上屋久町環境基本計画第2部 屋久島の概況
第1節 自然的条件

4.生物

(1)植物

 地形及び地史的要因、気候条件により屋久島は独特の植物相を持つことになっています。170科1,500種(変種を含む、以下同様)以上の植物が生育し、屋久島を北限とする植物が72種、南限とする植物が235種知られています。このうち、屋久島を南限とする植物では九州本土になく屋久島のみ分布するもの、北限とするものでは屋久島と中国南部のみに分布するもの、琉球列島に分布せず台湾から屋久島まで飛んでいるものなど分布上さまざまな価値を持つ植物が生育しています。なお、県の天然記念物に指定されているヤクシマカワゴロモ等約40種の固有種が知られています。
 屋久島の山地における植物相(フローラ)は、最終氷期である約2万年前頃には九州と陸続きであったため、基本的に九州中央山脈の延長と考えられていますが、日本の冷温帯の夏緑樹種の代表的極相種であるブナ・ミズナラなどが分布しないなど、特殊な構成となっています。その中の多くの植物は屋久島を南限としており、日本の代表的な固有種であるスギ、その他ヒノキ、ツガ、モミ、アカマツなどの針葉樹類やいくつかの落葉樹種がこのグループに含まれます。さらに、固有種として知られるものの種名には‘ヤクシマ’を冠したものが多く、特産種が多いことを象徴的に示しています。また、屋久島の山腹中部以上では、雲霧がかかり、これによる水分供給によって林床、樹上を問わずコケ、シダ、ラン植物のほか、多種多様な植物が着生する雲霧林も屋久島の植生の特徴です。
 低地フローラは温暖・湿潤であり、琉球列島・中国・台湾、さらにはマレーシアとも共通するさらに種などを含み、その中のいくつかは分布の北限となっています。さらに屋久島は琉球列島と本土の中間に位置しており、照葉樹等、本土と比べ種の多様性は高いことが知られています。これは氷河期において、日本の照葉樹の分布が南に後退したときに避難場所となった上に、その後の温暖化の時代には山地に生き残った結果、多くの種が分布することになったためと考えられます。
 一方、屋久島はその面積に比較して標高が2,000m近くまであるため、海岸部から山頂までのそれぞれの温度環境によってさまざまな植生が垂直分布し、一つの島の中で共存しています。これは世界遺産登録においても重要視された屋久島の自然価値の大きなポイントです。
 海岸では、熱帯の植物(例えばグンバイヒルガオ、ツキイゲ)が見られ、標高200m以下の低高度地域では亜熱帯・暖帯の植物が混生しています。ただし、この地域が人間の活動域でもあるため、現在では自然植生は非常に少なくなってきています。標高200〜800mでは、照葉樹種と落葉樹種が混在しています。標高1,200〜1,700mは、スギが優占するようになります。本州では通常この気候帯の自然植生はブナを優占種とする落葉樹林となっていますが、屋久島ではブナが生息していないために、スギと落葉樹を中心とした針広混交林が広がっています。
 屋久島のスギは日本でも屈指の巨木林を形成しています。強風のため樹高はあまり高くならないものの、最大のものでは胸高での直径が5mを越すものも知られています。そして、1,700m以上は山頂風衝低木林となっています。温度環境としては冷温帯の森林が成立する標高ですが、強い風衝と母岩の貧栄養性から森林が成立せず、低木林や山頂性の草本をともなった独特の草原となっています。
 このように屋久島の陸生植物の世界は、氷期における九州との隔離と連続という地史的要因などを反映しています。

(2)動物

 動物相においても、地史的要因のため屋久島は独特の動物相が形成されています。日本列島は動物の生物地理学上、旧北区と東洋区とに分けられます。大隅海峡とトカラ海峡の間に位置する屋久島は、旧北区の南の境界線近くに位置することになり、日本列島の動物の分布上重要な位置を占めています。
 陸生哺乳類は、九州本土や本州で普通に見られるイノシシ・ノウサギ・キツネ・タヌキ等の中型哺乳類は分布していません。しかし、基本的には九州本土と関連し、いくつかの固有亜種が知られています。特にヤクシマザルは、ニホンザルの亜種でニホンザルの分布の南限となり、ニホンジカの亜種であるヤクシカとともによく知られています。このほか、コイタチ、ヤクシマアカネズミなど固有亜種が知られています。また、口永良部島にはエラブオオコウモリやヒメネズミが海岸林を中心に生息し、ヤクシカが放牧地、林の中やその周辺を中心に生息しています。
 鳥類は、山岳という特殊な環境で、海岸が断崖となり干潟や湖沼がないため、旅鳥などの記録は比較的少なく、176種が記録されています。しかし、固有種は数種類知られており、南方系で屋久島・種子島を北限とするもの、屋久島と伊豆諸島だけに分布するものなどが知られています。アカヒゲ、アカコッコ、イイジマムシクイ、カラスバトは国の天然記念物に指定されています。鳥類の主要な生息場所は低高度地域の広葉樹林帯となっており、全体を通してヤマガラ、メジロ、ウグイス、ヒガラ、ミソサザイ、ヒヨドリ等が優占種となっています。
 昆虫相では屋久島は西日本の昆虫相と南西諸島との間の移行帯となり、北方系の昆虫相を基本とし、南方系のものがいくらか入って構成されていると考えられています。固有種としては屋久島ルリシジミ、ヤクシマヒラタゴミムシ、ヤクシマエンマコガネなどが知られています。
 淡水魚類については、特に屋久島の河川、渓流は貧栄養でプランクトンの発生が少なく、急流や滝が多いこともあり水草の生息がほとんどないために、陸封型の純淡水魚は生息していません。下流域のアユとウナギ、さらに汽水域の魚が基本的は漁種といえます。
 海洋生物では、陸上で生活している甲殻類のオカヤドカリ類が、国の天然記念物として指定されています。また、屋久島にはアカウミガメとアオウミガメが産卵のために毎年上陸しています。特に、減少しつつあるアカウミガメの上陸頭数は日本一で、日本における総上陸数の3分の1が屋久島に上陸しています。アオウミガメの上陸は屋久島が北限となっており、主に上陸する浜は、上屋久町永田の前浜と田舎浜、屋久町栗生の栗生浜とさごし浜など4カ所となっています。上記以外の分類群においても、屋久島は生物地理学上、日本の動物分布の上で重要な地域となっています。
 口永良部島周辺の海域においても、近年甲殻類などで新種が記載されるなど、豊かな種の多様性が示されています。
 また、屋久島は、サンゴ礁の北限付近にあって部分的ながら良好な裾礁が発達しています。また、全国魚種確認コンテストにおいて、2年連続に日本一になるなど、沿岸海域の魚影の濃さ、魚種の多さは知られているところです。
 平成3年の調査において、屋久島全体で約100種の造礁サンゴの生育が確認されています。特に、屋久町の栗生周辺に最も多く、約85種が確認されています。屋久島の造礁サンゴ群落は、九州本土よりも奄美大島以南の琉球列島との近似性が高いことが知られています。特に、これまで奄美大島以南に分布するといわれていたクサビライシの仲間が3種確認されています。
 屋久島では、温帯系と熱帯系の造礁サンゴが同じ場所に観察され、分類学上も生物地理学的にも重要な地域となっています。深度別の調査では、造礁サンゴの出現種が異なり、群集の多様性の高さが確認されています。オニヒトデやヒメシロレイガイダマシによる食害は比較的少ないことが報告されています。
 屋久島の海産魚類相は、既存文献を合わせて19目103科580種が確認されています。魚類相は、琉球列島との近似度が高く温帯系の魚類は少ないのが特徴です。近年特に、沖縄、奄美以南とされていた種が多く確認され、北限種が121種確認されています。南限種は12種、わが国では稀種とされる種が12種確認されています。また栗生沿岸では306種の魚類が確認され、南日本温帯域及びサンゴ礁熱帯域の普通種が多く混在して確認されています。塚崎には大小100以上のタイドプールが存在し、干潮時には30種以上の造礁サンゴが容易に観察できる場所となっています。


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