ささいな恐怖


書かなかった話


 えー、すいません。
 今回は「完成作品」ではありません。
 ネタとして考えはしたものの、今ひとつ形にならずお蔵入りになった話の紹介です。
 理由はあれこれあるものの、要するに「ささいな恐怖」として面白くなると思えなかったからです。
 星新一氏の「できそこない博物館」と同趣向です、と言ったら・・・怒られるでしょうね。
 ま、ちょっとは考えて書いているんですよ……ということで♪


「いたずら」
喫茶店で入った人数と運ばれた「お冷や」の数が合わないように振るまって脅かしているうちに、
本当に数が合わなくなってくる。


 怪奇体験談で、よく聞く話です。
 3人で喫茶店に入ったのに、「お冷や」が4つ運ばれてきたとか。
 この話を悪用してウエイトレスを怖がらせようとする連中3人組がいて、その中の一人が語り手です。
 当初、「お冷やが足りない」と言って怖がらせていたのが、
人数3人/お冷や3つ
 いつの間にか人数とお冷やの数が同じになっている。
人数4人/お冷や4つ
 語り手である「俺」は不思議に思いつつ、また次の喫茶店に入る。
 お冷やが3つ運ばれてきて、語り手の前にはお冷やが置かれない。
人数4人/お冷や3つ
 語り手がウエイトレスに「一つ足りないよ」と言うが、無視される。
 どういうことなんだとむかついていると、いつの間にか一人増えていた「知らない誰か」がにやりと笑って、「お前はもういないんだよ」と言う。
     ↑
 なんかややこしいでしょ。
 わかりにくくて怖さもイマイチなので、ボツ。

 付記:後日、このネタを黒神モノで使ってみてはどうかというご意見をちょうだいしました。
 そうして書き上がったのが「ワタシ的くろかみ観察メモ」です。

「トマソン」
途中でなくなっている階段。それをカメラに撮っていると、男が登ってゆき、途中で消える。


 トマソンというのは、作家赤瀬川原平氏が名付けた、路上の奇妙な物体のことです。
(参考:ちくま文庫「超芸術トマソン」)
 たとえば2階に入るようになっていた屋外の階段が、なんの都合か入り口が不要になり、コンクリートなどでふさがれてしまった。
 しかし階段まで撤去するのは費用がかかるため、そのまま放置し、結果として何もない場所に昇る階段が生じ、なんのためにある物なのかわからなくなってしまった。
 ……というものです。

 で、「トマソン」に興味を持った「私」が、そういう階段を見つけてカメラで撮っていると、通りかかった男が「何をしているのですか?」と話しかけてくる。
 「私」はうろたえつつ、入り口のない階段の奇妙さなどを説明し、そういった物を撮影しているのだ、と男に言う。
 男は首をかしげつつ、「私」が撮っていた階段を昇ってゆく。
 「え?」と思いつつ「私」が見ていると、男は階段の終わる部分の壁に吸い込まれるように消えていった。

 奇妙な薄気味悪さが出ればいいな、と思ったのですが、前述の「超芸術トマソン」の中に、そのまんまのことが書いてあったので、

「あちゃあ」

 で、ボツ。

「産科にて」
子供が流れてしまった女性が、産まれたばかりの子を抱いてはしゃぐ家族を見てキレ、その場にいた人間をみな殺しにする。


 これはわかるでしょう。
 ひねりが無さすぎて、ボツ。

「臓器農場」
不治の病気の子を持つ若い父親に対し、医師が話を持ちかける。
金を積めば、方法はある……


 ご想像通り、臓器移植ネタです。
 通常、臓器移植を希望する場合、適合するドナーが出来るのを、(すなわちドナー登録している人間が死亡または脳死状態になるのを)待たなければなりません。
 それを待っている間に手遅れになることがしばしばありますし、外国で移植するにしても、いろいろと問題があります。
 そこで医師は、ある方法を提案します。

 避妊もせずに性行為を行い、簡単に中絶する中学生や高校生が多い。
 医師はそんな少女たちと契約し、中絶せずに7ヶ月程度までそのまま妊娠させておき、人工早産によって出産、生まれた子供を引き取る。
 医師はその子供を秘密裏に育て、臓器提供の「材料」にする。
 「材料」となった子供は、あらかじめロボトミー手術され、植物状態にされている。
 「子供」には戸籍はなく、社会的にも認知されていない。
 そういった「材料」を多数用意しておき、適合する物を移植する。
 少々高くつくが、すぐに移植手術できる。
 ただし、いかなることがあろうと秘密を漏らしてはいけない……

 若い父親はとっさに拒否しますが、死亡したドナーを待つ余裕がないこと、生体移植の方がはるかに拒否反応が少ないこと、なにより早く臓器移植しなければ子供が死ぬ。
 ……と医師に説得され、悩み抜いたあげく、医師の「材料」からの移植に同意します。

 と、まあ、中絶するはずだった子供を植物状態で生かし、臓器提供のために使用するというグロテスクさ、自分の子供を助けるために生きた子供を犠牲にする親の愛=エゴ、などがテーマでしょうか。
 これをボツにした理由は、まず「ささいな恐怖」として書くには長くなりすぎるであろうこと。
 次に、ホラーと言うよりは医学サスペンスとして書くべきであろうこと。
 そして、これがなにより大きな理由なのですが、メインのアイデアにリアリティがないこと。

 考えてもみてください。
 医師が行う行為が露呈した場合、当然重大犯罪です。
 ところが、あまりにも秘密が漏れる可能性が多い。
 妊娠した女生徒のクチコミで、「あそこに行くとただで堕胎してくれる」とか、「材料」を保存しておくためのコストが高くつくとか。
 問題は山積です。
 リスクを犯してまでやるほどのメリットがない。
 そして、現在もし同じようなことをしたいのであれば、東南アジアや南米などの貧民エリアから、健康な子供をさらうか、または買ってくればいいわけです。
 その方が、はるかに安くつき、あと腐れもない。

 以上の理由で、ボツ。

それでは、ちゃんと書いた新作で、また。<(_ _)>



ささいな恐怖