| 『メリークリスマス!』 |
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作:gazelle
「これが…本物の雪…」
コロニー育ちのジュドー=アーシタは、札幌シティにしんしんと降る雪にしばし見とれた。
「くそっ! ホンコンシティーからろくに整備もせずに来るから!」
寒冷地仕様でないMSバウンド=ドッグの中で、ジェリド=メサが震える。
「こうなると思ったわ」
マウアー=ファラオがMSガブスレイを寄せ、毛布を手にバウンド=ドッグのコックピットに飛びこむ。
「マウアー! 戦闘中だぞ!」
「誰が戦っているの?」
言われてみれば、市中は静寂に包まれている。
「あ…そ、そうだな…」
ジェリドとマウアーは、毛布にくるまって街を眺める。
「この雪…血に染めるは無粋か」
東方不敗マスターアジアが帯を締めなおす。ドモンをあと一歩のところまで追い詰めていたと言うのに。
「師匠…?」
生死の境に見た明鏡止水。ドモンを包んだ金色の光が消え、彼は怪訝な顔をして東方不敗を見た。
「これで天然温泉の露天風呂と熱燗がありゃあ言うことないんだがな…」
戴宗は、衝撃のアルベルトのボディーを狙った掌打を止めた。
「定山渓か…朝里だな」
戴宗の人中を狙ったパンチを引っ込め、アルベルトは怪ロボ『ウラエヌス』から送られたデータを見る。
「セシリー、喉まで出かかってるのに、どうしても出ない言葉があるんだ…」
シーブック=アノーは、痒いところに手が届かないような顔で言う。
「シーブック、それって…」
赤くなるセシリー=フェアチャイルド。
「違うよセシリー、それはこの戦いが終わってからさ。そうじゃなくて、えっと…」
シーブックは頭を掻く。
定山渓温泉・某ホテル。
「エマニエル君…私の独り言を聞いてもらおう」
シズマ博士は、幻夜ことエマニエル=フォン=フォーグラーに『バシュタールの惨劇』当時の真実を語った。
現在普及しているシズマドライブは、バシュタールの惨劇の責任をすべてかぶったフランケン=フォン=フォーグラー博士が、自らの命と引き換えに完全なデータを送って作り上げたものであることを。
「なぜ…今更それを…」
幻夜は、しばし呆然としたのち、ようやくそれだけ言った。
「こんな日でなければ、言えるものではないよ。真実は全て話した。これで私もフォーグラーに会いに行くことができる」
シズマ博士は、幻夜に拳銃を渡す。幻夜は震えながらシズマ博士に向けて引き金を引く。
だが、銃はカチッと鳴っただけで銃弾を放つことはなかった。手入れは十分で、弾丸もきちんと装填されたものなのだが。
札幌シティー・真駒内。
「私…ヒトになったの?」
「僕が…リリンになるとはね…」
綾波レイと渚カヲルは信じられない様子でお互いを見た。
「もう…戦わなくていいんだよね、カヲル君」
シンジの頬から、涙が伝う。
連邦軍・真駒内駐屯地内のロンド=ベル仮司令室。
「使徒の反応、消失しました!」
日向マコトの報告に、ネルフのメンバーが騒然となる。
「奇跡だな、碇」
冬月が言う。
「ああ」
碇ゲンドウは、足をぬるま湯につけたままうなずいた。
定山渓・某ホテルの露天風呂。
「ロラン、何でみんな戦わないの?」
ソシエ=ハイムは塀ごしにロラン=セアックに問う。
「ソシエお嬢様、今日は確か…何とかって言う聖なる日だそうですよ」
ロランは何とか思い出そうとするが、思い出せない。
「♪たまごさん まぜまぜしましょ まぜしましょ…」
テュッティ=ノールバックは、スポンジケーキを作ろうとしていた。
「テュッティ、今日は何かおめでたい日だったか?」
マサキが通りかかる。
「マサキ、今日は…」
「思い出した! セシリー、メリークリスマス!」
シーブックは、近くの店でクラッカーを買って鳴らした。
「メリークリスマス、シーブック」
セシリーの目から、ちょっぴり涙がこぼれた。長い戦いのせいで、クリスマスのことなどすっかり忘れていたからだ。
「人類抹殺などと、簡単に言うものではないな…」
地下のシェルターから出てきた子供たちを見て、マスターアジアがぽつりと言う。
「そうですよ、師匠。地球と、そこから生まれた人の未来は一つじゃないんです」
ドモンも、子供たちを見ている。マスターアジアと旅に出るまでは、両親や兄、そしてレインとクリスマスを祝ったこともあった。
「ワシはそんなことも忘れておったか…むっ? 今日は体の調子がいいな…」
後にマスターアジアは、己の業病の奇跡的な完治を知る。
「本当の大罪人になる前に、よく考え直せと神は言いたいらしいな」
同刻・ネオ東京郊外某所。
「ベルダンディー、昨日の流れ星に何をお願いしてたんだ?」
森里螢一は、縁側で雪を見ていた。
「せめて今日だけは、全ての人が心安らかに過ごせますようにと…」
ベルダンディーも、無心に雪を見ている。
「女神様の願いなら、きっとかなうよ」
二人は、全てが白銀に覆われる様を眺めつづけた。
End