物語018

 
僕の、私の、
車窓

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人生の意味が何であるかなんて誰も知らない。
ここにあるのはただガタゴト生きる人の、がたごと物語。

ライン1

アルコール依存症

るり 女性 28歳
 一昨年の2月。インフルエンザで寝込んでいた主人が幻視、幻聴を経験した。自分
は一度死んでよみがえってきたとか、霊が呼び戻しに来るとか、血走った目で何度も
何度も繰り返した。当時娘は生後2ヶ月。主人から感染されたインフルエンザで具合
が悪く、私は娘の看病でクタクタになっていた。
 「パパは狂った。」と思った。

 2、3日して主人は正気を取り戻した。そう。今ならわかる。あれはアルコールの
離脱症状だったのだ。イライラや不満を自分の中に抱え込み、酒を飲んで忘れようと
することしかできなかった主人は、いつしかアルコールに支配されるようになってい
た。

「酒がやめられないなんて甘えだ。」
それはただの酒好き。
依存症者にとってのアルコールは麻薬と同じである。アルコールが入っているのが正
常。きれると異常。震え、幻視、幻聴が始まる。止めるために飲む。きれるとおかし
くなる。また飲む。
 少しずつその感覚は狭くなり、絶えず補給を続ける。
 覚醒剤の禁断症状と何ら変わりはない。

 飲んでも酔わない人だった。暴力や罵声が飛んできたことは一度もない。飲むのは
焼酎。日本酒ほどに臭わず、ほのかに漂っていたかもしれない臭いはたばこの臭いに
かき消され、私は主人の状態に気づくことができなかった。
 体の不調ばかりを訴え、父親の会社ではあったがいい加減な仕事をし、だらだらと
生活することに私は苛立ち、離婚ばかりを考えていた。思いとどまったのは愛情でも
金銭的な事情でもない。家に帰ってくると酒ばかり飲み、食事をろくにとらず、体の
不調を理由にダルそうに行動する。痩せてすっかり人相まで変わった主人を見てほっ
とけば死ぬだろうと思っていた。そしてその時期はそう遠くないと。
 家事はやって妻のつとめは果たしている。病院に行けと何度も言った。動かないア
ンタが悪いんだよ。あとは勝手にしな。
 
 まもなく訪れるであろう未亡人生活に備え私は資格取得の学校に通い始めた。死亡
保険金と持ち家を処分したときの金額を考えると十分な金額になり、「大丈夫。やっ
ていける。」と安心したりもした。

 2000年4月。るり28歳。
結婚2年目。愛情なんてすでに存在していなかった。

2000/4/1記

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