上屋久町環境基本計画第1部 環境基本指針・計画策定の趣旨
 第2章 環境基本指針・計画の基本方針

第1節 屋久島の望ましい将来像

 私たちは、長い歴史の中で、山や海を生活や生業の場とし、これらと深いかかわりを持ちながらそこにある自然とつきあってきました。そのため、人々と自然とのかかわり方について振り返ると、そこには自然に対する深い配慮と畏敬の念が感じられます。屋久島では屋久杉の大木を伐採するときには必ず米や塩を撒き、感謝の祈りを捧げてから伐採した後、若葉の枝を切り株に挿すなどの風習や、奥岳に詣でて海と里の幸を神に捧げて豊漁豊作や家内安全などを祈る「岳参り」等のしきたりが残されています。海においても、樹林が海に迫って黒い陰を落としているような場所はカツオやトビウオ漁では絶好の漁場となるために、このような海岸沿いのこんもりとした自然林を「山黒味」と呼び大切に守ってきました。
 また、かつての屋久島では集落単位で湧水や谷川からの水を家々に引き、これを生活用水として利用し、家庭からの排水は台所の外の「しょいなげ」、あるいは「せなぎ」と呼ばれる素堀の沈殿槽に集めて、上澄みを散水や潅水に使い、沈殿物は畑の肥料として土に返す方式が採られていました。古老たちの言葉に「三尺流れれば仏の水」という表現がありますが、この言葉の中には、湧水や谷川の水を共同で使う暮らしの中で、水を汚さないように心がける上流の人の下流の人への思いやりをうかがい知ることができます。
 このように私たちの祖先には、日々の暮らしの中で自然を畏れうやまい、できるだけ自然に負荷をかけないよう心がけるとともに、無限に続く時間の流れの中で、人も自然の一部であり、自然からの恵みによって生かされているという「共生」と「循環」の思想が根底に流れていました。
 これまでの人類の歴史を振り返ってみると、近代科学文明による科学と技術は、それまでの人間が考えられなかったような豊かで便利な生活を人々にもたらしました。しかし、その一方で巨大化した人間活動は地球の環境容量を超え、オゾン層の破壊、地球温暖化、生物多様性の減少等に代表される地球環境問題を引き起こし、人類を破局の道へと導きつつあるといわれています。
 このような人類の歴史の反省の上に立って、これまでの「自然保護か、人々の生活か」という2極の対立した構図から脱却し、屋久島憲章にうたわれている‘この島の自然と環境を私たちの基本資産として、この資産の価値を高めながら、うまく活用して生活の総合的な活動の範囲を拡大し、水準を引き上げていくことを原則としたい’という基本認識のもとに行動していくことが求められています。
 屋久島憲章を具現化するには、まず私たちが傑出した屋久島の自然の価値を実感として肌で感じ、これをはっきりと認識することからはじめていく必要があります。そのためには親をはじめ次世代を担う子どもたちが生涯学習や環境教育を積極的に推し進め、屋久島の自然のすばらしさについての認識を深めていくことが大切です。

 これらの活動を進めるにあたっては、集落自治の機能を活用するとともに、農業・林業・漁業などの異業種間のネットワークづくりや一次産業と観光分野との連携を深め、町全体が、屋久島の望ましい将来像の実現に向けて、一致団結して取り組んでいくような土壌づくりが重要になってきます。
 確かに屋久島は、本土から遠く離れ、財政的な基盤も脆弱で、社会基盤の整備もまだ立ち遅れています。しかし、町の人々が屋久島の傑出した自然を核に、屋久島らしい個性のある町づくりに取り組めば、必ず屋久島憲章にうたわれている理想的な島が実現するはずです。
 このような島になれば、外から島を訪れた人々は、環境保全型農業、屋久島の自然の恵みを生かした工芸の体験や地元の食材を生かした料理、民宿の主人を囲んでの語らいなどの中で、島の人たちとのふれあいを深めるとともに、屋久島の傑出した自然のすばらしさや21世紀の人と自然との共生のあり方を自ずと理解し、このことをさらに自分たちの住んでいる地域の人たちに伝えていくものと思われます。さらには、これらの交流・情報の輪は海を越えて世界に広がり、真の意味で屋久島における世界に誇る価値観とそれを基にした生活様式が確立します。
 そして、親たちの島に対する思いや意気込みを感じとった子どもたちは、この島の中で夢と希望を抱きながらさらに次の世代に、それを伝えていこうとするでしょう。

 このような島をあげての取組、まさに環境文化を、来るべき21世紀社会の理想的な自然と人とのかかわりあい方のモデルとして位置づけ、これを世界に情報発信し、現代社会に問いかけていくことを求め続けます。


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