物語026

 
僕の、私の、
車窓

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人生の意味が何であるかなんて誰も知らない。
ここにあるのはただガタゴト生きる人の、がたごと物語。

ライン1

悲しみと憎しみ

L☆☆☆ 女性
まだ見ぬ、あなたの姿。
そして生涯、活動していることを見ることの無い
あなたの姿。

どんな声で、どんな風に、どんなしぐさで喋ったの?
高い声?くぐもった低い声?よく響く声?明るい声?
家の中でこどもたちと何のことをよくお話したの?
近所に散歩に出かけたり、公園や
時々お買い物にも、こどもたちを連れていってくれたのですってね.。

掃除や洗濯、お料理は苦手だった様だけれど、
文句は言わず、よくお手伝いしてくれたのよね。


だけど、精神障害者手帳を申請したい、って申し出たとき
「会社の人間に知れてしまう」 そう言って、渋った。
どんなに、どんなに障害者手帳を取得しようかどうか迷ったのか
判ってくれていたのかな。

自分を精神障害者だと認めたくない、だけど事実症状が表れて
診療所に何年も通い、薬を絶やすことなく飲みつづけ
なくては、普通に暮らしてゆけない。
そのことを自分で享受しよう。
そう決意してから手帳を取ろう、と考えた。
そこからまた何かが
新しい思考ができるかもしれない。
長い間、考え抜いた結論だった。

それをあなたは最初に否定した。
いいえ、頭の中では認めてくれていたんですよね。

だから、何度かの話し合い後やっと認めてくれましたね、
取得することを。


あなたがどんな風に仕事を進めていたのか、全くわからない。
もちろんどんなことを受け持っているのか想像はつきます。
仕事で必要になったからといって、今年に入ってから
パソコンを家に買いました。

今はこどもがホームページを作ったり自分用の名刺を印刷したりと
すっかり夢中になっています。
こどもにとっては、パソコンも抵抗なく受け入れられる
遊び道具なんですね。感心、歓心。



私はあなたを、生きているあなたを知らない。
あなたは、私の何よりも大切な、かけがえのない友人の夫。

そしてあなたは、障害者手帳を取得し、外で働くことが出来ず
家で内職をする、かけがえのない友人とその成人していないこどもを残し、

私が入院しているときに、自殺した。

死者に何を語ろうと、決して何も届きはしない。

家族が揃っていても、なにもなくても、泣きつづけながら
布団にくるまり、台所にさえ立てない友人が
それをどう受止めるのか、
彼女自身が自分の中で、受け止めるしかないのが判っている。
(そのときは何かしてあげたいと、
病院からでも何か出来ないかと、とにかくたくさんの手紙を書いたりしたが)


あれから何ヶ月が過ぎただろう、彼女は仕事を再開した。
そうせずにはいられなかったんだろう。
もちろん人と付き合い、愚痴をこぼしたり、悲しみを語れるような
オープンな人ではない。
きっといまは通い慣れたドクターに逢うことが
支えとなっているだろう。

それと、多くはないけれど心配し、思いがけず共に
悲しんでくれたりする友人、知人たちに包まれて。


なぜ、
どうして、
日々苦しんでいる
そんな彼女とこどもを残し、
自らだけ楽になろうとしたのか。
決して、あなたが苦しんでいなかったとは言わない。
しかし、残されたものの地獄のような苦しみは、
判らない、伝わらないだろう。

死者を、罵ることはすまい。
しかし・・・あなたのために冥福を祈ることも出来ない。


いつまでも彼女を見守っていようと
通院している自分がどこまで・・・
いいえ、何も出来ないけれど、ずっと彼女を
見つづけていようと心に決めた。

あなたに替わることはできなけれど・・・・。

2001/11/10記

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