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突撃行軍歌之死亡的遊戯 作:gazelle 1999年4月某日。 速水厚志・芝村舞、絢爛舞踏章拝受。 もはや戦いの天秤は人類の圧倒的優勢に傾いている。 しかし、真の戦いはここから始まる。 決戦存在ヒーローと、竜の戦いが。 「芝村準竜師、速水厚志上級万翼長であります。今日は…」 「挨拶はいい、用件を言え」 いつものように態度はそっけないが、準竜師の顔はいつになく真剣だ。 芝村準竜師に陳情する・装備品 「『シベリア超特急1完全版』のDVDを都合していただきたいのですが…」 シベリア超特急1完全版DVD(要開発技能3・必要発言力50000(参謀技能なしの場合)) 『装備品?! しかもN・E・Pより発言力が必要?!』 事務の仕事をしていた加藤祭が、驚いて速水のほうを見る。 「ふむ……妥当な陳情ではあるな。いいだろう、許可する。……アレに対して、そこまでせねばならん理由があると言うわけか」 「……はい」 準竜師と速水の、シリアスなやり取り。 『なな、何でシベ超1、それも完全版やねん!』 祭の心の叫びを耳にした者はいない。脇で二人のやり取りを聞いている善行司令は、平然と自分の仕事を続けている。 速水が、席を立つ。 「…頑張ってください」 竜とヒーローの存在を多少なりとも知るらしい善行が、速水に声をかける。 「勝敗はともかく、決着はつけるよ」 ぽややんな中にちょっぴりのやる気を込め、厚志が言う。 『せやからそのシベ超1って?!』 祭のツッコミは届かない。 同刻。 「お探しの品です」 遠坂が狩谷にDVDを1本渡した。 「ご武運を」 「ああ」 自分にも良くしてくれた(速水←『運命の友』→狩谷)速水と戦うのは、表向き傍若無人で聞こえた狩谷にも忸怩たるものがある。 だが! 手加減をする気は微塵もない。生と死は等価値。人間と幻獣、いずれかはこの世界より消えねばならない存在なのだ。 「誰が勝つかは天のみが知る…だ。速水、覚悟してもらうよ」 狩谷は遠坂に聞かせるでもなくひとりつぶやく。 ヒーローとは、負けないために学習して強くなっていく者だと、舞は速水に言ったことがある。 しかるに。 速水のこのところの『学習』には、血も凍るような凄惨なギャグによるどつき合いを知らない舞は首をひねるばかりだ。 だから、 「尚敬校本校舎の男子トイレから、『アレ』が消えたそうですよ。かなり使い込まれた逸品との話でしたが……」 と言う善行の言葉に対し、数斗もの血を吐いて(誇大な表現)倒れた速水が、何をそんなに気に病むのかわからなかった。 一組教室。 ともあれ速水は今、気息を静めて『食神』を見ている。『ミスター味っ子』を実写化したような珍妙なグルメ映画で、しかもそれを香港コメディ界の至宝チャウ・シンチーに主役を張らせたとんでもない作品である。 内力を巡らせつつ、静謐の表情でコメディ映画に見入る速水。舞は彼の『学習』の成果を試すべく、イヤリングと引き換えに得た迷刀鬼しばきを音もなく抜いた。 「そんな野暮なものは、教室ではしまっておけよ」 舞の方を振り返りもせずに、速水はまるで水野○郎の演じる山下奉文大将のような棒読み台詞で言う。 「馬鹿な、私も共に絢爛舞踏章を手にしたのに……斬れない!」 速水のギャグの間合いに無警戒で踏み込んだ、舞の負けであった。斬りかかれば抱腹絶倒の反撃が待ち構えていたことだろう。 「フフフ、無理もないことです。大方芝村も人類の生存に直接役に立たない知識は切り捨ててきたのでしょう? 猫との付き合い方とか、ウケの狙い方とか」 舞の背後で、イワッチが笑う。 「貴様っ! どこまで知っている?!」 『猫との付き合い方』と聞いた時点で、舞は鬼しばきの切っ先をイワッチに向ける。 「フフフ、私が斬れますか?」 イワッチはふわり、と身を躍らせ、校舎の階段の辺りに着地する。 「斬れるとも!」 舞が階段を駆け下りる。 そして、最後の1段を降り切った時。 無情にもブザーが鳴り響いた。 「しまった、アメリカ横断ウ○トラクイズか!」 舞が地団駄踏むがもう遅い。 「グァム上陸を祝って、バンザーイ!」 トメさんの声を聞きながら、舞は東京に送られることになった。 対竜戦時には決して女子高校舎から出ない、との速水への誓いと引き換えになんとか東京直行は回避したが。 「ここは戦場になり、僕は悪鬼羅刹になる。好きな人には、見せたくないんだ」 と言うのが、速水が岩田に漏らした言葉であった。 「司令、ここに水を張って縦長の大きな岩を一つ置いてもらえないでしょうか?」 「ん?……構いませんが、それは?」 「ネタです」 速水が善行にきっぱりと答えた。 「中村、何も言わずにこれを大急ぎで仕立てて欲しい」 「はあっ! こ、これはっ?!」 「……僕の、死装束だ……」 狩谷は、暗い顔で拳をきつく握り締めた。 なんとなく小隊内の空気がぴりぴりし出して、皆が落ち着かなくなってから数日後のこと。 「狩谷くん、一つお願いしていい?」 「何?」 「一緒に駄目なことをしでかしてくれないかな?」 仕掛けた! 実戦・整備の全メンバーが、さりげなく女子高校舎側に退避。 「いいよ、少し準備に手間がかかるけど……」 「大丈夫、僕もだから」 速水はシャワールームへ。 狩谷は本校舎男子トイレへ。 ネタの仕込みを終えた速水は、校舎はずれの真ん中にしつらえられた、池の中の岩の上にいそいそと登った。 そして、狩谷らしい人影に向けて先制パンチ。 「歌はいいねぇ、狩谷夏樹くん」 速水のつかみ。だが、影に動揺は見られない。 「ほあちゃあああああっ!!!」 黒いラインの入った黄色い全身ジャージに身を包んだ狩谷が、物陰から飛び出して絶叫する。 「いやその…なっちゃん…ドラゴンて……そのままやんけー!!!」 スパーンっ!!! 加藤のハリセンが、まともに狩谷のどたまをとらえた。 「足は治ってたみたいやけど、うちそんな濃ゆいなっちゃんいやや〜! うえ〜んっ!」 錯乱して泣き出す加藤。 「考えるんじゃない、感じるんだ」 言いながら狩谷は加藤に近づき、 「……僕の大好きな祭、いい子だからここから離れるんだ」 こっそりとささやいた。 「…う、うん!」 加藤が駆け去る。 「歌はリリンが生んだ文化の極みだよ」 速水がぱちん、と指を鳴らす。 善行・若宮・瀬戸口・中村・坂上: ♪ヘーコキましたねあなた 誰も聞いていないと思って 大きな音ですあなた さぞかし気分が良いでしょう 「ぐはあっ!!」 血反吐を吐いて狩谷が吹き飛ぶ。 「その一発ネタ、確かにボクの度肝を抜いたけど、そこまでだったね」 速水が岩から飛び降りる。 その目の前で、狩谷が立ち上がる。口元の血を拭う。血を軽く舐める。右掌を速水に向け、親指以外の四指を曲げて手招き。自信たっぷりの顔で。 「……それを、絢爛舞踏の技と言うか……ならば、僕も最高の武器で応じなければならないだろう」 狩谷が黒いゴミ袋から、双節棍としてつなぎ合わされた便所吸盤を取り出す。 「確かに使い込まれた逸品だね。でも、当たらなければ意味がない」 速水はにっこり笑い、狩谷の目の前でATフィールドを展開して見せた。 「フッ、そのいけすかない笑顔に叩きつけてやるよ」 狩谷が不敵に笑う。 両者が睨み合う。 「ぅあちゃあっ!!!」 狩谷が便所吸盤を矢継ぎ早に繰り出す。速水が食らってもいないのにスローモーションで回転しながら倒れる。 『それは……日本映画屈指の怪作、シベリア超特急から得た技か! だが、あれはこちらに手を出させる誘い!』 速水は倒れたまま動かない。狩谷もうかつに攻めない。 1時間経過。 「動かないなら僕にも考えがある!」 狩谷が釣竿の先に伝説の一年靴下をくくりつけ、速水の顔面めがけ投下しようとする。 「うわあっ?!」 速水が慌てて跳ね起きる。ここで気絶してしまっては、額に『肉』と書き込まれる恥辱は避けられない。 「功夫が足りないな」 狩谷は釣竿を中村めがけて放り、便所吸盤を構え直す。 二人を中心に空気が重くなり、静まり返る。 「一対一とは言われておらん。よもや卑怯とは言わんだろうな」 狩谷の背後から、鬼しばきを手にした舞が忍び寄る。 がぽんっ! 電光の早業。舞の顔に便所吸盤が押し付けられ、剥がされた。女子生徒が悲鳴を上げ、ある者は気絶した。歴戦の勇士である壬生屋でさえ、全身の震えが止まらない。 「運命は、変えられないのか……」 舞が倒れる。 が、凶刃に倒れる舞を見ても速水は顔色一つ変えない。何らかのリアクションを待った狩谷の方にかえって隙ができた。無論速水はその隙を見逃さない。ちょび髭を装着するなり、狩谷をつかむ。 そして、走って走って走って市内の兵器工場の機械の中に、狩谷を放り込む。 「あれは! 『絶技・モダンタイムス』!!」 若宮も噂でしか聞いていない大技だ。本家と少し違うのは、狩谷が肉片になって機械から吐き出されるところか。 「くっ、危うくしてやられるところだった」 何とか狩谷が体勢を立て直す。 「必殺必中! ライジング……えっ?」 速水に加勢しようとした壬生屋が、重籐の弓を下ろして目をこする。 「よく止めたな、お前さんにしちゃ上出来だ。そう、目の前の二人は明らかに速水厚志と狩谷夏樹なのに、どっちが人類決戦存在ヒーローで、どっちが竜かは闘気を見た限りでは誰にもわからない」 瀬戸口も、言いつつ目を凝らしている。 「フフフ、これではこちらからうかつに攻撃できませんね」 イワッチは笑っているが、手はひっきりなしに冷や汗を拭っている。目の前では、士翼号に乗った狩谷が、つかんでいた速水の首をねじ切ったところだ。 ぽちゃん。 水の中に速水の首が落ちる。 「速水くん、新しい顔です!」 坂上がすかさずスペアの首を投げる。 「勇気百倍!!」 こうなってしまうと狩谷の敗色は濃厚だ。速水のパンチを食らって『バイバイキ〜ン!!』と言いつつ吹き飛ばされるのがオチだろう。 「決戦存在ヒーローも、竜もどうでもええわ! 誰かなっちゃんを助けて!」 「よーし、いっちょやるかぁ!」 加藤の叫びにうなずいたのは、意外にも滝川であった。 かつてない勢いで、滝川の闘気が高まる。 「天に竹林、地に少林! 目にもの見せるは最終秘伝! 真・流星胡蝶けええええぇんっ!!!」 胡蝶の闘気をまとった滝川の急降下とび蹴りが、速水の後頭部に炸裂する。 「ふううううっ! ぉあちゃあっ!!!」 狩谷のドラゴンキックが、速水に止めを刺した。 竜の消え去った速水は、詰め所で眠っている。舞が付きっきりで世話をしているようだ。 「竜と決戦存在の入れ替わり、よく見抜けましたね?」 善行は不思議そうに滝川に聞く。 「心の目で見ていると、目の前の単純なことに気がつかないみたいだな。渚カヲルのコスプレ以外のときも、あいつの目は真っ赤だったじゃないか」 紅い瞳の『あしきゆめ』と蒼い瞳の『よきゆめ』の話は壬生屋から聞いていた。 「滝川、礼は言わないよ」 いつもの嫌な狩谷に戻り、立ち去ろうとする。 「メシくらい付き合えよ、おごるから」 しぶとく戦い、ときにはあっさり逃げつつ生き延びた滝川陽平、この時点で万翼長であった。 「あっちゃんもそろそろ起きるんちゃう? 陽ちゃんのおごりやし、皆で戦勝パーティーや! 『味のれん』でええな?」 と言う加藤に困った顔をしつつも、滝川の目は笑っている。 「おごりなら、付き合おうかな」 狩谷がさりげなく祭の手を取り、味のれんへ歩く。 「みんな待ってよ〜!」 「は、速水! 手を引っ張るな!」 絢爛舞踏カップルも追ってくる。 彼らの戦いはまだ続くのだが、とりあえず今は。 めでたし、めでたし。 |