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裸のガンパレードマーチを持つ男 作:gazelle ヨーコが、ののみに独孤九剣(どっこきゅうけん)(注)の伝書を読んで聞かせています。 「このこうけつ(口訣)さえおぼえれば、げんじゅーにかてるの?」 「ええ、真っ二つでス」 ヨーコが厚志のほうを見てにっこり笑う。 本の内容さえ考慮に入れなければ、非常に愛のある光景ではあるが。 「絵になるなぁ……」 速水厚志は、不覚にもヨーコとののみからみなぎる珍妙な気に気づかなかった。 プレハブ校舎前。 「この僕をいやらしい目で見るな」 「じゃあ、いやらしいことをするのはいいんだね?」 厚志が茜大介を抱きすくめる。 「な、なにするんだよ! 放せよ!」 大介がじたばたともがく。が、あらかじめ白兵技能3レベルを取得した、速水の魔手からは逃れるべくもない。 「不潔です!!!」 「ウチに断りもなしにそないなことしたらあかん!」 顔を真っ赤にして怒る壬生屋未央と、瞬く間にデジカメで二人のカラミを撮りまくる加藤祭。無論画像は速水親衛隊に高値で売りさばく。 (テレ○ンワールド) ボビー:ダニエル、何してるんだい? ダニエル:やあボビー、幻獣を倒すためのトレーニングをしていたところさ。毎日1時間、欠かしたことはないよ。 ボビー:1時間も?! おいおいダニエル、幻獣は君が鍛えあがるのを待っちゃくれないぞ。 ダニエル:じゃあボビー、もっといいトレーニング法を知ってるのか? ボビー:もちろん! この『流派東方不敗拳譜』を使えば、毎日たった15分のトレーニングをするだけで、スキュラも素手でノックアウトさ! ダニエル:素手で?! 信じられないな。 ボビー:そう言うと思っていたよ。ちょうどロスが幻獣に襲われてるんだ。さっそく東方流派の技を見せるよ。 (ボビー、腕を組んだまま突っ走る。ダニエルが車で追うが追いつけない) ロサンゼルス。 米軍のシバムラ・アーマー(士魂号)が何機も倒され、小隊指揮官が撤退を決意したところに。 ボビー:(海兵隊員の一人に)苦戦してるようだね、君たちならあのレベルの幻獣を倒すのに何分かかる? 海兵隊員:(撤退しながら)うーん、今日のように負け戦になることもあるからね。ただ、10分20分で片付くものじゃないってのは確かだな。 (幻獣と海兵隊の戦闘シーンに切り替わる) ボビー:(闘気をまとって激しく回転しながら)このようにスペシャリストでもてこずる幻獣との戦いも、東方流派の拳士なら簡単に終わらせることができます。では、実際に効果のほどを見てもらいましょう。 超級! 覇王! 電・影・だああああああああぁんっ!!! (闘気の横倒し竜巻になったボビーが、幻獣の大群を真っ二つに割って駆け抜ける) くわっ!(ボビーが目を見開く) ぶぁくはつっ!!! (全ての幻獣が爆発四散する) ダニエル:凄いなボビー! これは何かのトリックじゃないのか? ボビー:ダニエル、トリックでスキュラは倒せないよ。テレビの前の皆さん、あなたも東方流派を学んで、レコンキスタを始めてみませんか? ナレーター:商品番号2番、『流派東方不敗拳譜』。戦争税・送料込みで価格は…… 「……これさえ買えば……いじめられなくてすむ……」 石津萌はテレ○ンの宣伝に何の疑いも持たずに、購入申し込み用のフリーダイヤルに電話をする。 「こんなに強くなれたら、ちょっとやそっとの不幸なら大丈夫かも……」 田辺真紀も同じナンバーに電話をかけた。 その靴下は闇を払う古き靴下 狭く苦しき軍靴から生まれ出で 洗うことも忘れられ 臭気で編んだ鎖を巻き 汚れで鍛えられた布地を誇る どこかの誰かの靴下のために 地に希望を 天に夢を取り戻そう 靴下はそう 人に履かれるために生まれてきた どこかの誰かの靴下のために 地に希望を 天に夢を取り戻そう 中村が意外にいい声で歌う嫌な歌が、プレハブの校舎に響く。 授業中。 頬に薄く朱を刷いて授業も上の空の大介と、居眠りを決め込む厚志の姿が見られた。 厚志の夢。 「おーる! はんでっどがんぱれーど! おーる! はんでっどがんぱれーど! たとえあたしたちがぜんめつしても、さいごにおとことおんながひとりいきのこっていればじんるいのかちなの!」 ののみの指示のもと、滝川の士翼機が、岩田や中村の乗った士魂機が、スカウトが、歩兵が、一丸となって幻獣に突撃を敢行する。 そして、人類は幻獣を打ち破った。 「モンテスキュー?!」 そう叫んで厚志はがばと跳ね起きた。 「ばかやろうっ! 速水、お前はそんなに俺の授業が嫌なのか?!」 本田のチョークが飛ぶ。厚志が常人にはなしえない地面すれすれの角度に背をそらす。戦闘訓練では必修となっているマトリックス避けだ。 跳ね起きざまに厚志は拳銃を二丁腰のホルスターから抜き、本田めがけて跳躍する。同じように跳躍した本田のアサルトライフルが、それを迎え撃つ。 飛び道具をわざわざ白兵戦の距離で撃ち合うのがポイントだ。 「さて……かかなくてもいい汗をかいたところで、授業を続けるぞ」 ひとしきり銃撃戦を行った二人は、何事もなかったかのようにそれぞれの場所に戻る。 昼休み・校舎裏。 「速水、お前の靴下を貰い受けに来た」 有り余るほどの闘気を放ち、中村が厚志に詰め寄る。 「常在戦場、いい言葉だよね」 厚志が制服を脱ぎ捨て、上半身裸になって指をパキパキと鳴らす。 「今夜は寝られないようにしてやるよ」 「楽しみだね、ぞくぞくするよ」 二人の視線がぶつかり、火花が散る。 「……不潔ですっ!!!」 顔を真っ赤にして、壬生屋が走り去る。 「……」 「……」 2人は事務的な会話をしました。 …… 争奪戦が始まった! 「戴宗、貴様がうらやましかったと言えば、言える。融通無碍、闊達にして天真爛漫。まことに我が宿敵として申し分ない。だが、速水にまで手を出したのはまずかったな」 黒いスーツを着込んだ萌は、葉巻の火を消した。 「衝撃の、あんただって俺のようになろうと思えば遅かないぜ。ただ、速水の坊やはやらんがな」 中国の武人風の格好をしたののみが、酒の入った瓢を置いて立ち上がる。 「死合うしかないようだな……行くぞ!」 萌の手から衝撃波が飛ぶ。 これで滝川が某ロボを呼び、坂上がエセアメリカ人なボクサーになると、もう誰も止められない濃厚な今川監督空間ができるのだが、幸いなことにその二人はこの場にいない。 秒間数千発。しかも一発でも常人が食らえば瞬時に血の霧と化し、ミノタウロスクラスでも木っ端微塵間違いなしのデンジャラスな豪拳が飛び交う。 そんなこんなで。 人類の切り札。効率の悪さを整備の数と熱意でカバー。ブータともども5121小隊の守り神たる士魂機が。 二人の喧嘩の巻き添えでテントごと爆発した。 何かわけのわからないことをつぶやきながら、テントの前に座り込んでしまった原主任はさておき。 「どこからそれだけの武功を身に付けたか知らぬが、なかなかやる! だが、憎悪と執念の分だけ私に勝機がある!」 赤と黒の闘気の渦をまとい、萌が満身創痍のののみにとどめを刺そうとする。 「萌ちゃん!」 それを止めたのは、厚志の叫びだった。 「はああああああっ!!!」 厚志の手が残像を描きながら、制服のズボンのチャックを下ろす。その場にいた女子生徒の目が釘付けになる。 「神の意表を衝く技?!」 それは過大評価のような気がしないでもないが。 だばだばだばだばだば! ズボンを下ろしたままの厚志の拳が迫る。 『殺られる! だが、それも本望か……』 萌が目を閉じる。 こつん。 「士魂号は整備のみんなが寝る間も惜しんで整備してるんだ。壊しちゃだめじゃないか」 速水は同様にののみの頭も軽く小突いた。 「……ごめん…なさい……」 「ごめんなさいなのー」 実質小隊壊滅と言ってもいい被害に、それだけで済むのかと言う話もあったが。 「おい、敵だぞ!!……って、どういうことだ?! これは?」 かつて整備テントであった廃墟を前に、呆然とする本田。 「とにかく、予備機で出ましょう。コネを駆使して全機1機ずつ確保しておいて正解でした」 善行が最近提案をしなかった理由はその辺にあったようだ。 が、全員分そろっているとはいえマッチングも済んでいない予備機では、スキュラ5機を含んだ大軍に勝てるわけはない。 「その剣は……」 枕を並べて討ち死にの覚悟を決めた田代香織が、ガンパレードマーチを歌おうとする。善行が目配せする。 すぱーん!! 加藤のハリセンが田代の後頭部に綺麗に入った。 「何すんだよ! シメっぞコラァ!」 当然激怒する田代。 「しぶとく生き残って捲土重来を期してこそ真のいくさ人。それに、貴方は貴方一人のものではないはずです」 善行が滝川の乗った2号機を指す。 「あ、あいつは!……その……手のかかる弟みたいで、かわいくてさ……」 田代が真っ赤になった。 「でしょう? 我々の生還を待つ人のために、総員撤退! 応戦は各自の判断に任せる!」 壬生屋が徹底抗戦を主張したが、速水に諭されて引っ込んだ。 「応戦は各自の判断に任せる…その言葉に偽りはないのだね?」 眼鏡をサングラスにかけかえ、パイプをふかした田辺が指揮車の前に降り立った。 田辺はスーツのネクタイを緩め、シャドーボクシングをする。拳から生じた衝撃波だけで、ゴブリンが数体吹っ飛んだ。 「ビッグバンパンチを出すまでもない」 ごうっ!!! 田辺がロケットのように飛び、幻獣の波をモーゼのように割って蹴散らす。 ぷすんぷすんぷすんぷすん……べしゃっ! が、スキュラの群れにたどり着く前に力尽きて、いつもの田辺に戻ってしまった。 「ああっ、中途半端に本気を出したせいで向こうも増援を繰り出してるし!」 「くそうっ、あと誰か爆笑ネタの持ち主はいないのか?!」 小隊が程よくピンチを迎えたところで。 「フフフ、どうやら私の出番のようですね」 岩田裕が三号機に飛び乗り、怪しいポーズをとる。 「へそで茶が沸くようなネタを期待していますよ」 善行が許可を出した。 「ポゥ!」 見事なムーンウォークで、三号機が幻獣の前に進み出る。手中のGアサルトはとっくに放り捨てている。 「……」 敵も味方も固唾を飲んで、岩田の一挙一動を見逃すまいとする。 ムーンウォークから阿波踊りに移動方法を変え、三号機がスキュラに近づく。 「……勝負あったな」 瀬戸口隆之がつぶやく。 ぴたり。 三号機の歩みが止まる。幻獣にあっという間に取り囲まれる。 フフフ。 岩田が笑う。 三号機の両足ポケットからGアサルトが飛び出す! すかさず掴み取り、銃身も焼けよとばかりにぶっ放す! 舞が一番効果的な軌道でミサイルを打ち出す! 「上級万翼長、自分は何をすれば?」 所在なげにコックピットの中に立っていた速水が、裕を見る。 「とりあえず暗黒舞踏!」 「はい!」 おもむろに体に金粉を塗り、速水がぬめぬめと踊る! かくして、阿蘇特別戦域の戦いは小隊の大勝で幕を閉じた。 …… 5121小隊は今日もおおむね平和である。 たまに、 「士魂機ファイト! レディー・ゴー!」 とか、 「この地球上でもっとも強力な毒ガスとは何かワカるかね?」 とか言う声がしたり、大爆発が起こったりするのを除けば。 独孤九剣:飛翔・回転・ルパン三世の五右衛門ばりの斬人を可能にさせる恐るべき剣術。出典は『スウォーズマン・剣士列伝』 |