ここまでは、違法性ってなんなの?って感じで説明してきました。
ちょっと抽象的な話が続いてたので少し具体的な話をしましょう。
違法性阻却事由とされるものについて説明します。
違法性が阻却されるというのは、文字どおり違法性が阻却される、
わかりやすい言い方でだと、否定されるつまり最初から違法ではない事になります。
例えば、人を殴って怪我を負わせてしまったのだけど、違法性阻却事由があれば、
当該法益侵害行為は違法ではないという事になります。
この違法性阻却事由というものには、二種類のタイプがあります。
正当行為と言われる類型と、緊急行為と呼ばれる類型です。
まずは、正当行為について。
刑法35条をみてみましょう。
第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
この様に規定されています。
法令とは、法律や条令その他の成文法規を意味します。
35条は、法律でやって良いよって規定してある場合は
その行為が法益侵害を伴っても違法ではないと規定しているんですね。
条文上は、「罰しない」とされていますが、
これは、違法で犯罪が成立するけど、罰しないのではなく、
違法ではないという意味だと解されています。
例えば、警察官による被疑者の逮捕は刑事訴訟法199条により許容されます。
本来であれば、人の身体の自由を奪う逮捕行為も法益を侵害しているのだけど、
法秩序全体の精神から正当と認められる行為は違法ではないとするのです。
親権者の未成年者の子に対する懲戒行為(軽い体罰とか)も
家庭内の事には国家ができるだけ介入すべきでないという価値判断もあるのですが、
民法822条で規定してあるから問題がないという側面もあります。
こういうのが法令に基づく行為です。
法令に基づく行為の他に、正当な(業務)行為も違法ではないとされます。
正当な行為とは、主に社会生活上正当な業務行為とされています。
業務とは、「仕事として」って意味ではなく、
社会生活上反復・継続して行われる事です。
だから、車で間違って誰かをひいちゃった場合は、過失致死傷罪ではなく、
"業務上"過失致死傷罪とされてますよね?
車に乗っている以上は、免許を取得しているわけですから、
反復・継続して運転を意思があるということになり、"業務上"になるのですね。
ニュースとかで聞き慣れてると思いますが、そういうわけなんです。
で、業務として正当化される場合の典型がスポーツです。
プロレスの試合で人が死んでも逮捕者が出たって話は聞かないですよね?
反則行為で目をフォークで突き刺したとかなら話は別ですけど、
通常の試合であれば正当行為として、怪我や死亡の場合でも正当化されるのです。
次に、緊急行為です。
後で詳しく説明しますので、ここでは軽く説明して終わりにします。
これも、先に条文をみましょう。
第36条 1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を守るため、
やむを得ずした行為は、罰しない
第37条 1項 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を
避けるため、やむを得ずした行為は、これによって生じた害が
避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。
ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、
又は、免除することができる。
36条はみんなも知ってる正当防衛、37条は緊急避難について定めています。
例えば、夜、道を歩いていたらナイフを持った見知らぬ男に襲われた。
このときに、暴漢であっても法益の主体であるわけだから、
「この人に反撃したら犯罪ですよ!」って言われたら困りますよね?
運良く逃げられたりすれば良いのですが、逃げられない場合、
「んじゃ、俺に死ねって事か??」って、話になってしまいます。
こういう場合は、正当防衛として自分の権利(命や権利)を守る行為は
それが、例え相手の命を奪う事になったとしても許される事にしよう。
そして、暴漢から逃げようとして、他人の家の窓ガラスを破って逃げ込んだとしても、
窓ガラスを壊した行為(形式的には、器物損壊罪)は罪に問わないようにしよう、
(この場合は緊急避難)せっぱ詰まった状態の行為、これが緊急行為です。
ところで、正当防衛と緊急避難の違いがなにかわかりますか??
条文を読めば気付くかなぁ?ちょっと難しいと思いますが、
正対不正の関係にたつのが正当防衛、正対正の関係にたつのが緊急避難です。
36条にある様に、不正な侵害に対しての反撃行為が正当防衛です。
37条にはそういう要件の記述が見あたりませんよね?
正当防衛で侵害される法益(暴漢の身体・生命)は侵害者の法益なので、
法を犯した者の法益であるから、法は保護しないので不正な法益となるのですが、
緊急避難で侵害された法益(ガラス窓=財産)は、侵害者である、
暴漢の法益ではないですよね?第三者の権利を侵害しているわけなので、
否定されるいわれのない法で保護すべき正当な権利です。
権利を侵害された第三者には侵害を甘受するいわれはないはずです。
だから、緊急避難においては正対正の関係になります。
そのため、緊急避難では法益の均衡が要求されているのです。
生じた害と避けようとした害を比べたときに避けようとした害が
生じた害より大きくないといけないわけです。
そうしないと、例えば、車が猛スピードで突っ込んで来て、
水たまりの水が跳ねて・・・それを避けようと人を突き飛ばしたら
後続車に轢かれて死んでしまった。
これは、緊急避難行為で仕方が無かった。罰せないよね。
ホント、残念でした。恨まず成仏してね☆
なんて事になったらおっかない世の中ですよね。
高くてもたかだか数万円の靴やズボンの為に、死んでくれって事になる。
そんな事は認められないってんで、法益の均衡を要求しているわけです。
念のために言及しておきますが、比較される保護法益が
生命・身体と財産となった場合には、財産権が何億円になろうが、
生命より法益として価値が高いということにはなりません。
財産権と財産権が衝突した時は、その価額を考慮しますが、
生命や身体とはいくら高価な財産であっても比較の対象とはなりません。
生命と比較できるのは同じだけ大事な生命だけなのです。
ですから、車が猛スピードで自分めがけて突っ込んできた場合は、
人を突き飛ばしてでも逃げる事ができるのです。
正当防衛や緊急避難は司法試験では良く出題される分野で、
もっと細かい議論があるのですが、いきなりやっても難しいので、
機会があればもっと掘り下げた議論を紹介したいと思います。
興味がある人にはもう少し勉強が進んだ段階で司法試験向けに
出題されている正誤問題をいくつか紹介しますので、挑戦してみてください。
次のページからまた少し抽象的なお話が出てきますが、
そんなに難しくないので頑張って理解しましょう〜!
被害者の同意が違法性にどのように影響するかという問題です。
それでは、みなさん、一緒に考えていきましょう。
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