『バレンタインデー』
作:Gazelle

 ネオホンコン。
 ドモン=カッシュはその日もすがすがしいほどに朴念仁ぶりを発揮していた。
 何せ、男なら誰でもそわそわせずにいられないこの日に、黙々と修行を続けているらしいからだ。
 らしい、とは?
「ちょっと修行してくる」
 と言ったきりドモンはアーガマに戻っていないのだ。

 アウドムラ・食堂。
 まあ、そんな彼はさておき、他のロンド=ベル隊員の様子を見てみよう。
「ロラン=セアック、これを食べてくれないか?」
「え? いやそのあの…」
 ポゥ=エイジは自らラッピングした手作りチョコを、ロランに手渡す。
「どうして敵のあなたがこんなところにいるのよ!」
「今日はバレンタインデーだぞ。女の子の恋する気持ちに敵味方もあるものか!」
 ポゥの真摯な表情と口調に、気圧されるソシエ=ハイム。
 まあ、ポゥの言うことにも一理なくもないが…
「……」
 銀鈴がロランの手から黙ってチョコを取り上げ、一かけらを金魚の入った水槽に投じた。金魚が腹を上に向けて浮かんでくるのではなく、シーマンになってしまったのはギャグSSゆえの宿命と言うものだろう。
「この忙しい時に私の手をわずらわせないで」
 銀鈴はポゥをつまみ出した。ちなみに銀鈴は、アウドムラに乗りこんだ国際警察機構の男性職員全員に義理チョコを配ったとか。本命チョコはジョルジュ=ド=サンドの手を経て、パリの村雨健二に届いているはずだ。

 アウドムラ・クワトロ=バジーナの私室。
「少佐、ちゃんと赤いチョコです」
 ララァ・スンが最初にこの部屋にチョコレートを持ち込んだ。
「唐辛子か…ララァは無駄にかしこいな」
 ひりひりする口を水でなだめながら、シャアは『義理・本命』と書かれたクッキーお返しリストの『本命』の欄に、迷わずララァの名を書きこんだ。
「それなら素直に食紅でいいと思うが…」
「それなら素直に食紅でいいと思うのですが…」
 ハマーン=カーンとナナイ=ミゲルの声がほぼハモった。キャラクターボイスは同じだ。ハマーンは非常に苦労した跡のうかがえる手作りチョコ、ナナイはウォン首相に勧められた最高級洋菓子店のチョコを渡した。手作りでない分、添えたメッセージカードが意味深だ。
 シャアは二人の名も『本命』の欄に書きこんだ。
『アムロも似たようなものではないか』
 とちょっぴり自分に言い訳しながら。
 アウドムラ・ブリッジ。
「アルテイシア、クッキーの作り方を聞きたいのだが…」
 シャアが連絡を取ると、アムロ・ブライト・ハヤト・カイなどがやってきてたちまち同窓会の雰囲気になった。

 カミーユ=ビダンを囲んでファ=ユイリィ・フォウ=ムラサメ・ロザミィの三者の視線が火花を散らす微笑ましい光景はさておき。

 再びアウドムラ・食堂。
「ジュドー! これ食べて!」
「私も作ったぞ」
 プルもプルツーも、やはりクローン同士なのだとジュドー=アーシタは痛感した。
 ガラスのボール一杯に盛られたチョコパフェが、二つも目の前に突き出されている。
「食ってやるぜ!」
 藤原忍ばりに気合いを入れ、ジュドーはパフェの山に挑む。
 その後には、ルー=ルカのチョコレートが待っているのだが。

 何をおいても愉快なのは、バイストンウェル・ペンタゴナの共同戦線だろう。

 ちゅどーん!

「隔壁、消火剤防御!!」
 ミライ夫人とエマリー=オンスのチョコを手にしたブライトが指示を出す。エレ=ハンムが普通にチョコレートを作っていて食堂の調理場が吹っ飛んだり、ファンネリア=アムとガウ=ハ=レッシィが互いのチョコに珍妙な味付けをしようとしたのがばれ、壮絶な喧嘩になってみたりとやかましいことこの上ない。

「でやぁーっ!!」
「とりゃあああああぁっ!!」
 アレンビー=ビアズリーの部屋でこんな声が聞こえるのは、誰かが間違ったチョコレートの作り方を教えたせいだろう。
「酔舞! 再現江湖デッドリーウェイブ!」
 見た目だけはオーソドックスなハート型のチョコを、アレンビーの手が瞬く間に作り上げる。
 アレンビーの目がかっと見開かれる。
「ぶぁくはつっ!」

 ちゅどーん!

 満足げな笑みを浮かべ、会心の手作りチョコを手にアレンビーが部屋から出て来た。
『どんなチョコだよ…』
 真っ青になったデュオ=マックスウェルの手から、ヒルデ=シュバイカーにもらったチョコが落ちた。

 碇シンジをめぐって、綾波レイと渚カヲルがサードインパクト級の戦いを起こしそうになる、これまた微笑ましい事件が合間にあったり。

 ネオホンコン・銅鑼湾のとあるティーハウス。
「ドモン…あたしのことなんてどうでもいいのかな…」
 アイスティーに沈んで行くミルクを眺めながら、レイン=ミカムラはため息をつく。

「甘いぞレイン!」

 レインが窓の外を見ると、海上で巨大な水柱の上にシュバルツ=ブルーダーが立っていた。
「考えてもみるがいい、ドモンはここまでの人生の大半を東方不敗マスターアジアのもとで過ごした! 思うにマスターは若いときからキャラクターが濃すぎて、異性にモテることなどありえなかったはず。バレンタインデーの存在など…」

「やかましい!」

 言いたい放題のシュバルツに、マスタークロスが飛ぶ。
「ワシにも、慕ってくれる女性(ひと)はおったのだ…」
 東方不敗の思いがけない告白に、
『ど、どこの物好きが?!』
 シュバルツとレインはその言葉をむりやり飲みこんだ。

 第7回ガンダムファイト。ガンダムの装甲を弱体化し、動きを鈍らせる『アブドメンビーム』。ガンダムファイトを根幹から揺るがしかねない凶悪な兵器を駆使する敵に、シュウジ=クロス(東方不敗の本名)は戦いの最中に出会った4人の仲間と共に果敢に立ち向かい、勝利した。
 その4人にマスターを加えたのが先代『シャッフル同盟』だ。
 そのシャッフル同盟唯一の女性、『ブラックジョーカー』ことトリス=スルゲイレフと恋仲になりかけたが、東方不敗の方から振ってしまったのだった。
「そしてそのまま燃えるような恋も知らずに老境に…」
 レインがハンカチで目頭を押さえる。
「ワシはまだ49だ!」
 東方不敗は烈火の如く怒った。

 ランタオ島。
 一人汗をかいたドモンは、何を思ったかディズニーランドに立ち寄った。
 アルティメットガンダムの研究で忙しい家族。修行に明け暮れた少年時代。
 ドモンには縁のなかった場所だ。

「知世ちゃん、小狼にはどんなチョコ買っていけばいいかな」
「このミッキーマウスのチョコレートなんかいいと思いますわ」

 日本から来た観光客らしい少女達の声に、ふとドモンの足が止まる。

─回想シーン─

 ある年のバレンタインデー。
「師匠、何を食べているのですか?」
「チョコレートだ。お前も食べるといい」
 ドモンは手刀でチョコをひとかけ取り、口に入れた。
「甘いですね」
 ドモンのボキャブラリーでは、そうとしか言いようがなかった。
「ワシの知り合いが毎年この日欠かさず贈ってくるのだ。だが、ワシはいつどこで何者の手にかかるとも知れぬ漂泊の武闘家。この思いには答えられぬ…」
 ドモンはマスターのため息をはじめて聞いた。

─回想終わり─

「今日は何月何日で何の日か教えてくれないか?」
 ドモンは観光客の少女に問う。
「ほえ? お兄ちゃん?! あ、違う…2月14日だよ」
 少女はバレンタインデーのことまでドモンに話して聞かせた。
「なるほど、ありがとう……俺もアウドムラに戻るか」
 ドモンは腕を組んで、上半身を使わずに海の上を突っ走った。

 ヴィクトリア港・アウドムラの停泊している埠頭。
「ドモン、どこ行ってたの?」
「修行だ」
 色々と考えるところがあった割には、ドモンはいつも通りそっけなくレインに応じる。
「はい、これ」
「ドモン! あたしのチョコも食べてみてよ!」
 レインとアレンビーは、ドモンに同時にチョコを手渡した。
「…美味いな」
 ぽつりとドモンはレインに言った。
「ありがと」
 頬を赤らめるレイン。
「…珍味だな」
 腹を押さえながらドモンはアレンビーに言う。
「そんなにほめられると照れちゃうよ…」
 同じく頬を赤らめるアレンビー。
『ほめてへんほめてへん』
 ドモンはツッコミそうになるのを辛うじて押さえた。
 東方不敗はそれを見て、柄にもなく感傷的になって空を見上げた。

「シュウジ。シュウジ=クロス…」

『このワシが幻聴を聞くようになったとはな。ドモン相手に不覚を取るわけだ…』
 よりによって今ふと会いたいと思った人の声だ。
「寝ぼけるなシュウジ! 私だ! トリス=スルゲイレフだ!」
「その口調、死ぬまで直さんつもりか? それでは男に好かれぬわけだ」
 若い頃はおたがい憎まれ口ばかり叩き合っていたものだ。
「一人に嫌われなければそれでいい」
 ブラックジョーカーことトリスは、東方不敗の手にチョコをそっと置いた。
「ぬっ、むう…薮蛇だったか」
 東方不敗マスターアジアともあろう者が、返す言葉に詰まって狼狽している。
「そちらのお弟子にもまして朴念仁なお前の迎え、待ってはおれぬ。シャッフルの紋章も伝えたし、一武闘家としてロンド=ベルに加わらせてもらう」
「好きにするがいい」
 ドモンそっくりな無愛想さで東方不敗は答え、トリスに背を向けた。
「師匠、真っ赤です」
 ドモンが微笑む。
「この馬鹿弟子が! 人のことを笑える身か!」
 照れ隠しで怒る東方不敗。
 レインとトリスはどちらからともなく、二人を見て苦笑した。

 END

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