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| 駅長が出会った人たち、抱く疑問、ぶつかる壁・・・。 このホームページを作った一番の理由は、このページを作りたかったから。 |
| この物語に登場する人物・病院・企業などは全て実在の物とは関係ありません。 この物語は駅長のこれまでの経験や出会いを複合して作られたものです。 |
見上げてごらん・・・ |
| 僕が呼ばれて外来にいくと、外来はすでにひっそりと静まり返っていた。午後もだいぶ遅く、すでに診察も終わり、薬待ちに残っていた人々もみな帰った後だった。もう外来待合室の明かりも半分は消されている。普段ならこんな時間に僕が呼ばれることはない。 僕はこのころ予診といって、初めて病院に受診してきた人に対して医者の診察を受ける前に簡単に現在の症状や生活状況、履歴などを聞いてまとめる仕事をしていた。精神科の病気は内科などの病気と違って、症状を聞いたり、身体を診察したりするだけでは病気を判断することができない。受診までの経過やその人自身の生活状況、本人自身の自覚している症状や家族からみた本人の様子など診断や治療のために欲しいと思われる情報はたくさんある。これを診察の時間で全部聞いているといつまでたっても外来が終わらないことになる。精神科の外来はただでさえ内科の外来診察よりは時間がかかるものだ。そこでこうして診察に入る前にあらかじめ状態の確認をして、時間を節約しようとするやり方が生まれたわけだ。 精神科に初診で受診する患者の数は多いものではない。精神科は対象となる病気がかなり限られていることと、「風邪をひいた」「おなかが痛い」というぐらいには気軽に受診できない性質があるからだ。だから、僕が外来に呼ばれるのも一週間に1〜2回ほどがせいぜいで、1度も呼ばれないということも珍しくない。しかし、もう午後もだいぶ過ぎた時間に呼ばれることは珍しい。いくら初めての受診だといっても、普通は朝の早い時間にやってくるか、そうでなければ受診の予約を入れるのが一般的だからだ。 しかし、これには理由があった。外来の看護婦も誰もその時間になるまではその人の存在に気がつかなかったのだ。外来から人が誰もいなくなって、初めてその人がいつまでもベンチにいることに気がついた。外来の看護婦がサボっていたわけではない。忙しすぎて見落としたり、その人が物陰に隠れていたわけでもない。彼女はちゃんと朝の早い時間に受診し、待合室の中央に近い場所で、ずっと黙って待ち続けていた。では、なぜ気づかれなかったのか。理由は簡単だった。まさか、彼女が受診したとは誰も思わなかったからだ。彼女はいつも息子の受診に付き添ってくる、「母親」の方だった。だから、外来の看護婦はみな彼女が息子を連れて診察に来たのか、あるいは息子に変わって薬を取りに来たのだろうと思っていた。気づかないどころかこの20数年間、ずっと外来に通い続けた顔なじみなのだ。誰もいなくなった待合室でいつまでも残っている彼女に、外来の看護婦が「薬のできでも遅いのか」と心配して声をかけたところ、初めて彼女自身に受診の希望があることがわかった。それで、外来は大急ぎで僕を呼んだ。 |
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