待合室001

 
駅長エッセイ 車窓

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駅長が出会った人たち、抱く疑問、ぶつかる壁・・・。
このホームページを作った一番の理由は、このページを作りたかったから。
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この物語に登場する人物・病院・企業などは全て実在の物とは関係ありません。
この物語は駅長のこれまでの経験や出会いを複合して作られたものです。

駆け落ち未遂

  6畳ほどの面接室で僕と彼女ははす向かいになるようにして腰を下ろしていた。今日はお互いに口が重く、あいさつを交わしたっきり次の言葉が出なかった。

 彼女が退院していったのはほんの一週間ほど前のことだった。3ヶ月の入院期間をへて、彼女はニコニコとうれしそうに帰っていった。その本人が再入院して、今僕の前にいる。
「どうしちゃったって?」
と、僕が沈黙を破った。彼女はちょっと顔を上げて僕の様子を確認すると、上目づかいで申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべて、
「彼と駆け落ちに走っちゃった」
と言った。
「そうか、走っちゃったのか〜」と僕がウナる。
「そうなんよ、走っちゃったんよ」
「走っちゃったか〜」
「走った、走った」
と、僕らは笑いあった。

 彼女の病気は統合失調症である。彼女は何か気になることができるとソワソワして落ち着かなくなってしまう。あれもこれもと頭に浮かんでくるものの、行動がそれに追いつかないので結局何もできないままイライラ、オロオロがつのっていく。夜も眠れなくなって、しばらくすると、今度はドッと落ち込んでしまうのだ。彼女はそんなことを繰り返しながら、入退院も10回を越えている。ふだんは姉の経営する喫茶店の裏方を手伝ったり、年をとってきた両親を助けて家事をまじめにがんばっているのだが、この病気がなかなか消えてくれない。彼女は年齢も40歳を越えた。

 そんな彼女が今度気になりだしたのは「恋」である。よく行くスーパーには一休みできるベンチスペースがある。彼とはそこで知り合った。彼はいつも何人かの友達と一緒になってそこに集まっていたのだが、いつの間にか彼女もその輪に加わっていた。彼女にとっては優しく楽しい人だった。しかし、その彼も彼女と同じ病気を持っていた。彼は隣町の病院に通っていたのだ。
 病気になって、仕事にも就けなくなると、ひがな一日ぶらぶらと過ごすしかない。良いも悪いもない。仕方がないのである。家にいてもつまらない者同士が、行く当てもなく、うろついて、結局、集まったのがスーパーのベンチだった。彼女もまた同じ。二人は少しずつ仲良くなって、時々は二人きりで会うようにもなった。彼は母親と二人暮らしで、彼女が遊びに行くと、「友達が来た」と母親も喜んでくれた。彼女の淡々とした生活に一気に光が射してきたことだろう。二人が結婚を意識しはじめるのは無理からぬことだった。しかし、この二人の夢がもろい土台の上に乗っかっていることもまた事実だった。
 彼女の外出が多くなり、帰りも遅くなってくると両親は心配しはじめた。彼女の隠し事はすぐにばれた。このことで「幸せ」は「心配事」に変わった。「結婚」の言葉が出てくると、両親の反対は決定的になった。彼の母親も「結婚」となると良い返事にはならなかった。彼女は眠れなくなり、ソワソワ、イライラも始まった。彼の家から帰る途中、自転車に乗ったままガードレールにぶつかって、ケガをしたことで、10数回目の入院も決まった。
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