或る兵士の物語


『特訓! 大雪山おろし』

 場所は、ゲッターチーム撃破に向かう飛行要塞グールの中。
「ゲッターロボ…か。スーパー系ロボの相手って疲れるんだよね…怪しい光線とか妙な柔道技とか出すし…」
 30代前半、もう若者とは言ってられない年頃のジオン系DC兵士、タイチ・ナガツキ大尉はため息をついた。現在の乗機はドム2。初代ガンダム・Z・ZZ・ν・Vと、名だたるガンダムと交戦経験のある、ベテランパイロットだ。
 ただ、勝った事はない。身一つで逃げるはめになったことも一度や二度ではない。そんなわけで昼行灯と言われたこともある。が、ジオン系のエースパイロットを倒したガンダムシリーズと、まともにやりあってことごとく生きて返って来たのだから、彼もある意味エースパイロットには違いあるまい。

「でも、スーパーロボット大戦の歴戦の勇者のゲッターを叩けば、ナガツキ大尉だってひょっとすれば少佐くらいになれるかもしれませんよ」
 ローレライ・グリニッジ少尉は気楽に言った。ヨーロッパの貴族の家の出といっても通りそうな高貴な顔立ちをしているが、セクハラをしたDCのジオン系幹部の息子を半殺しにして、今回の危険な任務に回された危ない女性だ。
「そう、歴戦の勇者のゲッターロボが相手なんだよ。俺だって正直勝てる自信はないね。なぜあんなレトロな香りのするメカが強いのか、とは思うけどね。それに、どうもいやな予感がするんだ」
 かつてタイチがアムロ・カミーユ・ジュドー・ウッソから感じた強い力。
 しかし、先程から感じる妙な気配は、もっと殺伐とした強大な闘気だ。
「有名ですよ、大尉の予知能力。大尉がそう言う時は必ずガンダムが現れるって」
「…嬉しそうだね」
「それはもう! ガンダムまで倒せば、あたしもひょっとしたら少佐くらいまでなれるかもしれませんから!」
 ローレライは、あくまで勝つ気でいる。事実ザク改で連邦のGM3を5機屠った、れっきとしたエースパイロットなのだが。
『確かにガンダムは来る。だけど、これまでの物とは明らかに違う…なんだろう』
 タイチは釈然としないまま、ドム2に乗り込んだ。

「うおおおーっ!! 大・雪・山おろしぃーっ!!」
「いきなりそれ?!」
 ゲッター3につかまれたドム2が空高く舞った。落ちて来て思い切り地面に叩きつけられた時には、ドム2は半壊していた。彼の腕でなければとっくに戦闘不能になっている。
「だ、だから嫌なんだ! スーパーロボットの相手は!」
 タイチは泣き顔になった。自分は兵士で向こうは勇者だ。戦略を駆使すれば勝ち目はあるのだろうが、一騎打ちならこんなものだ。

「お前達! この男に見覚えはあるかっ!」
 そんな時、ドム2のモニターに若い男の写真を取り込んだ画像が入った。辺りを見回すと、戦場だと言うのに男が一人立っている。写真の男に面立ちが似ている。
「ないよ…ってここは戦場だよ、何してるの! グリニッジ少尉、民間人の保護を!」
 そう、DC兵士がみな悪人と言うわけではない。この場合、むしろタイチの方が常識的だった。
「はい!」
 ローレライのザク改が男の方へ向かう。が、男は勘違いしたようだ。
「ふん、さすがは悪名高いDC残党。物を尋ねようとしたこの俺をいきなり攻撃するのか! いいだろう! ならば力ずくで聞き出すまでだ! 出ろおっ! ガンダアァァムっ!!」
 男が指を弾く。
「な、なに?! 地面からモビルスーツが!」
「モビルスーツなどではない! ネオジャパンの最新鋭モビルファイター、シャイニングガンダムだ!」
 ローレライの叫びを、男が訂正する。
「あのコロニー格闘王のドモン・カッシュ?!」
 最強の武闘家に与えられる、キング・オブ・ハートの紋章を持つ男。流派東方不敗なる武術を極めた拳士。それがドモン・カッシュだ。その彼がネオジャパン代表となってシャイニングガンダムを駆り、ガンダムファイトに出場する事を聞いたのはつい最近の事だ。
「変わったガンダムね…でも、ガンダムには違いないわ! あたしの昇進のため、覚悟!」
 ローレライがヒートホークを抜いて、シャイニングガンダムに切りかかる。これまでGM3をすべて格闘戦で倒してきた、彼女の踏み込みは鋭い。
「射撃戦ならともかく、この俺に格闘を挑むとは…その無謀さに、俺の必殺の技で報いてやる! 俺のこの手が光ってうなる! お前を倒せと輝き叫ぶ! ひいぃっさつ! シャアァァイニングフィンガー!!」
 緑に光るシャイニングガンダムの右手が、ザクを木っ端微塵にするかに見えた。
「危ないっ!」
 半壊のドム2がシャイニングガンダムとザクの間に割って入る。ビームサーベルの一閃がシャイニングガンダムにたたらを踏ませた。
「俺を止めるとは大した腕だ! だが、シャイニングフィンガーはこれで終わりじゃない!」
 シャイニングガンダムの左手が、緑に輝いてドム2を爆砕した。
「ローレライ、逃げて! こんなのとやりあってたら命がいくつあっても足りない!」
 脱出ポッドから、タイチが叫ぶ。
 だが、遅かった。
「機械獣はすべて倒した! 残るのはお前だけだ! ザク改のパイロット、武器を捨てて投降しろ!」
 流竜馬の声がした。ゲッタートマホークが、ザク改の目の前にある。動けば斬られるだろう。
「投降…する? 俺もそろそろ連邦の白いのに悩まされない、平穏無事な人生を送ろうと思っていたんだけど」
 ローレライがうなずいてザクを降りかける。

「昼行灯の旦那、今助けるよ!」
「シーマの姐さんか!」
 動く事もかなわぬ煙幕の中で、シーマ・ガラハウの操るガーベラ・テトラはタイチとローレライを鮮やかにかっさらって行った。

 シーマとタイチは、一時期組んでいた事がある。シーマのガーベラと、当時のタイチの乗機だったドムシリーズの後継機ドライセンは、連邦の一般兵士を震え上がらせたものだ。
「またガンダムにやられたのかい?」
「面目ない」
 タイチは自嘲ぎみに笑って頭を掻いた。
「まあ、今回は相手が悪いよ。デビッド、話してやんな」
 シーマに呼ばれて、DCのネオホンコンの部隊から転属になったばかり、と言う兵士が来た。
「あれは親ロンド=ベル派の、ホンコンのルオ商会を叩こうとした時の事です…」
 デビッドはおもむろに話し始めた。

「DCのモビルスーツ?! 市街地を攻撃するなんて!」
 恋人のカミーユ・ビダンとの出会いの地、ネオホンコンに来ていたフォウ・ムラサメは、怒りで思わず青色の髪が逆立った。カミーユからはDCの強化人間であった事は忘れて普通の女の子として暮らすように言われていたが、罪もない人々が襲われているのを見ては黙ってはいられない。幸いホビー/スポーツ用に偽装したハイザックを積んだ貨物船を、ヴィクトリア港に停泊させている。頭痛をこらえつつサイコミュシステムによる遠隔操作でそれを呼ぼうとした時。
「その必要はない!」
 中国風の衣服に弁髪の壮年男性が、フォウが何をしようとしているかお見通しと言わんばかりに怒鳴った。
「このワシのクーロンガンダムが、きゃつらが一般市民を手にかける前に粉砕してくれるわ! 来いっ! クーロンガンダム!」
 と言って中国の武人を思わせるガンダムに乗り込んだ男こそが、ガンダムファイト界でその名も高い拳聖、東方不敗・マスターアジアだ。
 クーロンガンダムがかつてのいかなる武術にも見られなかった、怪しげな構えを取った。
「貴様らの如き卑劣な戦争屋に見せるのは惜しいが、これぞ我が必殺の技! 受けよ、超級覇王電影弾!!!」
 クーロンガンダムが、フォウには荒れ狂う闘気の暴風のように見えた。DCのモビルスーツ隊のそばをクーロンガンダムが駆け抜ける。
「ぶぁくはつっ!!」
 マスターアジアの一喝でモビルスーツが吹き飛ぶ。

「す、凄い…」
 フォウの口からはそれ以上の言葉が出ない。
「これくらい造作もない事だ。ではさらばだ!」
 マスターアジアは消えた。

「俺は奇跡的に無傷で逃げたんですが、乗っていたズサは大破しました。仲間は皆この時の負傷でほとんど退役ですよ。怪我の軽かった奴もいつも夢でうなされてます」
 初代ガンダムからZZに至るまでの、撃ち合いと斬り合いに慣れた者に、Gガンダムの人間の域を越えたファイトは辛い。
「俺はそんな化け物の直弟子と戦ったんだ…」
 タイチはめまいを起こして倒れそうになった。


『熱血!! 獣戦機隊合流』

「こんどこそ昼行灯の名は返上しなくちゃね。あー、あー、ただいまマイクのテスト中…遠からん者は音に聞け、近からん者は目にも見よ! 俺はモビルスーツナガツキ小隊隊長タイチ・ナガツキ。獣戦機隊藤原忍、いざ尋常に勝負!」
 鎌倉期の武者の如く、タイチは名乗りを上げた。半分おどけて、半分本気だ。
「上等だ、やってやるぜ!」
 イーグルファイターがヒューマンモードになって、ドム2とにらみ合う。

「悪い、こっちもそろそろ少佐くらいにはなりたいからね。その首、いただくよ」
 撃墜一歩手前のイーグルファイターに対して、ドム2がビームサーベルを抜いた。

 ドモン:流派、東方不敗は!
 竜馬:王者の風よ!
 ドモン:全新系列!
 竜馬:天破侠乱!
 ドモン:見よ 東方は!
 ドモン・竜馬:赤く燃えている!!

「ありがとう。戦いの前はこれをやらないと調子が出なくてな」
 ドモンが素直に礼を言った。
「どういたしまして。それにしても、君はガンダムのパイロットにしては濃いな」
 まあ歴代ガンダムパイロットの中で一番話が合いそうでいいが、と竜馬は思った。

「あ…彼、ロンド=ベルに就職したんだ…あれだけの格闘の腕なら、スポンサーはいくらでもあるのに、よりによってこんな貧乏部隊…」
 タイチはもったいない、と思いつつシャイニングガンダムを見た。
「命拾いしたね。やっぱりリアルロボット相手の方がいい。敵の弱点を突破して直接戦艦を叩くとなると…そこのザク改、覚悟!」
 タイチはバーニィのザク改めがけて斬りかかった。
「『不死身のナガツキ』?!」
 かつてジオン軍に籍を置いていたバーニィは、タイチの事を噂で聞いていた。
「いや、昼行灯でいい。バーナード・ワイズマン、君の事は聞いてるよ。ニュータイプ用ガンダムと戦った豪傑だってね。そのガンダムのお嬢さんはどうしたの?」
「ここよっ!」
 高くジャンプしたクリスのNT−1が、タイチの真上からビームサーベルを振りおろす。
「大尉には指一本触れさせないわ!」
 それをローレライのザク改のヒートホークが切り払った。
「ありがとう。少尉、ガンダムを頼む。俺はバーニィ君とやり合うとしよう」
 ドム2のビームサーベルが、ぎらりと光る。

「しまった、防御ラインを突破された!」
 アムロのガンダムMk2が慌ててタイチを追う。バーニィのザクは首をはね飛ばされ、無残に地に倒れていた。
「弾幕薄いぞ! 何やってんの!」
 ブライトが叫ぶ。ドム2が一気にトロイホースとの間合いを詰める。
「この戦、もらった!」
 タイチは勝利を確信した次の瞬間、真っ青になった。
「貴様の策略、すでに見切った!」
 機械獣に足留めを食らっているはずのシャイニングガンダムが腕を組んで、甲板の上に立っていたからだ。

「俺のこの手が光ってうなる! お前を倒せと輝き叫ぶ! ひいっさつ! シャアァァイニング! フィンガー!」

 次の瞬間には、ドム2は砕け散っていた。
「またか〜っ!」
 脱出ポッドの中でタイチは涙を流した。

 それでも連邦最精鋭部隊ロンド=ベルの、旗艦を落とすところまで行ったタイチの姿は、DC兵士に希望を与えた。
 そんなこんなで、DC幹部はタイチをしぶしぶながら少佐に昇進させた。
「嬉しかないよ。シャイニングガンダムには勝ってないんだから」
 タイチの表情は明るくない。


『デビルガンダム再び』

「ミノフスキークラフトを装備させてやるからダンバインと戦え?! 俺に死ねって言うの?!」
 ダンバイン。
 タイチはそれに『ミスター真っ二つ』とあだ名をつけた。高い機動力とオーラとやらの力にものを言わせて何でもぶった斬る、タイチから見れば悪魔の兵器だ。
 タイチは怒りのあまり、飛行要塞グールの壁に拳でへこみを作った。
「貴殿もエースパイロットなら、それくらいやってもらわねば困る」
 ここであしゅら男爵が皮肉を込めて言ったのなら、まだ救われたはずだ。だが、真顔で言われてしまっては、タイチには返す言葉がなかった。DCは人材不足らしい。
「俺の新しいドライセンは?! ロームフェラ財閥から金は出ているんでしょう?」
「完成までもう少しかかりそうだ。黒い三連星の方の注文が先になっているのでな」
「あいつらか…」
 黒い三連星。
 大人げないことに連邦の輸送機のミデアの、コックピットを狙ってひねり潰そうとしたと言う噂を聞いたので、タイチは同じドム乗りとして扱われる事を極度に嫌う。
「ミデアなんか荷さえ撃てばパイロットは逃がしたっていいんだよ…」
「何か言ったか? ナガツキ少佐」
「あ、いいえ。しかし、できればシャイニングガンダムとの決着を…」
「確かにあれも強い。だが、ダンバインもまたしかり。貴殿しか相手のできる者がおらんのだ」
 あしゅら男爵にこんな真剣な顔をさせるからには、よほどの相手なのだろう。
『シーマの姐さんとガーベラがいればな…』
 そっと目頭を拭うタイチに、
「ダンバインはボクにやらせて下さい。空のメカには空のメカですよ」
 可変モビルスーツハンブラビで新たにやって来た、ヴァネッサ・メディチ少尉が言った。
「君…強化人間?」
 タイチには変わった身なりのパイロットを強化人間扱いする、悪い癖がある。髪を真っ赤に染め、唇にピアスをしてハンブラビを駆る少女ヴァネッサは、1度だけ見かけたフォウ・ムラサメを思い出させた。
「どうしてわかったのか気になりますけど、そうです。駆け出しで、エースパイロットの少佐には戦歴ではかないませんけど…」
 ゲッターロボ・マジンガーZと共に強豪として並び称される、コンバトラーVのうちのバトルクラッシャー・バトルクラフトを翻弄した、ドッグファイトの天才と名高い少女がいる事をタイチは聞いていた。が、実際に会うのはこれが始めてだった。
「まあ、負け続きだからね」
 タイチは苦笑いした。
「そ、そんな意味で言ったんじゃないんです。ボクは少佐が連邦の新型の、シャイニングフィンガーとか言う技を止めたのを見て、この隊に回してくれるようにお願いしたんです!」
「その後の映像は?」
 なにげなくタイチが問う。
「少佐が倒されるところも見ました…けど、すごいと思います! ボク、モビルスーツ形態での格闘が苦手で、少佐はあこがれの人だったんです。空はボクに任せて下さい! 少佐、応援してます!」
 ヴァネッサは瞳をきらきらと輝かせて言った。
「ありがとう。そう言われると、何だかやる気がわくよ」
 タイチは顔を赤くしながら、照れ笑いをした。
「少佐! 今日こそシャイニングガンダムに勝つんでしょう?! だったら機体のチェックをしっかりして下さい!」
 そんなタイチをローレライが怒ってモビルスーツの格納庫に引っ張って行った。
「グリニッジ中尉…今日の勝利は、君に捧げるよ」
 投げキッス一つして、タイチはドム2の方に向かった。
「少佐…」
 ローレライの目にはタイチの背が大きく見えたのだが。

「何で…戦わなくちゃいけないんだろう」
 汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機から聞こえた少年の言葉に、タイチは激怒した。
「悩むくらいならそんな危ないものに乗るな!!」
 とてつもない早さで繰り出されるエヴァンゲリオンのプログナイフを、辛うじてかわすドム2の機体がきしんだ。
「もう嫌だよ、父さん! 僕に人殺しなんかできるわけないよ!」
「じゃあなぜ君はその、エヴァンゲリオンとか言うやつのコックピットの中にいる? 何か理由があっているんじゃないのか? その何かのために戦えっ!!」
 敵を励ましてどうする、と思いつつタイチは叫ぶ。
「…僕は…僕は…ロンド=ベルの人達に認めてもらいたい! 僕のいるべき場所が欲しいんだ!」
 エヴァ初号機の動きが俄然良くなった。
「げ」
 絶句するタイチ。
「精一杯格好つけてグリニッジ中尉に勝つって言ったのに…死ぬのかな、俺…」
 ドム2のコックピットに、死のきな臭いにおいがした。

「加勢するぞ、若いの」
 正体不明の黒いガンダムが飛ばした布が、プログナイフをからめ取る。
「十二王方牌大車輪!!」
 小さな黒いガンダムが何体もエヴァ初号機に当たり、爆発を起こした。
「若いの、こやつの弱点に気づかぬとはまだまだ甘い。それは…ここだっ!」
 黒いガンダムの布が、エヴァ初号機のアンビリカルケーブルを切り落とした。
「しまった、ケーブルが!」
 エヴァ初号機は後退した。
「助かりました、あなたは…」
 タイチが黒いガンダムの方を見た時には、それはすでに姿を消していた。

「そう言えば、俺は何のために戦うのかな?」
 十代でパイロットデビューして、今日まで何とか生き延びたタイチだが、戦いの忙しさのあまり、パイロットになった目的さえ忘れていた。
「出てこなければ、やられなかったのに!」
 Zガンダムのハイパーメガランチャーが、ドム2めがけて発射される。
「遅い! …そう、わざわざ死にに来る必要なんてなかったはずなのに」
 タイチが考え事をしたままハイパーメガランチャーをかわしたと知ったら、カミーユはどうしただろうか?

「カミーユ、下がっていろ! さし当たっての目的は、俺と戦うためだろう? タイチ・ナガツキ!」
 ドム2の前に、シャイニングガンダムが立っていた。
「そう、そうなんだよ! 嬉しいね、名前を覚えてくれたのかい? ドモン・カッシュ!」
「ガンダムファイターは一度拳を交えた者の名は忘れないものだ。だが、今日はお前にかまっている暇はない。デビルガンダムが、キョウジが目の前にいるんだ! 一撃でかたをつけてやる!」
 シャイニングガンダムの手が緑に光る。
「俺も一撃で決めさせてもらうよ。ファンが増えたから、格好良く決めたいんだ」
 ドム2がビームサーベルを正眼に構えた。昔ハイスクールでやった剣道に、戦場往来で覚えたのが混じった雑な剣だ。流派東方不敗に通じるか、正直自信はない。
「俺のこの手が光ってうなる! お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺! シャアァァイニング! フィンガー!」
 輝く手が、ドム2を飲み込む勢いで迫る。
『一つ覚えを! ドム2、俺に力を!』
 生涯に一度できるかできないかの最速の剣技で、タイチはシャイニングフィンガーを切り払おうとする。
「甘いぞっ! これが俺の、スーパーモードだ!」
 シャイニングガンダムの全身が光る。ドム2のビームサーベルが押される。
「君も道連れだ!」
 ドム2がもう一本ビームサーベルを抜き、シャイニングガンダムのボディに力任せに突き刺そうとしたその時。

「必殺の、ハイパーオーラ斬りだあっ!!」
「少佐、ごめんなさい。ボク、役に立てなかったよ…」
 チャム・ファウの元気のいい声と、ヴァネッサの涙声が響いたかと思うと、今にもダンバインの剣がハンブラビを真っ二つにしようとしているのが見えた。

「こいつでとどめだ! ブレストファイヤー!!」
「少佐あぁぁぁぁっ!」
 マジンガーZの伝家の宝刀ブレストファイヤーが、ローレライのザク改を焼き尽くそうとしているのも見える。

「やらせはしないよ!」
 ドム2の投げたビームサーベルはダンバインの剣を弾き飛ばし、もう一本は狙いたがわずマジンガーの胸部に突き刺さった。
 その代わり、
「愛と怒りと悲しみの! シャイニングフィンガーソード! メン! メン! メーンっ!!」
 ドム2は爆発、四散した。さしもの不死身のナガツキも、無傷ではすまなかった。

インターミッション

 瀕死の重傷から奇跡の復活を遂げたナガツキ少佐は、獅子奮迅の活躍をしながらも少佐のままだった。
 マジンガーZに大打撃を与えたのをことのほか喜んだ、あしゅら男爵から大佐任官の話もあった。しかしドム2を壊した事でちゃらにしてくれと自分から断ったのだった。彼にとって大佐とは、シャア・アズナブルただ一人なのだから。

「中華丼一つ!」
「あいよっ!」
 そして、タイチ・ローレライ・ヴァネッサの3人は、豪胆にもアーガマの料理長&ウエイトレスとして潜入していた。
 戦争難民を見捨ててはおけない、ブライト・ノアの心理を突いた作戦だ。ブライトのこの種の人の良さは、ZZまでのストーリーで実証済みだ。
「ショウさんは食べっぷりがいいね。俺も作ったかいがあるよ」
 ショウ・ザマのオーダーの中華丼をローレライに渡す姿を見ても、彼がDC屈指の技量の持ち主の、モビルスーツパイロットだと思う者は誰もいないはずだ。
「そういえば、ドモン・カッシュって人がいたと思ったけど、どうしたの?」
「デビルガンダムって言うのを追っかけて、船を降りちゃったよ」
 チャムの言葉に、タイチは目の前が真っ暗になった。

「あなたがタイチ・ナガツキね」
 タイチの正体を見破ったのは、綾波レイであった。
「ご注文は?」
 タイチは少女の鋭さに内心舌を巻いた。
「ニンニクラーメン、チャーシュー抜きで」
 銃に手をかけてさりげなくレイの背後に回った、ローレライとヴァネッサに、
「カミーユさんとアムロさんの、スペシャルサンドセット2つ上がったよ。持ってってあげて」
 タイチはオーダーの品を渡して遠ざけた。加持リョウジが密かにタイチをレーザーガンで狙っていたからだ。
「アーガマに破壊工作をしに来たの?」
「それも考えたけど、卑怯な手はやっぱり好かないね。ましてやドモンがいないとなれば、それをする理由もないよ」
 タイチは少しばかり気の抜けた声で言った。
「じゃあ、しばらく食堂のおやじさんのままでいて。あなたが破壊工作のためにここに来たと知ったら、あなたに励まされた碇君が幻滅するから」
「あの子が好きなのかい?」
 タイチの指摘に、レイが真っ赤になる。
「わ、わからない…わたしは作られたものだから…」
「…強化人間みたいなものかな? その気持ち、大事にしておきなよ。この戦いを生き抜くための秘訣だから」
「ええ」
 レイが力強くうなずいた。
「そろそろコウとジェスが哨戒任務から戻って来るね。コウに出すムースにすりおろしたニンジンを混ぜて、ジェスのポタージュにはピーマンのピューレを混ぜて…と」
 タイチは食堂の親父に戻った。
「ごちそうさま」
 レイは珍しく笑顔で丼をタイチに渡した。


『流派東方不敗! マスターアジア登場!』

『ドモン・カッシュ!』
 アーガマに着艦したシャイニングガンダムを見て、タイチは喜びのあまり飛び上がりそうになった。
 ブライトと少し話をした後ドモンは食堂に来た。タイチの顔は見たことはないが、全身から放たれる闘気で相手が誰かを知った。
「なぜ貴様がここに?!」
「新しい料理長のタイチ・ヒロカワさんだ」
 アムロがドモンに目配せした。アムロは加持から事情を聞いていた。
「しばらくは俺達を悩ませるだろうけど、タイチさんはこっち向きの人さ。連邦に渡して処分させたら、アーガマの貧弱な食材でうまい料理を作ってくれる、名シェフを失う事になるぜ」
 その時居合わせた甲児の言葉に、アムロは事を荒立てるのをやめた。『永遠の少年』兜甲児の人を見る目は意外に鋭い。
「…俺の人違いだったようだ」
 ドモンもアムロの真意を察した。
「DCが仙台で妙な動きをしているらしいが、何か知っているやつはどこかにいないだろうか?」
 ドモンはタイチに聞こえるようにつぶやいた。
「ヴァネッサ、そう言えばここに来る前、あしゅら男爵が近々新兵器の実験を仙台で行って、運用のめどがつけば俺達の負担が軽くなるっていってたね。あれはなんて言ったかな?」
「少佐…じゃなかった料理長、それは重要機密です!」
 ヴァネッサとローレライが慌てる。
「いいんだよ。理由はどうあれ、DCともあろう者がガンダムに頼るのは反対だね。ジオンの兵士をなんだと思っているんだろう? それにあのガンダム、どうも気に食わないんだ。ガンダムだからと言うだけじゃなくて…いろいろと…」
 『空からの衝撃』にもいたタイチは、何度もデビルガンダムを見ていた。あれはこれまで見たいかなるガンダムとも違う、ニュータイプでなくともわかる禍々しいプレッシャーを発していた。かつて見たサイコガンダム・クインマンサ・αアジールの比ではない。
「…デビルガンダムを仙台で動かすのか!」
 ドモンはマサキの襟をひっつかんで、食堂を飛び出した。
「宿命のライバルが危険を省みず来たんだから、挨拶ぐらいして行けばいいのに」
 タイチはちょっと不満そうにドモンの背を見た。
「料理長、食材の業者の方から連絡が…」
 ローレライが、タイチに耳打ちした。
「ここで見ていいよ」
「え、でも…」
 ローレライは、グールのあしゅら男爵から連絡が入ったと言っているのだった。
「いいから」
 タイチに言われ、ローレライは食堂のテーブルの上に通信機を置いた。
「『白い新星が空に浮かぶ。至急観測に来られたし』…ドライセンができたんだ! 俺も仙台に…行く手段がないね」
「ここに来る前に、サイコミュによる遠隔操作システムを積んだドダイを一つ、グールに積んでおくように頼んでおいたよ。呼ん…」
 でみる? とヴァネッサが言いかけたところで、
「強化人間の力を使っちゃいけない!」
 アムロとカミーユと、食堂に入って来たジュドーの声が揃った。
「人間を強化して擬似ニュータイプにするってことは、人から心を取り去って戦闘マシーンにすることなんだ。君はまだ強化の度合が浅いみたいだけど、それをわざわざ自分から深めるような真似をしちゃいけない。タイチさん、この子をよく見てあげて欲しい」
 アムロはタイチに頭を下げた。
「そう言えば、ララァさんはお元気ですか?」
 タイチがふと思い出してアムロに聞く。
 余談だが、『第2次スーパーロボット大戦G』では、ララァ・フォウのいずれかを原作の悲劇から救う事ができる(当作品中では二人とも)。
「クワトロ・バジーナ大尉のそばにいつも、女性の秘書が一人いますよ」
 ララァはエゥーゴでモビルスーツを用いぬ戦いを続ける、シャアを支える道を選んだ。
「ああ、シャア大佐と行動を共にしてないわけはないですね…」
 クワトロ・バジーナこと『赤い彗星』シャア・アズナブルことキャスバル・レム・ダイクンは、タイチが『白い新星』と呼ばれて、『青い巨星』ランバ・ラルなどと共に、並び称されるようになった今でも憧れの人だ。
「今はエゥーゴの急進派と対立して大変らしいですよ。ララァの他にもう一人くらい、支えになる人がいればいいんでしょうけど…」
 アムロはタイチを見た。
「大佐も大変なんですね…」
 その視線に気づかずにタイチは言った。

 結局タイチは、ドモンを追って仙台に向かうアーガマに同行することになった。
「くわあぁぁっ! 答えろドモン! 流派東方不敗は!」
 仙台。ドモンに向かって大喝する男の声に、タイチは確かに聞き覚えがあった。

ドモン:「王者の風よ!」
マスターアジア:「全新系列!」
ドモン:「天破侠乱!」
マスターアジア:「見よ! 東方は!」
ドモン・マスターアジア:「赤く燃えている!」

『間違いない。あれはあの時の黒いガンダムのパイロット! だがそれならなぜ俺を助けたんだろう?』
 タイチはマスターアジアに不穏な物を感じた。
 が、次の瞬間それをきれいさっぱり忘れる羽目になった。
「少佐…じゃなかった料理長、あれを!」
 ローレライが指した先では、ドモンが機械獣を素手で破砕していた。
「あれが、人の革新の果てか!」
「違うって」
 タイチにアムロ・カミーユ・ジュドーが揃ってツッコミを入れる。
 ともあれ、マスターアジアとドモンの手で、4体の機械獣は瞬く間にスクラップになった。

「次は俺の番だね。戦場で会おう!」
 タイチ・ローレライ・ヴァネッサは一瞬でジオンのパイロットスーツ姿に戻り、アーガマを飛び出した。
「乗機が老朽化した旧機種だったり、部下が全員新兵だったりで実力を発揮できず、幻のエースと言われたタイチ・ナガツキ。こっちもνガンダムがあればな…」
 アムロはつぶやいて、リ・ガズィに搭乗するべく走った。

「『白い新星』のお手並拝見といこう。ローレライ中尉、君にもギラ・ドーガを用意した。ヴァネッサ少尉、君には残ってもらおう。君用のアッシマーは調整がまだなのでな」
 あしゅら男爵の言葉も聞きおわらないうちに、タイチは格納庫へ飛び込んだ。
「これだよ…」
 タイチはドライセンを見上げた。ドムのデザインを継いだ武骨な作りのドライセンを、あえて純白に塗ったタイチのセンスは変わっている。
「これで、ドモン・カッシュに勝つ!」
 タイチはドダイに乗り込み、勇んでグールを飛び出した。

 が、シャイニングガンダムはいない。
「あの老人が『ロンド=ベルの実力が見たい』と、ドモンともども後方に回ったとか…」
 ローレライが理由を説明した。
「そうか…じゃあ、今度こそアーガマを落とす!」
 機械獣とスーパーロボットの混戦の中を、タイチのドライセンが飛ぶ。

「超電磁ヨーヨー!」
「間合いが遠いよ」
 ドライセンのビームトマホークが、コンバトラーVの攻撃を弾く。
「究極! ゲシュペンストキイィック!」
「遅いね」
 ジェスの必殺の蹴りも、タイチには止まって見える。難なくかわした。
「ドムとは違うのだよ、ドムとは!」
 ランバ=ラルばりにタイチは言う。

「シンジばかりにいいカッコさせてたまるもんか!」
 ミノフスキークラフト搭載のエヴァ弐号機が、ローレライのギラ・ドーガめがけて突っ込んで来る。
「攻撃が直線的ね」
 ギラ・ドーガは弐号機の頭上をあざやかに飛び越え、再びドダイに飛び乗った。

「さて…」
 ドライセンが動きを止めた。目の前にはショウ・ザマのビルバインが。
「どうしてくれようか」
 ドライセンがビームサーベルを抜いた。
「お前なんか、いっちゃえ〜っ!!」
 大上段からのハイパーオーラ斬りが、来る。
「甘い!」
 ビームサーベルが受ける。
「それほどの腕がありながら、なぜDC残党に荷担する!」
「ショウ君、君もまだ若いね。世の中の全てが善悪で割り切れるとでも思っているのかい?」
 会話しながらの戦闘は、富野アニメのお家芸だ。
「ゲストとポセイダルの同盟軍が、この星を危機に追い込んでるのがわからないのか!」
 エルガイムのパワーランチャーの一撃が、ドライセンの肩をかすめた。
「わかるよ。だがしかし、それらを追い払うのは必ずしもロンド=ベルである必要はない。違うかな? ディバイン・クルセイダーズ(DC)の当初の理念通りに、俺もまた地球を守るために戦いたいと思っているよ」
 いったんビルバインと間合いを離しながら、タイチは言った。
「ならばなぜ戦う! 力を合わせれば戦いを早く終わらせることができるのに!」
 ビルバインのオーラソードの横薙ぎ。
「俺がDCの一員である前に一人の戦士だからだよ。強者と戦いたくなるのは当然のことだと思うけどね」
 数ミリのところでドライセンがかわす。
「そんな理屈、認められるものかっ!」
「君にも同じ思いがないと言い切れるかな? そんな強大な力を持つオーラバトラーに乗りながら!」
「ない! 俺は、そんなことのためにビルバインに乗ってるんじゃないんだ!」
「では、何のために?」
「地球のため、いや、この戦いに巻き込まれて苦しんでいるすべての人々のためだ! それがわからないお前に、負けてたまるかあっ!」
 ビルバインの剣が、ドライセンのビームサーベルを持つ腕を落とした。
「君達が加わればDCも本来の姿に戻るね。投降してもらうよ。君のオーラソードより早く、俺のビームキャノンがアーガマのブリッジを撃つ」
 ドライセンはビルバインと斬り合いながら、巧みにアーガマに近づいていたのだった。
「メッサーグランツ!」
 何者かの投げた手裏剣が、ドライセンに当たって爆発した。
「はあああああっ!」
 隙が生じたところに、再度ビルバインのハイパーオーラ斬り。
「少佐っ!」
 ギラ・ドーガが、ビルバインとドライセンの間に飛び込もうとする。
「確かにビルバインは強い。だがドライセンより小さい!」
 タイチがにやりと笑う。ドライセンが斬られる寸前でド派手に自爆した。ビルバインが、爆風で吹き飛ばされる。タイチの脱出ポッドは、ギラ・ドーガの手の中にある。
 出来上がったばかりの愛機を爆破できる思い切りの良さが、タイチを今日まで生かしている。

「グリニッジ中尉、俺はやっぱり部隊に勝利をもたらさない疫病神なのかな?」
「そんなことありませんよ。少佐がロンド=ベルの主立ったメンバーを押さえているおかげで、犠牲が少なくてすんでるんですから」
 ローレライの指差す先には、無事グールに帰還したモビルスーツ隊の姿があった。
「君には、教えられる。全く、いい部下を持ったよ…」
「私だって、少佐がいるから、頑張れるんです…」
 ローレライが真っ赤になって言った時には、タイチは脱出ポッドの中で寝ていた。

『ドライセンの邪魔をしたのは、確かにガンダム。しかもあの動きはモビルファイター。何者かは知らぬが、計画を早めねばならんようだな…』
 マスターアジアは手裏剣の飛んで来た先を見た。
「師匠、どうかしましたか?」
「いや、何でもない。ドモンよ、良い仲間を持ったようだな」
「はい!」
 ドモンとマスターアジアは、アーガマに戻った。


『DCの陰謀』

 マスターアジアとタイチは、仙台をある高所から見下ろしている。
 マスターアジアはタイチの読み通り、DCと内通していたのだ。
 そこでタイチは個人的にマスターアジアとの対話を申し込んだのだった。
「デビルガンダムのことを、DCに教えたのはあなただそうですね。デビルガンダムが放つ殺気…俺にはわかる。あんな物をDCに与えて、どうするんですか」
 タイチは、マスターアジアを睨んだ。
「お前は日本人か?」
 タイチの視線を、マスターアジアは悠然と受け止めた。
「ええ」
「日本のいたるところでDC戦争の爪痕が残っている。人類はなぜ、こんな戦いを繰り返すのだろうな。ロンド=ベルも初期のDCも、異星人から地球を守ると言いながら、実態はこんなものだ」
 先日の戦いで荒廃した仙台の街を、マスターアジアは指した。
「この地球に、人類さえいなければ…ワシはそう思っている。デビルガンダムなら人類・異星人を問わず、全ての地球を汚す愚か者どもから地球を守る事ができる。そう、緑あふれる地球の再生が可能になるのだ」
「そんなことで愛弟子のドモンを裏切るんですか?! 俺は彼と戦って来たから、彼がこの場にいればどう言うかわかります。『人間もまた、天然自然から生まれたもの、言わば地球の一部! それを忘れての地球再生など、愚の骨頂!!』とね。彼ならそう言うはずですよ」
 タイチの言葉に、
「短い間によくぞそこまであやつと拳で語り合えた。それがお前達のようなモビルスーツ乗りの言う、『ニュータイプ』と言うものか?」
 マスターアジアは驚嘆した。
「俺はしがないオールドタイプですよ。強いて言うなら『ベテランの勘』…ですかね」
「まあよい、ワシの正義とドモンやお前の正義のどちらが正しいかは、最後は拳が決めることだ。それに、ワシには時間がない。大罪を負うことになっても、性急な手段を…かはっ!」
 鮮血を吐いたマスターアジアに駆け寄ろうとするタイチは、彼の手で制されてやめた。
「ネルフで治してもらえばいいのに…あそこは葵豹馬の腕を再生させたって言うじゃないですか! 何を好きこのんで死を求めるような真似を!」
 タイチは、泣いていた。
「これは死にゆく定めのワシから、ドモンに与えてやれる最後の試練だ。これを乗り越えねば、異星人に勝つことなどできまい」
「だからって、だからってそうまでして…!」
「もうよい、ドモンに代わってそんなに涙してくれるな。このワシの企みにも気づかぬようなDCと、お前は心中するべきではない。一刻も早くロンド=ベルに加わり、ドモンらとともに異星人と戦うべきではないか? …さらばだ!」
 愛馬風雲再起にまたがり、蹄の音も高らかにマスターアジアは去った。

 翌日。
「このワシに裏切られて悲しいか? このワシが恐ろしいか? だがもう悲しむ事も恐れる事もない。ワシと共にデビルガンダムに仕えるのだ。兄上もお前を待っておるぞ。さあ、立ってワシと共に戦え! そして、ワシと共に強く、強く、強くなるのだあっ!」
 ロンド=ベルから離れてデビルガンダムを探していたドモンの前で、クーロンガンダムはデビルガンダム四天王のマスターガンダムに変貌した。そして突然の師の裏切りは、ドモンを絶望の淵に追いやった。そんなドモンを、マスターアジアが洗脳しようとする。
「黙れっ!」
 昨日ドライセンめがけて手裏剣を放ったガンダムシュピーゲルの手の上に、ドイツ国旗をかたどった覆面をしたゲルマン忍者、シュバルツ・ブルーダーが立っている。そのシュバルツの声と、急遽カスタムメイドでない普通のドライセンに乗った、タイチの声が重なる。
「ドモン、惑わされるな! こいつはもうお前の師匠ではない!」
 シュバルツの声に、ドモンは目を覚ました。
「ドモン・カッシュ! 君は君だ、自分の信じるもののために戦うんだ!」
 タイチの言葉に力づけられ、シャイニングガンダムの拳が光る。
「俺のこの手が光ってうなる! 偽りの師匠を倒せと輝き叫ぶ! ひいっさつ! シャアァイニング! フィンガー!」
 必殺の光の拳が、マスターガンダムめがけて駆ける。
「なんの、ダークネスフィンガー!」
 マスターガンダムの闇の拳がぶつかる。
「いかん、ドモンが押されている!」
 ガンダムシュピーゲルがマスターガンダムに突っ込む。
「ぬうっ?! やりおるな! ドモンよ、貴様の命ひとまず預ける! だがしかし、次に会った時が貴様の最後だ!」
 マスターガンダムは、デビルガンダム共々逃げ去った。

「師匠が、俺を裏切るなんて…!」
 ドモンはシャイニングガンダムのコックピットの中で、がっくりと膝をついた。目は虚ろになり、放心状態になってしまっている。
「立てっ! 立つんだドモン! 敵がすぐ目の前にいるんだ!」
 自分もその敵の一人だと言うのに、タイチはドモンに叫ぶ。
 そして、タイチのモビルスーツ隊とあしゅら男爵の機械獣部隊が、シャイニングガンダムとガンダムシュピーゲルを取り囲んだ。
「モビルスーツ隊は待機! 俺が指示するまで動かないように」
 止まったタイチの目の前で、シャイニングガンダムが動き出した。
「この気配…レインさんか?! 無茶な事を!」
 ドモンに代わって、操縦者の動きをガンダムに伝えるモビルトレースシステムを起動したのは、レイン・ミカムラであった。
「ドモンに守られているばかりがあたしじゃないわ! 今度はあたしがドモンのために戦う番よ!」
「それは結構な事だと思うけど…25対2の戦力差をどうするか、あてはあるの?」
 タイチに指摘されて答えに詰まったレインに代わり、
「何機いようが雑魚は雑魚! ロンド=ベルが来るまで持ちこたえるだけならば、私一人で十分だ!」
 シュバルツが答えた。
「その根拠のない自信、誰かに似てるね」
「そんなことはどうでもいい! さあ、誰から来る!」
「飛べないガンダムはただの的! ボクが相手だっ!」
 仙台の空に、可変モビルスーツアッシマーに乗ったヴァネッサの、何とも生命力に富んだ声が響き渡った。

「威勢はいいけど、所詮は素人ね」
 ギラ・ドーガのシュツルムファウストが、シャイニングガンダムにヒットした。
「シャイニングガンダムは、その程度の攻撃では壊せないわ!」
 爆炎の中からシャイニングガンダムが現れ、ギラ・ドーガを殴り飛ばした。
「好きな人のために戦ってるのは、あなただけじゃないのよ!」
 ギラ・ドーガがショルダータックルをかけ、シャイニングガンダムを弾き飛ばす。

「甘い、甘すぎるぞ! これでDCのエースパイロットとは笑止千万!」
 ヴァネッサとタイチをまとめて相手にしても、シュバルツは余裕があった。
「アッシマーのビームが当たらないなんて!」
 アッシマーは空からビームを数回放っているが、シュピーゲルにかすりもしない。
「強いなあ! 軍用より競技用のガンダムが強いなんて、これまでのガンダムパイロットは何をやってたんだろう?」
 タイチのドライセンが、シュピーゲルと激しく斬り結ぶ。
「悪かった(わね)な」
 アムロ・クリス・コウ・カミーユ・ジュドーの歴代ガンダムパイロットのツッコミが、ドライセンの通信機に飛び込む。
「しまった…間に合ったのか、ロンド=ベル!」
 タイチは舌打ちした。

「風の魔装機神はダテじゃねえんだよ! 案内さえつけば戦場一番乗りさ! これでも食らいな! アカシックバスター!」
 カツ・コバヤシを道案内にした、マサキ・アンドーのサイバスターが、ドライセンの目の前に降り立つなり大技を放った。炎の鳥がタイチめがけて羽を広げ、襲いかかる。
「君の口癖をそっくりそのまま返そう。『バーカ、もっとよく狙いな!』」
 炎の鳥を横に避けてかわすなり、踏み込んだドライセンがサイバスターめがけてビームサーベルを切り上げる。
「若いな。機体の性能に頼りすぎだ」
 サイバスターの喉元にサーベルを突きつけ、コックピットの中でタイチは笑った。
「機動性なら、エルガイムだって!」
 パワーランチャーは忘れた頃にやって来る。ドライセンが大きく振動した。
「このっ!」
 タイチは反撃のビームキャノンを撃ちかけ、トライブレードに代えた。ダバ・マイロードも手慣れたもので、即座にシールドで弾いた。
「ビームコートを有するエルガイム…だったら、叩き斬るまで!」
 ドライセンのビームサーベルが、うなる。

「スーパーロボットみたいに、強大な力を持つ兵器があればこんな子たちに大きな顔させないのに!」
 エヴァ零号機と弐号機の巧みなコンビネーションに、ローレライは苦戦していた。
「違うよ、グリニッジ中尉。戦いは兵器でやるもんじゃない。心と頭でやるものさ…弐号機覚悟っ!」
 エルガイムと斬り結びながら、ドライセンは弐号機に近づいていた。
 一瞬、アスカの注意がそれた。
 振り返った弐号機のATフィールドが、ドライセンの方に展開される。その隙を見逃すローレライではない。ギラ・ドーガのビームソードアックスが、弐号機の細い胴を両断するかに見えた。
「…やらせない」
 零号機のATフィールドが、それを防いだ。
「ああもうっ! 優等生に助けられるなんて!」
 アスカが怒る。
「大切な、仲間だから…」
 レイの言葉に、弐号機の動きが一瞬ぴたりと止まった。
「な、な、何言ってんのよ?! わ、笑うんじゃないわよバカシンジ!」
 アスカは照れ隠しに初号機を思い切り殴った。シンジは機械獣と戦うのに必死で、笑うどころではなかったのだが。
「不器用な子供達ね」
 ローレライがくすっと笑う。エヴァ同士が背後をカバーし合うようになれば、戦いを挑むのは無意味だ。ドライセンとギラ・ドーガは、すばやく退いた。

「あのコンビの手のうちは読めた。こちらの隙のあるユニットを集中的に攻めて、防衛網を突破しているんだ」
 アムロはゴラオンの中のエレ・ハンムに言った。
「アムロ殿、では…」
「今一番苦戦をしているのは…」

「ジーザス!」
 大きな機体に似合わぬ素早い動きのアッシマーに翻弄されている、テキサスマックだった。
「そのカッコいい機体を壊すのは気が引けるけど、やらせてもらうよっ!」
 ヴァネッサの感性は変わっている。
「Oh! ミーのテキサスマックの良さがわかるのデスカ?」
「リアルロボットにはない、何とも言えない味わいがあるね」
 ヴァネッサから見ると、アッシマーも実用一点張りの無粋なデザインに見える。
「ユーこそ真のフロンティアスピリットの持ち主ネ! お礼にミーのマックライフルの弾丸をプレゼントしマース!」
「ありがとう、ボクの大型ビームライフルの光線をお返しにあげるよ!」
 両者、相打ちでそろって爆発した。
「ナガツキ少佐、ローレライ中尉、今度こそアーガマを!」
 テキサスマックの抜けた穴から、ドライセンとギラ・ドーガが突っ込む。
 が、その向こうには、敗北があった。
「これで決める! ゴーフラッシャー!!」
 ゴーショーグンの必殺技で爆発するギラ・ドーガから、ローレライはからくも脱出した。
「ここらで引導を渡してやるわ!」
 タイチが見ると、エヴァ弐号機はケーブルを外して身体に巻き付けている。そのケーブルの端を、シュバルツが握っていた。
「シュツルム・ウント・ドランクーっ!!!」
 シュバルツとアスカの声がハモる。シュピーゲルがケーブルを引くと、独楽のように弐号機がドライセンめがけて突っ込んで来た。
「の゛ーっ!!」
 プログナイフで斬られながら弾き飛ばされたドライセンが、あっけなく爆発した。
「さて…全部片づいたぜ。タイチのおやっさん、腹減ったからアーガマでいつもの作ってくれよ」
 甲児はタイチが前々からの仲間であるかのように言った。
 と、その時。
「はあああああっ!」
 ヴァネッサの額に血管が浮き、炎の色の髪が逆立つ。目から真紅の光を放ち、全身から紅蓮の炎のようなオーラが吹き出す。
「ヴァネッサ! やめるんだ!」
 タイチが慌てて止めようとする。グールの中にあった可変合体モビルスーツ、バウの目に光が点った。サイコミュシステムを積んだ、ヴァネッサの専用機だ。
「少佐! 負けっぱなしで悔しくないの?! まだやろうよ!」
 メガ粒子砲でロンド=ベルのロボを退けながらやってきたバウ・ナッターに、ヴァネッサは飛び乗ってタイチに手を差し伸べた。
「…甲児君、まだまだ君達に迷惑をかける事になりそうだよ」
 複雑な顔でタイチはバウ・アタッカーに乗った。ローレライが後に続く。
「いいってことよ。いつでもかかってきな!」
 甲児は笑って言った。


『ロンド=ベル、宇宙へ』

「なんだってこんなに濃い上司にばかり当たるんだろう…」
 暗黒大将軍に着任の挨拶をすませた後、メカザウルス・ダイのブリッジでタイチはぼやいた。
「スーパーロボット系のDC幹部は、濃くなければやってはおれんよ」
 背後に暗黒大将軍本人が立っている。タイチの首筋に冷や汗が一筋。
「貴公はこのガンダムに心当たりはあるか?」
 暗黒大将軍が見せたのは、ウイング・デスサイズ・ヘビーアームズ・シェンロンのガンダムの写真だった。
「コロニー側の新型…と聞いておりますが」
「アーガマの打ち上げポイントへ、これらが向かったと言う情報が入っている。ロンド=ベルが宇宙へ行くのを阻む、我々の作戦の障害になるなら貴公にその排除をやってもらう事になる」
「わかりました」
 余計な仕事が増えた、とタイチは内心では嫌な顔をした。
「同時にアーガマ内部からも破壊工作を行い、ロンド=ベルの大気圏離脱阻止をより確実なものにする。これもやってくれるな?」
「はい」
 DCって本当に人材がいないな…と思いつつ、タイチはブリッジを後にした。

「送り賃は高いぜ、おっさん!」
 よりによってタイチは、デュオ・マクスウェルと手を組み、彼のガンダムデスサイズの高いステルス性を生かし、アーガマからぎりぎり肉眼でみえない距離まで近づいていた。
「お代に凄いものを見せてあげるよ。操縦変わって」
 タイチはデュオの言葉を待たずに、操縦席に座った。
「ドモン・カッシュ、俺を本気にさせた君が悪い!」
 タイチは言い放つなり雲の中からガンダムを出し、アーガマに突っ込んだ。
「わっ馬鹿! せっかく気づかれないように近づいてたのに!」
「素人は黙ってて! これが本当のエースパイロットの技だ!」
 アーガマからの弾幕を、タイチは人間離れした動きでかわした。かわせないものはビームサイズで切り払う。
 たちどころにデスサイズが甲板に降り立つ。
 デスサイズのコックピットを出たタイチは仕込み杖を一振り手にして格納庫に入った。
 目の前には、ロンドベルの主だったメンバーが、総出でタイチを待ち受けていた。
 スーパーロボット系ヒーローは主に素手で、リアルロボット系ヒーローは主に銃を構えている。
 それでもタイチはくすっと笑う。
「嬉しいねぇ。お出迎えご苦労様。こそこそと破壊工作ってのは俺の性に合わない。だから、こうして来たよ」
 錚々たる顔触れを眺め回し、
「残念だなぁ! 俺とまともに戦えるのがドモンだけだとはね」
 タイチはノーマルスーツのヘルメットに手をかけた。
「お前の闘気、誰かに似ている…そうか、キラル・メキレルだ!」
 キラル・メキレル。
 DCの依頼で、ロンド=ベルのメンバーを暗殺するために雇われた、ネオネパールのガンダムファイターでもある、超一流の剣客だ。一度はドモンの後ろを音もなく取るほどの腕前を見せたが、激闘の末ドモンに敗れ、改心している。
「よくわかったね、さすがはドモン。ラサでゲストに追われていた(マップ『敵包囲網を突破せよ』)、ロンド=ベルを助けようと思ったら、もう敵の親玉(セティのライグ=ゲイオス)を倒した後だった。手ぶらで帰るわけにも行かないから、ポタラ宮殿にいた剣豪の僧侶を尋ねて、剣の皆伝を受けたんだ」
 ポタラ宮殿にいたのは、わずかな間だ。それで皆伝を受けたのだから、タイチの剣の才も凡人のものではない。修行方法は実に単純で、食事とトイレの時以外は、体力の続く限り真剣でキラルと斬り合いをしていたのだ。
「だが、それだけじゃないな」
 ドモンの目は、タイチの鍛え抜かれた拳も見逃さなかった。
「アメリカのボクシングのチャンプ、チボデー・クロケットとも何度か戦って来たよ」
 ドモンの友で、ネオアメリカのガンダムファイターの、チボデーからも格闘技を学んで来たというのだ。

「皆下がってくれ。無駄死にはさせたくない」
 ドモンが言うと、皆を気づかっているのか、傲岸不遜で言っているのかわからない。
「いらない気づかいだな。俺だって格闘の心得くらいある」
 リョウがタイチを見据えた。
「大丈夫だよ、ドモン」
 タイチがヘルメットを投げ上げた。
「斬るのは君だけだからね」
 タイチが笑う。
「たった一人で俺達の中に飛び込んで? 寝言は寝てから言いなよ、タイチさん」
 甲児が殴りかかる。甲児のストレートがタイチの顔面にめり込み、タイチのフックが甲児を吹き飛ばす。その後ろからリョウが蹴りを放つ。
「いいコンビネーションだね」
 リョウのみぞおちにタイチの拳が食い込んでいる。
「ちょっとだけ、効いたよ」
 タイチが杖にすがりつくような居合の構えを取る。
「君とガルーダの斬り合いを見せてもらった。なっちゃいないな」
 びゅっ!
 豹馬の目の前で、空気が鳴った。
「ア・バオア・クーでの最後の決戦、斬り合いの相手がシャア大佐じゃなくて、俺なら君は死んでいたよ」
 タイチの剣の柄頭が突き出され、アムロの脇腹にめりこむ。豹馬とアムロが、いっぺんに倒れた。
「ひどいな…こんなこと、したくなかったけど」
 ダバはセイバーのスイッチを入れた。光の剣がタイチの前で輝く。
「そう思うんなら、どいて欲しいな。俺が狙うのはドモンだけだよ」
「そうはいくかっ!」
 タイチの背後から、ショウとカミーユが斬りかかる。
 ショウの剣を鞘で弾き、カミーユのビームサーベルをかわし、タイチは二人をまとめて峰打ち横薙ぎで吹っ飛ばした。
「ぐはあっ!」
 タイチは振り子の要領で飛んできた、クレーンの強烈な一撃を背に受けて倒れた。振り返ると、ジュドーが舌を出している。
「今だっ!」
 銃を撃とうとしたコウの目の前で、タイチの姿が瞬時に消えた。
「慢心は禁物だね」
 ジュドーの目の前に、タイチの顔がある。タイチのアッパーが、ジュドーの顎に入った。

「前にやられたときの借りを返してやる。拳で来いよ、おっさん」
「いいよ。やってごらんよ、やれるもんならね」
 忍とタイチが睨み合う。
 忍がタイチの懐に飛び込み、ショートアッパーを叩き込んで、格納庫の角に追い込んで連打を浴びせる。持ちこたえたタイチは、目元から血を流しながら組みつき、何発もボディブローをぶちこんで、やっとのことで床に這わせた。

「シンジ君、今までの君ならすみっこで震えているのがオチだっただろう。だが君は、そうして俺の前に立っている。強くなったね。いい傾向だ」
 嬉しそうにシンジを眺めるタイチの横合いから、ミサトの飛び膝蹴りが飛んだ。かわして体勢が崩れたタイチを、レッシィのセイバーが襲う。
「こわいお嬢さんたちだ」
 振り降ろされたセイバーを握る手を、タイチの拳が突き上げた。
「くっ!」
 たまらずレッシイの手を離れたセイバーが、タイチの手に移る。
「ここからは手加減はしないよ。立ち塞がるのなら、大怪我じゃすまさない」
 タイチはよろめきかけて、何とか踏みとどまった。
 ドモンまでの最短距離を、マサキとジェスを吹き飛ばして一気に詰める。
 タイチとドモンの間の人の群れが左右に分かれ、その間をタイチが突っ切る。
「ドモン・カッシュ、覚悟!」
 刃の方をドモンに向けて、常人なら気だけで真っ二つになりそうな勢いで、タイチは剣を抜き打ちから振り降ろした。
「やらせない」
 が、両者の間の何もなかったはずの空間に突如綾波が姿を現わし、ATフィールドを張ってタイチの剣を弾いた。
「まだだあっ!!」
 タイチが叫び、よろめくように剣を振るう。ATフィールドが十文字に斬れた。綾波ごとドモンを斬り捨てそうなその刃は、ドモンの白刃取りに止められた。
 そこで、タイチの気力が尽きた。
 浪花十三とジャック・キングの遠距離からの狙撃が、タイチの仕込み杖とセイバーを落とすと同時に、タイチがゆっくりと倒れた。

「何のつもりだ、ナガツキ少佐。DCのエースパイロットともあろう者が…ここは戦場で、喧嘩の場所じゃない!」
 後から来たローレライに包帯を巻いてもらっている、タイチに向かってブライトは怒鳴った。
「戦争は嫌いだよ。やるなら喧嘩の方がいい」
 口中の血を吐き出しながらのタイチの言葉に、
『自分も、しょせんは軍人か…』
 ブライトは冷水を浴びせられた思いがした。『ここは戦場だ』と言うのは、威張って言えることではない。

「少佐、無茶しすぎだよ!」
 戦艦に戻るバウのなかで、ヴァネッサはタイチの額に濡れタオルをあてがう。 
「いや、あれでもまだ足りないよ。全員叩き伏せなきゃ、こっちの勝ちはなかったんだ」
 タイチは悔しそうに言った。

 翌日。
 機械獣とモビルスーツ隊はあらかた倒され、タイチは囲まれていた。
「やっぱりもう少し減らしとくべきだった」
 ドモンにこだわらなければ、ロンド=ベルのロボット乗り全員を、出撃不可能にしたはずだ。
「…ま、いいか。かかっておいでよ」
 うそぶくタイチ。
 レッシィとマーベルは、タイチの次の所作を見て我が目を疑った。目の前には、ごろりと寝転がったドライセンが1機ある。
『やけになっているの? いや、違う!』
 エマ・シーンのベテランパイロットとしての勘が、危険を告げている。
「なめんじゃないわよ!」
 が、アスカはまだ素人だった。怒りに我を忘れ、ドライセン目がけてプログナイフを突き降ろす。
「かかった!」
 跳ね起きたドライセンが、隙だらけのエヴァ弐号機の胴にビームサーベルを突き刺した。ATフィールドを展開する間もなかったほどの、一瞬のできごとだった。
「さて…」
 エントリープラグを強制排除して、悔し泣きをしながら逃げるアスカには目もくれず、タイチはあらためてあたりを見回す。
「では、次に斬られたい方は?」
 タイチがビームサーベルを蜻蛉の構えに変えた。
「はあああああっ!」
 マーベルが、オーラ力を高める。
「ハイパーオーラ斬り…ショウでさえ俺を両断できなかったのに、君が?」
「できるかできないかは、あたしが決めるわ」
 タイチがうなずき、蜻蛉に構えた剣を頭上で横一文字に倒した。
 大上段から、まさに必殺と言うにふさわしい、ダンバインの一撃が降ってきた。
「止めてみせる!」
 タイチのビームサーベルが、がっちりと受ける。しばし、押し合いとなる。
「あのときドモンを叩き斬るはずだった必殺技、受けられるものなら受けてごらんよ」
 一瞬でドライセンが後ろに退く。勢い余ったダンバインがつんのめる。
 再びドライセンがよろめくように踏み込む。周りの者にはその姿がおぼろげに見えた。次に皆が瞬きを終えたときには、ダンバインは十字に斬って捨てられていた。
「秘剣、『酔歩飄々十字剣(すいほひょうひょうじゅうじけん)』」
 危なげな足取りで拍子を狂わせ、相手が惑ううちに十字に斬る。キラル・メキレルとともに思案と斬り合いを重ねた末に考えついた、秘剣の一つであった。

「あらあら、そんな拙い剣技を人にひけらかして…おしおきしてあげるわ。行きなさい、ファンネル!」
「ゴルド! それが友人に対するあいさつ?!」
 ドライセンが、唐突に現われた黄色のヤクト・ドーガのファンネルを、傍目には一撃に見える数撃で幾つも斬り払った。
「もう、意地悪言わないで。あたしの名前はアニーよ。残念ね、あたしは破嵐財閥に雇われたの。あそこは親ロンド=ベル派の財閥だから、DCのあなたとは敵同士ってわけ」
 黒地に赤い牡丹をあしらったノーマルスーツを着込んだ、アジア系美女の顔がドライセンのスクリーンに映る。
「破嵐財閥ってのは見る目があるけど、ネオジオンにその人ありと言われたゴルド・ツァオ大尉が、大富豪の用心棒にまで堕ちるとはね。かつての交誼に免じて一撃で叩き斬ってあげるよ」
「アニーだって言ってるでしょ。もう、容赦してあげないわよ。行きなさい、ファンネル!」
 先の攻撃に倍するファンネルが、タイチを包み込む。
「ええっ?! いっぺんにあんな数のファンネルを操作したら、操縦者もただではすまないよ!」
 ヴァネッサがファンネルの動きに目を見張る。
「無数のビットを一度に操る男に、一人心当たりがある」
 ドモンが言うには、ネオフランスのジョルジュ・ド・サンドと言う若き騎士が、ドモンとガンダムファイトをした時に、アニーのように無数のビットを使って見せたとのことだった。破嵐財閥がネオフランスから技術を買い、かつジョルジュの『ローゼスビット』などの技もアニーに学ばせたのだった。
「これはかわさせないわよ。行きなさい、ファンネル!」
 無数のファンネルから放たれたビームが、他のファンネルに当たって反射する。ファンネルが構成するエネルギーフィールドの中、ビームで穴だらけになるタイチの姿を想像して、ローレライは手で顔を覆った。
「新招式破箭万剣陣(しんしょうしきはせんばんけんじん)!」
 ファンネルが次々に爆発する中から、タイチのドライセンが駆けて来た。
「俺の勝ちだね」
 タイチがにっこり笑う。
「な…何をしたの?!」
「簡単なことさ。ビームに包まれる前にファンネルを斬っただけのことだよ」
 ドライセンには傷の一つも付いていなかった。
(後編へ続く)

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