「唖の十蔵」
唖の十蔵こと同心・小野十蔵は盗賊・野槌の弥平の手がかりを追っていた。ある日、浅草新鳥越の呉服屋に配下の助次郎がいるらしいとの情報を得る。駆けつけた十蔵、その屋内から女のすすり泣きが聞こえる。中には助次郎の絞殺死体。別の女と一緒に家を出ていく助次郎を身
(中略)
であろう。押上村に残されたお順は平蔵が養子として貰い受ける事になった。「おれも妾腹の上に、母親の顔も知らぬ男ゆえなあ」。妻、久栄もまるで当然の事のように賛同する。
「本所・桜屋敷」
与力・佐嶋忠介を通して密偵の岩吉から野槌の弥平一味の生き残り、小川や梅吉を見つけたという密告が入った。岩吉が後を着けてみたが本所のさむらい屋敷が立ち並ぶ一角で姿が見えなくなったという。この報を受けて平蔵は着任以来、はじめて市中見回りに出た。本所周辺。
(中略)
春が来た。横川町に寄った船から平蔵は桜屋敷を見る。満開の桜。煙管を取り出した平蔵の手が止まった。ぼんやりたたずむ男一人。岸井左馬之助の姿である。