アレクセイエフのコマーシャルフィルム

デリック・ナイト Derrick Knight

 …40年代後半、アレクセイエフは彼の変わらぬ協力者クレア・パーカーと共に、様々なスピードや振幅で揺れる振り子を減速することで生まれる視覚パターンに関心を持った。ゴムひもを振ると、遅くなるにつれて振動パターンが変化するということは、子供なら誰でも知っている。アレクセイエフは、繰り返しができるように、振り子の正確なコントロールや計算が可能な光源とオブジェを使って、このような現象の研究を開始した。ここから彼の課題がスタートした。彼はまず高等数学の知識を身につけることから始め、それから室温や電流の変動に左右されずに正確な結果が得られる機械を組み立てた。この機械を改良し、運動を意のままに操れるようになって、はじめて彼はフィルム制作に取りかかった。

 その努力の最初の結晶『煙』はわずか1分のフィルムで、1年を費やした。この煙は、振動する数百本の細い線を密に束ねたものでできており、各フレームで多重露出されている。以来、このテクニックは最高に美しいコマーシャル数作品で使用され、エッソの『地球のエキス』は有名である。このフィルムは数種類の複雑なオブジェアニメーションも組み合わされている。横たわる不毛の大地から油田のやぐらが芽吹き、木のように枝を伸ばす。この枝から油滴の果実が垂れ下がる。この果実は落下して炎上し、それからさらに果実が現れては落下する。不意に、画面はカラーの空間になり、動く光輪が優しく現れる。光輪は振動し、“ESSO”に変わる。地球のエキスは捕獲され、飼い慣らされたのだ。

 読者なら、どうやって落下する液滴のアニメートに手をつけるだろうか? ハイスピードカメラではコントロール不可能で、滴を空中に停止させることはできない。だが、アレクセイエフが望んだのはまさにそれだったのだ。彼は滴をハイスピードカメラで撮影し、その約30枚の写真を熟練のガラス工に与え、落下する固まりのそれぞれの動画を正確に吹きガラスで複製させた。こうすれば、石油やぐらの樹からこの滴を吊り下げて、これを落下・炎上させることは可能である。次の問題は石油やぐらの樹の成長である。これは力強く正しく見える必要があるので、危険やミスを犯すことなくカメラの前で組み上げていくことができるような代物ではない。数週間あるいは数ヵ月間に渡ってカメラには1本きりのネガフィルムしか入っていない場合、ミスは疫病のように避けねばならない。この樹の場合は、組み立て、使用し終わった後で、カメラの前で少しずつカットしたのである――そして最終的にフィルムで逆転したのだ… “モンサヴォン”Monsavon のコマーシャル『汚れなき美』Pure beaute では、女性の古典彫刻がカメラの前で回転する。同時に、単語“Mon”がゆっくりと波打って、脚や胸、頭の上を旋回していき、とうとう最終的な宣伝文句“Monsavon”が現れる。この結果にはどきりとさせられる。タバコ会社のコマーシャル『仮面』 Masques では、男女の2つの仮面がタバコでマジックをおこなう。これは非常にウィットに富んだアニメーションの奇跡である。

 アレクセイエフとそのスタッフにとって大量生産は問題外だった。彼は実験をスポンサーの後援と結び付ける方法を発見した。両者の一致とは、芸術家本人が甘美な時間を送る間に、スポンサーは小さな芸術作品を獲得するということを意味している。その結果はつらい汗と労働の日々に報いるものである。私はアレクセイエフの仕事の理論的側面については言及しなかった。もちろん彼には自分のヴィジョンと理論があり、それはサイバネティックスと“トータル”映画のコンセプトと結び付いていたわけではあるが。我々にとって、彼のパリのスタジオからごくまれにもたらされる小さな宝石を享受するためには、眼と耳があれば充分なのである。


  "Alexeieff's Advertising Films"〈原注〉『フィルム22』Film 22 (British Federation of Film Societies, 1959)

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