかもしれません。野中先生の岐阜で講義、講演は今回が初めてではなく、 平成11年11月13日(土) 第1−2時限にも北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科長として、国際ネットワーク大学で教鞭を執っていただいております。今回は、平成11年度と平成12年度の野中先生の講義メモの中から、野中先生のSECIモデルと呼ばれる知識創造のシステム理論を中心に話を進めたいと思っています。

 まず、平成11年度の第1時限には、ノーベル経済学賞を受賞したことのあるピーター・ドラッガーの講演ビデオを見ながらの解説が付け加えられました。ドラッガーは「経営学の父」と呼ばれる『現代の経営』(The practice of management:昭和33年発売)を著した経営学者であり、日本は世界でも一番ドラッガー理論を経営に導入している国だそうである。ドラッガー自体は、直接、知識社会論に結びつくような人物ではないのだが、派生する理論が知識社会論に貢献しているようである。
 ドラッガーはこう言う。「リーダーは先天的なのか?後天的なのか?」という問いに対して、「学ぶことは可能である」と。「リーダーが信頼されている」とはどういうことなのかという問いに対して、「優れたリーダーはしばしば「NO」と言う」と。「リーダーは目に見えなければならない。 自分で見本を見せる必要がある。」と。
 次に、ドラッガーは日本の未来に対して、「今後20年間の日本に対して」次の5つの提言を行っている。 すなわち、 「世界中で一番最初に5つの課題に立ち向かうことになるだろう。」とドラッガーが予見するのである。
@日本が率先して新しい問題を解決することである(日本がパイオニアになる)
 ・先進国の中で克服すべき社会問題が一番早く起こっている
  a)少子高齢化
  b)定年後の仕事を欲する高齢者をどう雇用するのか? →新しい雇用体系の構築 
A英語圏と日本との差が顕著に現れる
 ・若い世代の減少 → アメリカは多くの移民を受け入れているが、日本も移民先とし           ての問題が発生するはず
B分社化(ディマージャー)
 ・日本企業の分社化、持ち株会社化、業務提携、ジョイント化
 ・企業間マネージメント → 指揮権のない会社との連携
チーム化、チームのサブメンバーとなる
C流通革新がおこる
 ・Eコマース → IT(情報技術)、NETで販売されている
 ・経済の重心がメーカーから流通業者に移るであろう
D天然資源のコストが安い → 製造業からサービス業への移行が続く
 ・マニュアルワーカーがナレッジワーカーに移っていく
 ・労働から知識へ

 これらを踏まえて、第2時限は始まった。2000年に大流行した「IT」という言葉を私自身、初めて聞いたのがこの講義の時でありました。そこで、まず最初に野中先生は、言葉の定義から講義を始められました。「知識とは何か?」知識と情報は違うモノであるということを前提に、知識を言葉で定義しました。 「知識とは、「個人の信念やスキル」が「真実」へと正当化される、そして、または実践を通してスキルを身につけるダイナミック・ヒューマン・プロセスである。」と。
 ここで大切なことは、知識は相対的でコンテクストなものであり、文脈との関係性で定義せれるということ。そして、ダイナミックな社会関係の中で創造され、人間的な個人の価値システムの中に深く埋め込まれているものであると特徴づけました。そのうえで、知識創造とは、絶え間ないプロセスであり、知識創造とは、自己超越プロセスであるとしました。
 そして、ここで知識には暗黙知形式知の2種類があるとして、その相互作用(ナレッジ・スパイラル)こそ大切であると説きました。
 まず、暗黙知とは、個人差が元々あり、言語・文章で表現することが難しく、主観的・身体的な知であり、経験の反復により、体化されると定義されます。事例として、思考スキル(思い・メンタルモデル)などが相当します。それに対して、形式知は、組織での共有が可能で、言語・文章で表現できる客観的・理性的な知であり、特定の文脈に依存しないものとして定義されます。事例として、概念や論理(問題解決手段・マニュアル理論)などがそれに相当します。そこで、野中氏は、暗黙知が組織に共有され、共有された形式知が暗黙知を刺激し合うことこそが大切なのだと述べているのです。
 その相互作用(ナレッジ・スパイラル)から生まれたモデルこそがSECIモデル(セキ・モデルと読みます)です。
 このSECIモデルとは何かと言えば、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の頭文字をとって命名されたものであります。すなわち、野中氏が繰り返し述べられるように、「SECIを回す」つまり、暗黙知と形式知の相互循環作用こそが知識創造には大切であると説かれる訳です。
 次に、個々の過程について説明すると、共同化とは、暗黙知の獲得作業(社外、社内)、暗黙知の蓄積、暗黙知の伝授・転移などを意味します。「ナレッジワーカーの暗黙知はマニュアル化していない。」という最大の壁を乗り越える必要があるのです。そして、表出化とは、 分析的な方法や自己内の暗黙知の表出により体化された情報・知識の伝達作業を行うことであり、暗黙知から形式知への置換・翻訳が行われます。3番目に連結化ですが、新しい形式知の獲得と統合を行うために、形式知の伝達・普及・編集が必要であり、IT(情報技術)の活用の必要性が生じてきます。そして最後に、内面化で 形式知を自分のものにしたり、行動・実践を通じた形式知の体化、シュミレーションや実験による形式知の体化などが実施され、循環作業が繰り返されていきます。

 今度は、話題が変わって、「知識は統合されなければ意味がない」として、「場」という共有空間が存在しないと知識創造は行われないと唱えられました。知識創造の3要素として、@物理的場A仮想的場B心理的場を掲げられました。そこで、タイプの場がSECIモデルに対応しているとして説明されました。
 まず、共同化における創出場とは、Face to Faceなところである。そして表出化における対話場はPeer to Peerで、ギリシア時代の対話法のことを思い出せば良いでしょう。連結化におけるシステム場はCollabolation、内面化における実践場はOn the Siteと表現できます。
 
 最後に、野中氏は「知的資産とは何か」ということについて、言及されました。知的資産とは知識創造の基礎であり、「知識資産は簡単に売買できないところにその本質にある。内部で形成、使用され る事により知識資産は初めてその真価を発揮する」というデビット・ティース (1998)の言葉を引用されました。従って、今後は「アウトソーシング、ベンチマーク等の外部資産の活用、知識をどのように識別するのか?」という提言を行いました。再び、野中氏はSECIモデルを使って、知的資産を4分類しました。それが以下の通りです。

経験的知的資産
共有された暗黙知
・個人のスキル、ノウハウ
・愛、安心、信頼感
・エネルギー、情熱、緊張
コンセプト知的資産
イメージ、シンボル、言語に
より明確にされた形式知
・製品コンセプト
・デザイン、ブランド
ルーティン知的資産
ルーティン化された行動に
埋め込まれた暗黙知
・日常生活でのノウハウ
・組織ルーティン
・共有された知の作法
システム知的資産
システム化、パッケージ化
された形式知
・マニュアル、データベース
・特許、ライセンス

(2001年1月3日)