国際ネットワーク大学コンソーシアム  平成12年10月30日(月)


第3回 日本人の創造性
        岩手県立大学学長 西澤潤一
 

 日本における「半導体の父」と呼んでよいような著名人の登場である。理工系の講義を受ける機会が大学時代にほとんどなかったので、その内容に期待したのですが、期待を裏切らない素晴らしい内容でした。西澤氏の場合、単なる科学者としてではなく、教育者としてのビジョンを伺うことができて実りがある講義でした。その内容の一部を公開します。
 まず、西澤氏は「独創性の必要性」について説きました。話は、日本人に欠けていて欧米人に旺盛なのが独創性なのか?という疑問から始まります。日本の場合、鎖国の異物を引きずりながらも、長州藩が危機感を持ち、明治維新に時代は向かったが、その後新渡戸稲造が反省するように「工業振興よりも軍事力増強が優先」され、独創的産業を興すことを怠ってしまったと指摘しました。
 日本社会の比喩として、日本、アメリカ、イギリスを事例として、「人がモノを直ぐ改良してしまう日本、独創性ばかり追いかけるイギリス人、みんなで協 力してやろうとするアメリカ:イギリス人は協力が苦手」と表現されました。日本が外国から批判されるのは、「イギリス競争社会で成功しても、日本が安くて品質の良い製品を直ぐに改良してしまう」という現象で、日本の企業社会の特質が影響しているといいます。日本の企業では、特許権という権利意識がまるで希薄であるように「みんなで同じ物を造る」ことは、日本人の国民性は、同じ物をたくさんの会社が作っていると信頼されるし、日本では、品質競争と価格競争が一段落された商品が海外でヒットするので、日本が失業を輸出するような話が生じていると指摘します。つまり、発明した人よりも、販売者が儲かる日本は、社会のルールが外国から見ると異常に思われるということに問題があると言うのです。
 そのために、日本が国際的に信頼を回復するためには、日本から新しい商品を世界に提示していくことが大切であると、西澤氏は力説したのでした。
 次に、日本人にも創造性のあった人たちの事例が示されました。ノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士は、 小川家から湯川家に養子に行き、3男だったので余り期待されない存在だったが、八木秀次教授の評価により、大阪大学へ行き、論文なき湯川氏に論文を書かせ、その結果、書いたのが「中間子理論」だったと湯川氏の物語をお話になられました。湯川氏の事例は、「DNAはどこにどんな才能が隠れているのか分からない。必死に努力しない人間からは、才能は発揮されない。先生と学生の協同動作により、才能が発揮される場合もある。」という訳です。また、ノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さんのエサキダイオードと良く似た研究が存在したのに、データの廃棄が悲劇になってしまった事例があると言われました。つまり、「失敗を失敗として切り捨てるな」という教訓を示された訳です。つまり、八木秀次さんの八木アンテナの独創性は大学3年生の実験の中から発見されたものであったり、岡部金治郎さんの発明は、基礎理論と実際を結びつけていくものであり、大学1年生の変な実験データから、新しい発見をして、世界で一番高い周波数を発生させるのに成功して、新型マグネトロンを作り、電子レンジの原料となっているという事例を示されたのです。すなわち、「失敗は成功の素」なのです。
 最後に、西澤氏は今後の教育の在り方についても力説しました。「ただ並べるのが知識、練り合わせるのが独創性:誰もがイノベーションの中にいる。」と。すなわち、現代の日本社会の教育システムが物を考える力を暗記力が抑圧してしまい、 教育方法に失敗があったと指摘するのです。独創性のためには、暗記を排除して、モノを考えることが重要で、目的を持って勉強することが重要であるのに、原則的には同じ講義を大学を受けて、 違うのは偏差値のみであという均質社会になってしまっていると言うのです。従って、日本社会の均一化、同質化を好む傾向を 天分の生かして仕事に就ける社会あるいは責任感を持たせる社会へ変換することが大切なのだと言います。そのため、今後のIT社会への警鐘を鳴らすことも忘れてはいませんでした。
<IT時代への対応方法>
・ITを道具として上手に使う
・人間として、しっかりとした意識・考え方を持つことが大切
・小学生から電卓を使うことへの反対論
@自分の頭の中で考えることを妨げてしまう
A数に対する感覚が鈍ってしまう
B元々の人間としての生活を残しておくことも必要
 
 今後、このような、警鐘を肝に銘じて我々は独創性を培わなければならないと私は思いました。
(2001年1月3日)

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