物語037

 
僕の、私の、
車窓

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人生の意味が何であるかなんて誰も知らない。
ここにあるのはただガタゴト生きる人の、がたごと物語。

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井戸の底

HIROKO 37才
幼いころから勘の鋭い子だった。
結婚してかわいい一人息子と優しい主人に囲まれ、『こんなに幸せでいいのかな、夢みたい・・・・』
去年6月、いきなり主人の帰りが遅くなり、週末の朝帰りが始まった。
鋭い私の勘はそれが社内不倫であること、本気であること、社用車でデートしていること、女の名前も携帯番号も探り当てた。うそもすべて見破れた。会っている日にちや時間帯まで予想できるようになってきた。
11月、主人は事実を認め、「女と別れる」と約束した。
しかし約束は守られなかった。
今年正月、双方の両親の前で「女と別れ、家族をやり直します」と約束した。
しかし約束は守られなかった。
1月末、再度約束をしたが、破った。
4月初め、私の両親の前で「やり直します」と約束した。
やっぱり約束を破った。
主人の優柔不断と裏切り、そして身に余る鋭い勘が、自分の心を蝕んでいた。
疑心暗鬼、被害妄想、男性不信。
家事も育児もせず、ボーっと何時間も過ごす日が多くなった。
かと思えば突然泣いたり気持ちが昂ぶって、子供に当たったりする瞬間が何度も突然やってくる。
自分は役立たずで最低、と思った。死にたい、死にたい、死のう、と思った。
でもその度に子供や両親や親友たちが温かく包んでくれた。
早く立ち直ってパートにでも出よう。いいママに戻って今までの分を取り戻そう。
笑わなきゃ、近所の人に明るく挨拶しないといけない。
あんな主人はほっといて自分の生き方を見つけるのが賢いやり方よ・・・・・。
頭ではみんなわかってる。でもなぜか気持ちはどんどん沈んでいく。
ヒステリーになり、抑制のきかない叫びを主人にぶつけてしまう。
子供を抱きしめて涙が止まらない。風の音にもびくっとしてしまう。

そして昨日、主人は言った。「頼むから離婚してくれ。お前がいやで仕方がない。」
「二人で死ぬ?何ぬかしとるんや。お前ひとり勝手に死ねや。」
「俺が女と結婚しようがお前になんも言われることはない。」
「俺のためにいろいろ言うてきた?それがいらんお世話じゃ。」
今朝、布団から出られなくなった私をまたいで、主人は会社へ行った。
一番救ってほしい人に捨てられ、井戸の底でつめたくなった私の心。
2002/5/4記

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