
温泉紀行作家の故・美坂哲男氏の文章を初めて目にしたとき、温泉ガイドブックにしては妙に著者自身の話が多いな、と感じた。いや、それが面白さにもつながっていたわけだけど。
本書を読んだとき、デジャビュにも似た思いを持った。
本書では美坂哲男氏の諸作のように、著者が「私」としてしばしば登場する。
通常、こういうような「モノ」紹介本において、著者がひょいひょいと顔を出すということがあるだろうか? そもそもこの手の本で文中に「私」という人称が出ることが珍しい。
つまり。
本書には著者の思いがあふれんばかりに詰まっているのだ。
著者の思いと言っても、そこは大阪人。茶目っ気たっぷりの文章は、飽きさせることがない。
「ほら、見て見て見て。こんなええもんがあるねん。こんな美味しいもんがあるねん。知らんかったやろ。まだあるねんで。ほら。ほらほらほら」
こういう文章が載っているわけではないけれど、本書で紹介されている品々を人に勧めるときは、こういう風に勧めているとしか思えない。
これはそんな本だ。
たとえば「まつのはこんぶ」を紹介している本文の一節。
「……塩昆布だけを買いに入るのは気ずつないものだし」
「気ずつない」って、あなた。
全国区向けの書籍で、そんなディープな大阪弁を使う本、普通ありますか。
この本は、文章も含めて「大阪名物」の本なのだ。
ここで、二つほど予言したい。
その1.いずれ近いうちに、この本にはクレームがつく。
「なんで××の○○が紹介されてないねん!」と。
その2.この本そのものが、「大阪名物」になる。
大阪名物 井上理津子 団田芳子 共著
発行 創元社
税込1575円 ISBN:4-422-25044-2