国際ネットワーク大学コンソーシアム  平成12年11月27日(月)
第11回 知識を基礎とする社会と科学・技術
  国際キリスト教大学教養学部教授 村上陽一郎

 元・東京大学教授で、放送大学では物理学史を担当され、NHK人間大学で「新しい科学史の見方」という15回シリーズの講師を勤められた方である。主として、科学技術の歴史を学んできた村上氏は、英語のサイエンスの意味はもともと知識という意味であったと言います。

sience・・・ラテン語のscientiaから派生、知識
scio(スキオ)規則動詞の3単現:知る

上記のような意味があるので、サイエンスを単純に、科学と置き換えるのは感心できないとも村上氏は言います。

・ギリシア語のphilosophy・・・知を愛する:哲学(西周の造語)
・philは「愛する」、sophiaは「知」

シェークスピアにサイエンスという言葉が出てくるが、科学と訳してはならないとも言います。

 村上氏によれば、科学の成立は、19世紀の半ばであるが、scientistという言葉が出来た時はいつか?と問われれば、「1842年に出来た」と答えることができるそうです。ウィリアム・ヒューエルという人が最初に使いましたが、scientistという言葉は不評でイギリスの知識人トマス・タックスリーは、あからさまに批判しました。人を表す接尾語である−ist、−er、−or、−ianを比べると、−istの前には、狭い意味の言葉が入り、−ianの前には、広い意味の言葉が入るので、権威がないと考えられたからです。ヨーロッパでは、外科医は職人扱いされ、大学の医学部では歓迎されなかったという歴史があり、知識を意味するscienceに「−ist」を付けるのは醜いとタックスリーが解釈した訳です。ウィリアム・ヒューエルは知識の中で特別な部分を「サイエンス」と呼ぼうと提案しましたが、村上氏はニュートンは哲学者と呼ぶべきで、科学者ではないと言います。
 徹底的にヨーロッパの学問を杉田玄白などが日本語に翻訳してきた歴史が有り、例えば「社会」という言葉は、福沢諭吉が作ったように、
科学とは何か?という問いに対して「科」に別れた「学」である。
 村上氏によれば、科学という言葉の祖先は・・・文部省が作った?一科学ナリという記述があるそうである。その内容はドイツ語のFach(ファッハ)という言葉に近いそうである。
・社会学の祖:フランスのA・コント
・哲学も知識の中の一部門と矮小化されていく傾向が強かった:19世紀半ば

*現在の「科学」の定義
@内容的:世界に生起するすべての現象を<もの>の言葉で記述・説明したりしようとする。「もの」オンリーで「こころ」は出てこない

A制度的(institutional):
科学の制度的特徴
自己閉鎖性・・・科学者共同体の内部だけで行われる
自己完結性
クライアントなし
prototype科学
知識生産(knowledge production)
┌────────┐ 蓄積
│ 科学者共同体   │ 流通
└────────┘ 消費
評価
 資金援助(フィランソロフィー)
財団
政府

・1859年のダーウィンの「種の起源」は、第6版までの大ベストセラー。
・1905年のアインシュタインの初期の論文に注目した人は、5−6人。
この時代は、論文は書くが、本は書かないというのが定説で、専門家集団向けの論文しか書かなかった。論文の評価も科学者共同体の中で行われた。
・19世紀の終わりに、薬学(有機化学)だけが外部社会(産業界)と交流があった。
・20世紀初めにロックフェラーなどの財団が資金援助を始める。
・共同体=職能者集団は排他的だが、クライアント(患者等)なしでは、医者などは成り立たない

*NSF(National Science Fundaiton)
科学援助の基金
・科学研究費の現金出納簿は作るが、研究成果は評価されない。give and give援助に成りやすい。
*現代社会との関わり
・様々な分野において、科学者共同体は関わりを持つようになっている。
・生命に影響を持つまでになっている。政治・経済・医療などが結びつきを強めている。
・非専門家にとっても、科学者共同体において起きていることに無関心ではいられなくなっている。
・科学者共同体も、社会から隔絶して生きられなくなっている。社会と人間に対する理解 が必要になっている。

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