帰宅途中に、よく書店に立ち寄る。主なところだけでも四店。
・駅舎と通路で繋がった百貨店の中に入っているA書店
・駅舎と通路で繋がったスーパーの中に入っているB書店
・駅ビルの中に入っているC書店
・駅から少し離れた大規模書店D
毎日全店回るわけではないが、二日に一度はどこかに入りこんでいる。
この四店に目的の本がない場合、さらに駅から離れた書店に足を伸ばすこともある。
一店だけで済めば一番いいのだが、駅からの距離や、電車の乗り継ぎ時間などの制約がある上、現実問題として一店だけでは用が済まないので、複数店舗の利用となってしまう。
店によって傾向が多少違い、欲しい本が置いてない場合もあるからだ。
それから、これは書店さんにとっては迷惑な話だと思うが、個人的なこだわり、という事情もある。
そういった事情をからめて、各店の状態を説明すると次のような感じになる。
◆百貨店の中に入っているA書店
雑誌類は充実している。が、文庫とコミックスの数が少ない。
八階という高い位置にあって、辿りつくまでに時間がかかり、乗り継ぎ駅という制約もあって、駅前という好立地でも、ほとんど利用しない。
◆スーパーの中に入っているB書店
駅からすぐ。本の数もそこそこある。が、本の配置・選択がいまひとつで、他店に比べると時流に一歩遅れをとっているように感じる。
「筋」がわかるスタッフはごく少数なのかもしれない。が、コミックスはけっこう勉強しているように見える。ただ、ターゲットが十代から二十代らしいので、残念ながら私の嗜好とはあまりあわない。
あと、これが一番、この店でひっかかるのだけれども、店員さんのほとんどが本をぞんざいに扱う。
この店で初めて文庫にカバーをかけてもらった時は、驚いた。
本体の装丁にまで傷がつくのではと思うほど、爪の痕がカバーに生々しく残っていたからだ。別の日、別の人でも同様だった。こんな書店は初めてだ。
キレイな新刊にお金を払ったはずなのに、早々に傷物にされてはたまらない。
それに、セコイ理由だが、古書店に本を売る時、装丁カバーの状態によっても引き取り価格が違ってくるのだ。
なので、わたしはここでは基本的に雑誌しか買わないことにしている。
ただ、ひとりだけ、きれいにかけてくださる方がいる。どうやら、それなりの知識を有していると思われるコミックス担当者らしい。
あの人は、本への接し方を心得ている、とわたしは勝手に解釈し、その店員さんがレジ・カウンターにいる時だけ、カバーをかけて欲しい本を買うことにしている。
◆駅ビルの中に入っているC書店
ここは、ベテラン書店員が気をくばっているのが如実にわかる品揃え。
特に、「おすすめ&売れ筋コーナー」の工夫が嬉しい。
この前、映画「ラスト・サムライ」の影響で、新渡戸稲造の『武士道』の翻訳本が数種類、平積みとされていたのだが、その隣にさりげなく、福本清三さんの『どこかで誰かが見ていてくれる』が置いてあった。
映画を見て、武士道に興味を持った人間がこのコーナーまで足を運んだ場合、『武士道』のすぐ隣に映画の出演者の本があれば、興味をひかれて手にとってみる可能性が高い、かもしれない。
しかも、主役ではなく、脇役中の脇役、サイレント・サムライの本を選んで置いてくれるところが、なんともいえず嬉しい。
いま、この工夫は、オンライン書店のいくつかでも行われている。
つまりーーー『武士道』という本を買った人は、『どこかで誰かが見ていてくれる』も買っていますーーーという情報をネットから拾うことも可能になったのだ。
が、そういった情報をネットで得られたとしても、わたしは自分の目で、現物の内容(特に文章)などを確認した上で購入したい。そういう意味で、わたしにとって、この書店はとても有難い存在だ。
実は、この店だけですべての用が足りていた時期があった。
が、数年前売り場面積を増やしてから、文庫・コミックス・雑誌のコーナーが使いづらくなってしまった。
あくまで、わたしにとって、なのだけれど。
まだ、ベテラン書店員さんは残っている。が、レジ・カウンター担当は知識のあまりないアルバイト店員さんにしてしまったらしい。
コミックスは会計をする時、コミックス専用レジに持っていかなくてはいけなくなった。
そして、新刊コミックスを購入しようと専用レジに持って行くと、後ろの棚から、ビニールをかけていないものを出してきて、取り替えてしまうようになった。
たぶん、ビニール節約のためなんだろう。
が、B書店のところでもふれたように、装丁が汚れていたり、裁断がひどかったりするものを避けて選んでいる身としては、釈然としない対応だ。
それでもしばらくは利用していたが、ある時、とても酷い状態のものと交換されて渡された。その旨を指摘し、普通の状態のものと交換して欲しいと頼んだところ、アルバイト店員さんは憮然とした表情になった。
なんとか交換してもらえたが、それ以降、そこで新刊のコミックスを買うのはやめた。 たまたま、その売り場で、欲しい新刊コミックスを見つけても、そこでは買わないで、他の書店まで行って購入している。面倒だが、不快な思いをするよりずっとましだと思っている。
また、文庫売り場では、本の並べ方が、一部、逆になってしまった。
「逆」といって、わかっていただけるだろうか。
普通、図書館や書店は、左から右へ本を並べていく。
シリーズ本だとわかりやすいと思うが、1巻、2巻、3巻と、左から右へと順に数字が大きくなっていく。
また、日本人著者別で小説などを並べた時は、姓がアで始める作家から五十音順に並べて、ワで終わる。
壁際の書棚ではなく、島のようになっている書棚の場合。
片側が一杯になってまだ続く時は、その裏側の棚左隅最上段にワープして、また、左から右へとつながっていく。
その流れを追うと、一筆書きのように歩くことができる。
新刊コーナーに買いたい本がない場合、わたしは既刊本の棚を著者名順に背表紙の文字を目で追いながら、買いのがしがなかったろうかと回遊することがよくある。この時、この一筆書きのように動ける、ということはとても重要だ。
が、お気に入りだったこのC書店。リニューアル時に、文庫担当者が、その並べ方をやめてしまったのだ。
片側はいままで通りだが、その反対側は、逆並べにしたのだ。
書棚の前に立って、シリーズ本の背表紙の巻数を見ると以下のようになる。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1
右から左に流れていくのだ。
片側を見終えて、反対側に回って、この並びを目にした時、一瞬、我が目を疑った。
サ行の作家名だったのに、ふいにワ行の作家になっていたからだ。なぜ、サ行かタ行ではないのだろう?どこか、飛ばしたろうかと、もう一度来た側に戻って確認し、さ らに棚をぐるっと一回りした。
で、自分が飛ばしたわけではなく、逆並べになったのだとわかった。
間口二間ほどのうなぎの寝床のような奥に深い書店で、壁面三方を書棚にし、残り一方に出入り口とレジ、そして、店内中央に書棚がひとつという作りである場合は、こ の方式も有効かもしれない。
レジを基点にして、目当ての著者まで、どのくらいというような指示もできやすい。
が、広さがある程度確保できる店で、島の書棚が複数ある場合、この並べ方ははたして有効なのだろうか?
一筆書きでチェックするにはむかない並べ方だ。
小学五年生の時に図書係りになってから高校を卒業するまで万年図書委員で、書店・図書館のヘビーユーザーであり、業務の中で書籍の排架作業もけっこうやっているわ たしは、骨の髄まで「本は左から右に並べる」という事が染み込んでいる。
わたしは、しばし、変化してしまった棚の前で立ちつくした。
それでも、意を決して回遊を再開してみた。
やってみれば、なんとかなるかもしれないと、淡い期待を胸に。
が、まもなく軽いめまいをおこした。
少し休憩し、気分が回復したあと、逆並べの側はいつもと反対向きに歩いてみた。
だが、さっきよりも、短時間で車酔いのようになった。
どうしても染み付いた視線の動きを変更できず、背文字情報の読みこみがうまくいかないようだ。
慣れる前に、店内でダウンしかねないので、それきり、文庫既刊コーナーの利用も諦めた。
雑誌コーナーは拡充され、点数も増えた。
最初はそれを喜んでいたが、すぐにそれがある問題をつれてきたのがわかった。
豊富な雑誌点数は新たな客を、店に呼び寄せた。
そのせいだろうか、急にマナーの悪い人が目立つようになった。
自分の荷物を売り物の雑誌の上に無造作に置く人。立ち読みしていた雑誌を放り投げる人までいる。
また、書店のリニューアルと同時期に、駅ビルの中にテイク・アウトできるカフェが入ったのだが、そのテイク・アウトした飲み物を飲みながら書店内に入ってきて雑誌を立ち読みする人が出たのだ。 いくら雑誌は保存用ではないといえ、他人が汚した商品を買いたいとは思わない。
以降、雑誌コーナーも使わなくなかった。
◆大規模書店であるD書店
C書店がリニューアルされた頃に開店した。
(C書店と同一の駅の乗降客が主な利用者となることから、このD書店の開店対策として、C書店はリニューアルしたのかもしれない)
在庫の点数だけみれば、四店の中でトップである。
コミックスとサブ・カルチャーのコーナーのスタッフは、熱意・知識ともに備えているように感じられる。
コミックスにはビニールが掛けられているが、新刊書でもC書店のように取り替えられることはない。カバー掛けもおおむね丁寧な人ばかりだ。
時折、「見本」として、担当者のコメントつきで、ビニールを外したお勧めコミックが用意してある。
新たな作品に出あう貴重な機会であり、嬉しいサービスである。
この書店ができる前、マイナーなコミックスは、<しぶしぶ>専門書店に行って買っていた。なぜ、<しぶしぶ>かといえば、そこでの会計時にいつもストレスを感じてしまっていたからだ。
さすがに専門書店だけあって、在庫も、店員さんの知識量も豊富だった。が、毎回会計の時、「サービスとはなにか?」ということを考えてしまう。
そこの店員さんは、商品を客に両手で手渡しすることを、その他を無視しても行うべきサービスとしているらしい。
レジ・カウンターに二人の店員さんがいる場合、一人は会計に、一人は包装にまわって、大抵は包装が先に終了する。こちらがお釣りをまだ財布にいれていないのに、包装を終えた店員さんは、こちらに商品を渡そうと、うやうやしく空中に差し出してくるのだ。
そのたび、わたしは財布を持っていない方の手で、いったん品物を受け取って、レジ・カウンターに置く。会計が終了し財布をバッグにしまってから、もう一度商品をカウンターから取り上げて、レジ・カウンターから離れる。 この動作を買い物のたびに何回も店員さんの目の前で行った。
それでも、うやうやしく差し出してくるのは、かわらなかった。
客にも都合があるのだといい加減わかって欲しくて、「財布をしまうまで待ってください」と口頭で頼んでもみた。その場では、カウンターの上に商品を置いて待ってくれるが、次の時もやっ ぱり会計が終了していないのに、両手で商品を差し出してくる。
このような店をわたしは他に知らない。
わたしは販売業も経験しており、客の動きをそっと見、邪魔にならないように行動する、というのは接客にとって大切なことだと教わった。
「両手で手渡し」は、確かに礼をつくしたことだ。が、客の都合を無視して、それにこだわるのは、本当のサービスではないと思う。
D書店が開店してから、わたしはその専門書店を利用していない。
ただ、D書店も完璧ではなかった。
コミックス・コーナーで感じる気概を、他のコーナーではあまり感じられない。
特に、「おすすめ・売れ筋コーナー」が、C書店に比べると貧弱だ。
また、スタッフの能力差が激しく、質問をすると伝言ゲームのようになり、けっこう待たされる場合が多い。
店内に在庫検索端末が設置されているが、店内配置指示とうまく連動していないので、結局、店員さんに探してもらったこともたびたびあった。
これも悩みどころだ。せっかく持ってきてもらっても思い描いていた内容と違った場合が多々あるからだ。
わたしは、できるだけ自力で探しだして内容をじっくり吟味してから購入したい。
それに、これまでの書店利用の経験から、店内ジャンル配置図等の情報があれば、たいてい目的の本を自力で探しだすことができていた。
が、このD書店の、コミックス・サブカルチャー以外のコーナーでは、それが通用しない。どうやら、とことん波長があわないらしい。
結局、ここ数年、新刊・話題本チェックと、人文科学系探索には、C書店を利用。
コミックス・サブカルチャー系探索と文庫既刊本回遊はD書店を利用。
雑誌探索は、B書店とD書店。
百貨店に用事があった時のついでにA書店をたまに覗く、というように使いわけをしていた。
ところが、最近、通勤経路途中に新しい書店ができた。
D書店ほどの大きさはないが、C書店よりは大きい。
開店初日に早速、品揃えを確認にいったところ、大いに満足できるものだった。
在庫検索端末は三台設置されていた。
残念ながら、前方一致検索しか使用できないようだったが、棚配置指示はきちんとしている。
文庫既刊本の並べ方は、わたしの慣れ親しんだものだ。
文庫新刊のポイントの押さえ所も、わたしの肌にあった。
コミックス・コーナーは・・・・ちょっと驚いた。
売り場面積がそれほど広くないのに、かなりマニアックな品揃えだったからだ。一応若者向けもあるにはある。
が、他人事ながら、大丈夫なんだろうかと心配になった。
つげ義春作品が平積みだったのだ。
『正チャンの冒険』の復刻版も、田中圭一の『神罰』までも、平積みだった。
その他にも、イロイロ・・・。
このコーナーの今後を注視していきたいと思う。
児童書コーナーも充実していたが、これもいささか他の書店とは趣が違う。
違うけれども、わたしには心地よい品揃えだった。
お勧めコーナーの並べは、C書店ほどの工夫は見られないが、それは今後に期待しようと思う。
そういうわけで、現在、わたしはこの新しくできた書店にいりびたり、せっせと買い物をし、「こういう嗜好の客がいるのよ、だからこのままの品揃えを持続してね」と、ささやかなアピールを続けている。
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