友人、桐子さんが、自宅近くの百貨店の中にわりと大きな書店が新装開店したというので買い物に出かけた。
欲しい本があったせいもあるが、新しい書店がどういう品揃えをしているか確認する意味もあった。本好きにとって、自分の嗜好にあった書店の存在をおさえておくのは重要な問題なのだ。
さて、店内を一周してみると、どうも、本の並びがしっくりとこない。本についてわかっている人間がいるかいないかは、棚の本の並びでだいたい読める。どうやら、その書店には、本に対しての知識がある人間があまりいないようだった。これでは使えないかなと思いながら、目当ての本を見つけた桐子さんはレジに向かった。 と、長蛇の列ができていた。
どうやら、レジの店員が不慣れで、客の質問に答えきれないらしい。もれ聞こえてき店員の会話といえば・・・。
「ねえ、コバルトっていう出版社、うちに入っていたっけ?」
「このアニメの下敷きの値段って、どこにあるの?」(その書店はグッズ関連も置いていた)
後でわかったことだが、店員はまったくの未経験者ばかりだったそうだ。
仏心を出した桐子さんは、レジの脇までいって、こっそりと「コバルト文庫は新潮文庫みたいに出版社の名前をつけているんじゃなくて、集英社が出している、ジュニア向け文庫のことで、下敷きの値段は裏にある四角で囲まれた数字がそうだから」と囁いた。
店員たちは礼をいい、救世主を見るような熱っぽい目で桐子さんを見た。それだけ伝えて列に戻ろうとした桐子さんを、上司らしい男性が呼び止める。結局、桐子さんは、お客側からレジの内側に移動して、客の質問に四苦八苦する店員たちを補助してまわった。
その後、桐子さんは、上司の男性に依頼されて、一ヶ月ほど、その書店で臨時に働いた。
文庫やコミックや実用書など種別ごとに、それぞれ素養がありそうな店員に担当を振り分けて、各自に目を配らせるよう勧め、また、種別ごとに注意すべきことや、本の並べ方も話してきかせた。
断っておくが、桐子さんはそういった仕事をしているわけではない。ただ本が大好きで、周囲(家族や友人)にも本好きが集まっていて、自分の趣味以外の本に対しても知識があり、本を探すために数多くの書店を見てまわった経験があっただけだ。
いまでは、あの時すがりつくような目をしていた店員たちが、自分の担当分に積極的に心を配り、本好きの人間にとっても納得のいくような品揃えの店になっているという。
「情けは人のためならず」というべきか、「源氏物語の若紫計画」というべきか・・・。
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